ほぼすべてのビジネスシーンでコミュニケーションは不可欠です。顧客や社内とのコミュニケーションを円滑にできるかで、仕事の成果が変わってくることは言うまでもありません。
しかし、多くの企業でコミュニケーション研修を実施してきた中で、「コミュニケーションについて教育・研修を受けたことがあるか?」と質問をすると、手を挙げるのは数十人の参加者がいて0人~1人です。多くの組織、大半のビジネスマンがコミュニケーションを重要だと思っていても、なかなか学ばせていない、学んでいないのです。
コミュニケーションに「型」がありますので、「間違った型」を身に付けてしまうと、「正しい型」を覚えるのは大変です。記事では、コミュニケーション力のトレーニングをするのに最適、かつ必要なタイミングである2年目社員について、求められるコミュニケーション力とビジネスの現場で使えるコミュニケーション力を高める3つの方法を解説します。
<目次>
2年目社員に求められるコミュニケーション力
入社2年目で求められるコミュニケーション力とはどんなものでしょうか。一般的に、1年目はビジネスマナーや仕事の基礎を覚えるのに必死だった新入社員は、2年目になると仕事の成果や結果を求められることが増えてきます。一方で、2年目と言うと、まだ能力的には不足することも多く、周囲の協力を得ながら仕事することが多いでしょう。
つまり、2年目社員に求められるコミュニケーション力とは、「まだ能力不足な中で、周囲の協力を得ながら、仕事の成果を上げる」ための力です。具体的には「伝える力」「主体的な報連相」「気配りする力」です。以下で、1つずつ解説します。
2年目社員に求められるコミュニケーション力1:伝える力
コミュニケーションの基本が「聴く」ことであると多くのサイトや本に書かれています。もちろん間違ってはいません。しかし、1年目は「聴く」ことが多かった中で、2年目で新たに必要とされるのは、「伝える力」です。
2年目になると、仕事で意見を求められたり、お客様先に1人で訪問して説明したりする機会も多くなります。この時、「伝え方」で相手の捉え方は大きく変わります。「伝え方」次第で、評価されたり信頼されたりすることもあれば、クレームに繋がってしまったりすることもあります。
状況に応じて、適切に自分の意見や意思を「伝える力」は、とくに2年目で身に付けるべきスキルです。伝える意志、伝え方、伝えるタイミングなど、ビジネスシーンに合わせて「伝える」力を使えることが、仕事で成果を上げるために必要となります。
2年目社員に求められるコミュニケーション力2:主体的な報連相
社内のコミュニケーションにおいて、報連相が重要であることは言うまでもありません。とくにまだ能力不足であることも多い2年目社員が成果を上げるためには報連相が不可欠です。その中でも、とくに2年目社員には「主体的な報連相」を身に付けさせることが大切です。
自分1人で仕事をする機会が増えます。当然、自ら考えて仕事を動かすことも増えてきます。上司も「ある程度は分かっている」認識で、いちいち報連相を求めることは少なくなります。
その中で、報連相をおろそかにしてしまう2年目社員が増えるのです。「報告しろとも言われてないし…」「自分なりに考えてやってみようと思うから…」「自分で考えてみろと言われたからいいだろう」と勘違いしてしまう人も少なからずいます。
2年目社員の報連相は、1年目とはスタイルも変わってきます。1年目は、区切られた仕事に対して、単純に完了報告をする、やり方を質問するような報連相が多いでしょう。
しかし、2年目は、仕事自体はある程度まとめて渡されることになります。例えば、営業であれば、自分でアポイント獲得して、単独で訪問して、顧客の要望に応じて提案書や見積もりを作って、受注後のプロセスを進めて…といった一連のプロセスを丸ごと任されることも多いでしょう。その中で、“上司が知りたいであろうタイミングや内容”を主体的に考えて報告する必要があります。
また、相談の重要性が増してくるのも2年目の特徴です。営業であれば、商談の前後で「こういう顧客でこういう状況らしいので、こういう仮説でヒアリングと提案を考えていますがどうでしょう?」「訪問した結果、こういうニーズと条件、競合で、次はこう進めようと思っていますが、アドバイスをいただけますか」といった相談が主体的にできるメンバーとできないメンバーでは、成果に大きく差がついてきます。
