ロールモデルは、組織開発やHRの世界で、“キャリアの見本となる先輩社員”という意味合いで使われる言葉です。ロールモデルをうまく設定・活用することで、社員の成長加速や組織の活性化といった効果が期待できます。
記事では、社員にロールモデルを見出してもらうことの効果やロールモデルの具体例、活用方法等を解説します。
<目次>
ロールモデルとは?
ロールモデルとは、“キャリアや行動や考え方の模範となる人物”を指します。「あの人のようになりたい」と思う先輩社員の行動技術やスキルを学習・模倣し、行動パターンを身に付けることで、その人物と同じ成果を出せるようになることが期待できます。
キャリア開発においても、「数年後にあの人のようになりたい」「その先で、この人のポジションまで昇格したい」「●●さんのような働き方をしたい」というロールモデルがいると、社員のモチベーション維持やリテンションに繋がり、成長の加速や定着率の向上が期待できます。
社員にとって、ロールモデルとなる人物は1人である必要はなく、自分が得たい知識や身に付けたいスキル、キャリアに応じて、複数人設定することができます。ロールモデルを見出したら、その人の行動特性(コンピテンシー)、また、背景にある判断基準や考え方を“真似”をすることで、成長が加速します。
ロールモデルを見出すことによる効果
程度の差こそあれ、人は無意識のうちにロールモデルを見つけ、ロールモデルの真似をしようとする傾向があります。これを意識的に人材開発に取り入れることで、より大きな効果を期待できるようになります。
ここでは、ロールモデルを見出すことで得られる、個人と組織に対する効果を紹介します。
個人に対する効果
繰り返しになりますが、ロールモデルを設定することで、将来のキャリアプランやビジョンが描きやすくなります。
豊富な経験を持つ上司や高いスキルを持っている先輩等、身近な人をロールモデルに設定すると、「どんな経験を積むべきなのか」「どうやってスキルを身に付けるのか」といった、ロールモデルに近付くための具体的なプロセスを知ることが可能です。
現実的な目標設定ができ、やるべきことの優先順位も明確になりますし、具体的なキャリアプランがイメージできることで成長意欲も高まり、仕事に主体的に取り組むようになります。
組織に対する効果
主体的な社員が増えれば組織の生産性がアップし、企業に対する社員の満足度も高くなりますし、キャリアプランが明確になることは離職防止にも役立ちます。
とくに女性社員は、ライフイベントによるキャリアへの影響が大きくなりがちです。家庭と仕事を両立している人や、リーダー・管理職として活躍している人がロールモデルとして存在すると、安心感も増しますし、育休後の復帰率も向上し、女性が活躍できる風土が作りやすくなるでしょう。
また、ロールモデルの考え方やスキルを学ぶための交流を組織として仕掛けていくと、組織内のコミュニケーションが活性化して、組織全体の活性化や部門を超えたコラボレーションの実現などにも近付きます。
ロールモデルの具体例
社員にとってのロールモデルは、誰でもいいわけではありません。人によってしっくりくるロールモデルは違うでしょうが、役職やポジションが離れすぎるとロールモデルにはしにくくなります。
また、組織開発上の視点では、エンゲージメントが高く、成果をあげている模範となる社員をロールモデルとしてほしいものです。従って、ロールモデルは各社員が見出すものですが、組織側としても、社員のポジションや経験レベルに適したロールモデルを想定していくことが必要です。
新入社員
新入社員は、先輩社員や上司の指示に従って動きながら仕事を覚えている状態です。プレイヤーのロールモデルとしては、イメージしやすい2、3年目の社員。また、会社の年齢構成によりますが、キャリアのロールモデルとしては、チームリーダーなどのマネジメントに足をかけ始めたぐらいの社員が良いでしょう。
先輩や上司から信頼され、どんどん仕事を任せられ始めた2,3年目の若手社員
- 先輩や上司の指示を正確に聞き取り、理解・実施できる
- 誠実で謙虚な言動ができる
- 状況によって的確な質問ができる
- 先輩や上司からの質問に対して的確に回答できる
- スケジュール通りにタスクを完了できる
- 仕事を自ら引き受ける
- 先輩や上司から積極的に学んでいる等
中堅社員
中堅社員には、部下や後輩への的確な指示出しや、他のチームや部署との連携・実務推進が求められます。そして、実績をあげてもらい、マネジメント層へのステップアップを始めてもらいたい世代です。直近では、現場の推進力となっているサブマネージャーやマネージャー等をロールモデルに設定するのが効果的です。
会社へのエンゲージメントが高く、メンバーとの信頼関係を作れているマネージャー。管理職として実績をあげ、待遇等も付いてきている状態が望ましいでしょう。
- 周囲と信頼関係を作るコミュニケーションができている
- 信頼関係の土台となる人間力がある
- “上司の仕事を代わる”ような昇格の準備ができている
- 業務に関する十分な知識がある
- 自主的に学んでいる等
マネージャー
チームリーダーや管理職、マネージャーなどのマネジメント職に入ると、プレイヤー時代とは違うストレスを感じたり、課題にぶつかったりします。また、メンバーに相談できないことが増えるなど孤独感が増す部分もあります。
