新卒の定着率、規模・業界別の標準と離職防止のポイントを解説

更新:2023/07/28

作成:2022/06/16

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

新卒の定着率、規模・業界別の標準 離職防止のポイントを解説

新卒の離職率は一般的に「3年3割」といわれ、入社3年後の定着率は7割程度になります。新卒が定着しない場合、以下のようにさまざまな弊害が出てきます。

 

  • 採用・教育コストが無駄になる
  • 社内の士気をくじく
  • 管理職・幹部候補が育成できなくなる など

 

したがって、企業では、採用した新卒を定着させる工夫が欠かせません。本記事では、「3年3割」とひとくくりに捉えられがちな新卒の定着率を企業規模別や業界別に紹介、また、離職を防止して定着させるためのポイントも解説します。

<目次>

規模・業界・学歴別の標準的な「定着率」とは?

新卒の離職率は一般的に「3年3割」といわれます。しかし、実際は、企業の規模、業界、学歴などに応じて大きく違います。

 

厚生労働省が2021年10月に発表した新規学卒就職者の離職状況によれば、令和2年度における新卒の3年以内離職率は以下のとおりであることがわかっています。

 

<学歴別の新卒3年以内離職率>

  • 新規中卒就職者で約6割(55.5%)
  • 新規高卒就職者で約4割(36.9%)
  • 新規大卒就職者で約3割(31.2%)

過去には、新卒の定着率は「7-5-3」と呼ばれ、大卒7割(離職率3割)、高卒5割(離職率5割)、中卒3割(離職率7割)という時代もありましたので、そのころと比べると、中卒・高卒の定着率は時代と共に改善しています。しかし、まだ、学歴別に見ると、大卒の定着率が最も高い状態です。

 

新卒の離職率は、企業の規模別でも大きく異なり、企業の規模が小さくなればなるほど、増加する傾向にあります。

<事業所規模別の新卒3年以内離職率>

事業所規模別の新卒3年以内離職率

出典:新規学卒就職者の離職状況を公表します

 

また、業種別では、以下のように飲食・宿泊・教育・医療・福祉・小売の離職率が特に高くなっています。

<業種別に見て新卒3年以内離職率が高い業種>

業種別に見て新卒3年以内離職率が高い業種

出典:新規学卒就職者の離職状況を公表します

中小企業における「定着率」改善の重要性

22卒から大卒新卒の少子化が始まったことなどから、中長期的には中小企業における大卒の新卒採用はどんどん難易度が高まっていく時代になっています。

 

事業所規模別の離職率を見てのとおり、中小企業のほうが採用後の定着もしにくい状況であり、さらに人の採りづらさも高まっていく状態ということで、中小企業における離職防止・定着率UPに向けた取り組みは不可欠といえます。

新卒の離職が多いことで起こる問題

悩むビジネスマン

 

新卒の離職が多い企業は、以下の問題が起こりやすくなります。

 

採用・教育コストの増加

企業は、新卒を採用してから一人前に育てるまでに、以下のように多くのコストを負担しています。
 

  • 求人サイト等の利用費用
  • 説明会や面接にかかる人件費
  • 入社後の研修費用、またOJTを担当する社員等の人件費
  • 入社後の人件費
  • 社会保険料など、雇用に伴う費用
  • 購入した備品や各種ツール等のアカウント費用

など

 

したがって、新卒に数年で離職されてしまった場合、採用や入社後にかかったコストはすべて無駄になります。また、退職の補充で新たな人材を雇えば、さらに採用・教育コストが嵩み、収益を圧迫するでしょう。

既存社員のモチベーション低下

選考で関わった人事や教育担当の社員からすれば、新卒に辞められる状況は確実にモチベーションを落とします。人事や教育担当者のモチベーションが低下すれば、人材採用や教育の質にも支障が出る可能性もあります。

 

また、他の社員も新卒がすぐに辞めるという状況に対して感情的な動揺を起こしがちです。直接的な動揺もありますし、「わが社には何か問題があるのでは?」「働く環境が他の企業より魅力的でないのかも?」とも感じて、さらに士気が落ちやすくなるでしょう。

 

