人事評価(人事考課)における目標設定の重要性と実施方法とポイント

人事評価(人事考課)における 目標設定の重要性と実施方法とポイント

適切かつ公正な人事評価(人事考課)のためには、きちんとした目標設定が欠かせません。適切な目標設定なき人事評価では客観性や公正性を担保することが難しく、評価される側の納得感も生まれづらくなってしまいます。

 

本記事では、人事評価(人事考課)における目標設定の重要性を確認したあと、効果的な目標を設定する方法、評価を適切に実施するためのポイントなどを解説します。

<目次>

なぜ目標設定が重要なのか?

組織において、そもそもなぜ目標の設定がなぜ重要なのか、人事評価とどうつながるのか、理由を確認しておきましょう。

 

組織における役割分担や責任を明確にする

一人ひとりの目標を具体的に設定することで、各自が実施すべきタスクや、組織のメンバーとして負うべき責任が明確になります。明確にした結果、個々のメンバーが主体性をもって日々の業務に取り組みやすくなるでしょう。

 

ゴールが曖昧な状態で主体性を発揮するのは困難です。また、確固たる目標が与えられていない状態で各自が好き勝手に行動すると、たとえ一つひとつの行動が優れていたとしても、組織全体の方向性が失われて混乱に陥ってしまうことがほとんどです。

 

組織における各メンバーの目標は、各自の役割や責任を示すものであると同時に、「この組織は何をもってあなたを評価するか」を伝えるメッセージであり、人事評価と密接に紐づいています。

一人ひとりの力を集約する

「目標設定によって組織内での一人ひとりの役割分担を決める」という上述のプロセスを逆にたどれば、「個人の目標達成がチームや部門の目標達成につながり、チームや部門の目標達成が組織の目標達成につながる」ということになります。

 

「組織の理念・ビジョン > 組織の計画 > 部門の計画 > 個人の計画」という仕組みが構築されれば、メンバー一人ひとりの力を集約し、組織の目標達成のために余すことなく活用できるはずです。

 

逆に言えば、各個人が組織の目標達成につながる責任を分担しているからこそ、設定した目標に対する達成度などをもとにして人事評価を行なうことが可能になります。

個々人の主体性やモチベーションを高める

人は、明確な目標を抱くことによって、「今の目標達成のために自分は今何ができるか」を考え、一つひとつの行動を工夫して、主体的に活動するようになります。

 

目標は個人の動きを縛るものではなく、目標があるからこそ、主体性の発揮や向上が可能になるのです。

 

人材育成につなげる

個々人の目標設定と、設定した目標の達成に向けたプロセス自体が、人材育成の取り組みとして機能します。適切な目標を立てる、施策を洗い出す、目標達成に向けてPDCAを回すなどのスキルは、どのような業務においても必須のスキルです。

 

個々人の目標設定と目標達成に向けた取り組みを徹底することは、短期的に組織の目標達成と公平な評価を実現するだけでなく、中長期的な人材育成にもつながるのです。

人事評価の公平性・客観性を保つ

各自の目標を適切に設定しておくと、目標の達成率などの客観的な指標で人事評価を行なえるので、人事評価の公平性・客観性を保ちやすくなります。

 

ただし、部署や仕事によって目標の難易度は異なるのが通常であり、難易度を考慮せずに目標を設定して達成率のみで評価すると、不都合が出てくることもよくあります。

 

結果の評価だけでなくプロセスの評価も組み合わせるなど、柔軟な運用も必要になることを理解しておきましょう。

組織における適切な目標設定のポイント

GOALのブロック

 

なんとなく目標設定するのでは、上で述べたような効果は得られません。大切なのは、組織・個人双方の状況に応じて、適切な目標を設定することです。

 

適切な目標を設定するための方法やポイントを解説します。

 

組織目標、事業計画から逆算して部門、チーム、個人の目標を決める

組織における目標設定では、個人の目標達成が組織の目標達成に紐づいていくことが重要です。紐づいた状態を作るためには、個人単位の目標から決めるのではなく、組織の大きな目標から決めていくのがポイントになります。

 

「組織の理念・ビジョン > 組織の計画 > 部門の計画 > 個人の計画」の順で目標を設定していきましょう。つまり、メンバー個々人に目標を設定させる前に、組織目標や部門目標が適切に設定されていることが適切な目標設定を実現する大前提となります。

