コストと手間をかけて採用した新入社員。彼・彼女達が一人も欠けることなく無事入社式を迎えられることに、ホッと一安心する人事の方は多くいると思います。しかし、じつは早期離職のリスクは入社直後からスタートします。入社したばかり新人は、入社前に抱いていた「社会人」や「会社」の理想と現実とのギャップ、リアリティショックを感じがちです。
入社直後の大切な時期に適切なフォローが出来なかったせいで、採った社員が定着しない、意欲が落ちて育たないといった企業は少なくありません。社会人としての良いスタートダッシュを切り、その後の配属先へもモチベーション高い状態で向かってもらうためは、入社直後の時期に適切なフォローをすることが大切です。
記事では、入社後1ヶ月の新入社員を対象に、早期退職を防ぎ、好ましい仕事の姿勢と考え方、習慣を身に付けてもらう10個のノウハウを紹介します。大きな手間やコストをかけずに取り組めることばかりです。「良さそうだ!効果がありそうだ!」と思ったものがあれば、ぜひお試しください。
<目次>
新入社員に仕事に対する考え方や姿勢を早期に身に付けさせる5つのノウハウ
ノウハウ1 社内のビジネス基礎、ルールを教える時間を作る
社会人の基礎やビジネスマナーに関しては、新入社員はもちろん既卒や第二新卒の人でも十分に身に付いていない場合は少なくありません。中途入社の場合でも、前の職場といまの職場でルールが違うということもよく起こります。すれ違いが積み重なると、先輩社員や上司をイライラさせ、人間関係に悪影響が出てしまいます。
入社直後の初期教育では、業務知識と共に、“この会社で求められる社会人の基礎、新人のマナー”を確認したり、教えたりする時間を必ず設けるようにしてください。
ノウハウ2 新人を主体的にする『穴あきスケジュール』
HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは以前、カツカツに埋まった新人教育のスケジュールを作っていました。しかし、このスケジュールで新人教育に臨んだのは大きな失敗でした。なぜなら、カツカツの教育スケジュールの場合、1つのタスクが終わると『次は何をしたらいいですか?』と訊いてくる指示待ちの新人が出てきてしまうからです。
この数年はあえて余裕を持たせた穴あきのスケジュールを渡し、新人達には“空白の時間を使って、各自進めてほしいプロジェクト”を指示するようにしました。すると新人達は、自分たちで考えて時間配分をしたり、『○○について、ここで相談の時間をいただけないでしょうか?』と相談に来たりするなど、主体的な行動が増えたのです。
“仕事への取り組み方”を教えるのは初めが肝心です。新入社員や若手に主体的な行動を望まれるようでしたら、それを促進する穴あきの教育スケジュールを作ると良いでしょう。
ノウハウ3 4つの効果的な研修(Off-JT)テーマ
新入社員の受け入れに慣れていない会社では、教育のほとんどがOJT(職場での同行・実践を通じたトレーニング)になりがちです。しかし、一番素直で、一番吸収しやすい時期に、OJTだけで新人教育を行うのは勿体ないでしょう。
入社したてで意欲が高い時期は、業務とは切り離したOff-JTの時間を設けて、“仕事の基礎”や“望ましい仕事への取り組み方”を教える貴重な時期です。
準備に手間がかからずかつ効果的なOff-JT(実習ではないトレーニング)でお薦めの4つのテーマを紹介します。
1)商品勉強会(単なる商品スペックではなく、お客さんの活用事例と共に紹介)2)顧客事例(自社で深い取引、良い取引をしているお客さんの事例、取引の沿革)
3)会社・ビジネスの仕組み(競合との違い、収益構造)
4)考え方の教育(自社において望ましい仕事への考え方・姿勢)
上記のうち、特に4)の“考え方”を教えることは大切です。京セラの創業者であり、JALの再建を無しとがた稲盛氏は「仕事の結果=考え方×熱意×能力」と仰っています。“鉄は熱いうちに打て!”ではありませんが、仕事への姿勢・動き方は初めに覚えたものが癖になります。入社直後のタイミングでOff-JTを上手く使って、望ましい姿勢を身に付けさせていきましょう。
ノウハウ4 良い習慣が身につく課題図書
ノウハウその3でお伝えした考え方の教育をするうえで効果的なのが「課題図書」の活用です。“身につけてほしい考え方”が書かれた書籍を課題図書として新人達に読んでもらいレポートを提出してもらうと良いでしょう。これも“3つ子の魂100まで”というように、最初に本を読むことが習慣になると、その後も継続して本を読んで学ぶ習慣が身につくため、本当にオススメです。
社会人経験が浅い若手・新卒の場合ほど、スキル・知識ではなく、考え方・仕事への姿勢が書かれた本を課題図書として選ぶと良いでしょう。ジェイックの場合は、新卒には1週間に1冊読ませ、
1)読んで気づいたこと・学んだこと
2)実践しようと思う行動
というテーマでレポートを提出させています。
ノウハウ5 要注意!雑用・作業の際に伝えるべきこと
入社した新人には最初のうち、現場での雑用や作業を依頼することも多くあるでしょう。注意したいのは、1つ1つの作業の目的や、どんな事を学んでほしいか?を伝えるということです。
伝えておかないと、目的を考えずに仕事をしたり、やり方を工夫する視点が身に付かなくなってしまう可能性があります。新人のうちにやらせる雑用、単純作業こそ、仕事の目的、仕事を通じた成長の仕方を教えるチャンスと言えます。
定着率を高めるための、入社後1カ月でできる5つのノウハウ
