ビジネスでは、メンバーとの1on1ミーティングや対立の解消、新規顧客との商談など、信頼関係を築くことが大切なシーンがたくさんあります。
このように信頼関係の構築が求められるコミュニケーションで実践すると有効となるのが、聴き手が能動的に場をつくる“傾聴”です。
記事では、傾聴の概要や実践のメリットを紹介したうえで、傾聴を成功させる3つの要素やおすすめのテクニックを解説します。
メンバーやお客様、取引先などとの信頼関係を構築したい人は、ぜひ参考にしてください。
<目次>
傾聴(聴く)とは?
傾聴(聴く)とは、カウンセリングやコーチングの分野から発生したコミュニケーション技法です。具体的には相手の話す内容に深く耳を傾けるとともに、相手の感情に共感する聴き方となります。
私たちは、日常で「聞く」という行為を当たり前にやっています。そのなかで、相手とより深いコミュニケーションを取るための技法が“傾聴”と呼ばれるものです。
傾聴は、通常の「聞く」と区別して「聴く」と書かれます。
傾聴には、以下の3段階があります。それぞれを詳しく解説しましょう。
受動的傾聴
受動的傾聴とは、相手の話に耳を傾け、真摯に受け止める状態のことです。
聴き手の意見や気になることよりも、まずは話し手が自分の考えや心の内を話しやすいように、「相手のために聞く」ことに意識をおきます。
そのうえで、相づち、目を合わせるなどの姿勢を大切にすることで、相手が話しやすい環境をつくります。
反射的傾聴
反射的傾聴とは、聴き手が話し手の内容や表現を繰り返すことで、共感理解を示す方法です。
反射的傾聴では、受動的傾聴の姿勢や技術に加えて、オウム返し、別の表現や言葉での言い換え、要約などで、自分が相手の話を聴いていることを伝えます。
相手の話に具体的な反応を示すことで、話し手は「自分が言いたいことをきちんと理解してくれている」と実感でき、受動的傾聴よりも信頼関係が築かれやすくなります。
積極的傾聴
積極的傾聴とは、臨床心理学者のカール・ロジャーズが提唱した概念です。
積極的傾聴は、聴き手の主体的な働きかけによって、話し手をより深く理解するための方法で、受動的傾聴や反射的傾聴よりもさらに踏み込んだものといえるでしょう。
積極的傾聴では、話し手の本音や思考を促す深いコミュニケーションを目指します。
具体的には、受動的傾聴・反射的傾聴が実現した状態で、さらに必要に応じて質問したり、言葉を添えたりする形になります。
積極的傾聴では、真摯な姿勢とともにテクニックや経験が求められます。ですが、相手との信頼関係を深めやすく、メンバーとの1on1や対立の解消、商談などで特に効果的な特徴があります。
こうした特徴から、営業や販売職、管理職の必須スキルとして、社内で研修を行なっている企業も多いです。
傾聴が有効なビジネス場面
傾聴はもともと、看護やカウンセリングでおもに使われてきた技法です。具体的には、患者や相談者の悩みに寄り添い、安心して話ができる環境を整える場合に使われてきました。
また、傾聴は、ビジネスシーンにおいて、相手の話に耳を傾けて信頼関係を築きながら、相手の本音を引き出すことに役立つものです。ビジネスでは、以下のような場面で傾聴が有効です。
- 初回商談(ヒアリング)
- 部下との1on1
- パートナーや顧客との調整、交渉
- 謝罪やお詫び
- 感情的な対立の解決
傾聴は、相手の感情などまで含めて深い理解をする、信頼関係を構築する・深めることが必要な場面で特に有効なものです。
ビジネスで傾聴を実践する効果
ビジネスシーンで傾聴を使うと、以下の3つの効果が得られます。
信頼関係の構築
コーチングやカウンセリングの世界では、相手との信頼関係が築けている状態を「ラポール」と呼びます。ビジネスにおいてラポールが成立すると、以下のようなことが実現します。
- お客様が本音で自社の課題やニーズを話してくれる
- お客様がこちらの提案や説明を信頼して聞いてくれる
- メンバーが本音で悩みや問題を相談してくれる
- フィードバックなどをメンバーが真剣に受け止めてくれる
- こちらの意見や指示を相手がしっかりと聞いてくれる など
傾聴ができていると、話し手は「自分の話が肯定されている・理解されている・尊重されている」と感じ、ラポールが形成されます。
