エンゲージメントとは?高めるメリットと方法をわかりやすく解説

更新:2023/07/28

作成:2023/05/26

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

エンゲージメントとは?高めるメリットと方法をわかりやすく解説

エンゲージメントは約束や婚約など、「つながり」を意味する英単語です。「婚約指輪=エンゲージメントリング」という使われ方は、知っている人も多いでしょう。

 

また、ビジネスにおいて、エンゲージメントはマーケティングやHRの領域でよく使われます。マーケティングやHRの場合は、自社(ブランド・サービス)と顧客、自社と従業員の心理的な結びつき、愛着などという意味で使われます。

 

近年では、知識労働の普及、雇用の流動化や副業などの業務形態、リモートワークの普及などがあるなかで、従業員の“エンゲージメント”を高めることの重要性が増しています。

 

本記事では、まず、エンゲージメントの定義と高めるメリットを確認します。また、ヒューマンスキルのトレーニングを得意とする研修会社としての知見を踏まえて、組織のエンゲージメントを高めるためのポイントを解説します。

<目次>

エンゲージメントの定義とは?

まずは、エンゲージメントの対象となる2つの領域や、類似用語との違いなどを確認しながら、エンゲージメントが具体的にどういうものかを確認していきましょう。

 

エンゲージメントの対象となる2つの領域

エンゲージメントは、もともと約束や婚約など、「つながり」を意味する単語です。ビジネス分野では、おもに以下の2つの領域で使われます。

  • HR領域(従業員エンゲージメント)
  • マーケティング領域(顧客エンゲージメント)

HR領域における従業員エンゲージメントは、「従業員と組織・仕事との心理的な結びつきの強さ」を示す言葉です。“従業員エンゲージメントが高い”とは、組織・仕事・職場への愛着があり、「自分はいまのチームの一員である」「組織のミッションやビジョンに誇りがある」と思えている状態です。

 

マーケティング領域における顧客エンゲージメントは、「企業(ブランドやサービス)と顧客の信頼関係、結びつきの強さ」をあらわす言葉です。具体的には、「SNSで好意的な感想を投稿する」や「競合より高い商品でも買ってくれる」などの顧客行動から測れるものになります。

 

本記事では、人材領域における従業員エンゲージメントを対象に解説していきます。

従業員満足度との違い

従業員満足度は、文字どおり「従業員が組織に満足しているか?」を測る指標です。
従業員エンゲージメントは、従業員満足度を発展させ、「組織に満足しているか?」+「貢献意欲ややりがい」をあらわすものとなります。

 

たとえば、仕事に満足していても自発的な貢献意欲ややりがいが低い場合、「従業員満足度は高いが、従業員エンゲージメントは低い」になることもあります。

 

少し語弊はありますが、「従業員満足=働きやすさ」、「従業員エンゲージメント=働きやすさ+働きがい」というイメージです。

ワークエンゲージメントとの違い

ワークエンゲージメントは、仕事にフォーカスして従業員のエンゲージメントを示す概念です。「ポジティブな状態で仕事に没頭しているかどうか?」の指標になります。

 

日本におけるワークエンゲージメントの第一人者である慶應義塾大学の島津教授は、ワークエンゲージメントは、以下3つの概念で構成されるとしています。

  • 活力
  • 熱意
  • 没頭

ワークエンゲージメントは、「仕事そのもの」に対する精神的な結びつきであるのに対して、従業員エンゲージメントは、「仕事だけでなく、企業・チーム・上司・メンバーなどの結びつきも含んだ概念」です。

 

従業員エンゲージメントを高めるには、仕事そのものに価値や意味を感じられていて、熱中できている状態を指すワークエンゲージメントを向上させる必要があります。

「人的資本経営」時代に注目されるエンゲージメント

経済産業省では、「人的資本経営」という言葉を使い、人財を「資本」としてとらえ、資本の価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を推し進める動きがあります。

 

人的資本経営を行なううえでも大切になるのが、エンゲージメントです。

 

