
ケーススタディによる効果・メリットは、非常に多岐にわたります。本章では、企業やビジネスパーソンの人材育成でケーススタディを行なう利点を紹介します。
人材育成
企業での人材育成では、座学のOff‐JTから現場でのOJTまで、さまざまな研修や教育でケーススタディが行なわれています。
こうした人材育成の学習効果を考えるうえで参考になるのが、ラーニングピラミッドの考え方です。以下の図は、授業の形式別に学習定着率を表したラーニングピラミッドと呼ばれるものです。

ラーニングピラミッドは、「授業で学んだ内容を2週間後にどれだけ記憶しているか?」を軸にして、学習方法別の効果性を測定した実験がもとになっています。
上記を見ると、座学講義の学習定着率は、わずか5%です。一方で、ピラミッドの下側、アクティブラーニングと呼ばれる形式では、50~90%もの学習定着率だったという結果がでています。
ラーニングピラミッドの実験は、限定された環境や設定で行なわれているため、数値の学習定着率が結果のまま当てはめられるわけではありません。
ですが、アクティブラーニングを使うことが学習定着率、つまり内容の記憶率に改善がみられることは確実でしょう。
今回紹介するケーススタディも、アクティブラーニングの一種です。
たとえば、座学研修で知識を教えた後に、ケーススタディを導入して、実践的な知恵にするとともに、学習定着率を高めるというアプローチが考えられます。
思考力の強化
私たちは仕事するなかで、さまざまな問題・課題に直面します。問題・課題を解決するには、自分の経験や持っている知識をもとに最適解を考える“思考力”が重要です。
ただ、たとえば、業界に入ったばかりの新人、未経験の仕事などであると、最適解を導き出せるほどの知識と経験がないことが多いでしょう。
また、日々の仕事のなかで問題の発生を待っていては、いつまで経っても成長・自立できなくなってしまうでしょう。
たとえば、「出張中にお客様からトラブルの連絡が入りました。まず、何をしますか?」などの現実の事例に即したケーススタディを行なうことで、問題解決に向けて思考する疑似体験が行なえるようになります。
また、上記程度の問題であれば日常的な業務の中でも経験していけます。
しかし、例えば、経営方針の意思決定、広報における不祥事対応、建設や製造現場などでの事故対応、医療現場での対応などは、実際に起こる頻度が少なく、かつ、非常に重要性が高い対応です。
こうしたことへの対応スキルを身に付けたりするうえでは、ケーススタディが非常に適した学習法となるでしょう。
ケーススタディを通じて、以下のようなスキルを鍛えられます。
- 分析力
- 洞察力
- 問題解決力
- ロジカルシンキング
- 戦略構築力 など
専門知識と上記のような思考力を組み合わせることで、実務で使える状態になるでしょう。
アイデアの創出
たとえば、ケーススタディで過去の事例を題材にする場合、すぐに出てきた答えに満足せず、以下のように掘り下げることもおすすめです。
そうすることで、いままで誰も気付かなかった新しいアイデアやイノベーションが生まれる場合もあるでしょう。
- 「もっと良い方法はないのだろうか?」
- 「いまの方法では、Aの工程に支障が生じるのではないだろうか?」
- 「そもそも、なぜトラブルが多発するのだろう?本質的な問題は解決されているのか?」など
「イノベーション」という概念を生み出した経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、既存の知識・技術・考え方の結合によって新しいアイデアが生まれることから、イノベーションを「新結合」と定義しています。
ケーススタディを通じて過去の事例(知識・考え方)に触れたり、また、ほかのメンバーとの意見交換をしたりすることは、イノベーションにつながる可能性もあるでしょう。
メンタル強化
たとえば、経験の乏しい新人がトラブルに直面すると、精神的な緊張やパニック状態などから、習得したはずの対処方法を実践できなかったり、パフォーマンスが著しく低下したりすることがあります。
日頃からケーススタディを通じて過去の事例などを疑似体験しておくと、現場で実際のトラブルなどに遭遇したときの衝撃を抑えることができます。
特に、瞬時に的確な判断が求められる医療現場などでは、メンタルや対応力を高めるために、日頃から症例検討会といった形でのケーススタディが実施されたりしています。