企業が存続、成長していくためには、人材採用を成功させることが不可欠です。もし人材採用に失敗してしまうと、さまざまなデメリットやリスクが生じてしまいます。採用の失敗を避けるためには、母集団形成や選考の際に「よくあるミス」をおかさないことが大切です。
今回の記事では、採用が失敗してしまう企業によくあるミスのパターンと原因、解決策をご紹介します。ぜひ参考にしてください。
<目次>
採用失敗による経営への影響
採用に失敗してしまうと企業にどのような影響が及ぶのか、改めて確認しておきましょう。
現在・将来の人手不足を招いてしまう
当然のことですが、必要な人材が採用できなければ、将来的に人材が不足してしまいます。とくに、欠員補充で募集をかける際には、スムーズに採用して早期戦力化を図らなければ、すぐに人手不足の事態に直面してしまうでしょう。
新卒採用の場合は、ある意味では事業拡大に向けた採用であることが多くなりますので、直近での人手不足ということはなりませんが、3~5年後ぐらいに若手リーダー候補の不足、といった形で影響が出てくることが多いでしょう。
労働条件の悪化と社員のロイヤリティ低下
必要な人材を確保できなかった場合、人手不足の負担は既存メンバーに集中してしまいます。結果として、長時間労働を招いてしまったり、有給の利用がままならなくなったりと、労働条件が悪化することも考えられるでしょう。一時的な負担はやむを得ませんが、長期化すると、会社へのロイヤリティやエンゲージメントが下がってしまいますので、注意が必要です。
将来の収益減
どんな事業においても、企業の根幹をなすのは「人」です。従って、計画通りに「人」を採用できないということは、確実に将来の収益に悪影響を及ぼすでしょう。企業が将来にわたって存続し、利益を出し続けるには、人材採用を成功させることが不可欠です。
社員の年代構成がいびつになる
採用の失敗が続いて、諦めてしまうと、社員の年代構成がいびつになってしまうことがあります。とくに採用数が少ない中小企業においては、採用が数年途絶えてしまうこともよくあります。年齢構成のいびつさは将来的な世代交代、また、採用した社員の育成等にも悪影響を及ぼします。
ノウハウが途切れてしまう
中途採用の場合、退職予定者の補填という形で採用することもよくあります。その場合、退職予定のメンバーと入社人材の在職期間が重ならないと、社内のノウハウや知識、判断基準等を直接引き継ぐことができなくなってしまい、生産性が低下してしまうことに繋がります。
採用失敗が企業にもたらす影響のまとめ
採用の失敗は、短期的には目立たないことが多いのですが、数年のスパンで見ると、事業成長に向けての人材不足や既存社員のロイヤリティ低下、年齢構成のいびつさといった形で悪影響が現れてきます。一度、悪影響が生じてから是正していくことは困難ですので、早めに改善の手を打って、採用成功に向けて動いていくことが重要です。
採用が失敗してしまう3つのパターンと原因
「採用がうまくいかない」と悩んでいる中小企業には、共通するいくつかパターンがあります。代表的な3つのパターンと原因を解説しますので、参考にしてください。
パターン1:母集団形成ができていない
母集団が形成できていなければ、採用に必要な人数を確保することはできません。新卒採用と中途採用、採用したい人材のレベルによっても変わりますが、採用を成功させるには、最低でも、採用目標人数の10~20倍程度の母集団が必要となります。
母集団形成に失敗する理由はさまざまなものがありますが、主要なものとしては、下記の3つです。
- ターゲットが明確になっていないケース。とくに、求人広告等の媒体を使う場合には、単なる採用基準ではなく、「ペルソナ」と呼ばれる人物像のレベルまでターゲットをしっかりと設定して、ターゲットの価値観等に合わせて、求人広告を作成する必要があります。
- 求人広告の品質が低いケース。上記のターゲット設定ともリンクしますが、中小企業の求人広告では、事業内容や仕事内容が箇条書きになっているだけの求人票を見かけます。求人広告は、名前の通り、数多ある求人の中で、自社を選んでもらうための「広告」です。ターゲットの価値観に合わせて、自社で働く魅力をめいっぱい伝える必要があります。
- 採用チャネルやタイミングを誤っているケース。採用チャネルは、採用したいターゲットと自社の採用力に合わせて選択する必要があります。採用ターゲットが少ないチャネルに求人を出しても採用は困難ですし、登録者数が多いチャネルは競合も多くなりがちです。また、新卒採用においては、時期の選定も重要です。
パターン2:魅力付けができていない
