新人のメンタル不調を防ぐために「兆し」を早期に発見し、予防する関わり方のポイント

更新:2023/07/28

作成:2022/01/05

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

新人のメンタル不調を防ぐために「兆し」を早期に発見し、予防する関わり方のポイント

「新人がメンタル不調で思うように働けなくなってしまう…」といったことが発生するのは、本人にとっても会社にとっても避けたい事態です。働く社員が目を輝かせイキイキ働ける職場を作っていくことは、組織で働くすべての人にとって共通する要望だと言えます。
毎年ゴールデンウィーク~6月頃は、新入社員が導入研修を終えて各部署に配属される時期ですが、新しい環境に適応できずに悩む「五月病」等も発生しやすいタイミングです。また、コロナ禍の中で在宅勤務に変わり、新人とのコミュニケーションが希薄になっていることに危機感をお持ちの方もいるかもしれません。
記事では、新人のメンタル不調の「兆し」を早期に発見して、予防する関わり方をお伝えします。

<目次>

新人のメンタル不調の原因と、今どきの新人のストレス要因

新人のメンタル不調は何が原因となって引き起こされるのでしょうか。本章では、まずメンタル不調が生じる根本的な原因を確認しておきます。

働く人のメンタル不調の原因の1位は「職場の人間関係」

下の表は株式会社Mediplatによる「従業員のメンタル不調の原因」に関する調査結果です。調査結果によれば、組織で働く人が「メンタル不調の原因」として1番に挙げるのは「職場の人間関係」です。
結果を見ると一目瞭然ですが、2位以下に大差をつけて「職場の人間関係」が1位に挙がっています。このことからもわかるように、職場の人間関係は働く人のメンタルやモチベーションに大きな影響を与えています。当たり前のことですが、新人のメンタル不調防止を考えるうえでは、人間関係のケアは非常に重要なポイントです。
メンタル不調な新人の調査結果
出典https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1907/18/news039.html

今どきの新人のストレス傾向とは

先ほどの調査は、働く人全体のメンタル不調の原因についてでしたが、新人に限るとどうなるでしょうか。下記はマンパワーグループ株式会社による22~27歳、入社2年目までの正社員男女400名を対象にした「勤務先で感じているストレス」に関する調査結果です。
ストレス原因の調査結果

(出典)

https://www.manpowergroup.jp/client/jinji/surveydata/190722.html
入社2年目までの新人・若手社員の場合、「仕事の内容」、そして、「上司との関係」が1位、2位となっています。先ほどの調査では4位、5位に入っていた「仕事の難易度・能力/スキル不足」「目標達成へのプレッシャー」がグッと浮上しているようなイメージです。
また、「職場の人間関係」に関しては、とくに「上司との関係」にぐっとフォーカスされる形です。新人のメンタル不調を防ぐポイントは上記をケアすることにあると言えるでしょう。

新人のメンタル不調の兆し、4つのポイント

新人がメンタル不調に陥ると、親御さんに事情を説明する必要が生じたり、社内の雰囲気悪化や新卒採用への悪影響なども生じたりします。
少し堅い話をすれば、労働契約法では、事業主には労働者が安全な環境下で働けるようにする管理監督責任があると定められています(労働契約法第5条 安全配慮義務[健康配慮義務])。ですから、もし「気になる社員がいる」と感じつつも何の手立ても無く放置し、その結果、万が一社員がうつ病などで休職になってしまった場合、「予見できた可能性を無視した」として、責任を問われる可能性があります。したがって、メンタル不調は何としても防ぎたい事態です。

メンタル不調を防ぐためには、早期に「兆し」を捉えて、悪化する前に声をかけてケアしたり、異動させたり、仕事内容を変える・調整するなどの手を打つことが有効です。本章では、本格的なメンタル不調が生じてしまう前段階の「兆し」を捉えるポイントを解説します。

