リテンション施策は大きく分けると、金銭的報酬によるリテンションと非金銭的報酬によるリテンションの2種類があります。
非金銭的報酬は、例えば福利厚生や挑戦的な仕事や抜擢、成長実感や組織で働く満足感などのことです。
一方で、金銭的報酬も重要で、メンバーの能力や実績に応じて競合や市場評価に負けないだけの金銭的報酬を支給できる状態を作ることは忘れてはなりません。
金銭的報酬
金銭的報酬とは、給与や賞与、成果に応じたインセンティブなど、金銭的な報酬を与えて社員のモチベーションや働く意欲を高める方法です。金銭的報酬はわかりやすく、基本的には個人や組織の成果と直結する形になることが多いので、意識の高い社員や優秀層にとっては大きな魅力となります。
金銭的報酬は、適正な報酬と福利厚生に分けられますので、それぞれについて解説します。
適正な報酬
適正な報酬はリテンションにおいて前提となる施策です。報酬とは、評価制度の運用と給与・待遇を指します。
成果報酬を基にした適切な評価制度の運用によって、社員は自身の待遇に対して納得感が得られますし、会社への信頼を持つことができます。評価体系があいまいで自身の仕事が正しく評価されていなかったり、自身が適正だと思う給与よりも低かったりすれば、モチベーションやエンゲージメントの低下につながります。
給与や待遇への不満は「自分の想像」や「周囲との比較」から生じる側面も大きいため、ゼロにすることは難しいですが、絶対額として業界標準や市場相場と比べて劣っている場合には注意が必要です。
とくに成果主義とホワイトカラー業務の専門特化(細分化)、ジョブ型等が広がっている中で、社員は自分の市場価値と待遇を比較しやすくなっています。この時、絶対額で劣っていると、適正な報酬が得られていないと不満を抱き、他社への人材流出が起こやすいので注意が必要です。
ただし、金銭的報酬ばかりに注力すると、評価につながらない仕事が行われなくなったり、内発的動機を損なったりする危険性もあります。また、個人評価のウェイトが強くなると、個人プレーが加速して、組織内での連携や協力が薄れてしまう可能性もあるので注意が必要です。
福利厚生
リテンションにおいて、福利厚生も効果的な施策です。従業員が求めている福利厚生や有意義な福利厚生を提供することで、従業員により長く、意欲高く働いてもらうことができるでしょう。
福利厚生としては、医療保険や出産休暇、育児休暇、リフレッシュ休暇、裁量労働制の導入、リモートワークやハイブリッドワークの導入、食事の無償提供、従業員持ち株会や株式報酬制度など、様々なものが考えられます。
なお、福利厚生は従業員が求めるものでなければ、リテンション効果は得られません。こういった福利厚生を導入する場合には、従業員のニーズが高いものから導入しましょう。また、福利厚生は徐々に「あって当然」という感覚になる部分もあるため、導入や運用には注意が必要です。福利厚生は金銭的報酬に含まれる部分もありますが、主にはインナーブランディングや働きがいにつなげることを意識することが大切です。
金銭的報酬の具体例
リテンション施策における金銭的報酬の事例としては以下のようなものがあります。
- 個人の能力や成果に応じた給与(成果主義)
- 個人業績に合わせたボーナス
- 組織や会社の業績目標を超えた利益の賞与還元
- 成果と連動した昇給
- ストックオプション
- 実質的な待遇向上につながる福利厚生(家賃補助など)
など
非金銭的報酬
非金銭的な報酬とは、仕事のやりがいや専門スキルの向上、ワークライフバランスの実現など、金銭以外の部分でメンバーにとって「組織で働く価値」を高める方法です。
人が働くうえで金銭や待遇は重要なファクターですが、日本においては物質的な欲求はそれなりに満たされた状態となり、働くうえで精神的な充足を求める人が増えています。
どこの会社でも活躍できるような優秀層になるほど、金銭的な条件だけでなく、仕事のやりがいやミッション・ビジョン・バリューへの共感などを大切にしています。金銭的報酬を忘れることはできませんが、非金銭的報酬によるリテンション施策も不可欠です。
リテンション施策にはさまざまな種類があるので、自社に適した施策を実施することが大切です。多くの企業で取り入れられているリテンション施策(非金銭的報酬)をいくつか紹介します。
インナーブランディング
インナーブランディングとは社内に対して行なうブランディングの総称です。メンバーの組織や事業に対する誇り・愛着を醸成することで、帰属意識を高めることができます。
組織メンバーの全員が、日々成果を生み出したり、直接的に顧客から感謝をもらえたり、価値を感じられたりする仕事をしているわけではありません。自分たちの仕事の価値やミッション、ビジョンと仕事のつながり、社員が創出した価値を知らせる顧客の意見などを社内に発信することは、仕事のやりがいを生むことにつながります。
また、活用状況や利用者の声などを発信するといった非金銭的報酬によって、価値を感じられるようになる側面もあります。メンバーに認識されていないものは、存在していないのと同じです。各種リテンション施策を行ううえでは「発信する」ことが大切です。