2年目で「あの仕事どうなっている?」とか、「あの顧客はどういう状況だった」と上司に言われることがない、主体的な報連相の習慣を身に付けると、3年目以降も上司から安心して仕事を任され、成果を上げることができるでしょう。「報連相」自体は、1年目の研修で教えている内容だと思いますが、2年目に改めて、「主体的な報連相」「2年目に求められる報連相」について、しっかりと身に付けさせることが大切です。
2年目社員に求められるコミュニケーション力3:「気配りする力」
コミュニケーション力の中に「気配りする力」が入ると、意外に思われる人もがいるかも知れません。しかし。コミュニケーションができないと言われる人の多くは、「気配りする力」が足りていないケースが多く、「気配りする力」を鍛えることは、コミュニケーション力を向上させるうえで大切なのです。
例えば、「相手が今どういう状況にあるのか」を考えずに自分の都合で話しかけてしまったり、「相手がどういう情報を欲しているか」を考えないままに自分が思いつくことを喋ったりといったやり取りを想像すると、コミュニケーション力の中で「気配りする力」が重要であることがイメージしやすいでしょう。
企業からコミュニケーション研修を依頼された際、担当の方に「コミュニケーションができないと課題に感じるのはどういう点ですか?」と尋ねると、「こっちのタイミングを考えないで話しかけにくるんだよ…」とか「相手目線でコミュニケーションができていないんだよね」という答えが返ってくることもよくあります。
2年目になると、ある程度のまとまった塊で仕事を任せられて、顧客やパートナーとのやり取りも増えてきます。その中で、「聴く」ことをもう一歩先に進めた「気配りする力」、相手が何に興味関心があるか、相手が話を聞ける状況かなど、相手の目線・立場にたった気配りの観点が大切になってきます。
2年目社員にビジネスの現場で活かせるコミュニケーション力を身に付けさせる方法
多くの会社では、「入社3年で1人前」になることが期待されます。その点において、仕事の基礎を覚える1年目、そして、周囲の力を借りながら成果の上げ方を覚えるのが2年目です。2年目に必要な力を身に付けられず、変な癖をつけてしまうと、3年目で1人前になることから遠ざかり、また、3年目以降の成長もしづらくなります。
この章では、前章で紹介した2年目で求められるコミュニケーション力をどのように身に付けさせていけば良いのかを解説します。
ビジネス現場で活かせるコミュニケーション力の指導方法1:「アンサーファースト」の徹底
コミュニケーションが上手な人は、結論と全体像から伝えます。最初に結論と全体像を伝えることで、相手に聞く準備ができ、こちらが話したことが伝わりやすくなります。
アンサーファースト(まず結論から伝える)は、新入社員の教育でも教えられていることが多いでしょう。しかし、「なかなか言いたいことが伝わらないな…」という人は、“結論と全体像が伝える”ということを知っていても、実践できていないことが多いです。
また、2年目は多少まとまった仕事に対する報連相が増えてきます。その点でも1年目よりもアンサーファーストで伝えることの難易度が少し上がります。結果として、1年目はアンサーファーストを実践できていた人も、2年目では崩れてしまう人も出てきます。
改めて、アンサーファーストの伝え方を徹底することで、結論や伝える順番を考えてから話すようになったり、相手に何を伝えるべきかを整理する思考力も上がったりしますのでお勧めです。
ビジネス現場で活かせるコミュニケーション力を指導方法2:アウトプットとフィードバック
前章で紹介した「伝える力」や「気配りする力」を鍛えるうえでも、アンサーファーストを徹底するうえでも、有効な指導方法がアウトプットとフィードバックです。当たり前のことですが、コミュニケーション力は練習しなければ向上しません。だからこそ、アウトプットの機会を沢山作って、フィードバックを繰り返すことで「練習」することが大切です。
例えば、次のようなシーンを想定してください。「課長と一緒に出席する予定だった重要な会議に、課長が突然別の用事で参加できなくなりました。会議の後に課長から『明日でいいから会議の内容をかいつまんで説明してくれ』と言われました。」 このように、上司に報告や説明を求められる機会があると、どのようなアウトプットをすれば良いかを考えて、アウトプットする良い機会になります。