たとえば、近年では、商品ライフサイクルの短期化や産業のサービス化、市場の急激な変化などが起こりやすくなっています。企業側では、こうしたさまざまな変化に対して、迅速な柔軟な対応をすることが求められており、従来のトップダウン的な意思決定には限界が出てくるようになりました。

 

しかし、エンゲージメントの高いメンバーの多い組織をつくると、外部環境の急激な変化や課題が生じたときにも、現場などでの主体的な意思決定や行動が促されやすくなります。

 

詳しくは後述しますが、近年の労働市場は、転職の一般化と少子化にともなう慢性的な“売り手市場化”によって優秀層の離職も起こりやすくなっています。こうしたなかで自社に合う優秀な人財を獲得し、定着を促していくうえでも、エンゲージメントの向上は重要です。

 

なお、2020年11月にSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に対して「人的資本の情報開示」を義務付けたことで、最近では、日本企業でも統合報告書などのIR資料内で自社の従来のエンゲージメント向上に向けた取り組みなどを開示する動きが加速するようになりました。

エンゲージメントを高めるメリット

エンゲージメントを高めるメリット

 

従業員のエンゲージメントを高めると、企業や組織は以下の効果・メリットを享受できます。

 

離職率の低下

所属チームや自社のミッション・ビジョンなどに高い愛着や信頼があれば、会社や仕事への不満による離職などは起こりにくくなります。

 

パフォーマンスの向上

企業やチームの価値観に共感していると、「チームのために頑張ろう!」「いまの仕事には価値がある」などのポジティブな想いから、主体性が発揮され、個人のパフォーマンスが向上します。

チーム力の強化

チームメンバー全員のエンゲージメントが高ければ、みんなが組織の価値観に共感して、愛着を持っている状態です。
自ずとチームワークも高くなりますし、チームビルディングやチーミングも促しやすくなるでしょう。

 

採用コストの低減

従業員が定着すれば、採用活動や新人の教育コストも抑えられます。また、エンゲージメントが高ければ、リファラル採用なども促進されるでしょう。

エンゲージメントを高めるためにできること

本章では、従業員エンゲージメントを高める方法とポイントを解説します。

 

ミッション・ビジョンの明確化と浸透

ミッション(企業が何のために存在するか?)、ビジョン(ミッションの実現で作り出す世界)を明確化し、従業員に浸透させます。企業によって、表現はパーパス(存在意義)や経営理念などの場合もあるでしょう。

 

ミッション・ビジョンが「浸透する」とは、従業員が内容に共感している状態です。

 

そして、「加工食品の販売を通じて、○○エリアの農業を元気にする!」という組織のミッション・ビジョンと、個人のミッションや価値観、たとえば「○○地域の活性化に貢献したい」が紐付くと、組織で働くことや仕事の内容に強い「意味」が生まれ、やりがいになります。

バリューや共通言語の確立

バリューは、「私たちは何を大切にするか?」「どのような集団であるか?」という組織の価値観・行動規範です。共通言語も、バリューに近いものです。

 

たとえば、リクルートの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」などは、有名なバリューです。また、同じリクルートの定番といわれる質問「で、お前はどうしたいの?」も一種の共通言語といえるでしょう。

 

こうした行動やコミュニケーションの基準となるバリューや共通言語が浸透すると、組織への帰属意識や特別感、一体感が生まれやすくなります。ミッション・ビジョン・バリューの確立や浸透は、以下の記事を参考にしてください。

心理的安全性の確保

心理的安全性とは、周囲から無知や無能などと思われることを恐れず、自然体の自分をオープンにできる環境のことです。
自然体の自分を出せるとは、変に取り繕わないということですし、同時に無知に思われるかもしれない質問、ネガティブと思われるかもしれない懸念点や不安、自分の仕事における困りごとやトラブルなどを発現、相談できるということです。

 

心理的安全性が確保されていると、チーム内のコミュニケーションが活発化し、組織の生産性が向上します。

 

心理的安全性は、チームの一員として自分が認められている、周囲と信頼関係がある状態であり、居心地がよい状態とも言い換えられます。エンゲージメントを高めるには、以下のような施策によって心理的安全性の高い組織をつくることも大切です。

