新人教育をタイプ別に行うことが必要な背景とタイプ別「新人の育成方法」

更新:2023/11/13

作成:2022/01/20

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

新人教育をタイプ別に行うことが必要な背景とタイプ別「新人の育成方法」

新人教育が順調に進むかどうかは、先輩や上司、OJT担当者の手腕によるところが大半です。「育成方法が上手い」「コミュニケーションが上手い」といったテクニカルな面もありますし、先輩や上司、OJT担当者がしっかりと新人を理解したうえで育成を考えているかが重要になります。

教育が上手くいっているケースの殆どは、意識的、無意識的に関わらず、先輩や上司、OJT担当者が新人の特徴をつかんで、教え方をアレンジして育成しているものです。記事では、新人をタイプ別に教育する必要性とタイプ別「育成方法のポイント」をお伝えします。

<目次>

タイプ別に新人を教育する必要がある理由を社会の変化から考える

「相手のタイプに応じて指導をアレンジしたほうがいい」というのは、人材育成やマネジメントに携わったことがある方であれば納得できる話かと思います。そして、最近では社会的背景も踏まえて、タイプ別に新人を教育する必要は強くなってきていると言えます。本章ではタイプ別教育の重要性が増している3つの社会的変化を確認しておきます。

社会の変化① 終身雇用の崩壊

高度経済成長期に作られてきた「終身雇用」の考え方は、平成や令和の時代に大きな変化を起こしています。今どきの新人や若手は「終身雇用」という考え方は殆ど持っていません。「会社が守ってくれる」という感覚もありませんし、「会社に居続ける」という意思も持っていないことが大半です。

極端に言えば、入社の時点から転職を視野に入れていますし、その分、愛社精神や帰属意識が少なくなっています。結果として、新人教育を受ける中でも「価値観と違う」「無駄に我慢させられる」「理不尽な指導や待遇を受けている」と感じると簡単に上司や会社に対する不満や不信を抱きますし、退職することもあります。

新人に迎合する必要があるわけではありませんが、就職や雇用に対する価値観が変わった中で、定着・育成をスムーズにいかせるために、個々の価値観に合わせて指導を実施する必要が高まっています。

 

社会の変化② ワークライフバランスの重視

ワークライフバランスとは本来、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活等においても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方を選択・実現できることを目指す社会」を実現することです。

ただ、実際には「仕事とプライベートを分けること」「プライベートの時間をしっかりと確保すること」「仕事のためにプライベートを犠牲にしないこと」といった感覚で使われることが大半です。ワークライフバランスを実現したいと考えている新人の多くは、仕事の時間は真面目に仕事をしますが、一方で、自分のプライベートの時間を仕事で犠牲にしたくはないと思っています。

ワークライフバランスを重視する新人が増えている中で、上記のように考えているタイプの新人に指導する場合と、一日でも早く成長するために努力は厭わないと考えている新人に指導する場合では教育や指導の仕方は変わってきます。新人の「仕事に対する位置づけ」という点でもタイプ別に教育をアレンジする必要があります。

社会の変化③ ハラスメントの概念

直近10~20年で、ビジネス社会において大きく価値観が変わったことの一つがハラスメントの概念です。ハラスメント、パワハラ(パワーハラスメント)という単語が浸透したきっかけはスポーツ選手による告発等でした。そのあたりから並行してビジネス社会における訴訟や内部告発も増加しています。

地位や権限等を通じて理不尽な指導や強制はもちろん撤廃されるべきです。一方で、パワハラという単語だけが独り歩きする側面もある中で、相手と合わない指導の仕方がパワハラと言われて指導しにくくなったり、パワハラと言われることが気になってしっかりと指導できなくなったりするケースもあります。

大事になってくるのは新人の考え方や価値観を知って、相手のタイプに合わせて指導することです。例えば、体育会系の人に少し厳しめでストレートな指導、「まずはやってみろ!」という教育は有効かもしれません。一方で論理性が高いタイプに「まずはやってみろ!」という指導は理不尽に映ることもあるでしょう。タイプや性格に合わせて相手が受け止めやすい指導をすることが大切です。

