近年日本でも、評価制度が年功序列から成果主義へと変わることで、年下上司のチームで年上部下が働くケースも多くなっています。人材の流動化が進んだことによる転職の一般化も、年下上司と年上部下の組み合わせが生まれる要因です。
昇進によって自分が年下上司になった場合、時に自分よりも経験も社歴も長い年上の先輩が部下になり、「どのように指示を出すべきかわからない」といった悩みが生じることもあるでしょう。転職で入ってきた中途社員が年上の場合も、接し方などで悩むこともあるかもしれません。
記事では、年上部下との関係に悩む年下の上司向けに、年上部下と接する基本スタンスや、年上部下のタイプ別コミュニケーションのポイントを紹介。年下上司がマネジメントで大切にすべき信頼関係の構築方法も解説します。
<目次>
年上部下と接する基本スタンスとは?
年下上司が年上部下と接する場合、以下のような基本スタンスがおすすめです。
上司という「役割」を果たす(躊躇せず平等に扱う、指摘すべきことは指摘する)
上司と部下というのは、職場内の役割です。部下がどのような相手であっても、上司としての役割は変わりません。たとえば、年上部下に対して「長年お世話になった先輩だから……」と指摘の躊躇や遠慮してしまうと、上司としての役割を果たせません。
また、それ以外のメンバーからすると、年上部下に躊躇や遠慮をする上司の姿勢は不平等やリーダーシップの不足に見えたりするでしょう。チームメンバーに不平等さへの違和感や不満が生じれば、職場の規律が緩み崩れていくきっかけにもなってしまいます。
上司としての役割をきちんと果たす。これがまず押さえるべき基本です。
「敬語」で年上への敬意を示す
一方で、上司は、職場における「役割」であって「人間としての偉さ」ではありません。したがって、年上部下に対しては、年齢としては相手が目上であることを踏まえて、丁寧語や敬語で接して敬意を払うことがよいでしょう。
「上司として意思決定や指示などをすること」と「年上部下に個人として敬意を払うこと」を切り分けて考えるとコミュニケーションしやすくなるでしょう。
相手の「顔」を立てる
たとえば、中途採用で入った年上部下が年齢的に上の場合、上司を含めたメンバーが若手ばかりのチームに溶け込みづらいことがあります。年下上司が年上部下を巻き込むには以下のように相手の顔を立てるアプローチも有効です。
- 力を貸していただけませんか?
- 知恵をお借りしたいのですが、お願いできますか?
- この作業のコツは、◯◯さんから指導してもらえませんか?
年下上司が年上部下を頼って顔を立てることで、年上部下の面子も保たれ、モチベーションが高まります。基本的なポイントは「上司としての役割」を果たしたうえで、要所要所では、上記のような形で年上部下の経験値を頼ることがおすすめです。
年上部下のタイプ別コミュニケーションやポイント
当然のことですが、年上部下といっても、すべての人が同じ性格や行動特性ではありません。年上部下と円滑なコミュニケーションを図り、信頼関係などを築くには、それぞれの特徴に合った対応をすることが大切です。
ソーシャルスタイルと呼ばれる自己主張と感情表出で分類した4タイプの特徴と、タイプ別の年上部下とのコミュニケーションポイントを確認しましょう。
決断型(コントローラー)
自己主張が強い一方で、感情表出は控えめなタイプです。決断型の年上部下には、以下のような特徴があります。
・ 仕事を自発的にこなすだけの主体性や決断力がある
・ 物事の成果や結果に強いこだわりがある
・ まわりくどい言動や態度を好まない
・ 自分のやり方を貫こうとする頑なさがある
決断型の年上部下は、リーダー気質があるといっても過言ではありません。そのため、年下上司は、単刀直入に物事を伝えたうえで、判断を委ねながら相手を信頼しているというメッセージを送るのがおすすめです。
なお、決断型の人は「~すべき」などの言葉で自分をコントロールしようとする相手に反発や衝突しやすい特徴があります。指示や声のかけ方には注意するとよいでしょう。
促進型(プロモーター)
自己主張が強く感情表出が豊かなタイプです。促進型の年上部下には、以下のような特徴があります。
・ 目立つポジションにやりがいを感じる
・ チームを仕切るのが好き
・ 他人の長所を引き出すことが得意である
・ 独自性や創造力が高い
促進型の年上部下には、適度に感謝の気持ちを伝えながら、自由に進めてもらう姿勢で接するのがおすすめです。また、年下上司とビジョンや目標を共有できれば、強力なサブリーダーになる可能性も高いでしょう。
促進型の人は、理詰めの話や自分の考えを否定されることを嫌う傾向があります。相手の顔を立てる、というポイントに注意しましょう。
分析型(アナライザー)