深い本音のヒアリング
ビジネスシーンにおいて本質的な課題解決や提案をするには、深く踏み込んだコミュニケーションで相手の本音を引き出す必要があります。
たとえば、メンバーから問題や課題の相談を受けたときに、上司が傾聴をすることで、はじめの相談では出てこなかった本質的な問題が見えてきます。
顧客との商談においても同様で、本当に実現したいことや悩み、導入するうえでのハードルなどが見えてくれば、提案のレベルを高めることができるでしょう。
相手の主体性発揮
傾聴によって相手の本音を引き出すことは、相手が自分自身と会話する「内省」を促すことにつながります。
自分自身の内側にあった感情や要望、希望などに気付くことは、相手の主体性を引き出すことにつながるでしょう。
傾聴に必要な3つの要素
積極的傾聴を提唱したカール・ロジャーズは、傾聴において、以下の3つが重要であるとしています。3要素のポイントを解説しましょう。
共感的理解
共感的理解とは、相手の話を「相手の立場に立って共感しながら理解する姿勢」です。
札幌学院大学大学院臨床心理研究科・安岡警氏は、共感的理解とは「相手の話を傾聴・理解をおしすすめる過程で生じる『内部にジーンとくる体験』」としています。
共感的理解は、「耳」で聞くよりも「心」で聴き、相手の感情を味わう感覚でもあります。
このときに、相手の感情に同調する必要はありませんが、相手の感情を受け止める、想像することが大切になります。
無条件の肯定的関心
傾聴では、相手の話に好き嫌いや善悪の評価を入れずに受け入れることが必要です。
相手の話を否定することなく、どうしてそのような考えに至ったのかなどの背景に関心を持ちましょう。肯定的関心を示すことで、話し手は「自分の話が受け入れられている」と安心できます。
なお、共感的理解と同様に、相手の話を受け入れることと、相手の意見や考えに賛同することは異なります。
相手に賛同しなくても、「あなたはこう思っているんですね。なぜですか?もっと詳しく聞かせてください」と受け入れることが肯定的関心です。
自己一致
自己一致は、心理学では「実感と認識の一致」や「純粋性」といわれます。話し手の深い考えや感情をくみ取るには、聴き手自身も自分の感情をごまかそうとしない姿勢が必要だとされます。
自己一致とは、聴き手の心が安定していて、ありのままの自分を受け入れ、虚勢的や防衛的にならずに率直な気持ちで相手と向き合えている状態を示します。
傾聴を行なう際には、話し手の気持ちを傷つけたり、相手の話の展開を阻害したりしない範囲で、質問などをすることも必要です。
たとえば、相手の話がわかりにくければ「◯◯の部分が少しつかめないのですが、それは◯◯ということですか?」といった質問で真意を確認することも大切になります。
フラットな状態で相手の話を受け入れ、ときには深掘りをするうえでは、聴き手が自己一致の状態であることが大切だということです。
傾聴の実践に役立つテクニックとスキル
傾聴をする際には、相手の特徴やシーン、話題に合わせてテクニックやスキルを使うことが効果的です。
なお、テクニックやスキルはあくまで、相手の話を真剣に受け止める心構えがあってこそ有効であり、テクニックやスキルだけでラポールを形成しようとしてもうまくはいきません。
しかし、心構えがあったうえで、テクニックやスキルを使えば、ラポール形成がよりスムーズに行なえます。
傾聴で実践できるテクニックやスキルは、大きく分けて言語系と非言語系の2種類がありますので、それぞれのテクニックを紹介します。
言語系テクニック
言葉を使った言語系テクニックには、以下のようなものがあります。
・ペーシング(マッチング)
ペーシングとは、話す相手と言葉のペースを合わせることです。
相手と「話し方」を合わせることで、相手は無意識のうちに波長が合う感覚や親近感を抱くという「類似性の法則」を活用したテクニックになります。
ペーシングのなかでも、「マッチング」は相手の「声」の情報に合わせるやり方です。下記のような声の要素を相手に合わせることがポイントになります。
- 声の大きさ
- 声のトーン
- 声の音色
- 話すスピード
