ラーニングピラミッドは、学習方法と学習定着率の関係をピラミッド型の図で表した理論です。アメリカ国立訓練研究所(NTL)が学習活動の概念として研究したもので、7つの学習方法を学習の定着率順に並べたものです。
記事では、ラーニングピラミッドとは具体的にどのような考え方か、またラーニングピラミッドをどう活用することで研修効果を高められるのかという基本をわかりやすく解説します。
<目次>
- ラーニングピラミッドとは?
- ラーニングピラミッドの7階層
- ラーニングピラミッドにおけるアクティブラーニングとは?
- ラーニングピラミッドを活かした研修企画のポイント
- ラーニングピラミッドを踏まえた具体的な研修設計例
- まとめ
ラーニングピラミッドとは?
ラーニングピラミッドは、学習方法と学習定着率の関係をピラミッド型の図で表した理論で、別名「学習の円錐」「経験の円錐」とも言われています。アメリカ国立訓練研究所(NTL)が学習活動の概念として研究したもので、図のように7つの学習方法を学習の定着率順に並べています。
ラーニングピラミッドを、学習方法を「学習定着率」という軸でランク付けしたもので、ピラミッドの上になるほど学習定着率が低く(=頭に残りにくい)、下へ行くにつれて定着率が高い(=頭に残りやすい)とされています。
なお、ラーニングピラミッドは各学習方法の学習定着率の数値と共に紹介されることも良くあります。この場合、学習定着率の数値はあくまでNTLが実施した実験における数値であり、日常環境における学習定着率をそのまま表しているわけではないので注意が必要です。
ラーニングピラミッドの7階層
ラーニングピラミッドを構成する7つの階層について、それぞれの詳細を説明していきます。
講義
1人の講師が多人数の参加者に向かって一方的に講義を行うやり方です。一般的な学校教育や企業の集合教育などの中には、講義に該当するやり方も多いでしょう。
受動的に講義を聞くだけでは、学習定着度は非常に低くなり、よほど興味のある内容でない限り講義内容のほとんどを忘れてしまうことになります(NTLの実験では5%、以下学習定着率の数値はNTLの実験数値)。
講義形式は新たな知識を体系的に教えるうえで必要な手法になりますので、学習定着率を少し上げも上げるには、ノートを取る、復習する、ワークを入れるなど、講義の内容を反復する方法を取り入れることが必要です。
最近では、たとえば、90分講義だけといった形式の研修は、一部のセミナー等を除いては姿を消しつつあります。
読書
書籍などを通じて知識を学ぶ学習方法のことです。企業内研修では、会社から指定された書籍、もしくは社員が自分で選んだ書籍を読むことが読書に該当します。
ただ聞くだけの講義より、「自分の意志で文字を読む」という能動的な要素が入っているため学習定着度は多少上がりますが、それでも10%程度とされています。
読書の場合も、レポートのアウトプット、学んだ内容を会議などで手短に発表する、読書した上での研修実施など、何らかのアウトプット、アクティブラーニング形式の学習と組み合わせることが大切です。
視聴覚
eラーニングのように、音声や動きのある動画で学習する方法のことです。活字だけの読書と比較すると、動画・音声は情報量が多く、記憶にも残りやすくなるため、20%程度の知識の定着が期待できるとされています。
デモンストレーション
実験や実技を見て学ぶ方法です。企業においては、スキルを持った人が実際に行っている姿を見せて覚えさせたり、工場見学に行ってやり方を学んだりすることがこの階層に該当します。
書籍を読んだり映像を見たりするだけの学習よりも、実際に目、耳、鼻などで体感することで学習定着率はより高くなり、学習定着率は30%とされています。また、デモンストレーションは、デモンストレーションの中や前後で質問する/質問を投げかけるなどの能動的な要素を組み込みやすい特徴もあります。
グループ討論
ワークショップなどのように、設定された議題に基づいて複数の受講者が議論しながら学びを深めていく方法です。グループ討論は、まずテーマについて理解する、自分の頭で考える、他者の意見に耳を傾ける、自分の意見を言葉にする、コメントやフィードバックをもらうといった体験や能動的な要素が多く含まれるため、見るだけ・聞くだけの学習より定着率が高まります。学習定着度は50%といわれます。
また、他者の発言から新たな知識が得られるという利点と共に、他者と意見交換していきますので、「サボるわけにはいかない」「適当な発言をするわけにいかない」という心理的効果が働き、前向きに取り組みやすくなります。
