新人教育はいつまで行うのが適切なのか?研修期間を決めるポイント

更新:2023/11/13

作成:2022/01/18

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

新人教育はいつまで行うのが適切なのか?研修期間を決めるポイント

毎年、4月になると新入社員が入社をしてきて研修期間が始まります。日本で新卒採用をしている多くの企業における典型的なパターンです。新人研修は、企業内の人材育成として実施される割合も非常に高く、長期間にもわたる研修です。

 

実際に、どれぐらいの期間で新人研修を実施している企業が多いのでしょうか。

 

記事では、新人教育はどれぐらいの期間でいつまで行うのが適切なのか、また、研修期間を決めるポイントについて紹介します。

<目次>

新人教育はいつまで行うのが適切か?

新人教育はいつまで行うのが適切かという議論について、本章では、平均的な期間と期間を考えるうえでのポイントについて紹介します。

 

新人教育を実施している企業の平均研修期間

入社1~3年目の若手社会人に、新入社員向けの研修期間がどれぐらいだったのかを調査したデータがあります。対象は、技術系会社員150人、事務系・その他会社員150人、計約300人です。

新社会人の研修期間
エンジニアのためのキャリア応援マガジンfabcross forエンジニア「新社会人・若手社会人の意識調査」

 

結果を見ると、およそ75%の企業は1週間以上の新人研修を実施していることが分かります。半年以上の新人研修を実施している企業も16.7%いるという回答結果になりました。

 

研修期間の全体平均は2.9か月、また、最も割合が多いのも1~3か月(22.9%)となっており、この辺りが平均的であることが分かります。

 

新人教育の研修期間から分かること

以下のグラフは、同じ調査における職種別の研修期間を表したデータです。

新社会人の研修期間(職業別)
(参考)エンジニアのためのキャリア応援マガジンfabcross forエンジニア「新社会人・若手社会人の意識調査」

 

全職種を合わせると新人の研修期間で最も割合が多いのは1~3か月(22.9%)でしたが、職種別グラフを見ると、事務系・その他の職種だと「2週間~1か月」20.1%で最多、技術系では「1~3か月」29.1%と最多になっています。全体で見ても技術系の方が若干長めの研修期間がなっているケースが多いことが分かります。

 

新人教育にどれぐらいの期間を必要とするのかは、職種や研修の目的・ゴールによって異なります。ただ、2週間~3か月程度がボリュームゾーンであり、多くの企業がその期間で研修を行っています。

 

なお、ジョブローテーションをさせながら、2週間ごとに各部署の業務を経験させ、その後本配属しているような企業もあります。各部署の業務内容を知ることで仕事全体の流れを理解してもらうことが狙いですが、こういった形での研修が入ると、その分研修期間は長めになってきます。

 

新人教育のゴール設定

新人教育を計画するとき、非常に大事になってくるのが「ゴール設定」です。ゴール設定によって、研修期間は長くも短くもなります。「最適な研修期間はどれぐらいか?」という議論は、「研修のゴール」がどこかによって左右されます。

 

しかし、多くの企業では、研修期間があらかじめ決められ、期間に応じて研修内容が決められ、その後ゴール設定がされています。

 

本来は、研修の目的に即してゴール設定を行い、そこから研修期間を決めることが効果的に研修を実施するポイントですが、新人研修の場合逆転してしまっているケースも多いのです。

 

新人教育のゴールは、一般的には「配属までに必要な知識、技術、考え方を身に付けること」です。このゴール設定で考えると、研修内容は

 

  • 1.組織に馴染む
  • 2.社会人としての基礎的な知識とマインド
  • 3.会社の事業に関する知識
  • 4.配属先で必要になる技術

といったものになるでしょう。そして、それぞれの内容でより具体的なゴールと習得に必要な期間が算出されて、研修期間が決定していくわけです。

 