兆候1 勤怠が乱れる

例えば、以前は勤怠がしっかりしていた人の出勤時間が遅くなる、始業時間ギリギリに出社してくる、体調不良が長びくなどといった場合には要注意です。他にも、突発的な欠勤が増える/休み明け(土日休みなら月曜)の当日欠勤が多い、といったこともメンタル不調の兆候として捉えておきたい事態です。
勤怠が乱れるのは、「職場に行く」「仕事する」「上司と会う」ことに対して、精神的に抵抗感が生じている象徴です。必ずキャッチしたい兆しです。

兆候2 身だしなみに気を使わなくなる

メンタル不調の兆候としては、身だしなみに気を使わなくなるということもあります。例えば、髪が整えられていない、服にシワや汚れが目立つ、全体的に不衛生な印象を受ける、といった点が目立つようになった場合は、注意して様子を伺ったほうがよいでしょう。男性であれば、頭髪の寝ぐせやひげのそり残しが多いといった点も見逃さないようにしましょう。

兆候3 業務能力の低下、ミスが目立つようになる

業務能力の低下やミスの頻度からも、メンタル不調が疑われる場合があります。例えば、以前に比べ、仕事の進み具合が明らかに遅くなったり、判断能力が目に見えて落ちてしまったりしていることは無いでしょうか。
あるいは、以前は見られなかったミスが増えたり、依頼されたことをすっかり忘れてしまっていたりする、等もメンタル不調の兆候に起因する場合があります。とくに、まじめなタイプの人が、仕事の抜け漏れやケアレスミス、うっかり等を起こすようになった場合は要注意です。

兆候4 表情や態度に、生気や明るさが無い

上記に挙げたポイント以外に、本人の表情や態度から兆候を疑えることもあります。例えば、笑顔が少なくなる、顔つきに生気が欠けてくる、思いつめたような表情や、仕事中に何か違うことを考えているそぶりを見せる、といった場合です。あるいは、発言が少なくなったり、会話をしている途中にまるで時が止まったように固まってしまったりする、といった変化も、兆候である場合があります。
メンタル不調の兆候が見えた場合に、まず大切なことは本人の話に耳を傾けることです。初期のうちであれば、「聞いてもらった」「理解してもらった」だけで気持ちが落ち着く場合もあります。信頼関係を築けていると思う場合には上司が、信頼関係に自信がない場合には仲の良い先輩や同僚が話を聞くといいでしょう。なお、少し本格的に対応が必要な場合には、産業医やカウンセラーなどにいち早く相談することも大切です。

新人のメンタル不調を防ぐ関わり方のポイント

本章では、新人の上司や管理者の方を対象に、新人からメンタル不調を出さないようにする関わり方のポイントを3つお伝えします。

普段から、密にコミュニケーションを取る

メンタル不調は早期に捉えてケアすることで防げるものです。新人の場合、学生から社会人へと環境がガラッと変わり、生活リズムも関わる人も変わった中で、慣れない仕事に取り組んでいます。したがって、本人も自覚していないところで、気を張っていたり、ストレスが溜まっていたりすることも良くあります。上記の場合、気持ちを「吐き出す」機会が得られるだけで、改善する場合もあります。
メンタル不調の兆候を早期に捉える、新人のちょっとした変化に気づくためにも、普段から密なコミュニケーションを取ることが一番大切です。勤怠や身だしなみの乱れ、表情や声の揺れに早めに気づけるように、普段からしっかりと新人のことを見ておきましょう。
また、いつもと少し様子が違っていたり、何か気になる仕草やそぶりを感じたりしたときは、「疲れているようだけど、何かあった?」「仕事が大変そうだけど、手伝えることはある?」「今日は顔色が優れないみたいだけど、心配事でもある?」 本人の負担にならないよう、さりげなく声をかけてあげるようにしましょう。