最近では、講義や事前課題としての読書や視聴覚とグループワークを組み合わせて、研修内でグループワークやディスカッションが実施されることは一般的になっています。
一般にグループ討論から下層の3つ、グループ討論、自ら体験する、他人に教えるという3つの学習方法を、アクティブラーニングと呼びます。
自ら体験する
自ら体験して学ぶ方法で、社員研修で良く使われるOJTやロールプレイング、現場に出向いて自分で調査・研究を行うフィールドワークなどが「自ら体験する」の階層に該当します。実際に体験することで集中力が高まるだけでなく印象にも残りやすいため、定着率も75%と高くなります。
MBAなどでよく実施されるケーススタディーや、社員研修における経営シミュレーションなども、疑似的に「体験する」ための学習法といえるでしょう。
他人に教える
ピラミッドの一番下、つまり定着率が最も高い学習方法が「他人に教える」ことです。OJTでの指導役がそうですし、自分が参加した外部研修の内容を、次は自らが講師として社内で教えるといったことも「他人に教える」です。
自分が学んだ知識や経験を他者に伝えることは振り返りにもなりますし、他人に教えるうえで「曖昧な点を調べ直す→理解が深まる」というサイクルが生まれるため、何度も復習するような形となり、自分の理解をより深めることができます。
「他人に教える」は、こうした振り返りや調べ直し、情報の整理、わかりやすい表現を追求することなどで、90%という高い学習定着率につながります。
ラーニングピラミッドにおけるアクティブラーニングとは?
ラーニングピラミッドは上下で大きく2つの階層に分けることができます。
ピラミッド上部の「講義」「読書」「視聴覚」「デモンストレーション」は「インプット型」、すなわち講師による説明や書籍、動画など自分以外の何かから情報をインプットしつつ学ぶ受動的な学習方法です。
そして、ピラミッド下部の「グループ討論」「自ら体験する」「他人に教える」は「アウトプット型」、いわゆる「アクティブラーニング」と呼ばれるもので、基本的には自分の頭で考えて発言したり、自ら行動してアウトプットしたりすることに重点が置かれる能動的な学習方法です。
そして、学習の定着度を高めるには、能動的な「アウトプット型」の学習を行うことが重要です。
ただし、「では講義スタイルはやめてワークショップや体験型の教育プログラムを作ろう」と安易に考えられるものでもありません。
もちろんアクティブラーニングは大切です。しかし、何の知識もインプットされていない状態で「〇〇について議論せよ」「〇〇を実践せよ」と指示されても、そう簡単にできるものではありません。
必要な知識や情報をインプットする機会をきちんと提供した上でアウトプット型の教育を行うこと、つまりインプット型とアウトプット型の教育をバランスよく組み合わせることが、研修の効果性を高めるために大切です。
ラーニングピラミッドを活かした研修企画のポイント
研修企画のなかでラーニングピラミッドの考え方をどのように反映して効果性を高められるか、基本的な3つのポイントを紹介します。
受講者参加型の研修にする
講師が一方的に話す講義形式の研修ではなく受講者参加型の研修にすることで、学習効果のUPを図ることがまずは基本となります。
いまは「テキストを配って講師が一方的に解説を喋る」といった研修は少なくなりましたが、こうした講義形式のみの研修はNGです。
新規の知識をインプットする部分は講義が必要だとしても、なるべく短時間に押さえたり、また反転学習の形で事前課題にしたりします。そのうえで研修当日はグループワークやロールプレイングをなるべく多く取り入れたり、参加者が主体的に参加する体験型のワークショップ形式で進めるなどが有効な方法です。
若い世代向けの研修では、SNSを取り入れた研修も興味を持たれやすくなります。あらかじめ研修テーマに関して知りたいことや事例などを社員からリサーチして決めると、目的意識と問題意識を持って参加できるので、従来型の受動的な研修とは違う効果も期待できるでしょう。
研修と実践をつなげる
研修を受けた後、すぐ仕事の現場で実践できるよう、参加者が「自分事」としてとらえられるように内容を工夫することも大切です。
たとえば、コンプライアンスや個人情報の研修、営業やマーケティング研修など、自社の業務にあてはめて事例を解説する、自分の仕事におけるリスクや実践を考えてもらう、意見交換してもらうなどといったやり方です。
また研修の最後に、学んだ内容を踏まえた上での今後の目標やアクションプランを個々に発表してもらい、定期的に目標達成状況を報告させるのも非常に効果的です。目標や実践計画を決めることで、必然的に研修と実践がつながることになりますし、報告や共有会をフォロー研修として実施すると実践率も高まります。
