人材育成の方法とは?企業の人材育成の主な方法と階層別の育成ポイントを解説

人材育成の方法とは?企業の人材育成の主な方法と階層別の育成ポイントを解説

社員の人材育成は、会社が将来的に発展・成長するうえで欠かすことのできない取り組みです。外部環境の変化が激しくなり、また事業のサービス化が進む、知識労働が広がるに連れて、人材育成の重要性はますます増しています。

 

ほとんどの企業では何かしらの形で人材育成に取り組んでいますが、効果的な人材育成の方法は、目的や課題に応じて企業ごとに異なります。

 

当記事は、企業の人材育成をテーマに、人材育成の主な手法や考え方のポイントを紹介します。

<目次>

人材育成とは

最初に、企業における人材育成の概要と目的について確認しておきます。

 

企業における人材育成とは?

企業における人材育成は、「会社の経営戦略の実現に貢献できる人材を育てること」を意味します。組織の人材育成では、社員が中長期的に在籍し、将来的には事業の中核を担う戦力へと育っていくことが理想です。

 

社員のスキルや能力が底上げされれば、さらなる業績向上につながります。また社員にとっても、自己成長を実現し、やりがいのある仕事に取り組めるようになれば、モチベーションやエンゲージメントの向上が期待できます。

 

人材育成の目的

企業の人材育成には大きく3つの目的があります。

 

1つ目は、生産性の向上です。社員の能力を向上させることで今までの業務の質やスピードが上がり、生産性が向上します。業務を効率化させることで、企業はより付加価値の高い事業活動に集中することができるようになります。

 

2つ目は、会社の将来を担うリーダーの育成です。事業を成長させるためには、強い連携の取れたチームが欠かせません。チームがパフォーマンスを発揮できるかどうかは、リーダーの能力に大きく影響されます。リーダーに求められるスキルや能力は、業務で経験を積む中で身に付く部分も多々あります。

 

しかし、組織として計画的にリーダーを育成することで、事業展開に必要なリーダーをより早く効率的に確保することが出来ます。

 

3つ目は、優秀人材の流出防止と定着率の向上です。現在はどこの職場でも人材不足が深刻化し、スキル・経験を持つ人材の獲得は困難を極めています。また、雇用が流動化する中で、成長機会が十分でないと本人が感じれば「この企業に属する必要があるのか」と考え、退職してしまうケースも増えています。

 

社員の退職は、蓄積したノウハウの流出、新たな人材採用に割くコストの増加、一から育成をする必要が生じるなど、企業経営に大きな痛手となります。人材育成の一環として成長機会の提供やモチベーション向上の取り組みを行なうことは、離職防止の観点でも重要な役割を持っています。

人材育成の主な方法7選

本章では、企業で多く用いられている代表的な人材育成の方法を7つ紹介します。

 

Off-JT(Off the Job Training)

Off-JTは、現場業務と切り離して行なう育成方法です。Off-JTは、集合研修やセミナーなどの形式で行なうのが一般的です。

 

Off-JTのメリットは大きく以下の3つです。

 

一つ目は、知識や理論を体系的に学べる点、二つ目は一度に複数人を教育できる点です。そして三つ目は、社内での関係性を構築できる点です。同じ研修を受講することで今まで知らなかったその人の特徴や、議論を通じて考え方を理解することができ、お互いの関係性を強化することができます。

 

逆にデメリットとしては、受講者が業務から離れるため、その間は担当業務が一時的にストップしてしまうこと、また、実務とのブリッジングや実践をきちんと設計しないと単なる知識のインプットで終わってしまって効果が薄くなる点です。

 

OJT(On the Job Training)

OJTは、現場での実践を通して業務知識や能力を身に付けることを目的とした人材育成の方法です。OJTのメリットは、現場の実務の中で、実践的なスキルや経験を積めることです。実際の業務では、想定外の事態も生じることがあります。マニュアル等には書かれていない現場に即したノウハウを体得できるのもOJTのメリットといえます。

 

逆にデメリットとしては、OJT担当者の知識や力量で教育の質が左右されやすい、知識が断片的・具体的になるため応用が利きづらいこと等です。

 

OJTとOff-JTのより詳細なメリットとデメリット、また組み合わせや実践のポイントを、以下の関連記事で解説しています。

 

OJD(On the Job Development)

OJDはOn the Job Developmentの略で、職場の人材育成の方法の一つです。OJDは、現場での実践を通して業務知識や能力を身に付けるという点では、先ほど紹介したOJTと共通しています。

 

ただし、OJTが新人や異動者等を対象に当面の職務遂行に必要な技術を習得することに主眼を置いているのに対して、OJDは社員が将来求められる能力、特にマネジメントや経営能力の開発を目的としている点が、両者の大きな違いです。つまり、OJDはOJTよりも長い時間軸で、「現場経験を通じて社員のキャリア開発を支援する」人材育成の考え方です。