自社の魅力付けができていないために、採用に失敗するパターンもよくあります。ここでの魅了付けは、母集団形成ではなく、母集団形成が終わってから、説明会・選考を通じての魅了付けです。説明会から選考へのステップ率が低い、選考途中で離脱されてしまう、内定を出しても承諾されない、といったことが生じている場合、魅了付けに課題があることが多いでしょう。
説明会が終わって選考が始まったら、「企業が選考する場」だと思っていらっしゃる企業の方もいらっしゃいます。もちろん間違ってはいませんが、自社で採りたい人材は他社でも採りたい人材です。
そして、基本的に求職者は複数の会社に併願していることが大半です。従って、選考プロセスにおいては、見極めと同時に、「自社が選ばれるように応募者の志望度を上げる」魅了付けが不可欠です。
選考プロセスにおいて、魅了付けのカギを握るのは面接官です。面接官の態度や印象が、会社の印象に直結します。辞退理由を聞くと、「面接官が一方的な対応で素っ気なかった」「仮に入社したとして、面接官と一緒に仕事をしたいと思えなかった」といった理由はよくありますので、注意が必要です。自社に必要な人材をしっかり見極めるのと同時に、魅了付けをおこなっていきましょう。
パターン3:適切な選考ができていない
最後は、適切な見極めができていないケースです。このケースは、「早期退職が多い」「退職まではいかないが、不満をこぼす社員が滞留してしまっている」「入社後に思ったように活躍してくれない」といった結果に繋がってきます。もちろん、入社後の受け入れ対応も重要ですが、選考における適切な見極めができていないことも上記の要因となります。
選考基準がそもそも明確になっていない、能力面にウェイトを置きすぎて社風や価値観のマッチングがされていない、面接に関する知識不足(面接で生じやすい心理的なバイアスの除去や構造面接による応募者の見極め)により適切な選考ができていないといった状況です。
人事・現場・経営者との連携不足が問題の要因となることも…
パターン1~3が起こってしまう原因が、人事、現場、経営者の連携不足であるということもよくあります。採用においては、採用市場の状況や面接の知識を最も持っている人事、逆に、働き方や必要とする人材について把握している現場、採取の合否を決めて会社の展望等を語れる経営者、三者の連携が重要です。
自社の採用力と採用市場の状況を踏まえたターゲティングをおこなわないと採用成功は困難ですし、それを踏まえて、適切な予算も必要です。また、現場で欲しい人材像と経営者が長期的な時間軸で考える採用戦略のズレも起こりがちです。しっかりと連携して、全社的に採用活動を進めていきましょう。
採用の失敗原因に応じた解決策
採用の失敗パターンに陥らないためには、どのような対策を採れば良いのでしょうか。有効な解決策を7つご紹介します。
適切なKPI設定と数値によるマネジメント
採用活動においても、事業活動と同様に数値によるマネジメントが重要です。とくに採用人数が多い場合や新卒採用は、ある程度は数値による確率論で動く部分もあります。一般的には、採用目標人数の20倍程度の母集団が目安です。厳選採用の場合には50~100倍程度です。
従って、内定承諾数のゴールから逆算して、内定数、最終面接数、一次面接数、説明会参加者数等を主要なKPIとして、いつまでにどの指標を何件まで持っていくかという数値計画とマネジメントが有効です。
数値によるマネジメントをおこなうことで、採用の進捗が明確に把握でき、軌道修正や追加施策も早期におこなえます。数値を基にしてPDCAを回すことで、自社の採用力も向上していきます。短期的に「改善」に繋がる施策ではありませんが、施策をおこなって検証するうえでの肝となる部分ですので、不十分だと感じるようでしたら、必ず強化しましょう。
KPI設定と数値によるマネジメントについては、以下の記事も参考にしてください。
ターゲット設定
母集団形成において、まず重要なことはターゲット設定(ペルソナ作成)です。採用市場の動向と自社の採用力を踏まえて、ターゲットを設定しましょう。
自社の採用力は、母集団を集める力(会社の知名度や業界・職種の人気度等の外部要因と求人広告の作成力等の内部要因)、口説く力(内定承諾を獲得するための仕事自体の魅力や待遇等の条件面と、選考プロセスや面接官の魅了付けする力)の2つでなりたちます。
採用市場の状況を踏まえて、自社の採用力で達成可能な範囲で目標設定をしないと、そもそも応募を集めることは難しいです。また、自社の採用力を超えたところで採用したいのであれば、それだけのリソース(コストや工数、優秀な人材)を投下する必要があります。