新人がストレスや悩みを相談できる相手をつくる

「仕事のストレスを相談する相手」に関する厚生労働省の調査によると、「ストレスを相談できる相手」「実際に相談した相手」ともに、1位は家族・友人、2位は職場の上司・同僚という結果になっています。家族や友人に次いで、職場の上司や同僚が2番目に挙がっています。新人のメンタル不調を防ぐうえでは、「仕事や職場でのストレスを相談できる人が職場にいる」ということが非常に大きなポイントです。
一方で、多くの新人はストレスや悩みについて積極的に相談するわけではありません。とくに真面目な人ほど、「弱っている自分を見せたくない」「これぐらいで弱音を吐いてはいけない」と考えがちです。接点が多くなる上司や指導者が相談役になれるように信頼関係を作ることはもちろん大事です。
一方で、新人からすると「仕事の指導を受けている上司には相談しにくい…」ことも多々あります。したがって、人事からの定期面談を実施したり、他部署で年齢の近い先輩をコミュニケーション・ケアの相手とするブラザー・シスター制度を導入したりすることがおススメです。
(参考)

仕事や職業生活に関する不安、悩み、ストレスについて相談できる人の有無等

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h28-46-50_kekka-gaiyo02.pdf

話を聞くときは、「傾聴」に徹する

関わり方のポイントで最後に重要なことは、新人のストレスや悩みを聞くときは「傾聴」に徹することです。傾聴のポイントは、「受容」と「共感」です。「受容」とは、相手の気持ちや考えを否定せず、相手が話すことや伝えてきたことを、そのまま受け入れること、そして「共感」とは、相手が伝えてくれた話を、相談された人はあたかも自分自身のことであるかのように受け止め、感じることです。
つまり、新人から悩みや不安を打ち明けられた際には、話している内容の正誤等ではなく、相手の気持ちや感情を徹底的に受け止めることが大切です。「内容の良し悪し」ではなく、「そう受け止めたんだね」「そう感じたんだね」といったように、まずは目の前にいる相手の気持ちや感情に寄り添うことを念頭に置いて対応することが大切です。
新人が仕事の悩みや不安について相談に来る場合、「解決策」を求めているとは限りません。上司や先輩の立場としては、新人の相談に対して「こういう方法が良いよ!」「そういうときは、これこれこうしてみよう!」といったアドバイスを提案したくなるものです。
しかし、提案やアドバイスはかえって逆効果になってしまう場合もあります。新人は、仕事の悩みやストレス、人間関係について「しんどい」「苦しい」という気持ちを打ち明けたいだけという場合もあります善意からのアドバイスや提案でも、相手が話を聞いてほしいときのアドバイスや提案は、相手の気持ちに寄り添った態度ではないことは注意したいポイントです。

まとめ

多くの方が「苦労して採用した新人には、すくすくと成長して、イキイキと活躍して欲しい」と考えているでしょう。しかし、近年、新人がメンタル不調に陥るケースも増えています。調査結果を見ると、新人や若手がメンタル不調に陥る理由は「仕事の内容」と「上司との関係」です。この2つに注意しなら新人の様子を見ておきましょう。
メンタル不調は、早期に「兆し」に気づけば解決できることも多いものです。メンタル不調の兆しは、

  • 勤怠の乱れ
  • 身だしなみの乱れ
  • 仕事能力の低下、ケアレスミス
  • 表情や声

に現れてくるものです。
日ごろから上記のような「兆し」を捉えられるように密にコミュニケーションを取ることで、新人のメンタル不調を予防しましょう。また、「兆し」のキャッチとともに、職場の上司や先輩以外に新人が相談しやすい相手を仕組みとして作ったり(ブラザー・シスター制度等)、関わる上司や先輩が「傾聴」の心得などをトレーニングしたりすることも有効です。

なお、社員のメンタル不調に関しては、新人の上司や人事労務の管理者といえども、自分だけでの対応が難しくなる場合が起こりえます。自分たちで対処できないと感じる場合には、医師や産業医などの専門家にいち早く相談することも大切です。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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