企業が人材育成するうえで、研修の実施は有効な手段の一つです。外部の研修会社に依頼する場合は、研修の設計から実施までをお願いできます。
しかし、人事担当者などが社内講師として研修を設計・登壇している企業も多いでしょう。
その場合、効果的な研修の設計と進め方に関するノウハウを学ぶ必要があります。
記事では、研修会社としての知見も踏まえて、効果的な研修の設計方法と進め方の“基本”を紹介します。
また、「研修は内製と外注、どちらが良いのか?」という疑問に関しても、簡単にメリット・デメリットを整理して解説します。
研修設計する際の参考になれば幸いです。
<目次>
効果的な研修の設計方法(準備編)
効果的な研修を設計するためには、まず、以下のポイントを押さえて準備を進めていきましょう。
①研修意図・背景の把握
まず、研修を実施する意図や背景をしっかりと把握します。
意図や背景は「営業スキルを向上させる」「リーダーらしい人材に成長させる」などの表面的かつ漠然としたものではいけません。
意図や課題が漠然とすると、研修のゴールも漠然として、内容も通り一遍のものになりがちです。
具体的な課題や、研修を通じて何を実現したいのかを、受講者の上司や幹部とすり合わせることが大切です。
②研修のゴール設定
研修の意図・背景を踏まえて、「研修が終わったときにどういう状態になっていて、研修後に何を実践するか」という受講者の状況を明確にします。
以下の視点で、なるべく具体的に設定することがおすすめです。
- 何を認識しているか?(姿勢・心構え)
- 何ができるようになっているか?(能力・スキル)
- 何を実行するか?(実践行動)
研修ゴール・行動変容と、行動変容を実現するうえで必要なスキル・マインドの明確化によって、研修プログラムの設計、また、研修と実務のブリッジングに軸ができます。
③研修のプログラム設計
研修のプログラムは、ゴールから逆算して設計することが大切です。また、詰め込み過ぎないことも重要です。
研修プログラムを設計していくと、設計者は良かれと思い、さまざまなことを伝えたくなるものです。
しかし、内容を詰め込み過ぎてしまうと、一方的なレクチャーになり、研修の効果性が下がります。
1回の研修で実現できる行動変容には、限界があります。欲張り過ぎると、情報・知識を伝えただけになってしまうでしょう。
繰り返しになりますが、「ゴールが何か?」から逆算して内容を絞り込み、研修プログラムを設計していくことが大切です。
内容を絞り込むことで、ワークや実務へのブリッジングに十分な時間を割けるようになります。
④告知
やる気を持って前向きな姿勢で参加してもらうことが、研修効果を大きく左右します。
研修への参加姿勢を高めるには、告知と以下のような仕かけを組み合わせることが有効です。
- 事前学習の動画や資料を提供する
- 学べる内容をチラ見せする
- 受講者の悩みが解消できる効果をチラ見せする
- 社長や上司から期待のメッセージを伝えてもらう など
⑤資料の準備
投影資料は、シンプルでわかりやすくすることが大切です。
また、受講者の集中力を維持するためには、配布資料やテキストに穴埋めなどもつくることがおすすめです。
対面とオンラインの研修では、用意する資料や作り方も若干変わってきます。
たとえば、オンライン研修の場合、スライド1枚に情報を詰め込み過ぎると受講者が集中しにくくなりますので、1スライド1メッセージが基本です。
また、オンライン研修の効果を高めるうえでは反転学習(事前学習)を取り入れることもおすすめです。
事前の配布資料や動画に課題を盛り込み「当日は、こちらの内容のディスカッションをしますので、〇〇に関して考えておいてください」などのアナウンスもするのもよいでしょう。
⑥研修の実施
研修実施のポイントは、次章「効果的な研修の進め方(実践編)」で詳しく解説しますので、ここでは割愛します。
⑦アフターフォロー
研修を実施しても、受講者が行動変容しなければ、研修を行なった意味がありません。
新任者研修などでは、網羅的な知識をインプットするために研修を実施する場合もありますが、それ以外の研修では、受講者の行動変容をいかにして引き出すか?という視点が大切です。
そして、行動変容を生み出すうえで重要になるのが、アフターフォローです。
アフターフォローの意味や必要性を考えるうえでは、研修分野で有名なブリンカーホフの「4:2:4の法則」の考え方が参考になります。
