ケーススタディとは?|意味や実施メリット、活用シーンをわかりやすく紹介

更新:2023/07/28

作成:2023/05/19

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

ケーススタディとは?|意味や実施メリット、活用シーンをわかりやすく紹介

ケーススタディは「事例学習」と呼ばれ、現実に起こったケース(事例)、もしくは現実に起こりそうなケースの分析や検討を通じて、実践知を身に付けるアクティブラーニングの一種です。

 

本記事では、まず、ケーススタディの概要と実施のメリットを紹介します。紹介したうえで、後半では、ケーススタディのやり方とポイントを詳しく解説しますので参考になれば幸いです。

<目次>

ケーススタディとは?

ケーススタディを日本語に訳すと、“事例学習”という意味です。

 

現実に起こったケース(事例)、もしくは現実に起こりそうなケースの分析・検討を行ない、分析のなかから、再発防止などにつながる原則を見出したり対応策を検討したりする中で思考力を鍛える学習法になります。

 

近年のビジネスシーンでは、企業をとりまく環境の著しい変化が続くなかで、迅速かつ効率的な課題解決が求められるようになりました。

 

一方で、ビジネスにおける課題などを知識をとして座学で学ぶだけでは、現場で通用する知恵とはなりません。

 

そこで、具体的な事例を用いて、知識をどう問題解決や意思決定に生かすのかを学べるようにしたのがケーススタディです。

 

ケーススタディを通じて、研修のなかでさまざまな“起こりうるケース”に触れておくことで、実際の課題への対処がしやすくなります。

 

こうした特徴から、ケーススタディは、ビジネス研修はもちろん、教育・医療・介護といったさまざまなシーンで活用されています。

ケーススタディの実施メリット

オフィスで新人に教えるスーツ姿の男性

 

ケーススタディによる効果・メリットは、非常に多岐にわたります。本章では、企業やビジネスパーソンの人材育成でケーススタディを行なう利点を紹介します。

人材育成

企業での人材育成では、座学のOff‐JTから現場でのOJTまで、さまざまな研修や教育でケーススタディが行なわれています。

 

こうした人材育成の学習効果を考えるうえで参考になるのが、ラーニングピラミッドの考え方です。以下の図は、授業の形式別に学習定着率を表したラーニングピラミッドと呼ばれるものです。

 

ラーニングピラミッドの図

 

ラーニングピラミッドは、「授業で学んだ内容を2週間後にどれだけ記憶しているか?」を軸にして、学習方法別の効果性を測定した実験がもとになっています。

 

上記を見ると、座学講義の学習定着率は、わずか5%です。一方で、ピラミッドの下側、アクティブラーニングと呼ばれる形式では、50~90%もの学習定着率だったという結果がでています。

 

ラーニングピラミッドの実験は、限定された環境や設定で行なわれているため、数値の学習定着率が結果のまま当てはめられるわけではありません。

 

ですが、アクティブラーニングを使うことが学習定着率、つまり内容の記憶率に改善がみられることは確実でしょう。

 

今回紹介するケーススタディも、アクティブラーニングの一種です。

 

たとえば、座学研修で知識を教えた後に、ケーススタディを導入して、実践的な知恵にするとともに、学習定着率を高めるというアプローチが考えられます。

思考力の強化

私たちは仕事するなかで、さまざまな問題・課題に直面します。問題・課題を解決するには、自分の経験や持っている知識をもとに最適解を考える“思考力”が重要です。

 

ただ、たとえば、業界に入ったばかりの新人、未経験の仕事などであると、最適解を導き出せるほどの知識と経験がないことが多いでしょう。

 

また、日々の仕事のなかで問題の発生を待っていては、いつまで経っても成長・自立できなくなってしまうでしょう。

 

たとえば、「出張中にお客様からトラブルの連絡が入りました。まず、何をしますか?」などの現実の事例に即したケーススタディを行なうことで、問題解決に向けて思考する疑似体験が行なえるようになります。

 

また、上記程度の問題であれば日常的な業務の中でも経験していけます。

 

しかし、例えば、経営方針の意思決定、広報における不祥事対応、建設や製造現場などでの事故対応、医療現場での対応などは、実際に起こる頻度が少なく、かつ、非常に重要性が高い対応です。

 

こうしたことへの対応スキルを身に付けたりするうえでは、ケーススタディが非常に適した学習法となるでしょう。

 

ケーススタディを通じて、以下のようなスキルを鍛えられます。

  • 分析力
  • 洞察力
  • 問題解決力
  • ロジカルシンキング
  • 戦略構築力 など

専門知識と上記のような思考力を組み合わせることで、実務で使える状態になるでしょう。

アイデアの創出

たとえば、ケーススタディで過去の事例を題材にする場合、すぐに出てきた答えに満足せず、以下のように掘り下げることもおすすめです。

 

そうすることで、いままで誰も気付かなかった新しいアイデアやイノベーションが生まれる場合もあるでしょう。

  • 「もっと良い方法はないのだろうか?」
  • 「いまの方法では、Aの工程に支障が生じるのではないだろうか?」
  • 「そもそも、なぜトラブルが多発するのだろう?本質的な問題は解決されているのか?」など

「イノベーション」という概念を生み出した経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、既存の知識・技術・考え方の結合によって新しいアイデアが生まれることから、イノベーションを「新結合」と定義しています。

 