SMARTの法則に則って目標を表現する

目標設定のフレームワークとして、ぜひ活用をおススメしたいのが「SMARTの法則」です。以下5つのルールを守ることで、適切な目標を定めることができます。

  • Specific:具体的(何を達成するかが具体的な表現でわかりやすい)
  • Measurable :計測可能(誰が見ても○×が明確につけられる、定量的に進捗を測定できる)
  • Achievable:達成可能(現実的に達成できる、チャレンジできる範囲である)
  • Related:関連性(実現したい目的や上位目標とつながっている)
  • Time-bound :期限が明確(いつまでに達成するのか納期が明確になっている)

SMART以外の目標達成に向けて活用したいフレームワークについても、下記記事で詳説しています。併せてご覧ください。

目標に対して各個人できちんと意味づけする

組織における目標は「上から与えられただけの目標」になりがちです。つまり、設定した目標が組織にとっては合理的ですが、個人の欲求や願望と紐付いておらず、目標達成にしっかりと動機づけされていない状態です。

 

目標達成に向けて各メンバーが主体的に取り組める状況を作るには、キャリアアップや成長、やりがい、評価・報酬など、個人にとっての「目標を達成することの意義」を見出すことが重要です。

 

つまり、SMARTの法則で満たすべき「R」は、「個人の目標 ⇒ チームや部門の目標」という関連性であると同時に、「個人の目標 ⇒ 個人の成長やキャリア、評価・やりがい」という視点での関連性でもあります。

 

以下の資料も活用して、一人ひとりが目標に意味づけできている目標管理を実現させることで、組織の目標達成力は向上するでしょう。

KPIツリーなどを通じて目標達成プロセスをきちんと設計する

目標設定の際には、目標を決めて終わりではなく、目標を達成するための計画もしっかり立てておくことが大切です。

 

目標達成の計画を考えるうえでは、「KPIツリー」の活用をおススメします。KPIツリーは、KGI(最終的なゴール)を分解していくロジックツリーであり、目標達成に至るまでのプロセスを先行管理する手法として有効です。

 

 

上図のように、KGIをKPI(KGIを達成するための指標)に分解して、さらにKPIをKAI(KPI達成のための活動)にさらに分解していきます。

目標達成プロセスをあらかじめきちんと策定しておくことで、目標達成率が向上するだけでなく、上司などが各メンバーの進捗や、達成状況を把握してサポートすることも容易になります。

 

また、ゴールに至るまでの経過が視覚化されることでプロセス評価がしやすくなり、より公正な人事評価にもつながります。

マンダラチャートなどで目標達成の施策をしっかり洗い出す

KPIツリーなどで指標を分解したあと、目標達成のための施策を洗い出すには、マンダラチャート(マンダラート、オープンウィンドウ64)の活用がおススメです。

 

マンダラチャート

 

マンダラチャートを用いると、1つの目標に対して64個以上の施策をリストアップできます。誰にでも使えるシンプルな手法にもかかわらず、目標達成に至る方法を複数の方向から検討でき、アイデアの幅を広げることが可能です。ぜひ一度試してみてください。

目標設定の例

本項では、目標設定のサンプルを職種別にご紹介します。

 

営業

<目標>

・20XX年第3四半期で〇件〇万円を受注する

<KPIやKAI>

  • ・KPI:見積もり件数・金額
  • ・KPI:新規商談数
  • ・KPI:既存顧客への提案数
  • ・KAI:月間〇件の新規顧客アプローチ
  • ・KAI:既存顧客に対する月間1回以上の接触

<達成施策>

  • ・現在取引のない分野の企業に新規アプローチする
  • ・過去の名刺から休眠顧客を見出し、テレアポを実施する
  • ・追加提案ノウハウの研修を受講して、スキルアップを図る
  • ・チーム内でロープレに取り組み、ノウハウを共有する

Webマーケティング

<目標>

・Webサイト経由で売上○万円を達成する

<KPIやKAI>

  • ・KPI:WEB広告経由のCV件数
  • ・KPI:SEO経由のCV件数
  • ・KPI:サイトのセッション数
  • ・KAI:週1本のメルマガ配信
  • ・KAI:月間〇本のSEO記事公開

