組織でメンバーのモチベーションを上げる手段には、外発的動機づけと内発的動機づけという2つの種類があります。外発的動機づけは非常に強力であるものの、リスクや注意点もある動機づけの方法です。
メンバーの意欲向上を図ったり人材育成したりするうえでは、外発的動機づけ・内発的動機づけの違いや特徴を理解して、マネジメントや仕組みにうまく取り入れていくことが有効です。
記事では、外発的動機づけと内発的動機づけの概要や特徴を確認したうえで、外発的動機づけを適切にマネジメントや組織に取り入れるためのポイントや具体例を紹介します。
<目次>
外発的動機づけとは?
外発的動機づけとは、外から得られる報酬による動機づけのことです。具体的には、金銭的・精神的な報酬によってモチベーションを高められる以下のようなものが該当します。
- 給与、賞与
- 昇進、昇格
- 賞賛、承認
- 感謝
など
なお、報酬ではありませんが、降格や減給、罰則からの回避といったものも外発的動機づけに含まれます。
外発的動機づけと内発的動機づけの違い
人を動機づける方法は、内発的動機づけと外発的動機づけの2つに大別されます。
このうち内発的動機づけは、自分自身の内側から生まれるものによって動機づけがなされるものです。例えば、仕事の内容そのものに強い興味や関心があり、「それが好き」「それをやりたい」という動機からやりがいが生まれることが内発的動機づけです。
内発的動機づけは自分の内側から湧いているため、非常に強く継続しやすいものとなります。また、外部からの影響を与えにくい点も内発的動機づけの特徴になります。一方で、「相手の内側から湧いてくるもの」ですので、外から動かすことが困難な側面があります。
一方で、外発的動機づけは、仕事の内容そのものではなく、仕事上の成果に対する報酬への欲求でやりがいや意欲を生じさせる方法です。
外部からの報酬によって生み出されるものであるため、外部から影響できることが外発的動機づけの特徴であり、大きな利点です。組織においては、速やかに相手のモチベーションを上げることができ、施策も実施しやすい特徴があります。
外発的動機づけのメリット
外発的動機づけのメリットを紹介します。外発的動機付けはシンプルで分かりやすいことから多くのメリットがあります。
実施しやすい
外発的動機づけのメリットは、実施しやすいことがまず挙げられます。先ほども述べましたが、外発的動機づけには、給与、賞与、昇進、昇格などの報酬、降格や減給、罰則からの回避などがあります。
報酬を与えること、罰則を科すといったことは結果が明確で分かりやすい、かつ、本人にとって大きな関心がある事項です。外発的動機付けという通り、シンプルに外部からモチベーションに働きかけることができるため、組織で導入しやすいでしょう。
短期間で効果が出やすい
外発的動機づけのメリットとして、短期間で効果が出やすいことも挙げられます。報酬や罰則などは自分にとって得なのか損なのかが明確なため、行動につながりやすいという特徴があります。
例えば、「目標が達成出来たらインセンティブを与える」といった報酬を設定すれば、達成に向けた行動にドライブがかかります。さらに、「〇〇をした件数だけインセンティブを与える」といった形で行動に直結させれば更に即効性はますでしょう。短期間で生産性を上げたい、メンバーの行動への意欲を高めたい場合、外発的動機づけは有効です。
多くの人に効果がある
報酬や罰則といったことは多くの人にとって損得が明確なものです。基本的に人は報酬を歓迎し、罰則を回避したいと考えます。
従って、こうした報酬や罰則による外発的動機付けは、業務への興味関心が低いメンバーに対しても、行動を促す効果が期待できます。
外発的動機づけのデメリット
外発的動機づけのデメリットも紹介します。外発的動機付けの活用にあたってはデメリットも理解しておくことが重要です。
コストが発生する
外発的動機づけを行う場合、報酬を与えるためにコストが発生します。インセンティブを付与する場合にはもちろんのこと、昇進でも基本給や役職手当などのコストが発生するでしょう。
こうした金銭的報酬ばかりではなく、物理的報酬を与える場合でも、職場環境の整備などにコストが発生します。外発的動機づけを継続するためには報酬を与え続けることが必要ですし、徐々に同じ報酬内容ではモチベーションが上がらなくなってきてしまいます。
外発的動機づけを維持するためには、報酬を付与し続け、かつ報酬も上げる必要があるため、いずれはコスト負担が大きくなりすぎる可能性があります。
なお、罰則であればコストは発生しませんが、罰則による外発的動機付けは「行動の動機付け」にはなりますが、いわゆる「モチベーション(前向きな感情)」を生み出すものではありません。
動機づけの効果が持続しない
即効性が期待できる外発的動機づけですが、得られる報酬などに慣れてしまうと、動機づけの効果が下がってしまう可能性が高いです。インセンティブなどの金銭的報酬であれば、インセンティブに対して次第に「あって当たり前」に感じられたり、「金額が少ない」と感じられてしまう、といったことが生じやすくなります。
