近年の日本では、多くの中小企業で採用難といえる厳しい状況が続いてきました。2020年は、コロナ禍によって一時的な改善は起こったものの、根本的には少子化による労働人口の減少、大企業との求人倍率の格差という問題は変わりません。
記事では、中小企業が陥りがちな“採用戦略の失敗”を整理したうえで、より良い人材を採用するためのポイントを解説します。
<目次>
中小企業にとって採用戦略が重要な理由
中小企業では、社員数が少ない分、社員一人ひとりが組織に与える影響が大企業より大きくなります。したがって、中小企業にとって採用活動は、非常に重要なものとなりますし、欠員の補充や増員をうまくできないと、大きな痛手になります。
一方で、中小企業の置かれた採用環境は、大企業と比べてかなり厳しい現実があります。従業員数300にもなっています。
有効求人倍率の差を分かりやすく表現すると、大手企業は求人枠1件に1人の求職者がいるのに対して、中小企業は求人枠10件に対して1人の求職者しかいないということです。
中小企業と大手企業には、圧倒的な知名度の差があります。また、中小企業は採用予算や採用に携わる人数が少ないため、採用ノウハウもたまりづらいという特徴があります。したがって、中小企業が大企業と同じように大手求人媒体に出稿しても対等に戦うことは難しいでしょう。
そのため、中小企業の採用では、誰をターゲットにして、どのような市場で戦うか、何を武器に戦うかという戦略を定めることが、人材を確保するうえで重要になります。
中小企業が陥りやすい間違った採用戦略とは?
中小企業には、以下のような採用戦略の失敗が起こりやすい傾向があります。
大手企業と同じフィールドで勝負してしまう
主要な求人サイトは一見、登録者数が桁外れに多く、たくさんの応募がありそうに思えます。
しかし、主要な求人サイトは求人数も多い分、競争が激しい環境です。そして、一般への知名度があり、採用人数に比例して大きな予算を使って目立つ広告枠や上位表示のオプション等を使える大企業が有利になりがちなフィールドでもあります。
求人検索で上位に入らなければ求職者の目に触れることはありませんので、予算が少ない中小企業が小さな広告を出しても、なかなか露出されづらい側面もあります。また、社名を知られていなければ、応募もされづらくなってしまいます。
もちろん知名度が無くても露出のされ方、キャッチコピー等を工夫することで、戦うことはできます。しかし、戦うフィールドを誤ると、採用活動の費用対効果が悪くなってしまうという一つの事例です。
採用活動に適切なリソースを投資していない
良い人材を採用するには、「適切なリソース:手間やコスト」の投資が必要です。しかし、中小企業では、採用活動を行なう絶対量が少ないために、採用の市場観や採用ノウハウがたまりづらい傾向があります。
中小企業の場合、採用の選任者がいることも少なく、人事労務全体で数人、時には総務や管理部と兼務、また経営陣が片手間に採用活動をすることもあります。そのため、市場観や採用ノウハウが不足するのはやむを得ないでしょう。
しかし、なかには市場観を知らないために、必要なコストや工数を投資していなかったり、採用が難しいチャネルに投資していたりする場合もあります。更新されていないホームページや求人票の中身が薄いといったことも、採用難易度を引き上げる要因となります。
採用活動において、コストを抑えるためには手間と知恵を、手間を抑えるためには適切なコストを投資することが必要です。
自社の勝ち方を考えていない
中小企業の場合、知名度がなく、かつ待遇や福利厚生などで大手企業に勝つことも難しいのが一般的です。
そのため、効果性の高い採用活動をするには「誰を対象にして、どのような市場で、何を武器に戦うか?」を考える必要があります。裏返すと、「求職者にとって、自社を選ぶ理由は何か?」を考え抜くことです。
採用経験がない中小企業ほど、「自社が採りたい人物は誰か?」の視点だけで考えてしまう傾向があります。しかしそれでは、大手企業に勝つことはできません。