ノウハウ継承の阻害

新卒が定着しなければ、自社で積み上げてきたノウハウやスキル、知識が若い層に継承されなくなります。ノウハウ継承の問題は、すぐ大きな問題になることはありませんが、長期的に見れば、ノウハウが積み上がらなくなることが業績の低迷を招くのは明らかでしょう。

幹部候補の不足

新卒採用の目的には、将来の管理職・幹部候補の確保があります。新卒が定着しなければ、将来の管理職・幹部候補となる人材が社内に生まれづらくなるでしょう。

 

新卒は同期とのライバル関係によって成長する部分もあり、成長、人材育成という側面でも同期の退職は中長期的な育成にとってネガティブな影響を与えます。

企業イメージの悪化による採用難

この数年、政府の方針により求人を出す際に退職状況の開示が求められることが増えています。

 

  • ハローワークへの求人出稿
  • 大学への求人
  • 主要な新卒ナビサイト

など

 

離職率の高い企業は、「この企業は何か問題があって、人が辞めるのでは?」「働く環境がブラックなのかも?」と疑われ、学生や求職者から避けられやすくなります。

 

また、最近では、新卒採用でいえば、学生の約半数が口コミサイトで応募先の口コミを見るようになっています。退職者によるネガティブな口コミが書かれた場合、以下のような問題が増加するでしょう。

 

  • 応募の減少
  • 説明会出席率の低下
  • 選考中や内定後辞退の増加

など

 

新卒が定着しない状況が続くと、結果として、採用難易度もどんどん上がってしまうのです。

新卒が定着しない原因と対策とは?

若手社員のイメージ

 

新卒が定着しない企業には、どのような原因があるのでしょうか。本章では、新卒の定着を妨げる最大の要因と自社で実践できる対策を紹介します。

 

根本的な原因は入社前後の「ギャップ」

新卒の退職理由に書かれる内容は、以下のようにさまざまです。

 

  • 給料が不満
  • 労働環境が悪い
  • 上司が嫌い
  • 仕事がつまらない など

 

しかし、最も大きな要因は、入社前と入社後のギャップです。入社前と入社後のギャップが引き起こす動揺やモチベーション低下は「リアリティショック」と呼ばれます。リアリティショックは、期待を抱いて入社したものの、期待値と企業の実態に乖離がありすぎて、「こんなはずでは……」という感情が生じている状態です。

 

上記のような給与、労働環境、マネジメント、仕事内容への不満なども、すべてリアリティショックであるともいえます。

 

多くの企業は、新卒採用において学生に辞退されたくないと考えます。ゆえに、選考過程で自社の良い点しか伝えない、また、そもそもの情報提供量が不足することによって、入社後の大きなリアリティショックが生まれやすくなっています。

リアリティショックを防ぐ方法①「採用時の情報提供」

リアリティショックを減らすためには、採用時にうまい話やきれいごとだけでなく、現実的な情報提供をすることが大切です。

 

現実的な情報提供は、リアリスティックジョブプレビュー(RJP)と呼ばれます。日本語に訳せば、「現実的な仕事情報の事前開示」ということです。

 

リアリスティックジョブプレビューでは、ネガティブな情報もきちんと伝えることにはなりますが、たいていの場合、企業側が懸念しているような悪い影響はありません。むしろ、企業の誠実さやオープンさをアピールできる手法となります。

 

引用:【徹底解説】採用の新常識「RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)」とは何か?【事例9選】

リアリスティックジョブプレビューでは、選考プロセスにおける情報提供の徹底と、入社後の人間関係などを想起させることが重要です。

 

具体的には、入社後の姿が想像できるリアルな情報提供が重要であり、プロっぽさや凝った演出などは必要ありません。面接での開示や簡素なテキストコンテンツ(ブログ記事など)、シンプルな動画などでよいでしょう。

 

なお、リアリスティックジョブプレビューを行なうときにも、待遇面(給与や福利厚生、休日など)のギャップがないことが大前提になります。

 

求人票に記載された待遇と実際に提示する待遇(労働契約書に記載される条件)が異なっても、それ自体は厳密には違法ではありません。

 