新人のタイプとタイプ別の教育方法

本章では、最近よく見られる指導が難しいとされる5つのタイプの新人とタイプ別の教育ポイントを紹介します。

タイプ① 受け身・指示待ちで積極性が感じられない新人

積極性が感じられない新人に、「積極的、主体的に仕事をしないとダメだ」と指導したところで基本的に変わりません。しかし、現場では上司が「積極性を出せ!」と指導してしまっているケースも多く、その指導が更に新人の積極性を奪っていることもあります。

このタイプに上司やOJT担当者の指導は「価値観の押し付け」にしか聞こえず、逆に反発を生む結果となります。「心理的リアクタンス」という言葉をご存じでしょうか。仮に提案自体が自分にとって良いものだったとしても「他人から言われると無意識的に反発したくなる」という心理を指す用語です。

子供の頃、親に「勉強しなさい!」と言われると、「今やろうと思っていたのに、やる気なくなった…」という気持ちが心理的リアクタンスです。最近の若者は価値観の多様性が認められた世界で育ってきたこともあり、とくに「価値観の押し付け」に対しては、心理的リアクタンスが働きやすくなっています。

では、どうすればよいでしょうか。ポイントは2つあります。1つは、積極性がない理由をなくす、もしくは減らすように働きかけること。もう1つは、承認して自信を持たせることです。

積極性がない理由はいろいろあります。最近の新人には真面目なタイプが多く、積極性がまったくないことはかなり稀です。そもそも仕事するうえで責任が生じていることは分かっていますので、やるべきことは最低限やるというタイプが多いです。

しかし、「最低限やる」だけで終わってしまうので、上司や先輩からすると物足りなさを感じるのです。大事なことは、ゴールや期待、意味を伝えることです。

まず、そもそも上司が指示する時に明確に目的やゴールを示さずに、作業内容だけを伝えていることもあります。きちんと達成してほしい仕事のゴールや水準をしっかり伝えることが大切です。

また、例えば「商品知識を増やしてほしい」とか「仕事の流れを覚えてほしい」など、なぜそうしてほしいかという点を相手への期待と絡めて伝えましょう。相手への期待は、身に付けるとどうなるかという相手にとっての意味やメリットとともに伝えると更に効果的です。

 

そして、もう1つ、承認して自信を持たせることもポイントです。そのためには、承認を行える状況を作ることが重要になります。例えば、何か仕事に関する発言をさせる、あるいは新人でもできる仕事をやらせることで、承認の機会は作りだせます。

承認することで新人の自信につながります。そこで「そのペースでやっていこう」とか「今のやり方でいけば成長するよ」などと声掛けすることで、自然と積極的に取り組める環境を作ってあげられるのです。こうすることで、最初は見られなかった積極性が徐々に見られるようになってきます。

タイプ② やる気抜群!でも、すぐに空回りする新人

タイプ②はタイプ①とは逆で、積極性があり、何でもとにかくやってみようとするタイプです。意欲はあるのですが、やりすぎてしまったり、やる必要がないことまでやってしまったりして空回りしてしまいます。

積極性はありますので、フットワークは軽くすぐに行動しようとしますが、その分、理解すること、確認することが苦手です。このタイプに「ちゃんと理解するように」とか「確認しながら行動しろ」と言っても苦手ですので、なかなか身に付きません。

タイプ②の教育で大事になってくるのは上司の「指示の出し方」です。ポイントは3つあり、1つ目は「指示は1つに絞る」、2つ目は「端的に伝える」、3つ目は「確認すべきポイントを明示する」です。

やる気抜群だけど空回りするタイプに多くのことを伝えると混乱します。従って、指示は1つ、多くても2つだけにします。また、このタイプは指示する時点であまり細々と情報を伝えず、できるだけ端的に伝えてください。

あまり多くの情報を入れて指示すると、空回りして、下手したら最初からやり直しなんていうことにもなりかねません。指示する内容を絞って端的に伝える、そして、「こうなったら必ず確認するように」と注意すべき点を明確に指示します。こうすることで、空回りは防げます。

タイプ③ 基本的にネガティブ思考。すぐに悪いほうに考える新人

自分に自信がないタイプの新人は、物事をネガティブに考える傾向があります。このタイプは、「こうなったら嫌だな」「でも、こうなるかも知れないな」と自分に防衛線を張っているケースが多いです。ネガティブに考えることで、上手くいかなかった時に自分がショックを受けないようにしているのです。