中小企業の採用戦略では「どのような求職者にとって自社は魅力的なのか?」「自社が採りたい人物にとって自社を選ぶ理由は何か?」をしっかり考えることが大切です。
中小企業では、「うちのような企業には魅力はない」と思いがちな傾向もあります。しかし、「社長との距離の近さ」や「意思決定のスムーズさ」「若手のうちから責任ある仕事に挑戦できる」といった、小さな組織だからこそ打ち出せるメリット・魅力もあります。
また、人が少ないからこそ、大手企業では実施が難しい福利厚生や制度をつくることも可能です。「誰からどう選ばれるか?」という視点で勝ち方をしっかりと考えましょう。
下記の記事でも課題別の解決方法を紹介していますので、参考にしてください。
中小企業が意識すべき採用戦略のポイント
良い人材を獲得できている中小企業には、以下のような共通点があります。
経営者が採用活動にコミットしている
中小企業が良い人材を採用するには、経営陣の関わりが不可欠です。中小企業やスタートアップで働く絶対的な魅力の一つである「経営陣との近さ」を武器にするには、採用活動に経営陣が関わる必要があるのです。
また、「人で口説く」うえでは、人事以外が採用に協力する体制は不可欠であり、社内のメンバーを動かせる経営陣の協力は非常に重要です。
優秀な人材を継続的に採用できている企業では、経営陣が採用にコミットして時間を割いたうえで、人事には“営業のエースと同じぐらい優秀な人材”を配置したり、適切な投資も行なったりしています。
「誰を採りたいか?」が明確である
中小企業では、全方位的な採用メッセージを配信しても、なかなか良い人材の採用は難しいでしょう。中小企業の採用では、ターゲットを明確に絞り込み、ターゲットに出会うための採用チャネルを特定して、ターゲットに響くメッセージを発信するという一貫性が大切です。
一貫性を保ち、面接や情報発信する担当者間の認識をあわせるためには、「採用したい人物像(ペルソナ)」を設定すると有効です。
明確な人物像を設定すると、一貫性と具体性のあるメッセージの発信が可能になります。以下3つの側面からペルソナを作成して、経営陣や面接官に確認しながらターゲットを絞り込むことがおススメです。
- 定量的な条件や能力面
- 価値観や性格特性
- 行動パターンの仮説
「手数が多い」もしくは「優良なパートナー」と組めている
自社にとっての勝ち方が確立できていない間は、ある程度の手数を打つことが大事です。また、採用市場のトレンドを掴んだりノウハウを吸収したりするうえでは、優良なパートナーの存在も役立ちます。
勝ち方が見えていないのであれば、小さなチャレンジを数多く試してみる、また、手数を絞りたいのであれば人材紹介や採用コンサル、求人広告代理店などと良いパートナーシップを組むことを意識しましょう。
「勝てる市場」を選択する
採用活動をする市場によって、採用の難易度は大きく変わります。例えば、「営業経験者や同業経験者の即戦力採用」は採用競合が多い市場(レッドオーシャン)であり、採用の難易度が非常に高くなります。
競合が多い市場で戦う際には、採用は「選ぶ活動」ではなく、「選ばれる活動」である意識を徹底して、前述したような「誰からどう選ばれるか?」という視点で訴求等を考え抜きましょう。
一方で、高卒、中退者、既卒者、氷河期世代などの採用競合が少ない採用市場(ブルーオーシャン)で戦うことも、勝ち方の一つです。
イメージとしては、採用基準を「実務経験」ではなく「自社で活躍するための定性的な素養」にすると、ブルーオーシャンで良い人材を採用しやすくなります。
経験を問わないということは、採用基準を下げることではありません。「採用ポジションで活躍するために何が必要なのか?」をしっかりと考察することが重要です。
PDCAをしっかりと動かす
採用活動に強い企業は、採用活動のPDCAをしっかりと回しています。