上記は非常に簡易的な事例です。新人研修は「何となく内容も決まっており、ゴールも一定」と思われがちですが、新人研修をいつまで実施するかを考える際には、ぜひ自社における新人研修の目的とゴールに立ち返って検討することをおススメします。

新人教育の研修期間を決めるポイント

本章では、新人教育の研修期間を決めるポイントについて、もう少し具体的にどれぐらいの期間が必要になってくるのかを確認していきます。

 

新人教育は、「長すぎず、短すぎず」が良い理由

まず前提として新人教育の期間は「長すぎず、短すぎず」がおススメです。研修期間が長いと、ゆっくり着実に成長を支援することができる一方、「会社に来ても学ぶだけ」「学校と一緒」といった感覚が生まれ、ダレてしまったり、配属後に仕事をする際、研修時とのギャップが増えてしまったりします。

 

一方、研修期間が短すぎると、早期の戦力化を期待されていることを感じ取って貪欲に知識を吸収する場合もあります。しかし、育成が足りず現場で問題を起こしたり、組織に馴染まない状態で実務に入って能力を発揮できなかったり、プレッシャーでつぶれてしまったりする場合もあります。

 

具体的にどれぐらいの期間が良いのか、研修内容ごとに事例を使いながら下記でお伝えしていきます。

 

新人教育の研修内容と研修期間

まず、新人教育研修内で行う基本的な内容を確認しましょう。

 

1.社会人としての考え方
学生気分から脱却し、社会人としての考え方を身に付け、仕事に取り組む姿勢を作るための研修です。どちらかというとマインドよりの研修です。

 

2.社会人に必要なビジネスマナー
社会人生活を送るうえで最低限必要なマナーを学びます。あいさつ、名刺交換、電話応対、メールの書き方等、基礎的なことを学びます。

 

3.基礎的なビジネススキル
報連相、時間管理、コミュニケーション、課題解決力、ITスキル等、仕事をするうえで必要なスキルを学びます。後述する職種別スキルとは異なり、どの職種においても必要される基本的な実務スキルです。

 

4.自社の理解
企業理念、事業目的、価値観やビジョン等を伝え、自分の役割を認識させます。実は非常に大事な内容で、将来的な定着にも関わってきます。

 

5.組織への定着
専門用語では「組織社会化」と呼ばれるプロセスです。
各組織には固有の言語や文化があります。ビジネススキルや自社理解の内容と重複する部分もありますが、自社の組織構成、ミッションビジョンバリューや沿革、組織文化や暗黙知、社内用語、社内ルール、そして社員等を知ることで、新人は安心して仕事に臨み、持っている能力を発揮することができます。

 

6.職種別スキル
配属先があらかじめ決まっていたり、共通であったりする場合には、配属前に配属後に必要なスキルを学んでもらうことが多くなります。当然、職種によって学ぶ内容は異なります。

 

7.ジョブローテーション
新入社員をグループに分け、各部署をローテーションしていく研修です。組織社会化の一環として行われることもありますし、各部署の業務内容を知ることで配属先を検討する材料とされる意味もあります。

 

では、各内容の研修期間はどれぐらいが妥当でしょうか。

 

「1.社会人としての考え方」は、実は「2.社会人に必要なマナー」と一緒に行うことが可能です。2つを合わせて、2~3日が最適でしょう。マナーは研修期間の中で「身に付く」というよりは、「知識を伝えてできる状態にする」、そして、残りの研修期間と配属後で実地を伴いながら身に付けていくイメージです。

 

ですから、期間としては2~3日程度です。

 

「3.ビジネススキル」は、本来であれば、1週間ほどかけて行いたい内容です。スキルをただ単に伝えるだけではなく、自社で起こる可能性のあるケースに合わせて研修を実施すると、配属後に困ることも少なくなります。

 

時間に余裕があれば、1~2週間かけて実施したい内容です。

 

「4.自社の理解」は、1日または2日程度で大丈夫です。2日かけて行う場合には、自社という大きな括りだけではなく、各部署の理解まで含めるとよいでしょう。

 