 

OJDが注目を浴びるようになった背景には、若手社員の早期離職を課題とする企業等が増えていることがあります。OJDを通じて、マネジメントや次のステージを意識させる配置等を計画的に行っていくことで若手社員の能力向上を後押しすると共に、成長機会や将来的なビジョンを描けるようにすることで会社に対する愛着やロイヤリティの向上、定着率UPに繋げるという狙いがあります。

 

自己啓発(Self Development)

自己啓発は、自分の仕事に役立てるために、社員が自発的に行なう学習をいいます。自己啓発には、書籍や勉強会での学びの他、資格取得への挑戦などが挙げられます。

 

自己啓発は個人がプライベートで取り組む活動であり、受講費用などが実施のハードルになります。そこで、検定代や書籍購入費を補助するなど、社員の自己啓発に対する支援を行なうなどの形で人材育成の施策として組み込む企業も多くあります。

 

メンター制度

メンター制度とは、知識や経験を有した社内の先輩社員(メンター)が、後輩社員に対して1on1等を通じてフォローする制度を指します。メンター制度では、同部署の先輩だと話しづらくなってしまうなどの懸念があるため、他部署の人材等をメンターにアテンドすることが一般的です。

 

メンター制度のメリットとしては、他部署や他チームの先輩社員がメンターとなることで、働くなかでのリアルな悩みの相談がしやすくなる、キャリアについての視野が広がるなどが挙げられます。

 

また、メンター制度の変形的な制度として、新入社員等に対して、年の近い先輩が、ブラザー(兄)やシスター(姉)となって新入社員のケアやフォローをする「ブラザー・シスター制度」を導入している企業も増えています。

 

研修や学習支援等だけではなく、組織内の交流やコミュニケーションの活性化を通じて、キャリア開発や課題解決を支援するような取り組みも人材育成のひとつと言えるでしょう。

 

MBO(目標管理制度)

MBOは目標管理制度と呼ばれ、経営学者であるドラッカーが提唱したマネジメントの仕組みです。一般的には「組織と個人で合意する目標設定を行い、目標に対してどれだけ成果をあげたか?で人事評価を実施する」形になります。

 

MBOは単なる人事評価制度ではなく、キチンと運用すれば、上司が「目標設定・計画立案・実行・振り返り」というPDCAサイクルの運用をサポートしながら実務的な人材育成を行うことができます。

 

MBOを導入する企業も非常に多いですが、本質を理解せずに運用すると、人事評価のために運用される“形だけのMBO”になりがちです。効果を上げるためのMBOのポイントは以下の記事で解説していますので、ご興味あればご覧ください。

 

コーチング

実務を通じた人材育成の中で、最近当たり前の概念になってきているのが「コーチング」の概念です。教える側が主体となって知識を伝えたりアドバイスしたりする「ティーチング」に対して、「コーチング」は、適切な質問によって相手から答えを引き出す指導方法です。

 

自分で考えて答えを導き出すため納得感が高く行動につながりやすい、「答え」ではなく「問い」を教えることで部下の自走する能力が高まる等のメリットからコーチングは注目を集めています。

 

コーチングは、前述の6つの方法とは少し概念が異なり、人材育成の種類というよりは、より具体的な手法の話です。しかしコーチングは、成長への動機付けや自立を促進するうえで欠かせない育成手法です。OJTやOJD、MBO等を運用していくうえでも重要な考え方となるため、本節で紹介しました。

 

なお、ティーチングとコーチングは、Off-JTとOJTのように絶対的な優劣があるわけではなく、両方にメリットデメリットがありますので、うまく使い分けていくことが大切です。

 

ティーチングとコーチングの使い分けやコーチングの具体的な活用方法は以下の記事で解説しています。ご興味あればご覧ください。

階層別の人材育成のポイント

組織で人材育成に取り組む際、全社員に共通して伝えたいミッションや価値観等を伝える全社員教育、職位等に応じた知識やスキルを伝える階層別教育、職種によって異なる専門スキルを身に付ける職種別教育、という3つの区分で考えることが一般的です。

 

その中で、本章では最もベーシックな人材育成となる階層別の人材育成について、簡単にポイントを解説します。

 

新入社員の人材育成のポイント

新入社員の育成では、

 

  • 社会人としての意識や心構えを持たせる
  • 自社の経営理念や事業の基本方針を理解させる
  • ビジネスマナーや報連相等の仕事の基礎スキルを身に付けさせる

といった点がポイントになります。

 

「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、仕事したことがない新入社員だからこそ、「型」となる考え方や基本行動については、正しい事とそうでないことの線引きをハッキリ明確に伝えて指導することが大切です。

 