成長機会の提供
成長機会の提供も、非金銭的報酬によるリテンション施策に該当します。
成長欲求は誰もが持っているものであり、特に近年の若手社員は仕事に自己成長を強く求める傾向にあります。そのため、定期的な研修の実施、セミナー参加や書籍購入の推奨(費用補助)、資格取得の支援などが有効です。また、挑戦的な仕事やプロジェクトへの参加機会などもリテンション施策として効果的でしょう。
直接的な成長機会の提供以外にも、キャリア面談を通じて自分の成長シナリオが社内で実現できることを示したり、成長実感を得るための振り返りやリフレクション研修なども有効です。
キャリア形成の支援
キャリア形成の支援も、現在における非金銭的なリテンション施策として重要性を増しています。
「今後どのような仕事がしたいのか」「そのために必要な知識や経験は何か」といったキャリアパスを明確化し、「自分の実現したいキャリアを社内で実現できる、成長できる余地がある」と確信させれば「この組織で引き続き働きたい」という意識が生まれます。
そのためには社員一人ひとりのスキルや経験、キャリアプランを把握し、性格や特性に応じたキャリアの選択肢を複数用意してあげることが大切です。
ひと昔前と比べるとキャリアプランは多様化していますし、必ずしも全員が「昇進・昇格したい」「マネジメントしたい」と考えているわけではありません。まずは把握することから始めましょう。
ライフプランの支援
継続して組織で働いてもらうためには、キャリアだけでなく、ライフプランを支援することも必要です。ライフプランを支援することで、より従業員が企業に定着するでしょう。
ライフプランには、「何歳くらいで結婚する」「子供は何人ほしい」「資産形成をどう考えるか」といったプライベートな計画も含まれるので、ライフプランを把握することはハラスメントなどにもつながりますので難しいところではあります。ただ、結婚・出産・育児・配偶者などの転居をともなう異動・介護など、さまざまなライフイベントに対応できる多様な働き方やサポートを、社員のライフステージに合わせて徐々に整えていきましょう。
ライフイベントに対応できる制度が整っていないことが原因で、優秀層を失ってしまうことは非常に大きな損失です。
サンクス・カード
サンクス・カードも、従業員の意欲を高めるリテンション施策の具体例です。
サンクス・カードは、社員同士で感謝の気持ちを伝える際に用いられるカードのことです。リアルな「紙」に書くのもよいですし、最近はオンライン上で行なうことも一般的になっています。
サンクス・カードの導入と運用は、顧客からの感謝が届きにくいマーケティングや管理部門などの部署にも脚光が当たりやすくなったり、社員同士で感謝し尊重しあう文化を構築したりすることにつながります。
ある会社では、紙で運用するサンクス・カードを賞与通知と一緒にメンバーに届けることで、金銭的報酬と非金銭的報酬を同時に味わうような形を作っています。また、最近では、ピアボーナスという形で、メンバー同士での貢献や感謝をポイント化してギフトなどにつなげたりするような仕組みもあります。
表彰制度
サンクス・カードのような精神的報酬という点では、表彰制度もモチベーションアップに効果的です。サンクス・カードはいわばメンバー同士での尊重や感謝ですが、表彰制度は組織からメンバーへの尊重や感謝です。
メンバーにとっても、全メンバーの前で公に認められることは承認欲求が満たされたり、自分の成果や成長を感じたりする機会となります。表彰することで、表彰されたメンバーの達成感やモチベーションにつながるだけでなく、表彰されなかったメンバーの意欲を生み出すこともできます。
また、本人にコメントしてもらうなかで、あらためて「周囲の協力があってこその成果だ」という気付きや感謝の気持ちが生まれる部分もあるでしょう。
就労環境の改善
就労環境の改善も、効果の大きなリテンション施策です。特に、働き方改革が謳われる近年ではワークライフバランスを重視する社員も増えており、リテンション施策として就労環境の改善は必須といっても過言ではありません。
また、組織のメンバーが働きやすい環境を整えることは、直接的な効果とともに「社員を大事にしている」というメッセージにもなります。
<就労環境の改善例>
- 時短勤務や在宅勤務などの多様な働き方
- 有給休暇の取りやすさや使いやすさ(時間有給など)
- 残業の削減(時間生産性の向上などと併せて)
- 生産性や利便性を高めるツールやインフラ
- ワークライフバランス、QOL(クオリティオブライフ)を高める福利厚生
など
非金銭的報酬の具体例
リテンション施策における非金銭的報酬の例としては、以下のようなものがあります。
- ミッション、ビジョン、バリューの浸透と実践
- インナーブランディング
- 能力開発や挑戦的な仕事による成長欲求の刺激
- 成長実感の習得
- 強みを活かしている実感
- 労働条件の改善
- 多様な働き方の導入
- キャリアビジョンやライフプランの構築
- 表彰やサンクス・カードなどを通じた承認文化
など