ブリンカーホフは、研修を通じた受講者の「行動変容」に対する影響力は、以下のような割合になるとしています。
<ブリンカーホフ 4:2:4の法則(行動変容に影響を与える割合)>
- 4割:事前学習や参加姿勢
- 2割:研修内容
- 4割:研修後の実践やフォロー
つまり、告知の部分でも述べたとおり、告知によって前向きな姿勢をつくること、そして、アフターフォローで実践を支援することが非常に大切になるのです。
なお、研修の実施から一定期間経ったあとで、講師と受講者が再び集まって行なわれる研修をフォローアップ研修と呼びます。
近年では、Zoomなどのオンラインツールが普及したことで、フォローアップ研修もしやすくなっています。
また、時間を併せてフォローアップ研修ではなく、メールやビジネスチャット、SNSなどを使って実践をフォローすることも有効です。
⑧研修結果の振り返り
実施した研修内容は、以下のような仕組みを通じて評価を行ない、問題や弱点があれば次回への糧としていきましょう。
受講直後のアンケートは大切なのですが、前述したように「行動変容」につながったかという意味では、受講者の満足度だけでは研修の効果は測れませんので注意が必要です。
- 直後の受講者アンケート
- フォローアップ研修で行動変容できているかどうかの確認
- 受講者の上長の評価 など
効果的な研修の進め方(実践編)
研修の効果を高めるには、進め方において以下のポイントを実践する必要があります。
①研修の場づくり
研修を円滑に進め、また、効果性を高めるには、グラウンドルールをしっかりと設定することが大切です。たとえば、以下のようなものがグラウンドルールです。
- 疑問点はメモしておき、最後の質疑応答で聞いてください。
- 投影スライドが見えなかったり、音声が聞こえなかったりする際は、手で「×(バツ)」を作って講師に教えてください(オンライン研修の場合)。
- 研修内で聞いた他受講者のエピソードや悩みは、研修以外の場で公開することは禁止です。お互いに安心して相談、共有できる場にしてください。
- 今日の研修では○○を扱います。実際の職場での○○○をイメージして研修に参加してください。
また、研修に集中できる空気づくりも大切です。
たとえば、いつも別拠点で働くリーダー同士が初対面の場合、冒頭で自己紹介を兼ねたアイスブレイクなどを入れることで相互理解も深まり、ディスカッションなども進めやすくなるでしょう。
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②姿勢と声への意識
研修の効果性を高めるうえでは、講師の姿勢や声も大切です。
そもそも聞きやすいか?ということもありますし、研修内容を信頼して耳を傾けられるという意味で、講師への信頼を作るうえでも講師の姿勢や声は影響を与えます。
立ち方、聞きやすいボリュームの声量、また、声の抑揚やスピードなどです。
また、オンライン研修では、講師のクリアな音声や映像を担保することも必要です。
オンライン研修で講師の声に雑音が入ると、受講者の集中力を大きく阻害してしまいます。
オンライン研修の場合、ノイズキャンセラー付きのインカムなどの準備も研修品質を維持するうえで大切になります。
また、Webカメラなどで見下ろすような角度にしないためには、パソコンの高さを調整する、もしくは外付けのWebカメラを使うなどの工夫が必要です。
③言葉と事例
研修内で使う言葉や事例を社内で使われる言葉、また、参加者が想像しやすい事例にすることも大切です。
また、複数職種などが参加している場合は、各職種に合わせた事例を順番に取り上げるなどの工夫をすると、参加者は自分事として話を聴きやすくなります。
研修後、現場に戻ってからの実践や応用もしやすくなるでしょう。
④アクティブラーニングの実践
アクティブラーニングとは、受講者が能動的に学習する形式のことです。
アクティブラーニングでは、講師の一方的な発信ではなく、以下のように講師と受講者、または、受講者と受講者の双方向コミュニケーションを取り入れることがポイントです。
<アクティブラーニングの例>
- ロールプレイング
- グループワークやディスカッション
- グループや全体への発表やレクチャー など
アクティブラーニングによる学習定着率の向上は、ラーニングピラミッドの図を通じて知っている方も多いでしょう。
ラーニングピラミッドは「学んだ内容を2週間後にどれだけ記憶しているか?」の割合を示した図です。