くわえて、新入社員には組織や職場にいち早く馴染んでもらうことも重要です。人材育成の分野で「組織社会化」と呼ばれますが、組織の沿革、理念やバリュー、暗黙知、共通言語、独自ルール、構成メンバーなどを知ることで、組織に馴染み、自分の力を発揮できるようになります。

 

若手社員の人材育成のポイント

入社2年目~5年目は、成長の土台を作る重要な時期になります。単に与えられた業務をこなす段階から脱却し、仕事の目的を考え主体的に取り組む意欲を持ってもらうことが若手社員の育成では大切です。

 

仕事の基本となる段取り力や時間管理のスキル、円滑でわかりやすいコミュニケーション力を中心に身に付けてもらいます。そして一人で回せる業務や課題を解決できる領域を増やし、日々の振り返りで自己成長できる人材を育てることを目標にすると良いでしょう。

 

最近は、雇用の流動化が進む中で、情報感度が高い・成長意欲が高い若手が「自社でこれ以上成長できない」と感じて退職してしまうケースも増えています。その点を踏まえると、過去よりも一歩早いタイミングで、抜擢しての教育やリーダー経験などを積ませることも大切です。

 

中堅社員の人材育成のポイント

中堅社員になると、現場の第一線として即戦力が求められます。仕事の質や生産性を今以上に向上させるためには、非定型業務や、より専門的な知識・スキルを主体的に身に付けることが重要です。
同時に、中堅社員は、いちプレイヤーとして成果を出すことに加え、後輩の指導や小さなユニットを任されるなど、現場のリーダーとしての役割も徐々に期待されるようになります。

 

したがって中堅社員の育成では、本人のスキル・能力の向上にくわえて、周囲のメンバーにプラスの影響を与え現場を牽引できるような、次期リーダーを見越した育成計画が重要になります。

 

管理職の人材育成のポイント

メンバーを動かして、チームや部門の目標を達成することが求められるのが管理職です。
自分自身で成果をあげるプレイヤーとは役割や責任が変わります。従って、新任管理者の人材育成においては、まずマインドセットを変えることが非常に大切です。

 

管理職に昇格する時点で、プレイヤーとしてはある程度の実績をあげてきたことが多いでしょう。しかし、昇格時に意識の切り替えをきちんとできないと、「自分のやり方を部下に押し付ける」「成果が上がらないことを部下のせいにする」「現場と経営のパイプ、としての役割を果たさない」といった残念な管理職になってしまいます。

 

組織の目標を達成するためには、部下やメンバーとの信頼関係は欠かすことはできませんしたがって管理職の育成では、人を動かすコミュニケーションやリーダーシップ、チームビルディングといった「ヒューマンスキル」の習得が重要です。

 

また、目標達成のための戦術を考えることも管理職の大切な仕事です。そのためには、ロジカルシンキングをベースとした目標設定力、計画力、問題解決力、また、KPIマネジメント等のスキルも必要となるでしょう。

 

幹部、幹部候補の人材育成のポイント

幹部候補は、経営者の右腕として事業や経営の一翼を担うことを期待される人材です。
組織が大きくなるにつれて、経営者が一人ですべてを正しく意思決定することは不可能になります。だからこそ、経営者とチームと組んで経営するボードメンバー、幹部育成が重要となります。

 

幹部候補に求められるスキルや能力は、経営に関する幅広い知識や総合的な視点での課題解決力など、多岐に渡ります。また経営幹部には、自己の欲求よりも組織を優先することも多々求められます。
「自分だけが良ければいい」という利己的な価値観では、事業で大きな成果を残すのも困難となってしまうでしょう。すなわち、幹部、幹部候補には、「人の器」といった人間力も問われるのです。

 

幹部・幹部候補の育成に際しては、マーケティングやアカウンティング(会計)、経営戦略の知識などの知識やスキルを座学や研修で学ぶことが必要です。

 

ただし、学んだ知識・スキルも、実際の業務の場面で活用できなければ何の意味もありません。「事業を動かす・経営する機会」をどのように設けるかも、幹部育成では重要なポイントになります。
従って幹部育成においては、子会社への出向や事業部門を任せるなど、「配置」そのものが重要な人材育成となります。

まとめ

記事では企業の人材育成の方法をテーマに、代表的な人材育成の手法と階層別の人材育成のポイントをお伝えしました。
記事でもいくつかの手法を紹介しましたが、どのやり方を用いるにしても、経営戦略に沿って自社の課題を踏まえながら取り組むことが企業の人材育成では重要になります。

 

HRドクターを運営する研修会社ジェイックは、新人・若手から管理職の育成に関して豊富な経験を持ち、人材育成のサービスを提供しています。
階層別や全社員教育に関してお悩みの点があれば、お気軽にご相談ください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|取締役 兼 常務執行役員

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。
IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。
昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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