同じプレイヤーとして参考になる、切磋琢磨できる管理職としてのロールモデル、また、その先にある幹部や経営層へのロールモデルが必要です。
マネージャーは、メンバーとの信頼関係、上司との信頼関係、組織を目標達成させる力が必要です。すべてを満たすロールモデルの設定は徐々に難しくなってくる場合もあるでしょう。場合によっては、「誰のどの部分が模範になるか」という部分的なロールモデルを複数提示・設定するようなことも有効です。
- メンバーと信頼関係を築いている
- 組織、部門をマネジメントして成果をあげている
- 視座の高さで、経営陣・幹部層と信頼関係を築いている
- “お山の大将”ではなく、全社最適を考える視野を持っている
- 他チーム、他部門と信頼関係を築いている
- ロジカルシンキングやクリティカルシンキングのスキルがある
- 組織の生産性を上げられる
- 部下や後輩への権限移譲、人財育成を推進できる
- コミュニケーションネットワークが広い等
女性社員
一般的に女性はライフイベントによるキャリアや働き方への影響が男性よりも大きくなります。とくに出産や育児休暇後は、仕事と家庭・育児の両立という大きなテーマが発生します。
従って、とくにまだロールモデルがいない中堅中小企業の場合においては、女性のキャリア形成は、全社的な視点でロールモデルを育成することが大切です。ロールモデルが何人か生まれてくると、好循環が生まれます。
多くの場合、仕事と家庭の両立がひとつのテーマになるでしょう。「マネジメントして昇格して仕事と家庭の両立をしているケース」、逆に「プロフェッショナル人材として、マネジメントではない立場で両立しているケース」、双方のパターンがあると良いでしょう。
ロールモデルの活用方法
ロールモデルは、各社員が見つけて設定するものです。組織開発や人材開発の視点においては、社員が自分にあったロールモデルを見つけ、能力開発やキャリアプラン想定ができるようにサポートすることがポイントです。
具体的なサポートとしては、主に以下の3ステップになるでしょう。
- ロールモデルを設定・育成する
- 社員が自らのロールモデルを“見出す”ことをサポートする
- “ロールモデル”との交流、学ぶ機会をサポートする
それぞれ、解説していきます。
ステップ1.設定・育成
まず、組織として、社員のポジションや経験レベルに適したいくつかのロールモデルを設定・育成していく必要があります。現時点で社内にロールモデルがいない場合には、少し中長期的な視点でロールモデルを育成していく必要もあるでしょう。
ステップ2.社員が自らのロールモデルを“見出す”ことをサポートする
完璧なロールモデルを設定したとしても、社員に存在を知られなければ意味がありません。対象となる社員に知ってもらうため、社内への周知を意識して仕掛けましょう。
キャリアや評価上も、「ロールモデル」として発信することは難しいかもしれませんが、社内報や朝礼、表彰制度などのさまざまな機会を通じて、活躍している社員、ロールモデルとなる社員の存在にスポットライトを当てていきましょう。
その際は、ロールモデルを見つける側の社員の視点で、現状にいたるまでの成長プロセスや気にかけていること、現実的な課題や克服プロセス等を紹介することで、より社員の関心が集まりやすくなります。
振り返り研修やキャリア研修等で「ロールモデルの設定」「模倣して成長するプロセスの設計」へと落とし込んでいきます。
具体的な方法としては、ロールモデルとなる人物の事例も紹介ながら、そのなかで社員に「自分のロールモデルを設定する」「真似したい部分、身に付けたいスキルを書き出す」といったワークをおこなっていくと良いでしょう。自分のロールモデルを見出していくプロセスです。
ステップ3. “ロールモデル”との交流、学ぶ機会をサポートする
「ロールモデルとなる社員層」と「ロールモデルにしてほしい社員層」の交流機会等を開催し、学べる環境を作っていくのも重要です。
実際にロールモデルとなるまでに、どんなことを実施して成長してきたのか、いま何を大切にして働いているのか、どんな視座で仕事を見ているのか等をリアルにイメージしてもらうためには、実際にコミュニケーションを取ることが大切です。
座談会や懇親会、インタビューなどの機会、またメンターやブラザーシスター等の仕組みをうまく活用して、ロールモデルから学び、成長へと繋げられる場をサポートしましょう。
まとめ
社員が「成長するうえでの行動や思考モデル」となる、また、「働き方や将来像の憧れ」となるロールモデルを見出すことができると、成長促進や離職防止にプラスの効果があります。
ロールモデル自体はそれぞれの社員が設定するものになりますが、組織としても、
- ロールモデルとなる人物を設定、育成する
- 社員一人ひとりがロールモデルを見出すサポートをする
- ロールモデルから学び、自己成長に繋げるためのサポートをする
という視点で支援をおこなっていくことができます。
ロールモデルは「自社の社員」であることが望ましいですが、各階層でロールモデルとなる人物がいない場合には、教育研修等を通じてロールモデルとなる人物を育成していくことになります。
各階層におけるロールモデル育成のポイントは、下記の資料が参考になりますので、是非ダウンロードしてご覧ください。