企業の成長のためには、若手社員や新入社員の戦力化が不可欠です。しかしながら、若手社員の教育は、決して簡単なことではありません。若手社員に効果的な研修・指導をおこなうためには、若手社員の世代の特徴に合わせた教育・指導法を実践していくことも大切です。新人・若手社員に適した教育方法や指導のコツ、ポイントを解説します。
<目次>
“今どき”の若手社員の特徴は?
「若手社員」の明確な定義があるわけではありませんが、一般的には新卒で入社した20代前半から20代半ば程度の世代を指すことが多いでしょう。若手社員の教育を考えるうえでは、これらの世代がどのような特徴、時代背景の中で育ってきたのかを理解することが重要です。
若手社員を表すいくつかのキーワード
現在20代前半~半ばの若手世代を表す際に用いられる4つのキーワードをご紹介します。
1.ゆとり世代
一般的に言われる「ゆとり世代」とは、1987~2003年生まれの世代を指します。文部科学省の「学習指導要領」にて「ゆとり教育」を受けた世代を指しています。1987年生まれから2003年までとかなり広範囲になりますが、この数年で入社してくる大卒新卒がゆとり世代の最後となります。
2.さとり世代
さとり世代は、ゆとり世代と重複するところもありますが、1996年~2003年までのゆとり世代後期をとくに指します。幼いころから不景気が叫ばれ、リストラや転職・独立等の雇用形態の変化を見続け、未来への期待が少ない、ブランドへのこだわりが薄い、人との程よい距離感を保つことを好むといった価値観があると言われています。
3.ミレニアル世代(generationY)
1980年代前半から1990年代半ばまでに生まれた世代のことをミレニアル世代と言います。アメリカでは、generatonYとも言われる世代です。子供のころからスマートフォンがある環境で育ったデジタルネイティブであり、デジタル環境の進化を見ながら育ってきた世代です。「モノ消費」よりも「コト消費」を重視する等の特徴があると言われます。
4.generation Z(Z世代)
generationZは、ミレニアル世代の次の世代であり、1990年代後半から2000年代前半に生まれた世代です。定義の仕方によって若干生まれた年度に違いが生じますが、日本におけるさとり世代とほぼ同じ層だと考えて良いでしょう。この数年で入社している大卒新卒が、Z世代であり、今後の新卒採用市場で中心的な世代となる層です。
Z世代は、「デジタルネイティブ」であることはもちろん、「SNSネイティブ」とも呼ばれており、SNSのような共感するコミュニケーションを重視する傾向が見られます。
定義の仕方により分類方法は異なりますが、若手社員がどのような特徴を持った世代なのかを知り、対応方法を考えていくことが大切です。
若手社員の4つの特徴
若手社員の特徴を考える際に、ミレニアル世代が中心となる20代半ば~後半層と、さとり世代(ジェネレーションZ、今後は“さとり世代”で表記)が中心となる20代前半層でも、世代の特徴が少し異なっている点を把握しておきましょう。
また、若手世代の特徴と言えばネガティブな面を語られることが多いですが、若手世代にも優れた特徴があるので、いかに特徴を活かして戦力化すべきかを考えることが重要です。
1.反つめこみ教育を受けていること
ミレニアル世代もさとり世代も、いわゆる「ゆとり世代」に含まれている通り、いまの若手社員の世代はゆとり教育が実施されている世代です。反つめこみ型の教育を受けており、上位校等の受験を経験している層以外は、「暗記型」のつめこみ教育は経験していません。従って、社会人となって、「知識を一気に覚える」ことが苦手な層も一定数います。
2.ITに親しんでいること
生まれたときからスマートフォンやノートパソコンが当たり前にある中で育った世代であり、ITに抵抗感がない人が多いという特徴が見られます。ただし、ミレニアル世代・さとり世代に共通しているのは、慣れ親しんでいるからと言って、ITを使いこなせるというわけではないことです。
