最後に、研修企画を進めるときに押さえておくと効果的な5つのポイントを紹介します。
1.研修対象者を選定するとき時のポイント
「対象者を誰にするか?」は念入りに検討すべきポイントの1つです。対象者の選定でよくあるのが、人事側で対象者を選定するケースと、希望者を募るケースです。階層別研修や基礎スキルの習得に関しては、人事側で対象者を選定することが基本ですが、新しい分野の勉強会などの場合は、希望者を募って実施してもよいでしょう。
一般的に対象者の属性を絞るほど、より対象者にフィットした研修プログラムを構成して実施できます。例えば営業研修を実施する際、「営業経験10年」の社員と「営業経験11年」の社員が混在していると、プログラムを設計しにくいのはイメージできるでしょう。
一方で、「営業部全体で営業ステップや確度管理を共通言語にしたい」また、「全社員に企業理念や共通言語を浸透させたい」などの目的であれば、対象者を限定してしまうと意味がありませんが、場合によっては敢えて階層を混在させて実施したほうが効果的な場合もあります。
また、アウトプットを生み出すようなワークショップや本格的なアクティブラーニングの場合、参加者の意欲や知識レベルにばらつきが大きいと、学習効果が一気に下がります。研修の目的やゴールに応じて、研修対象者を選定していきましょう。
2.研修のゴール設定を考えるとき時のポイント
研修のゴール設定については、研修企画のステップを紹介した章でも触れました。想定する研修ゴールが、具体性や現実性を欠いていたり曖昧だったりすると、研修効果を高めにくくなります。しっかりと「具体化」することが大切です。
ゴール設定を具体化する際には、目標設定の原則となる「SMARTの法則」が参考になります。SMARTの法則は、効果的な目標・ゴールを定めるうえで重要となる5つの基準を示したもので、以下5つの英単語の頭文字をつなげた言葉です。
<SMARTの法則>
・Specific(具体的である) ⇒具体的にどうなっているのか?
・Measurable(計測できる) ⇒それは外部から見て客観的に判断できる状態か?
・Achievable(達成できる) ⇒現実的に実現できるか、理想論で設定していないか?
・Relevant(上位目標と関連する)⇒研修の目的、課題解決につながるゴールか?
・Time‐bound(期限がある) ⇒いつの時点で実現しているかは明確か?
すべての研修でSMARTな目標が設定できるわけではありませんが、具体的な研修ゴール、研修が終わった時の状態、研修後の行動変容を考える際には、ぜひ参考にしてください。
3.研修の効果性を高めるためのポイント
研修の効果性を高める考え方として、研修の効果(行動変容)に影響を与える要素の比率を表した「4:2:4の法則」があります。
<4:2:4の法則>
・4割:事前学習や準備
・2割:研修内容
・4割:研修後の実践
上記に示したように、研修の効果(行動変容)には、じつは研修そのものの内容よりも研修前の準備(事前説明会や課題などを通じて学ぶ姿勢や前提知識など)や、研修後のアフターフォロー(実務での実践やアウトプットによる記憶の定着など)こそが研修効果に大きく影響を与えます。
従って、研修プログラムを設計する際には、研修内容はもちろん、じつは研修前のアプローチ、そして、研修後のアフターフォローの設計が大切です。
「4:2:4の法則」を踏まえた研修前・研修後の施策具体例としては、
- 主体的なマインドや姿勢で研修に参加してもらうためのアナウンス
- 参加者の上司から学んでほしいことや期待事項を伝えてもらう
- 研修で学んだ汎用的な知識やスキルを自分の実務につなげるブリッジング
- 実務で実践するTo doの設定
- 実践した結果を発表するフォローセッションの実施
などが挙げられます。
4:2:4の法則は、特に後ろの4(アフターフォロー施策)を考えるうえでは、次で説明する学びを定着させるポイントも踏まえて検討するとよいでしょう。
4.研修の学びを定着させるポイント
研修では、学んだ内容をいかに記憶に定着させるかも重要です。学びの定着を考えるうえでポイントとなるのは、エビングハウスの研究で明らかになった「人間は忘れやすい生き物である」という事実です、