ノウハウ6 会社がもっと好きになる!社長への会社紹介
先ほどのノウハウ2では、穴あきのスケジュールを渡して主体的にタスクに取り組んでもらうやり方を紹介しました。ここでは、穴あきのスケジュールの“穴あき時間”を使った効果的な研修の1つとして「社長に対して魅力的な会社(自社)紹介をする」というお題を紹介します(状況に応じて「就活生に向けた」や「後輩の採用に向けた」など、もう少し場面設定を具体的にしてあげる方が良いかもしれません)。
研修を実施する際には、「材料を集めるのに部門を越えて社員にインタビューして良い」「インタビューする相手には自分でアポイントを取って話を聞く」などを伝えて進めてもらいます。
研修には、
1:自社の理解を深める
2:社内のさまざまなメンバーとコミュニケーションを取る
3:主体的な行動を促進する
といった狙いがあります。
それだけでなく、“自社の魅力をどう伝えるかを考えてプレゼンする体験」を通じて、会社が好きになる、という効果も期待できます。他にも、インタビューされて、会社の魅力を語る先輩社員が、自社への誇りを再認識する、自分の仕事の目的を後輩に語り、自らやる気を高める、など、たくさんのプラスの効果があります。
ノウハウ7 社員へのインタビューセッティングの肝
先ほどのノウハウ6で紹介した研修を進めるく上でのポイントをお伝えします。最初に、社長や人事担当者から、上司や先輩社員に対して、『新人達に研修でこれこれこういう課題を出しています。みんな忙しいと思いますが、新人達から声掛けがあった時は協力をお願いします』と事前に依頼しておくようにしてください。
そして、この研修で肝となるのは、インタビューさせる先輩社員の人選です。会社を好きな人、仕事で結果を出している人、仕事を楽しんでいる人をインタビュー対象者に選んでください。
その上で、様々なタイプの人にインタビューできるとなお良いです。
・純粋に会社が好きな人・ビジョンを語れる人
・仕事のやりがいを喋れる人
・お客さんとのエピソードを持っている人
・成長体験を伝えられる人
等、可能な限りバリエーションを持たせたうえで、インタビュー候補をリストアップして渡せると理想的です。
ノウハウ8 主体性とチームワークを高める2人1組
ノウハウ6で紹介した研修を進めるポイントは他にもあります。それは、2人1組のペアで研修に取り組んでもらうことです。
ジェイックが新人・若手人材の採用支援サービスを提供してきた中で、一番定着率の高いのが2名採用の場合です。1名採用の時と3名採用の時に比べ、2名採用は明らかに高い数値でした。
2人で1つのことに取り組めば、「先輩社員への声掛けなど、少し勇気が必要なこと」に対しても積極的になれます。また「人数が少ないので、お互いにサボれない、支え合わないといけない」など絶妙な人数なのです。2人1組のペア制をしくことで協力して仕事をする体験をさせると共に、支え合う絆が生まれるといったプラスの効果も期待できます。
ノウハウ9 良いこと尽くしのブラザー・シスター制度
ジェイックでは、自社の新人にブラザー・シスター制度を設けています。ブラザー・シスター制度とは、新人と年齢が近く、直属の上司・同じチームでない2年目や3年目の先輩社員を新人のブラザー(お兄さん)・シスター(お姉さん)に任命して面倒を見てもらう制度のことです。
制度のポイントはブラザー・シスターを、新人の教育指導役ではなく、新人が気軽に相談できる話し相手になってもらうことです。ブラザー・シスター役の社員には、「直属の上司や部署の先輩には言えない新人の悩みや不安を聴くこと。解決しようとしなくて良い」と明確に伝えます。
ブラザー・シスター制度は新人の定着にプラスとなるだけでなく、選ばれたブラザー・シスターの人に対しても、先輩としての自覚を持たせ、モチベーションを上げる効果があります。なお弊社ジェイックの場合、ブラザー・シスターに新人を月1回のランチや飲み会に誘える分の金銭的な補助を行っています。
ノウハウ10 日報のポイントと提出必須にする効果
ジェイックでは、新人達に必ず日報を提出するよう指導しています。日報は、
1:今日の良かったこと2:今日の気づき/学び
3:今日の業務
4:明日の予定
5:目標と現状
の5テーマを書かせ、全社に共有してもらいます。1日の振り返り・翌日の設計をする習慣、目標達成を意識させる習慣をつけさせることが目的の1つですが、日報の意図はそれだけではありません。
まず冒頭に反省ではなく良かったことや気づき・学びを書かせることで、自分でモチベーションを上げる、成功体験を認識させることもポイントです。同時に“前向きな文章を書かせて全社へ送らせる”ことで、同じ部門はもちろん他部署の先輩からもコメントやアドバイスが返ってきます。これが前述した緩いつながりを強め、“見てもらっている”感覚を持たせることでモチベートしたり、奮起したりさせる効果につながります。
おわりに
入社から1カ月間は新入社員の仕事への姿勢や考え方の基礎をつくるための重要な期間です。逆に、この期間でフォローを疎かにしたり、放置したりすると、入社前のイメージと現実のギャップ(リアリティショック)でモチベーションを落として早期離職してしまったり、よくない考え方や習慣を身に付けてしまいます。
入社1か月間で、仕事に対する姿勢や考え方、基本的な動き方をしっかり癖づけるましょう。記事では、入社1か月間で仕事に対する姿勢や考え方、基本行動を身に付けるための10のノウハウを紹介しました。ぜひ新人受け入れに取り入れてみて下さい。