採用活動が一巡したら、「どんなターゲットを相手に、どの採用チャネルで、どんな採用メッセージを発信したときに、どんな求職者がどれぐらい集まったか?」「求職者のレベルやターゲットが含まれている割合はどうだったか?」「選考過程で魅了付けはしっかりできていたか?」などをしっかりと振り返ることが大切です。
そして「(採用活動を)もう一度やるならどうするか?」の視点で、次回への改善策を考える作業を繰り返しながら採用ノウハウを磨くことになります。
採用戦略の立案と実行、振り返りについては下記の記事でも詳しく紹介しています。
中小企業におすすめの採用手法
中小企業が採用活動を行なう際には、自社に合った採用方法を選ぶ必要があります。
一般的な採用手法の種類
一般的に、採用手法には以下のような種類があります。
- 求人サイト
- 人材紹介
- 採用イベント
- マッチングイベント
- ダイレクトリクルーティング
- リファラル採用
- SNS採用
- ハローワークなど
手法ごとに異なる特徴やメリット・デメリットがあります。求人サイトや人材紹介のなかにもさまざまな種類があります。
いまの時代は、Web上での情報収集は容易です。中小企業であっても、適切な採用チャネルを選ぶためには、ある程度情報収集することは必須です。
主要な採用手法の特徴やメリット・デメリットは以下の記事でまとめていますので、情報収集の際にぜひご覧ください。
チャネル選びの前に重要な「自社の採りたい人物の明確化」
なお、チャネル選びよりも前に大切なのは、自社の採りたい人物の明確化をすることです。中小企業の場合、大手企業と比べると採用難易度は高くなります。そのなかで「今回必須で求めるものは何なのか?」を明確にする必要があります。
採用人物を明確化したうえで、可能であれば採用競合が少ないブルーオーシャンで戦える採用手法を選びたいものです。
逆に、採用競合が多いレッドオーシャンの人材を採用したい場合は、リソースを投資することを意思決定しておく必要があるでしょう。そのうえで、ターゲットに見合った最適なチャネル選びを行なっていきましょう。
中小企業の採用で大事な「ランチェスター戦略」
中小企業が採用市場で戦うためには「ランチェスター戦略」の考え方が参考になります。
ランチェスター戦略は「市場のNo.1企業だけが強者であり、No.2以下は弱者である」と定義して、弱者は弱者の戦い方があるとする考え方です。経営やマーケティング戦略等でも有名ですが、採用活動にも応用できます。
ランチェスター戦略の考え方を踏まえて考えると、大手求人媒体や大型の採用イベントで、資金と知名度を武器にして戦うのは強者の戦い方であり、よほど秀逸なコピーライティングなどがなければ、中小企業が優位に戦うことは難しいというのは前述のとおりです。
弱者の戦い方の基本は「接近戦」です。接近戦を採用活動のチャネルで考えれば、専門性が高い特化型の求人サイト、直接メッセージを送れるダイレクトリクルーティング、「会う」ことができる人材紹介やマッチングイベントなどです。
また、少し時間はかかりますが、「認知度」ではなく「人」を前面に出すことができるSNS採用やリファラル採用も中小企業に向いた採用手法でしょう。
まとめ
採用活動がうまくいっていない中小企業が陥りがちな採用戦略の失敗には、以下のようなものがあります。
- 大手企業と同じフィールドで勝負してしまう
- 採用活動に最適なリソースを投資していない
- 自社の勝ち方を考えていない
中小企業の採用活動では、経営陣が採用活動に参加する、採用する人物像を明確にするなどがポイントになります。
採用活動において求職者と出会うためのチャネルはいろいろありますが、中小企業の採用活動では、ランチェスター戦略の考え方に基づいて「接近戦」を仕掛けられる採用チャネルが有効です。
専門性が高い特化型サイトやダイレクトリクルーティング、また確実に求職者と会える人材紹介やマッチングイベント、企業の認知度ではなく「人」を前面に押し出せるSNS採用、リファラル採用などが中小企業の採用活動には向いています。
ぜひ記事を参考に自社の採用戦略を考えて、採用活動を成功させてください。