  • 誰もが質問・相談しやすい雰囲気をつくる
  • 早めの報連相に「ありがとう」と伝える
  • メンバー間の相互理解を促す
  • どのような意見にも耳を傾ける姿勢を持つ
  • 失敗や能力不足を安易に批判しない など

信頼関係をベースとした権限委譲

権限委譲によって従業員に自己決定権を与えることは、内発的動機づけの強化ややりがいにつながります。内発的動機づけとは、“仕事することにワクワクする”や“もっとやりたい”など、自分の内側から湧き上がるモチベーションのことです。

 

ただし、人によっては権限委譲が重荷になることもあります。そのため、権限委譲をするときには、メンバーとの合意やゴール設定が必要となるでしょう。権限委譲(エンパワーメント)の具体的なやり方は、以下の記事で紹介していますので、ご興味あれば参考にしてください。

対話の場づくり

心理的安全性や権限委譲をするには、メンバーの話に耳を傾け、信頼関係を構築するコミュニケーションや適切なフィードバックが必要です。

 

近年では、リモートワークの普及によって、同じオフィスで働いていた頃のような声かけが生まれづらくなっています。リモートワークの場合には、MTGのなかで意図的に雑談を入れたり、定期的な1on1ミーティングの場を設けたりするなど、対話の場づくりの施策は重要になるでしょう。

 

働きやすい職場づくりの工夫

従業員のエンゲージメントを高めるには、以下のような施策で多様な働き方の受け入れや職場環境の改革をしていくことも大切になります。

  • フレックスタイム制度や時短勤務制度を導入する
  • 産休・育休制度を充実させる
  • 副業・兼業制度を充実させる など

待遇の改善と公正な評価

精神的なやりがいに加えて、衛生要因としての待遇、また、パフォーマンスに対する正当な評価なども必要です。

 

衛生要因とは、不足する・欠けると従業員満足度を大きく下げる要因となるものです。
具体的には給与、賞与、労働環境などが該当します。衛生要因を少し改善しても、エンゲージメントがぐっと高まるわけではありません。

 

しかし、標準的な待遇や公正な評価などがされていない場合、大きな不満要因になりますので注意しましょう。

エンゲージメントは組織力向上の鍵

エンゲージメントは組織力向上の鍵

 

従業員のエンゲージメントを高めることは、困難が生じたときに共創・協働できる強い組織をつくることにつながってきます。

 

近年では、リモートワークが浸透したことで、従来と比べて組織内でのコミュニケーションが不足し、遠心力なども働きやすくなっています。

 

こうした状況で、組織力の維持・向上を維持し続けるには、本章まで紹介したポイントを実践しながら、各メンバーのエンゲージメントの状態を確認し、向上につなげていく必要があるでしょう。

 

組織におけるエンゲージメント状況の確認(測定)方法は、以下の記事を参考にしてください。

まとめ

従業員エンゲージメントとは、組織・仕事・職場への愛着や自発的な貢献意欲などをあらわす指標です。従業員満足度を発展させたものであり、「働きやすさ+働きがい」というイメージになります。

 

近年では、経済産業省が推進する「人的資本経営」というコンセプトのなかでも、従業員エンゲージメントへの注目度が増すようになりました。知識労働が拡がり、また、雇用が流動化しているなかで、メンバーのエンゲージメント向上を通じて組織力を高めることが、非常に大切になっています。

 

従業員のエンゲージメント向上をさせられれば、企業や組織は以下の効果・メリットを享受できるでしょう。

  • 離職率の低下
  • パフォーマンスの向上
  • チーム力の強化
  • 採用コストの低減

従業員エンゲージメントを高めるには、以下のような施策があります。

  • ミッション・ビジョンの明確化と浸透
  • バリューや共通言語の確率
  • 心理的安全性の確保
  • 信頼関係をベースとした権限委譲
  • 対話の場づくり
  • 働きやすい職場の工夫
  • 待遇の改善と公正な評価

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、従業員エンゲージメントの高い組織づくりにつながる「7つの習慣®」研修を提供しています。エンゲージメント向上を通じた組織力アップに興味がある人は、以下のページから資料をダウンロードしてみてください。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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