自社理解は内容も大事ですが、誰が伝えるかも大事です。企業理念や事業目的等は、経営陣が伝えるケースが多いです。また、部署の理解を深める内容は、部署の責任者や部署で活躍している人が行うとよいでしょう。

 

「5.組織への定着」は、単独で実施するというよりは、研修期間内でたびたび時間を設けながら知識を教えていったり、社員との接点を作っていったりするイメージです。

 

新人から社員へのインタビュー等を実施して発表するような能動的なプログラムにすることもおススメです。実施時間としては合計2~3日というイメージです。

 

「6.職種別スキル」は、企業や職種によって大きく異なりますので、これが適切と言う期間設定はありません。配属後にすべて教えるという場合はゼロという場合もあるでしょうし、エンジニアなどの場合は2~3か月になることもあります。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、新人の多くは営業職等のコミュニケーション系の職種に配属されます。従って、職種別スキルの一種として配属前に共通で営業研修を実施しており、期間は1か月程度です。

 

「7.ジョブローテーション」を実施する場合は1部署に2週間程度が妥当です。部署の仕事を多少なりとも実務に携わって知るうえでは、1週間では短すぎますし、2週間以上行うと長すぎます。

 

合計すると、やはり初期研修で2週間程度、これに加えて、職種別スキルとジョブローテーションの期間と言うことになります。

 

研修期間を決めるポイント

最後に研修期間を決める最大のポイントをお伝えします。適切な研修期間を決めるうえでは、一番重要なのは「研修終了時の状態を設定すること」です。研修終了時に現場のOJT担当者がスムーズにOJTに移行できる状態になっているのが理想です。

 

そのために必要な知識やスキル等について現場の人と話し合い、共通認識を持っておくことをおススメします。また、OJT担当者の育成も含めて考えた場合には、部署の責任者にも話を聞いておくとよいでしょう。

 

責任者とOJT担当者の意見に相違がある場合には、すり合わせをしてもらうように促しましょう。

 

なお、配属を受け入れる部門からの要望は「さまざまな基礎が身に付いて実践できる状態」ということになりがちです。ただ、「身に付く」ところまでを研修期間で実施するためには、それなりの実践期間が必要です。

 

求めるものが増えすぎれば研修期間はどんどん長くなってしまいます。

 

「身に付いているもの」「意識すればできるもの」「知識として知っているレベル」と言った形で知識やスキル、姿勢について、いくつかの段階に分けて終了時の状態を設定しましょう。

 

現場とすり合わせたら、ゴールとも合わせて、前ブロックで紹介した研修内容や標準的な期間との兼ね合いで期間を設定していきましょう。

 

なお、新人研修のプログラム決定後は、研修期間とともに、目的、ゴール、内容を現場に共有しておくことが大切です。

おわりに

新人研修の期間はどれぐらいが適切なのか。調査によれば、平均的な数字は2.9か月。職種別に見ると、事務系だと2週間~1か月、技術系だと1~3か月がボリュームゾーンになっています。

 

ただし、最適な研修期間が決まっているわけではなく、自社の採用職種や研修修了時に望む姿を踏まえて適切な期間を定めることが大切です。

 

研修期間は「ギャップが生じないように短すぎず、またダレないように長すぎず」が基本です。新人研修はいつまでという期間を“何となく”決めてしまいがち、また前年踏襲で期間が決まりがちです。

 

自社の新人研修で求めるゴールと教える内容ごとの標準的な期間と掛け合わせて、ぜひこの機会に新人教育の期間を検討することをおススメします。

 

コロナ禍の影響で新人研修のやり方が変わったという企業も多くありますし、この10年ほどで生じてきた新人の価値観変化がコロナ禍によるオンライン化で色濃く出てきた部分もあります。自社に最適な新人教育期間を検討して、新人教育の効果性を高めてください。

 

若手社員の行動変容につながる研修に関心がある方は、以下のページから資料をダウンロードしてみてください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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