
ここまでにご紹介してきた心理学の理論を踏まえて、メンバーのモチベーションアップに向けては以下のような工夫や施策があります。
相手に合わせた動機付け
動機付けしたい社員が、「マクレランドの欲求理論に照らし合わせて、どの動機が強いタイプに該当するか」を確認します。それぞれの動機に応じてアプローチすることで、効率的に相手のモチベーションを上げたり、行動しない要因を解除したりできます。
なお、どの動機が強いかを知るには、特性検査などの診断を用いることが有効です。HRドクターを運営するジェイックでは、入社時の特性検査結果が、配属先の上司等に共有され、マネジメントにも活用されています。
モチベーションダウン要因の排除
マクレランドの欲求理論を活用すると、各メンバーのモチベーションダウンの要因も見つけやすくなります。モチベーションを上げるアプローチも重要ですが、下がるマネジメントをしないことも大切です。
例えば親和動機が高い人は、周囲のメンバーと一緒に和気あいあいと仕事に取り組みたいため、自分一人で難しい仕事に取り組むような心理的緊張が苦手です。また、組織内の人間関係が悪かったりコミュニケーションが少なかったりする状態にもモチベーションが下がります。
また、権力動機が高い人は他者やチームへの影響力を重視するタイプなので、本人の数値目標や作業の効率性への厳しい指摘をしたり、他者に影響を与えたりする仕事から外されると、モチベーションが下がりやすいです。
このようにメンバーの動機に応じて、モチベーションが下がるポイントがありますので、それを排除するようにマネジメントを行ないます。
外発的動機付けのポイント
金銭的・精神的な報酬による外発的動機付けは、マネジメントにおいては有効な施策です。外部から即効性を持って、モチベーションを上げることができます。一方で、外発的動機付けを行なうときに注意すべきポイントが2つあります。それは、“中毒性・依存性”と“内発的動機付けの阻害”です。
まず、外発的動機付けは、慣れが生じてくると徐々に効果が落ちてきます。極端に書くと、アルコール中毒や薬物中毒と同じように、より強い刺激を求めるようになり、「報酬がないとモチベーションが極度に下がる」状態になるリスクがあります。
例えば、金銭的なインセンティブがある状態が当たり前になってくると、“より高額なインセンティブでないと動かなくなる”や“インセンティブが付かない仕事をやらなくなる”といった状態です。
また、外発的動機付けは、場合によってはメンバーの内発的動機付けを損ねるリスクもあります。例えば、「もともとは仕事自体がおもしろくやっていたのに、金銭的なインセンティブ制度が導入されると、やる目的が金銭的なインセンティブ中心に置き換わってしまい、いつの間にか、金銭的なインセンティブがないとやりたくなくなる」「自己成長や仕事のおもしろさが動機付けとなっていたのに、いつの間にか、上司に褒められることが目的となっている」といった状態です。
すでに内発的動機から優れた行動をしている場合は、特に外発的動機付けの導入には慎重になるべきです。
内発的動機付けのポイント
内発的動機付けは、内側から湧き出るものだからこそ、限りもありませんし、非常に強力です。従って、モチベーションアップと維持にとても効果的である一方で、短期的に確立したり、外部からコントロールしたりすることは難しい側面があります。
従って、内発的動機付けは、ミッションやバリューの浸透と同じように、ある程度中長期の時間軸で取り組んでいく必要があります。内発的動機付けへのアプローチとしては、
- 仕事の意味付け:ミッションやビジョン、提供価値、本人のミッションや価値観の明確とか一致点の探索等
- 自己肯定感:存在承認の関わりや感謝の声掛け、内省型の研修
- 自己効力感:振り返り研修や成長実感の獲得、能力向上の働きかけ、良い行動の習慣化
等が挙げられます。
相手に選択させることの重要性
モチベーションを上げるうえで重要なアプローチのひとつが、自己決定権の尊重です。人には“心理的リアクタンス”という「他人から押し付けられた指示に無意識に反発する」という心の働きがあります。
例えば、子供の頃に親から「宿題をしなさい」といわれると、やろうと思っていた気持ちが急に萎えてしまうといった経験はなかったでしょうか。これが心理リアクタンスです。
従って、メンバーのモチベーションにうまく働きかけるためには、部下の自己決定権を尊重、また演出する必要があります。実際に権限を委譲していくことも大切ですし、メンバー自らが「やる」と決断したかのように感じさせる工夫も有効です。
一方的な指示だけではなく、いくつかの選択肢を与えたうえで、本人が「やる」と決める余地を作ることも良いでしょう。