継続して動機づけを行っていくためには、より大きな報酬が必要になってきます。制限なくインセンティブを付与し続けるのは現実的ではないため、注意が必要です。
また、例えば、目標達成や成果に応じたインセンティブを支払うキャンペーンを実施した場合、キャンペーン期間が終わると、一気に行動がなくなるといった意味でも外発的動機付けは効果が持続しにくいといえます。外発的動機付けは、内発的動機付けと異なり、行動自体に前向きな意味づけはされていませんので、報酬がなくなれば当然行動はストップします。
アンダーマイニング効果が生じやすい
外発的動機付けにより、内発的動機付けの効果を下げてしまう「アンダーマイニング効果」が生じやすいことも注意点のひとつです。
メンバーによっては外発的動機づけをする以前から、仕事や課題に対して内発的動機づけされているケースがあります。しかし、そういった点を考慮せずに外発的な報酬を付与することで、行動の目的が報酬にすり替わってしまい、内発的動機が失われてしまうことがあります。
外発的動機付けをする際には、報酬の設定方法に注意する、また、報酬を支払う意味などを丁寧に説明して、内発的動機を損なわないようにすることが大切です。
外発的動機づけのリスクと注意点
前述した通り、外発的動機づけは外から働きかけができるため、組織をマネジメントする上では非常に有効な手段です。一方で、外発的動機づけに依存するモチベーション管理にはリスクもあります。
以下で、どのようなリスクがあるかを紹介します。
報酬や刺激への耐性ができる
上司や企業からの金銭的・精神的報酬は、はじめは非常にうれしいと感じ、大きなモチベーションアップにつながります。しかし、長期的に継続すると、報酬という刺激に対して「慣れ」や「耐性」が生じてしまいます。
人間には、環境変化に適応していく生物の本能があります。したがって、慣れや耐性を防ぐことはできません。耐性がついた場合、最初はうれしいと思っていた報酬への魅力が、相対的に徐々に下がっていくことになります。
また、刺激があることが当たり前になってしまうと、何も与えられない状況では動かなくなったり、不満が生じたりすることになります。
例えば、「1件受注で1万円のインセンティブを支給」というキャンペーンをすると、はじめは大きく反応していたものが、何度も繰り返されることで徐々に効果が落ち、「2万円」「3万円」 と金額を上げていかないと同じ効果が出なくなります。
そして、次第に「インセンティブが無いならやらない」「インセンティブがないと不満」というマインドも生じてきます。金銭的なものだけでなく精神的な報酬も同様で、外発的動機づけは多用・継続すると慣れや耐性が生じやすいという問題があります。
内発的動機を損なう
外発的動機づけを目的とした報酬や刺激は、じつは内発的動機を損ねるリスクがあります。特に、すでに内発的動機づけされているメンバーのモチベーションを下げる場合があるので注意が必要です。
例えば、心理学の実験では、「パズルゲームが面白い」と思って遊んでいる人に、パズルを解けたことへの報酬を与えると、報酬を与えないグループよりも遊ぶ時間や回数が少なくなってしまうといった結果も出ています。
脳研究や心理学の世界では、内発的動機づけされていた仕事や課題に対して、外的な報酬を付けることで内発的動機が下がる問題を「アンダーマイニング効果」と呼びます。
外発的動機づけを多用し過ぎると、メンバーにアンダーマイニング効果が生じて内発的動機づけが損なわれ、「外発的動機づけだけで動くメンバー(組織)」に向かってしまうリスクが生じます。
外発的動機づけを適切に運用するポイント
前章までの内容を踏まえて、外発的動機づけを導入・運用するときのポイントを解説します。
外発的動機づけの乱用・依存にならないようする
外発的動機づけは、組織をマネジメントする上で、「外部から望む成果・好ましい行動に向けた動機づけ」をできる非常に有効な手段です。一方で、外発的動機づけには、内発的動機づけを損ない、報酬への依存を生むリスクもあります。
前述の通り、外発的動機づけは繰り返すことで報酬への慣れが生じ、「どんどん強い報酬にしていかないと効果がなくなる」「報酬がない状態に不満が生まれる」ところに行きつく危険性もあります。
従って、外発的動機づけを運用するなら、「どういう組織を作りたいか?」を明確にしたうえで、望む組織作りを阻害しないように外発的動機づけの乱用・依存に注意したり、次に述べる内発的動機づけとのバランスをとったりすることが大事です。
外発的動機と内発的動機のバランスを考える
外発的動機は、即効性が高く、外部から目標達成や仕事に対するモチベーションアップを働きかけることを可能にします。一方で、質の高い仕事を自らの意思で主体的かつ継続的に行なうには、内発的動機づけが重要です。
したがって、中長期的な成長を考えるうえでは、外発的動機づけで短期的なモチベーションを作りつつも、内発的動機づけを促進する取り組みを継続的に実行することが大切になります。