しかし、待遇面のギャップが大きければ、学生からの印象は確実に悪くなりますし、もちろん、入社後の待遇が労働契約と異なることは法的にも完全にNGです。

ギャップを防ぐ方法②「受け入れ態勢の整備」

新卒の場合、職業経験がありませんので、企業側がいくらリアリスティックジョブプレビューを行なっても、甘い考えをしていたり、想像できなかったりすることが多くあるのは防げません。

 

したがって、リアリティショックを吸収して、定着率を高めるには入社後の受け入れ態勢も大切です。入社後の受け入れは、オンボーディングと呼ばれる手法を活用しましょう。

 

オンボーディングでは、単にビジネスマナーや業務スキルの教育だけでなく、組織社会化と呼ばれる組織に馴染むプロセスをしっかりと設計することが大切になります。

人材育成やキャリア面談などの重要性

現在までの数十年で転職は非常に一般的なものとなり、フリーランスなどの働き方も増えるようになりました。

 

時代変化のなかで、新卒の多くは、「入社時点から転職を選択肢に入れている」といっても過言ではありません。「今の企業で一生働く」と思っている新卒はほぼいないと考えてよいでしょう。

 

また、インターネットが発達したことによって、「隣の芝は青く見える」現象が強化されています。たとえ、転職をさほど意識していなくても、SNSやインターネットを通じて、“隣の青い芝”が目に飛び込んでくるようになっています。

 

新卒自身の価値観も、「企業が自分を守ってくれる」とはまったく思っておらず、自己成長やキャリア形成などに非常に敏感となっており、「良い機会があれば転職しよう」と普通に考えているのも近年の傾向です。

 

こうした新卒の傾向を見ると、企業は入社前後のギャップ改善に加えて、求職者に対して入社後に関する以下の感覚を与えることが重要となります。

 

  • 仕事を通じて成長している実感
  • 企業が自分の成長を支援してくれている
  • 今の企業で先々のキャリアを形成できる、待遇が向上していく

成長などの感覚を新卒に与えるためには、研修機会や振り返りなどによる人材育成、また上司や人事、経営層によるキャリア面談などを実施することが大切でしょう。

 

もちろん、大前提として、「良い会社づくり」や「待遇を向上できる生産性」を目指すことも必要です。

定着する人材を見極める面接スキルの向上も大切

採用段階で、定着しやすい学生(自社の価値観や社風、求める資質とフィットする学生)を見極めて採用することも大切です。

 

採用で大切なことは、「優秀か優秀ではないか?」だけではなく、「自社にフィットするか?」という視点です。具体的には社風と価値観の一致度であり、カルチャーフィットと呼ばれる考え方です。

 

したがって、自社に定着する新卒を採用するには、まず、自社の社風や価値観、仕事で必要な特性を客観的にとらえて採用基準を作ることが大切です。

たとえば、一般的に採用において「主体性」は高ければ高いほど良いと思われがちですが、トップダウンの社風になっている組織が主体性の高すぎる新卒を採用すると、ミスマッチで早期退職する可能性は高いでしょう。

 

このように、自社にフィットして定着する新卒を採用するには、一般的な能力基準を流用するのではなく、自社の社風と学生の価値観の一致度を考えることが大切です。

 

なお、学生の価値観は面接だけで確認することは難しく、適性検査などのアセスメントツールを活用することがおすすめです。

まとめ

新卒の離職率は、一般的に「3年3割」といわれます。しかし、実際には、業種や学歴、規模によってかなり異なります。特に、業界などを問わず、企業規模が小さくなればなるほど離職率は上がっていきます。したがって、特に中小企業の場合、「新卒をいかに定着させるか?」が重要な経営課題です。

 

新卒の定着には、リアリティショックを解消するための取り組み(リアリスティックジョブプレビューの実施やオンボーディングの整備)がポイントです。同時に、成長実感やキャリア展望を描いてもらうための人材育成(人財育成)や面談、待遇の向上も重要です。

 

また、採用時においては、能力だけで合否を判断するのではなく、自社の価値観や社風にフィットした定着しやすい学生を採用することも大切です。カルチャーフィットの視点を実践するには、適性検査の利用も有効です。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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