ネガティブなタイプは、「自分がネガティブである」ことを自覚しているケースが多いです。ですから、ネガティブに思考することをまず承認してあげましょう。ネガティブなことはダメでなわけではなく、「最悪のケースを想定する」という思考はいい面も多々あります。

相手のタイプや思考を認めてあげるアプローチを行いながら、「その状況に陥らないように、事前に対策するにはどうしたらいいか」「上手くいかないケースにどれだけのリスクがあるか」「上手くいかないケースを避けて成功するためにどうすれば良いか」と、もう一歩踏み込んで考える癖をつけさせましょう。新人の考えを否定することなく成長させることがポイントです。

タイプ④ 反発しないが、何を考えているのか分からない新人

最近多いのがタイプ④の新人です。反発することはありませんが、自分の意見もあまり言わず、「何を考えているか」がよく分からないタイプです。相手に合わせて教育しようにも、相手のことが分からないので、どうしたらいいのか迷います。

シンプルな対応ですが、発言しないタイプの新人には、「発言の機会を持たせる」ことが大事です。今までの3つのタイプとは違うアプローチで、相手に対してある程度の強制力を持って発言の機会を作ります。

もちろん発言させる時には、できるだけ答えやすい環境を作ってあげることが大事です。例えば、相手が言ったことを否定しない、発言したことを承認してあげるなど、発言することに肯定的になれる状況を作ります。発言しないタイプの新人は、様子を見ているだけです。「発言しても大丈夫なんだ」と思ったら、発言するようになっていきます。まずは発言する環境を作りましょう。

タイプ⑤ とにかく認めてほしい!承認欲求が強い新人

最後は、承認欲求が強いタイプです。昨今「承認欲求が強い新人が多い」と言われますが、なぜ今の若い人に承認欲求の強い人が多いのかご存じでしょうか。

「失われた20年」という言葉がありますが、景気があまり良くない中で思春期を過ごしたことで、今の若手は「欲しいものがあっても言ってはいけない」「贅沢をしてはダメ」「将来は明るくない」といった価値観を持っている傾向が強いです。その結果、「物欲はないけれども、せめて自分のことを認めてほしい」「今を楽しく過ごしたい」と思う人が増えているのです。

承認欲求が強いタイプを教育するには、シンプルに承認してあげることです。ただし、承認の対象を「全体結果」にすると承認が難しくなります。承認の対象を「全体結果」だけでなく、「部分結果」「進歩・成長」「プロセス」「気づき」「意欲や意思」といったところに広げていきましょう。

例えば、何か指摘する必要がある時は、どうしたらよいのでしょう。結論から言うと、これも承認のタイミングです。どうするかというと、上司や先輩が指摘したら新人は何かに気づくはずです。その時が承認のチャンスで、「よく気づいたね」とか「気づいたならこれからは大丈夫だね」と、肯定的に承認してあげるのです。承認の対象を広げることで、新人の承認欲求を満たしつつ、教育もしっかり行き届くようになります。

 

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おわりに

今回の記事では、タイプ別の教育方法をお伝えしました。時代背景が変わる中で、新人のタイプに合わせて教育することはますます重要になっています。記事では積極性が見られないタイプ、何を考えているか分からないタイプ、承認欲求が強いタイプなど、最近の“指導に困りがちな新人”に合わせた5つのタイプ別指導ポイントを紹介しました。

指導する側からすると、「こんなことまで考えなくてはいけないのか」と思う内容だったかもしれません。相手に合わせた教育は、最初はなかなか難しく手間に感じるかもしれません。しかし、タイプに合わせた教育こそが新人を効果的に育成するポイントです。

旧い会社ではOJTの指導が上手くいかない場合、「相性が悪い」「新人が悪い」と片付けられてしまうケースも多いです。しかし、実は相手に合わせた教育をしていないことが原因であるケースも多々あります。逆に言えば、相手に合わせた指導ができれば新人がスムーズに成長するケースは多いのです。新人を一日でも早く即戦力にするためには、相手のタイプを知り、タイプに合わせて教育することが大事です。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
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