とくに、さとり世代が高校・大学に進学した2010年代にはスマートフォンやタブレットの性能が非常に向上していた分、意外とパソコンを使うことは苦手な場合も見受けられます。また、スタンプを使って短い会話を繰り返すLINEやSNSの中で育ってきている分、敬語や文章によるコミュニケーションを得意としていない部分があります。
3.困難への克服経験が乏しいこと
いまの若手世代は、他人や上司から叱責されたり反対されたりすることを苦手とする人が多い傾向があります。地域コミュニティの中でいわゆる“頑固おやじ”に怒られる経験も減りましたし、学校等でも体罰やハラスメントがあれば即問題となる時代背景の中で育ってきました。
また、SNS等の“炎上”を目にすることも多く、批判や叱責に敏感ですし、批判等を避けたいという心理も強く持っています。
4.指導に忠実に従うこと
ミレニアル世代は、かなり記憶もしっかりしている高校~社会人数年目にリーマン・ショックを目の当たりにしてきた世代です。「会社や組織は信頼できない」という感覚が強く、一人ひとりのスキルや知識を重視する傾向にあります。
一方で、さとり世代は、リーマン・ショックのインパクトはさほど強くありません。それよりもSNSネイティブであるからこそ、周囲との協調を重視し、良くも悪くも目立つのを敬遠する傾向が強く出ています。
若手社員の能力を伸ばす3つの育成ポイント
「若手社員を戦力化して、1日も早く成果を残せるようにしたい」というのは、多くの上司や人事が共通して願っていることでしょう。この章では、企業が若手社員の教育に取り組む際に注意しておきたい3つのポイントを解説します。
「考え方」の教育
若手社員が継続的に成長していくためには、まず基礎となる土台がしっかりしていることが必要です。いい加減な基礎の上に家を建てたら、家が大きくなるほど、崩れてしまう危険性が高まります。若手社員の教育もそれと同じです。
従って、基礎となる「仕事に対する考え方」「プロとしての矜持」「振り返りの習慣」等、社会人としての価値観・考え方をしっかりと教えましょう。逆に言えば、社会人としての「考え方」が身に付いていないのに、知識やスキルを増やす研修だけをおこなっても期待する効果はなかなか出ないでしょう。
「心のコップ」を上に向ける
「心のコップ」を上に向けるとは、「学ぼう、成長しようとして、学びや周囲からのアドバイスを受け入れようとする状態を作ることです。
教育や研修の効果を出すには、相手の「心のコップ」が上に向いていることが前提条件です。コップが下を向いている状態で、上から水を注いでも、コップの中には水が溜まらずに、全部こぼれていってしまいます。指導や研修も同様です。
悩みや不安、ストレスが大きくなると、「心のコップ」は下を向いてしまい、どんなに熱心に指導をしても効果が半減してしまうでしょう。また、学ぶ目的や得られること、成長意欲を刺激することで、「心のコップ」は上を向きます。
受講者自身の心がけで上に向けることもできますので、「いま、『心のコップ』は上を向いていますか?自分の状態を整えてから始めましょう」等の声をかけて、受講者自身に心を整えてもらうことも大切です。
See-Do-Getサイクル
若手社員の成長を促すために大事な考え方として、「See-Do-Getサイクル」があります。See-Do-Getサイクルとは、私たちは、「自分の価値観や常識に従って物事を解釈して(See)、自分の解釈に基づいて行動し(Do)、行動に見合った結果を得る(Get)」という一連の流れです。
私たちはつい人を指導するうえで「Do」の指導にフォーカスしてしまいがちです。しかし、本当は「See」に原因があることは多々あります。「どのように捉えて、どんな価値観や考えの基に解釈したのか?」という部分を見ないで、行動だけを指導すると、すぐに元に戻ってしまったり、応用が利かなかったりします。
行動を指導した場合には、「なぜその行動をしたのか?」というところまで一歩踏み込んで、根っこの考え方や価値観も伝えることを大切にしましょう。
若手社員の教育で大事な仕組み化
若手社員の教育をおこなう際に重要なポイントは、仕組み化です。中堅中小企業においては、若手社員の指導がOJT担当者の力量に委ねられてしまいがちです。
しかし、OJT担当者の指導力や経験はどうしてもバラつきが生じます。組織全体で、若手の教育力を高め、効果的な教育をおこなうためには仕組み化をおこないましょう。