上の事例以外にも、さまざまなタイミングでアウトプットの機会を設けることで、考えてから話すことが習慣になります。朝礼で必ず毎回一言話をさせる、日経新聞の記事や社説を読んで意見を述べてもらう、営業同行の際に本人に途中までは話をさせるなど、アウトプットさせる機会を多くとることで、コミュニケーション力は向上します。
ポイントは、「事前に準備する時間がある」こと、また「フィードバックをすること」です。とくに慣れないうちは即興でアウトプットだけさせても、なかなか上達しません。相手が求めている内容、アンサーファースト、伝えるべき全体像などを、準備する時間を設けると良いでしょう。
また、成長に向けたフィードバックを行うことも大切です。「Good(良かったこと)」と「More(ここを直すともっと良くなる)」を、2:1~3:1の割合でフィードバックすることが、モチベーションUPと成長に繋がります。
ビジネス現場で活かせるコミュニケーション力の指導方法3:動画を見る
世の中には「話すプロ」が沢山います。落語家、漫才師、アナウンサー、バラエティー番組の司会、Youtuberなどです。最近は、Youtubeなどを使えば、これら「話すプロ」の話法をいくらでも見ることができます。
コミュニケーションに秀でた人の動画を見てもらい、声の出し方、間の取り方、伝え方の工夫、聞き手とのコミュニケーションなど、何が上手なのか、あるいはどんな伝わり方の工夫をしているのかを考えさせましょう。また、動画を見て気づいたポイントを、自分のコミュニケーションと重ね合わせて、どこを改善するかを考えさせることも有効です。
昔のトップセールスマンや司会などは、「落語を見てコミュニケーションを研究していた」という人が多数いました。今はネット上の動画で「話すプロ」の実技をいくらでも見ることができる環境がありますので、最大限に活かすと良いでしょう。
コミュニケーション力の指導で大切なこと
ビジネスの現場とは、ひとつひとつがスポーツで言う「試合」のようなものです。そう考えると、極端に言えば、コミュニケーションの勉強や練習をさせないで成果を求める、というのは、トレーニングをさせないまま試合に臨ませて「勝ってこい!」というようなものです。
もちろん、緊張感ある試合の場数を踏む中で身に付くものもあるでしょう。しかし、スポーツで実績を残している人は必ず、地道な練習を繰り返して調整したうえで、試合に挑んでいます。ビジネスにおけるコミュニケーションも同じです。やはり地道な練習;アウトプットとフィードバックを繰り返して、鍛えることが必要です。
スポーツと違って、コミュニケーションは「生まれた時からやっている」からこそ、大切だと思いながらもトレーニングしない/させない傾向があります。ビジネスにおいて、コミュニケーション力が重要であることに異を唱える方は少ないでしょう。であれば、やはり研修や現場を通じて、「コミュニケーション力を鍛える」ことが大切なのです。
なお、コミュニケーション研修を実施する際は、ロールプレイを行うケースが多いですが、それ以外にも、ゲームの演習を通して学ぶものや、自分のコミュニケーションスタイルを診断して、課題や長所を明らかにしたりするものなどがあります。コミュニケーション力は普遍的なテーマであるからこそ、いろいろな観点でコミュニケーションを学ぶことで、コミュニケーション力を高めることが可能になるでしょう。
終わりに
コミュニケーション力はビジネスで成果を上げるための基本となるものです。とくに2年目社員は「まだ能力不足な中で、周囲の協力を得ながら、仕事の成果を上げる」ためのコミュニケーション力、具体的には「伝える力」「主体的な報連相」「気配りする力」を鍛えることが必要です。
上記3つの力とコミュニケーションの基本となる型「アンサーファーストの徹底」を、アウトプットとフィードバックの繰り返しで鍛えていくことが、コミュニケーション力を向上させるポイントです。今は「話すプロ」の動画を通じて、インプットはしやすい環境です。
スポーツの能力向上と同じように、コミュニケーション力を鍛えるためには「練習」が必要です。本記事が2年目社員のコミュニケーション力を鍛え、3年目には「独りで成果を上げられる」1人前の社員へと成長できるように指導する参考になれば幸いです。