社員同士で教え合う
学習定着率を高めるには、アウトプットが大切です。研修を受けて終わりではなく、お互いに教え合ったり報告し合ったりすることで個人の意識が変わり、学んだことが自然と組織に根付いていきます。
たとえば、外部や社内の研修に参加した場合は、部内での小さな報告会を開催したり、朝礼などで発表してもらったりするのも一つの方法です。
また、研修の講師を社員に担当させるのも有効な方法だと言えるでしょう。研修というと身構えてしまうかもしれませんが、たとえば、「成功事例の発表と要因・工夫」を持ち回りで実施するなど、講師役のハードルが上がりすぎないようにすることがポイントです。
ラーニングピラミッドを踏まえた具体的な研修設計例
ラーニングピラミッドの考え方や研修企画のポイントを踏まえ、実際の研修スタイルをどのように設計し、教育効果を最大化していくのかを具体的な事例をいくつか紹介します。
集合教育+レポート提出
実践しやすい方法論として、集合教育とレポート提出を組み合わせた研修スタイルがあります。座学研修は集合教育(またはeラーニング)で行い、終了後に課題を与え自分の頭で考えて記述・提出してもらうような形式です。
新入社員のマナー研修や報連相等などのインプットが多くなりがちな研修でよく実施されています。レポートのテーマは「講義を通じてふだん自分に不足していることは何だと感じましたか?」「講義で学んだことを今後の業務で具体的にどのように活かしていきたいと思いましたか?」等が代表的です。レポートの内容を検討するのはさほど難しくはないため、比較的手軽に取り入れることができるでしょう。
eラーニング+ワークショップ
座学研修はeラーニングで行い、ワーク型研修は受講者が集合して行う方法です。1人で学べる部分はできるだけeラーニングで進め、全員が集合した際にはワーク型研修を中心に行います。
「反転学習」と呼ばれる手法であり、これまでの「全員で学んだ後、帰ってから宿題などを通じて1人で復習する」という形を反対にしたものです。
「学習効果の高さ」と「コロナ禍のビジネス環境」が相まって、企業内研修でも近年このスタイルを採用するところが増えています。
オンライン研修+対面ワークショップ
eラーニング+ワークショップのeラーニング部分をオンライン研修で実施する形式です。ワークショップを実施する際、事前学習できていない人が混じると全体の学習効果が大きく阻害されるため、事前学習部分をオンライン研修で実施する形です。
日時は固定されつつも、移動が必要ないオンライン研修であれば、企業研修などでも実施しやすくなります。また、オンライン研修部分を録画しておくことで、参加できなかった人へのフォローアップも実施しやすいでしょう。
ケースメソッド
ケースメソッドは、実際に起きた事例を教材とし、討論を繰り返しながら問題解決していくというアクティブラーニングの一種です。ディスカッションが主体となり、解決までの道のりを疑似体験することができます。また、具体例を用いているため、実際に類似した事象が発生した際に学びの経験を活かしやすいのも特徴です。
ケースメソッドを行うことで、問題分析・解決能力の向上や意思決定能力の育成、企業事例や業界情報に関する知識の習得が期待できます。
座学+プロジェクト実践
例えば新規事業の立案に関して、フレームワークのインプットや既存事業の分析などを講義やグループ討論を交えながら行い、後半はグループ単位での新規事業の企画立案、最後にプラン発表+フィードバックや考察などが行われるやりかたです。
学んだ知識を活かして自分たちでプランを作ることで、参加者の主体性を引き出すことが可能になります。
まとめ
ラーニングピラミッドは、学習方法と学習定着率の関係をピラミッド型の図で表したもので、「能動的な学習(アクティブラーニング)になるほど学習定着率が上がる」ということを世に知らしめた概念です。
ただし、アクティブラーニングですべて正しいというわけではなく、講義や読書などのインプット型学習ももちろん必要不可欠な要素です。そして、そうして得た知識をアウトプット型学習でしっかり定着させる仕組みを整えることが、研修効果を高めるためのポイントです。
研修を実施しているが、思うように効果が上がらないという悩みを持つ企業は、ラーニングピラミッドの考え方に照らし合わせて改善できるところがないか考えてみてもよいでしょう。
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