一方的に講義を受けるだけでは、僅か5%しか記憶できませんが、グループディスカッションなどであれば50%、自らが講師として他者に教える形では90%など、アクティブラーニングを行なうことで学習定着率の向上が期待できるわけです。
もちろん、ラーニングピラミッドのパーセンテージは、特定の実験下での数値ですので企業内の研修などにそのまま当てはめられるものではありません。
しかし、アクティブラーニングにすることで学習定着率は確実に向上すると考えられます。
⑤インタラクティブ性の導入
オンライン研修は、講師が、参加者の細かな目線や表情から理解度や集中度を確認しにくくなることもあり、特に一方的にレクチャーになりやすい傾向もあります。
一方で、オンライン研修は、対面研修よりも集中力を維持することが難しい傾向があります。
したがって、オンライン研修を実施する際は、以下のようなインタラクティブ性を意図的に多く取り入れることが非常に大切です。
<オンライン研修における細かなインタラクティブ性の例>
- 受講者を指名して質問をする
- ブレイクアウトルームで意見交換の場を設ける
- 「〇・×」のジェスチャーで反応してもらう
- チャットで一斉に回答してもらう
⑥適宜の場面転換や休憩
リアル研修の場合、受講者の集中力を保つための原則は「10‐20‐60」といわれます。
- 10分に1回は双方向性を入れる
- 20分に1回は進め方を変える(講義⇒グループワークなど)
- 60分に1回は休憩を入れる
オンライン研修の場合、上記をもう少し短くして、「5-15-40」ぐらいの目安で考えると良いといわれます。
⑦実務へのブリッジング
行動変容を促すには、研修内容を「自分の仕事ではどうか?職場で何を実践するか?」に落とし込むことが大切です。
たとえば、各セクションの切れ目などで、以下の問いかけやワークを取り入れることが有効です。
「どのような発見や気付きがあった?職場でどう生かせるか?」
「職場でどのような行動を実践しようと思うか?」
研修内で、職場で実行する実践行動の設定をすることも大切です。
研修は内製と外注、どちらが良いか?
社員研修は、自社での内製のほかに、研修会社に依頼する外注の形でも行なえます。内製と外注には、「どちらが良いか?」という絶対的な答えはありません。
それぞれのメリット・デメリットを把握したうえで、対象者・プログラム内容・予算などに応じて、組み合わせていくことが大切になります。
内製のメリット・デメリット
社員研修を内製するメリットとデメリットは、以下のとおりです。
- 費用がかからない
- 講師をするメンバーのレベルアップにつながる
- 自社の実情、価値観や慣習に合わせた内容で実施可能
- 講師が、参加者と業務をよく理解している
- 準備に多くの工数がかかる
- 講師をするメンバーの仕事に支障が出る可能性がある
- 外注よりも研修の質が劣る可能性がある
- 社内にないノウハウや知識は展開できない
外注のメリット・デメリット
社員教育を研修会社に外注するメリット・デメリットは以下のとおりです。
- プロ品質の研修が受けられる
- 第三者による納得感や説得力が期待できる
- 研修準備の工数を抑えられる
- 緊張感が生まれる
- 費用が発生する
- 独自の慣習や共通語がある場合、講師との調整が必要となる
- 社内の実情や実態とズレが生じる場合もある
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まとめ
今回は、効果的な研修の設計方法と進め方の基本を紹介しました。
【効果的な研修の設計方法(準備編)】
- 1.研修意図・背景の把握
- 2.研修のゴール設定
- 3.研修プログラムの設計
- 4.告知
- 5.資料の準備
- 6.研修の実施
- 7.アフターフォロー
- 8.研修結果の振り返り
【効果的な研修の進め方(実践編)】
- 1.研修の場づくり
- 2.姿勢と声への意識
- 3.言葉と事例
- 4.アクティブラーニングの実践
- 5.インタラクティブ性の導入
- 6.適宜の場面転換や休憩
- 7.実務へのブリッジング
社員研修は、対象者やプログラム内容、自社のリソースなどを確認したうえで、内製と外注を組み合わせていくのがおすすめです。
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