<達成施策>

  • ・広告のPDCAとA/Bテストを週次で繰り返す
  • ・検索エンジン経由で新規訪問者数○人を確保する
  • ・メルマガ発行で既存顧客に新商品やキャンペーンの情報発信する
  • ・フロント商品を軸にしてアップセルにつなげるステップメールを配信
  • ・フロント商品を軸にしたセット商材(お得なパッケージ)を3個以上リリースする
  • ・定期購入プランをリリースする

人事

<目標>

・新卒採用○人を達成する

<KPIやKAI>

  • ・KPI:最終選考の設定数
  • ・KPI:説明会への参加者数
  • ・KAI:ダイレクトリクルーティングサイトで週〇件、通算〇件のスカウト送信
  • ・KAI:1営業日以内の応募者対応

<達成施策>

  • ・ターゲット層が多く集まる合同企業説明会に○回参加する
  • ・自社SNSアカウントから採用ページへの導線をつくる
  • ・先輩社員へのインタビュー記事を○本制作する
  • ・採用チームを増員してインターン以降のフォローアップを密にする

下記記事では、より多くの職種の目標設定例をご紹介しています。併せてご覧ください。

人事評価(人事考課)を適切に実施するための注意点

面談を実施する男性上司

 

人事評価(人事考課)は、目標達成期間が終わったあとに実施されるものです。結果(目標の達成度)とプロセスで評価していくわけですが、適切に人事評価を実施するには下記のような点に注意する必要があります。

目標設定は適切に実施されているか?

人事評価(人事考課)を適切にするためには、そもそも目標設定が適切にされていることが大切です。まず大事なのは、上でご紹介したSMARTの法則です。S(Specific)とM(Measurable)が守られていることで、目標の達成度をきちんと評価できます。

 

また、A(Achievable)に関連する目標の難易度が組織内で平等に設定されていることで、達成度による平等な評価が可能になります。

 

「設定された目標を達成したのに評価されない」といったことがないよう、初めにきちんとR(Related)を設定しておきましょう。

結果とプロセスの評価バランスは取れているか?

結果(達成度)とプロセス評価をどの程度のバランスで評価するかについては、ポジションや職位に応じた調整も必要です。結果とプロセスをどの程度評価するかについて一定の指針が必要でしょう。

 

一般的に、ポジションが上がるほど結果責任のみで評価されるようになり、新人や若手ほどプロセス評価を加えることになります。

 

評価のウェイトについて本人としっかり合意できていないと、「自分は頑張ったのに目標を達成できていない。自分ではなく外部環境のせいだ」といった話が出やすくなり、組織への信頼度も下がるおそれがあります。

 

評価バランスをあらかじめ策定し、社員にもしっかり説明しておくようにしましょう。

評価面談をしっかりと実施しているか?

一方的に評価を下すのではなく、評価面談をしっかりと実施することも大切です。

 

評価自体は評価プロセスや責任範囲に則って決めていけば良いですが、モチベーションや成長プロセスの側面で人事評価(人事考課)をとらえると、本人の納得感を生み出し、適切なフィードバックをするための評価面談が重要になります。

 

評価面談は、目標達成度についての自己評価をヒアリングしたり、自己評価に対してフィードバックしたりして、評価が適正であると納得してもらう機会になります。同時に次の目標設定や成長に向けての振り返りと、アドバイスの場とすることも大切です。

まとめ

適切かつ公正な人事評価(人事考課)のためには、きちんとした目標設定が欠かせません。目標設定をしっかり実施すれば、人事評価(人事考課)以外の側面も含めて、下記のように大きな効果が得られます。

  • 組織における役割分担や責任が明確になる
  • 個人の力を組織の目標達成に集約する
  • 個々人の主体性やモチベーションを高める
  • 人材育成につながる
  • 人事評価の公平性・客観性を保つ

SMARTの法則による目標設定、結果とプロセス評価のバランス、評価面談の実施などのポイントを意識しながら、人事評価をうまく機能させ、組織を成長させていきましょう。

著者情報

知見寺 直樹

株式会社ジェイック 取締役|上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 副董事長

知見寺 直樹

東北大学を卒業後、大手コンサルティング会社へ入社。その後、株式会社エフアンドエム副本部長、チャレンジャー・グレイ・クリスマス常務取締役等を経て、2009年ジェイック常務取締役に就任。総経理として上海法人(上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 )の立ち上げ等を経て、現在はHumanResourceおよび事業開発を担当する。

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