若手社員教育における仕組みの構築
仕組みのあり方は企業によって異なりますが、オンボーディングの取り組みが非常に有効でしょう。オンボーディングは新人の定着・活躍促進をおこなうためのプログラムを指します。HRtechに基づくクラウドツール等もいろいろありますが、外部ツールを導入しなくても、社内で実践が可能です。
簡単に言えば、オンボーディングとは、「新人の受け入れ~活躍促進に際して、いつ、誰が何をどうするか?」を明確に定めたものです。
- 組織に馴染ませる
- 早期に戦力化する
- モチベーションをケアする
という3つの視点でプログラム設計すると有効です。
上司の教育スキルを高めるための仕組み化
若手教育においては、指導する上司やOJT指導者の教育スキル向上も重要なポイントです。職種や部門も異なるバラバラなOJT指導者の教育スキルを向上させるうえでは、もちろん研修等も有効ですし、同時に基本的なフォーマット等を会社で準備して、それを基に指導をおこなわせることも有効です。
例えば、上司やOJT指導者側には…
- OJTの計画立案シート
- 部下の目標設定シート
- レビューシート(上司向け)
- 部下を知るシート
等です。
また、本人側の状況を把握して、適切な指導をするためには…
- スケジューリングシート(Pマトリクス)
- 日誌
- 報連相シート
- レビューシート(本人向け)
等があると効果的です。
若手社員の教育で注意すべき5つのポイント
20代の若手社員を指導・教育するうえでは、以下の5つに注意すると良いでしょう。
1. レッテルを貼らない
偏見を持ったりレッテルを貼ったりせずに、若手社員の話をよく聞きながら、個性に応じたコミュニケーションを取りましょう。とくに「ゆとり世代だから」といったネガティブなレッテルは、「できない」という決めつけにつながり、成長のチャンスを摘んでしまいます。
また、レッテルを貼られた側の若手社員側のモチベーションや上司への信頼低下にもつながってしまいます。『これだからゆとり世代は…』といった相手にレッテルを貼って叱責するようなことは、冗談でも絶対に止めましょう。
2. アドバイスし過ぎない
すぐに答えを与えてばかりいると、若手社員の考える力が育たなくなります。とくに、さとり世代は、SNSネイティブと言われる通り、周囲の顔色を窺って行動するような傾向もあります。取れるリスクや修正可能な範囲内で、自ら考える習慣を付けさせることが非常に大事です。
3. 反省させ過ぎない
「なぜできないんだ!」という反省を促す指導法中心は、近年の若手社員の特徴にはマッチしない指導法です。上で紹介した通り、近年の若手社員は困難の克服経験に乏しく、叱責に対して恐怖心を抱いてしまう人が多い傾向があります。
もちろん叱責すべきときに、叱ることは大切です。叱責は叱責で短く切り上げて、「どのようにやればできるようになるか?」「改善するためにはどんな案が考えられるか?」といったポジティブな方向性で指導するように意識しましょう。
4. 挫折からさっさと立ち直らせる
反省させ過ぎないともリンクしますが、叱責に対して敏感である分、若手社員は叱った側の思惑以上に重く受け止めたり、萎縮してしまったりする傾向があります。心を閉ざしてしまうと、どのような働きかけをしてもなかなか響かなくなります。
場合によっては、「反省はここまで」といったように上司側から声をかけて、気持ちを切り替えさせる、引きずらないように区切りをつけてあげることが有効です。
5. 強みをどんどん伸ばす
若手社員の強みや得意な面を上司が把握して、長所を伸ばしていけるように働きかけましょう。弱点の克服をしなくても良いのかという疑問が生じるかもしれませんが、長所を大きく伸ばすことで、苦手な部分も強みに引っ張られて改善できるケースが多く見られます。
まとめ
若手社員を見るときは「今どきの若い者は…」と、ネガティブな側面が取り上げられがちです。しかし、いまの若手は、デジタルネイティブの強みや成長意欲の高さ等、上の世代とは違う力も持っています。
彼らの育ってきた時代背景や環境を理解して、指導の仕方を工夫することで、彼(彼女)らの個性や特長、強みを活かし、能力を伸ばしていきましょう。