エビングハウスの研究は、人間は学習したことを時間の経過とともにどれぐらい忘れていくかを調べたもので、「エビングハウスの忘却曲線」として有名です。
<エビングハウスの忘却曲線>
20分後 :覚えた内容の42%を忘れ、58%を覚えていた
1時間後 :覚えた内容の56%を忘れ、44%を覚えていた
1日後 :覚えた内容の74%を忘れ、26%を覚えていたト
1週間後 :覚えた内容の77%を忘れ、23%を覚えていた
1ヵ月後 :覚えた内容の79%を忘れ、21%を覚えていた
エビングハウスの研修で扱った「学習(覚えた内容)」の内容は、日常生活や仕事と関係がない、さらに脈絡がない内容です。したがって、実務とつながりがあって体系等もある企業研修の内容が、上記の数字で忘れ去られてしまうわけではありません。ただし、人は時間の経過とともにどんどん忘れていく、ということは間違いない事実です。
エビングハウスの研究では、学習内容の定着に関して、「学習に時間をかけると覚えられる情報量が増え、復習を重ねることで忘れにくくなる」ことも明らかになっています。つまり、復習を重ねることで忘れにくくなるということです。また、「一度にたくさんではなく、時間をかけて少しずつ覚えたほうが記憶に定着する」こともわかっています。
エビングハウスの研究を踏まえた学びを定着させるためのポイントとしては、
- 一度に詰め込むよりも、何度かに分けて学習したほうが定着する
⇒ 1回の詰込みではなく、1時間×数回の研修として実施する - 復習を重ねることで、学習は定着する
⇒ 研修後にポイントを振り返るメールを何度かに分けて送信する
⇒ フォロー研修や実践結果のレポートなどを通じて学習内容を思い出す機会を作る
ということです。非常に当たり前ですが、意外と企業研修では実践されていないこともあります。
なお、上記を実践する上では、Webとオンライン研修を上手く活用するとよいでしょう。例えば、メールやLINEグループで振り返りメールを送ったり実践状況を共有したりすれば運営側・参加側の負担は少なくなります。また、オンライン研修を使えば移動時間や参加場所が自由になりますので、時間調整なども実施しやすくなります。
5.研修実施後の効果検証のにおけるポイント
社員教育は、実施してそれで終わりではありません。実施後に効果測定を行ない、期待した効果が確認できなかった場合は、カリキュラムを見直すことも必要です。とはいえ、人材育成の効果はある程度長期的に検証していくことも必要です。
また、例えば仕事の成果や業績は研修以外のさまざまな要因も大きく影響しますので、成果で研修の効果を測ることも困難です。
上記のような難しさがあることも踏まえたうえで、研修後の効果測定として比較的手が掛けやすい「研修アンケート」と「理解度テスト」を紹介します。研修アンケートは、学びや気付きが新鮮なタイミング、すなわち研修終了直後に実施し、その日のうちに受講者から回答してもらうようにします。
質問項目の例としては、「研修の満足度や難易度が適切だったか?」「実務に役立つ内容だったか?」を5段階評価で設けると良いでしょう。他に人事担当者が「受講者に確認したい項目」も追加すると、次回の研修を改善するヒントになります。
なお、研修終了時点のアンケートにおける評価が高かったからといって、必ずしも「効果性が高い」研修とはならない点には注意が必要です。研修から期間を置き、実業務での活用度合いを評価できるタイミングで、あらためて「効果性アンケート」を実施することをお勧めします。
理解度テストでは、「学んだ内容が理解できているか」をテスト形式で確認します。確認テストは知識のインプットを目的とした研修の場合、特に効果的です。他には「自分の仕事でどう実践するか」をレポートで提出させるなども良いでしょう。
また、接遇研修や営業研修など、トレーニングや演習が組み込まれている研修の場合、あらためてロールプレイングなどでチェックしてもらうのも効果的です。研修後に理解度テストを実施する場合は、事前にテストがある旨をアナウンスしておくと、参加者の受講意識が高まります。