具体的には、仕事のやりがいや価値を確認するような研修、「顧客の声」の共有、ミッション・ビジョンの浸透、「自分にはできる」という自己効力感を高めるマネジメント、現場の意思決定へと参画してもらい自己決定感を高める等の取り組みが、内発的動機づけにつながります。
金銭的報酬と精神的報酬のバランスも考える
外発的動機づけを適切に運用するためには、金銭的報酬だけでなく精神的報酬もバランス良く取り入れることが大切です。
金銭的報酬は即効性が強いものの、仕事への内発的動機づけを損ねるリスクも高くなります。また、金銭的報酬に代表される物理的な報酬は、定量化されやすく、耐性が生じやすい特徴があります。
そのため、外発的動機づけを運用する際には、社内表彰や抜擢などの名誉、上司や企業からの承認やフィードバック、顧客や同僚からの感謝といった精神的報酬を適切に組み合わせることがおススメです。
業績以外の評価も取り入れる
営業成績や売上などの業績だけで評価した場合、短期的な結果につながらない業務がおろそかになったり、直接的に業績を担わない部門のモチベーションが落ちたりしやすくなります。
したがって、業績以外にも、仕事の質、イノベーション、他部門や他者へのサポート、ミッション・ビジョン・バリューの実践といった「業績以外の評価」を評価対象として取り入れることがおススメです。
「業績以外の評価」という部分では、メンバー同士でお互いの働きや貢献に感謝を送るようなthanksカードや、ピアボーナスなどの仕組みも良いでしょう。
自社独自の報酬を取り入れる
外発的動機づけの報酬には、金銭、昇進・昇格、表彰、フィードバックなどのほかに自社独自の価値観やバリューを反映したり、メンバーの成長を促進したりするような独自の報酬を取り入れることもおススメです。
具体的には、以下のようなものです。
- 視察や研修を兼ねた報奨旅行
- “一流”の仕事を体験するような企画
- 見聞を拡げるような長期休暇と費用補助
- チームなどでの報奨旅行の費用補助
- 社内での挑戦機会
外発的動機づけ施策の具体例
外発的動機づけの施策の具体例には、以下のようなものがあります。
金銭
最もわかりやすく強力なのは、個人目標やチーム・組織の目標の達成状況に応じて、インセンティブや賞与などの「金銭」の報酬として動機づけをするものです。具体的には、以下のようなものになります。
- 営業を進めたい商品や促進したい行動に対するキャンペーン
- 目標達成に対する一時金
- 業績が基準を上回った場合の特別ボーナス
また、自社株の購入権利を与えるストックオプションや、一定基準に基づく利益配分を行なうプロフィットシェアリングも、金銭的インセンティブに該当します。
金銭は、わかりやすく具体的であるため、最も多くの企業に用いられる施策となります。一方で、多用・乱用した場合のリスクも大きいため、導入時には注意してください。
物質
物質とは、以下のような金銭以外の物理的な刺激で、外発的動機を与えるものです。
- 休暇
- 社宅
- 福利厚生
など
物質的インセンティブは、短期的に何かの行動を促進するよりも、中長期的に社員のモチベーションや帰属意識を高く保つための環境整備という側面が強いでしょう。
特に、社宅や福利厚生などの環境整備は、エンゲージメント向上に一定の効果もある一方で、「あることが当たり前」となり、「削減されると不満を感じる」という衛生要因的な側面も強くなります。
したがって、メンバーのモチベーションを長期的に維持するには、ほかの刺激との組み合わせを考える必要があります。
承認
人は誰しも、承認されたい、認められたい、褒められたいという強い欲求を持っています。「人は承認に向かって行動する」「人は承認されることを渇望している」とも言えるでしょう。そのため、上司や同僚、組織からの承認も、外発的動機付けを生み出す「報酬」になります。
例えば、全社会議や朝礼などで「成果やエピソードとともにメンバーを紹介する」のも承認の一つです。また、お客様アンケート内容やお客様のポジティブな声を、担当者の名前とともに社内報などで紹介することもおススメです。
また、上司からメンバーを「褒める」という行為も承認です。「褒める」ことはモチベーションアップだけでなく、良い行動の促進や習慣化にも役立ちます。
まとめ
外発的動機づけは、組織をマネジメントするうえで「外からメンバーのモチベーションを高める働きかけができる」ため、非常に有用な手段です。
ただし、外発的動機づけには、報酬や刺激に慣れができたり、依存的になったりするデメリットがあります。また、仕事自体のやりがい等、内発的動機づけを損なってしまうリスクもあります。
外発的動機づけを運用するうえでは、
- 乱用しない・依存状態を作らない
- 内発的動機を形成するための継続的な取り組み
- 金銭的報酬と精神的報酬の組み合わせ
- 業績以外の評価項目の導入
- 自社の価値観や人材育成につながる報酬の検討
などのポイントを押さえると良いでしょう。