自己主張・感情表出の両方が控えめなタイプです。分析型の年上部下には、以下の特徴があります。先述の促進型(プロモーター)と真逆のタイプといえば、わかりやすいでしょう。
・ 客観性が高い
・ 粘り強く慎重に仕事を進められる
・ 計画的に仕事を進めることも得意である
分析型の場合、感情や衝動で動くことは滅多にありません。そのため、仕事の指示を伝えたり褒めたりするときには、ロジカルコミュニケーションを大切にするとよいでしょう。
また、計画性や粘り強さを大切にするタイプですので、プロモーター型の上司とは相性が悪くなりがちです。相手の計画性や論理性をうまく生かすことを心がけましょう。
支援型(サポーター)
自己主張が控えめである一方で、感情表出は豊かなタイプです。支援型の年上部下には、以下の特徴があります。
・メンバーのサポートが好きである
・メンバーの心情に配慮することが得意である
・チームの雰囲気に影響されて、意見が変わることも珍しくない
・優柔不断に見えることがある
支援型の年上部下は、年下上司にとって扱いやすく感じられる傾向が高いです。ただし、サポータータイプは相手の心情に配慮してしまうため、無理な仕事を受け入れてストレスを溜めやすい特徴もあります。
支援型の年上部下と接するときには、仕事の丸投げや無理難題の要求を避けることが大切です。また、仕事を断らない状態が続いている場合も、定期的な1on1ミーティングなどで「無理していないか?」などを確認したほうがよいでしょう。
年下上司がマネジメントで大切にすべき信頼関係の構築
前章ではタイプ別のコミュニケーション方法を解説しました。もちろん有効なものですが、根底で年上部下との信頼関係の構築ができていなければ、どのようなマネジメントもテクニックで終わってしまい効果性が低くなったり、逆に不信感を招いたりするでしょう。
以下2つのポイントを大切にしながら、信頼関係の構築を目指しましょう。
年下上司自身の人格やスタンス
年下上司が年上部下を意識しすぎると、上司自身の姿勢や判断が歪んでしまいがちです。年下上司がブレることなくリーダーとしての仕事を行なうには、まず、上司自身の基本的な人格や人間性を磨くことが大切です。
年下上司が、組織の成果に向けて主体性を持ってリーダーシップを発揮する姿勢は、年上部下などのチームメンバーとの信頼関係を築くうえで何より大切なものとなります。
年上部下の尊重
チームメンバーのマネジメントでは、年上・年下だからということではなく、大前提として相手を尊重する姿勢が必要です。
繰り返しになりますが、「上司 – 部下」は組織における役割であって、人間としての上下を決めるものではありません。そのため、年上部下に限らず、メンバーをマネジメントするときには、対等な個人として尊重する姿勢が大前提です。
尊重したうえで、年齢や社歴などにおける「目上」であれば、敬意を持つことがしかるべきでしょう。年上の人間として敬意を払い、かつ豊富な経験やスキルを頼る姿勢を見せれば、年上部下とのコミュニケーションが促進され、信頼関係も醸成されていくでしょう。
年上部下とのコミュニケーションでは、自己啓発の名著である『7つの習慣』の第5の習慣である「まず理解に徹し、そして理解される」を実践することもおすすめです。
年上部下への指導に躊躇してしまう場合は?
実際の現場では、年上部下のタイプやコミュニケーション方法などを理解していても、相手への指摘や指導に躊躇することがあるかもしれません。特に、年上部下との年齢がかなり離れているか、長年お世話になっていた先輩である場合などは、指導に躊躇することも多いでしょう。
繰り返しになりますが、上司・部下は単なる業務上の役割であり、指導や指摘は「上司の役割」として果たすべきものです。また、上司から部下への指導は、チームの目標達成、年上部下の成長促進のために行なうものです。
年上部下との信頼関係が構築できていて、かつ正しい接し方を守っていれば、指導によって関係がこじれることはないでしょう。特に、組織の目標やビジョンを共有できていて、一緒に達成を目指せる状態になっていれば、指導内容も聞き入れてもらいやすいはずです。
まとめ
年上部下と接するときには、以下の基本スタンスが大切です。
・ 「敬語」で年上への敬意を示す
・ 相手の「顔」を立てる
また、年上部下とのコミュニケーションでは、以下のどのタイプかによって対応を変えていくことも重要になります。
・ 促進型(プロモーター)
・ 分析型(アナライザー)
・ 支援型(サポーター)
マネジメントで大切にすべきことは、まずは年上部下との信頼関係を築くことです。そのためには、テクニックで何とかしようとするのではなく、上司自身が基本的な人格を磨き、相手を尊重する姿勢を持つことが大切です。