- 話すテンポ
- 口調 など
・バックトラッキング
バックトラッキングとは、いわゆる「オウム返し」であり、相手の言葉を繰り返すテクニックです。
バックトラッキングを行なうと、相手は「自分の話がよく理解されている」「受け入れられている」と感じ、満足感や好感、安心感などにつながります。
バックトラッキングするうえでは、相手が使った「感情を表す言葉」や「動詞」を中心にオウム返しするとよいでしょう。
・パラフレーズ
ラフレーズは、バックトラッキングの変形で、以下のように相手の話した内容を言い換えて繰り返すテクニックです。
バックトラッキング ⇒ 「遅くて大変なんですね」
パラフレーズ ⇒ 「いつも長時間働いているんですね」
パラフレーズは、バックトラッキングと同じように話し手に「聴いてもらえた」「理解してもらえた」という満足感や好感をもたらします。
パラフレーズのテクニックを上級レベルで活用すると「◯◯が動かず悩んでいる」を「◯◯ができたら課題解決する」と転換するようなことで、相手に意識の変化や気付きを生み出すことも可能になります。
・オープンエンドクエスチョン
オープンエンドクエスチョンとは、英語のとおり「回答の範囲を制限しない質問」を指し、省略してオープンクエスチョンとも呼ばれます。
具体的には「あなたはどう思いますか?」「どのような方法があると思いますか?」「どのようなご意見がありますか?」といった質問がオープンエンドクエスチョンです。
オープンエンドクエスチョンでは、豊富な回答の選択肢があるため、話し手に自由かつ主体的に思考してもらうことで内省を促せます。
なお、オープンエンドクエスチョンの反対は「はい」「いいえ」のように回答を限定する質問であり、クローズドクエスチョンと呼ばれます。
クローズドクエスチョンは回答を限定する分、相手が答えやすくなり、話のきっかけに使ったり、テストクロージングに使ったりすると有効です。
・沈黙
傾聴における沈黙は、「相手に考える時間を提供する」大切な時間です。まだ関係が浅い相手や日常会話では、話の間が空くと「間が持たない」と感じて新しい話題を投じがちです。
また、オンラインでも沈黙が続くと「通信障害かな……」と不安になり、沈黙は嫌われる傾向にあります。
しかし、相手の深い本音を引き出すためには、意図的に沈黙を活用することも大切です。
非言語系テクニック
積極的傾聴の効果性を高めるには、言葉や声と併せて、以下のような非言語テクニックを使うのもおすすめです。
・ペーシング(マッチング)
非言語の領域にも、相手とペースを合わせるペーシングのテクニックがあります。ミラーリングと呼ばれる手法で、話し手の動作や身振りなど、下記のような要素を相手と合わせます。
- 話す姿勢
- 座り方
- 手振り
- 身振り
- 手足の位置
- 呼吸
- 表情 など
ミラーリングは、声を合わせるマッチングと同様の効果があり、話し手に「共通点がある」という錯覚を生み出し、信頼関係をスピーディーに築きます。
ただし、無理にミラーリングして相手に気付かれると逆に警戒心や不快感を抱かせてしまいます。自然にできる範囲で行なうことが大切です。
・表情や声の工夫
身体的なミラーリングが難しい状況では、無理に相手の動作を真似ず、聴き手の表情や声に対してミラーリング・マッチングを行なうことが有効です。
アメリカの心理学者アルバート・メラビアンは、自身の提唱する「メラビアンの法則」のなかで、人はコミュニケーションにおいて、言語からの情報を得ているとしています。
声と表情でペーシングすることで、聴覚・視覚に訴えかけることができるわけです。
傾聴のトレーニング方法
傾聴を身につけるためには、トレーニングも必要です。この章では、具体的なトレーニング方法を紹介しましょう。
相手の話を最後まで聞く
たとえば、相手の話に共感できる点などを見つけると、「そうですよね、私も……」と相手の話をさえぎって自分の話をしたくなってしまうものです。
ただ、傾聴を実践するには、相手の話を最後まで聞いてから自分の話をすることが最低限の基本です。
仮に最後まで聞かなくてもわかる話だったとしても、相手の話を最後まで聞くことは礼儀です。人の話を途中でさえぎると、自己中心的な人だと思われ、信頼感は得られないでしょう。