ケーススタディを通じて過去の事例(知識・考え方)に触れたり、また、ほかのメンバーとの意見交換をしたりすることは、イノベーションにつながる可能性もあるでしょう。

メンタル強化

たとえば、経験の乏しい新人がトラブルに直面すると、精神的な緊張やパニック状態などから、習得したはずの対処方法を実践できなかったり、パフォーマンスが著しく低下したりすることがあります。

 

日頃からケーススタディを通じて過去の事例などを疑似体験しておくと、現場で実際のトラブルなどに遭遇したときの衝撃を抑えることができます。

 

特に、瞬時に的確な判断が求められる医療現場などでは、メンタルや対応力を高めるために、日頃から症例検討会といった形でのケーススタディが実施されたりしています。

ケーススタディのやり方

無人の会議室

 

グループワークでケーススタディを実施するときには、以下の基本的な流れとなるでしょう。

STEP1|取り上げる事例を決める(運営側)

まず、ケーススタディで取り上げる事例を決めていきます。

 

適切な事例は、当然のことながら「何のための学習か?」というテーマや目的、ゴールによって変わってきます。

 

また、自社内の事例がいいのか、もしくは社外の事例が妥当なのかなども変わってくるでしょう。

 

行政や大学、民間企業などで、以下のようにケーススタディ集を公開や販売しているようなところもあります。適切なケースが見つからない場合には、探してみるのも一つです。

 

参考:外食・中食の生産性向上ケーススタディ集(農林水産省 食料産業局 外食産業室)
参考:四国地域知的財産コンサルティング事業 ケーススタディ集(四国経済産業局)

 

事例を決めたら、ケーススタディの進め方やゴールを設定していきましょう。

STEP2|事例を把握する(参加者側)

ケーススタディの参加者は、配布された事例の読み込み・検討を行なっていきます。

 

ビジネススクールなどの講義であれば、事前に読み込んで準備をしておくことが当たり前です。

 

一方で、企業内などでする場合には、ケーススタディのボリュームや研修の参加者などに応じて決定するとよいでしょう。

 

事例を知る深さは、ケーススタディのやり方やお題、与えられた時間によっても変わってきます。

 

場合によっては、ケーススタディの内容を読むだけでなく、同時にパソコンなどを使って事例の背景にある社会情勢や環境などまで調べさせることも一つです。

 

また、ケーススタディ学習で情報が足りない場合、基本的に推論で補うことになります。

 

ケーススタディを運営すると、参加者から「いまのはどうなっているか?」などと質問されることがよくあります。対応方法を明確にして、事前にアナウンスしておきましょう。

STEP3|論点を明確化する

ゴールにつながる論点を洗い出します。ゴールは、ケーススタディのお題に応じて変わってくるものです。

 

ゴールに向かって検討するうえでは、いきなり結論を導き出すのではなく、検討するうえで押さえないといけないポイントがどこか、前提情報や満たさないといけない条件、また、抜けている情報をどう推察するかなど、論点を整理するとよいでしょう。

 

論点を明確にしたうえで、具体的な内容を整理していきます。

STEP4|解決方法などを検討する

STEP3で洗い出した論点に対して、以下のような“問い”から、解決手段を見つけていきます。

  • 「何をすれば良いか?」
  • 「何があれば解決できるか?」
  • 「どうすれば効率よく解決できるか?」 など

最初は多くの選択肢を洗い出したうえで有効なものに絞り込む、消去法的に削っていくといったやり方がよいでしょう。

 

なお、絞り込むときには、「なぜ削るか?」というポイントを明確に思考しながら取り組んでいくことがおすすめです。

 

多くの場合、対応策には一長一短あり、容易に一つの最適解を見出せないことが多いでしょう。どのように意思決定していくのかといったことも、ケーススタディを通じて学ぶべきことの一つです。

STEP5|結論や解答から学びを深める

グループワークの場合は、結論を共有・発表します。ほかの人の発表を聞いていると、自分とは異なる発想や価値観、視点があることに気付くでしょう。

 

個人の場合は、紙などにアウトプットしていくとよいでしょう。

 

なお、ケーススタディでは、実際の事例などであれば「こう対応して、こういう結果(成功もしくは失敗)になった」という事実が存在することもありますが、過去の対応方法が、必ずしも正解というわけではありません。

 

ケーススタディで学ぶべきは「正解」だけではなく、思考プロセスや意思決定の仕方、異なる視点からの考え方といったものになります。

まとめ

ケーススタディとは、事例学習のことです。

 

実際に起こった、もしくは起こりそうな事例の分析・検討を行ない、分析のなかから、課題解決などにつながる法則や原理を見出したり、思考力を鍛えたりする学習法になります。

 

仕事や教育のなかにケーススタディを取り入れることで、以下のような効果・メリットが得られます。

  • 教育の学習定着率が向上する
  • 思考力が強化される
  • アイデアを創出する
  • メンタル強化

ケーススタディは、以下の5ステップで行なっていくとよいでしょう。

  • STEP1|取り上げる事例を決める(運営側)
  • STEP2|事例を把握する
  • STEP3|論点を明確化する
  • STEP4|解決方法を検討する
  • STEP5|結論や解答から学びを深める

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、ケーススタディを取り入れた新入社員研修PROを提供しています。

 

新卒人材にプロのビジネスパーソンとしての仕事力を教えたいという人は、ぜひ以下のページから資料をダウンロードしてみてください。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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