表情や声をマッチングする
傾聴の基本は、相手が安心して話せる環境をつくることです。そのため、傾聴では、笑顔など表情や声の工夫が欠かせません。
一方で、無表情で話を聞いていた場合、相手に威圧感を与えるおそれがあるでしょう。
相手が安心して話せる環境をつくるためには、先述のミラーリング・マッチングを活用し、表情や声を相手に合わせることが大切です。
自然な笑顔づくりに慣れていない場合は、表情筋のトレーニングなどを行なうとよいでしょう。
バックトラッキングを実践する
先述のバックトラッキング(オウム返し)も、傾聴のトレーニングに取り入れたい技法です。バックトラッキングは、相手が発した言葉を繰り返して会話を進めていく技法になります。
バックトラッキングの基本は、相手の言葉を繰り返すことです。ただ、言葉だけではなく相手が表現できなかった感情を読み取り、その感情をバックトラッキングに組み込むと、さらに効果が高まります。
また、相手の会話が長くバックトラッキングが難しい場合には、内容を要約するテクニックもあります。ただし、これらは応用技術です。
こちらが表現した感情や要約した内容と相手の認識にズレがある場合、逆効果になることがあります。バックトラッキングを使うときには、相手が違和感を抱かせない注意も必要でしょう。
質問を使い分ける
傾聴のトレーニングでは、質問力を高めることも大切です。質問の基本となる4つの種類を知っておくだけでも、質問のバリエーションが増えやすくなります。
まずは、水平質問と垂直質問です。
水平質問とは、ほかの答えや選択肢を求めて会話の内容を広げていく質問方法です。一方で垂直質問とは、一つの物事に対して5W1Hをベースに掘り下げていく質問方法になります。
水平質問ばかりを続けた場合、相手に“しつこい”と思われやすくなります。また、垂直質問ばかりだの場合、相手に“自分は詰められている”と感じさせてしまうかもしれません。
そのため、水平質問と垂直質問は、バランスよく使うことが大切です。
続いて、限定質問(クローズドクエスチョン)と開放質問(オープンクエスチョン)です。
限定質問とは、「はい」や「いいえ」で答えてもらったり、「Aか?Bか?」などの選択肢から選ばせたり、相手の答えを限定する質問の仕方です。
逆に、開放質問とは「どう思いますか?」「どう感じましたか?」など、相手の答えを限定しない質問の仕方です。
限定質問は答えが限られる一方で、相手にとっては答えやすい質問です。
これに対して開放質問は、自由に自分の意見や感情を答えられる利点がありますが、内容によっては答えにくい場合もあるでしょう。
限定質問と開放質問をする場合も、先述の水平質問・垂直質問と同じように、うまく組み合わせて使うことが有効になります。
まとめ
傾聴(聴く)とは、相手の話す内容に深く耳を傾けるとともに、相手の感情に共感し、相手からの信頼関係を獲得し、深いコミュニケーションを可能にするスキルです。
ビジネスで速やかに信頼関係を構築して、相手の本音を引き出すことは、商談やマネジメントを行なううえで非常に有効です。
また、傾聴は、管理職や営業職などにとっては必須のスキルといえるでしょう。
傾聴を実践するときには、自分自身が安定したフラットな状態で、相手の意見や考えを判断せずに受け入れて、肯定的に話を深掘りしていく姿勢が求められます。
そして、基本姿勢のうえに、パーシング(マッチング・ミラーリング)やバックトラッキング、パラフレームや沈黙などの言語系・非言語系のテクニック、スキルを使えると、より効果的に信頼関係を築くことができるでしょう。
傾聴は、ビジネスで使える強力なスキルでもあります。社内研修などを通じて利用できるメンバーを増やせば、組織目標の達成などのビジネス成果につながりやすくなるでしょう。
なお、傾聴をはじめとして信頼関係の構築で非常に大切になるのが感情を扱う能力です。
相手の感情にしっかり共感する上では、相手の感情を察知する、自分の感情を把握してマネジメントするといったことが必要です。
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