採用ターゲットは、経験、能力等といった採用基準の設定から入ることが考えやすいでしょう。その上で、社風や価値観とのマッチングから考えた性格特性や価値観を付け加え、仕事に求めることや就職の軸、行動スタイル等、「人」としての側面を肉付けしていきましょう。
こうしてペルソナを設定すると、この先でおこなう採用チャネルの選定や自社の魅力抽出もスムーズにいくでしょう。
適切な採用チャネルの選定
採用チャネルの選定は、ターゲット(ペルソナ人材)がいる場所を選ぶことが一番重要です。表現が適切ではありませんが、魚がいない場所に網を投げても、魚はとれません。自社が採用したい、会いたいと思うターゲット人材がどこにいるかを考えましょう。
ターゲット人材がいる場所を考えた次に、再び「自社の採用力」を併せて採用チャネルを検討します。自社の母集団形成力(会社や業界の人気度、広告等の作成力)が高ければ、ターゲットが多くいるマス媒体(大手求人媒体等)を使うのが効率よくなりますし、逆に、母集団形成力が相対的に高くないのであれば、マス媒体を使うよりも接近戦を挑む(対面できるイベント、専門媒体、ダイレクトリクルーティング等)のが定石です。
最後は、採用に使える工数との見合いで決定しましょう。あまり工数を割けないようであれば、人材紹介やマッチングイベントが良いですし、工数を割けるのであればダイレクトリクルーティングやイベント等も選択肢に入るでしょう。
ターゲット視点での自社の魅力分析
自社の魅力をしっかりと分析することは、求人広告等を作るうえでも、選考途中における魅了付けにおいても重要です。自社の魅力分析は、次に挙げる4つの「P」を棚卸しすることがおすすめです。
- Philosophy(会社の理念や目的)
- Profession(事業の優位性や仕事のやりがい、得られる成長)
- People(人や風土の魅力)
- Privilege(待遇や働き方)
魅力分析をする際には、「採用ターゲットの目線」で考えることが重要です。「自社が打ち出したいもの」ではなく、「採用ターゲットの目線で見て魅力になりそうなもの」を考えていきましょう。
また、各魅力を洗い出したら、母集団形成で打ち出すもの、説明会で伝えるもの、面接で伝えるものと区分しましょう。魅力がしっかりと伝わるように、具体例や証拠となる数字、エピソードや共有できる写真や顧客の声等も準備していきましょう。
魅力付け視点からの選考フローとの見直し
いまの選考フロー内で魅了付けが不十分だと感じるようであれば、選考フローにも見直しが必要かもしれません。例えば、魅了付けに振り切った“面談”を入れているか、面接の前後でどんな関わり方をしているか、応募者が意思決定するために十分な人と会っているか、等です。
面接官トレーニング
課題感があれば面接官のトレーニングも必須です。面接官のトレーニングは、魅了付けと見極め、2つの視点が必要です。
⇒「面接は選考の場であると同時に、自社の魅力を伝える場でもある」という前提条件の共有、相手の緊張をほぐすためのアイスブレイク、魅了付けするための面接の流れ、質疑応答の中で魅了付けする方法、相手のコミュニケーションタイプや動機に合わせた情報抵抗の仕方、志望度や競合状況等のヒアリングポイントetc
⇒面接で生じやすい心理的なバイアスの存在、基本的な質問項目と質問してはいけない項目、相手の実力や特性を見極める構造面接の手法、フィードバックを通じて相手の性格を探るやり方etc
全社の協力体制
採用は、人事と現場と経営者が一体になっておこなうことで初めて成功させられるものです。とくに魅了付けにおいては、現場のエース社員、経営陣の協力が不可欠です。「採用活動は全社の将来にとって重要であり、面接や面談に時間を割くことが必要である」と、共通認識を作ることは非常に重要です。
採用を成功に導く具体的な事例
採用活動においては、他社の事例も参考になります。上記でご紹介した施策と重複するところもありますが、HRドクターを運営する株式会社ジェイックが採用活動のレベルを上げるためにどんな取り組みをしたか、事例をご紹介します。
HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは、毎年、新卒採用を10~15名、中途採用を同数程度おこなっています。自社の採用力を高めるために、過去には以下のような取り組みをおこなってきました。
全社での協力体制
全社的に採用活動を重視しており、以下の3点をおこなっています。
- エース級の社員を人事に配属する
- 全社員が面接や面談に協力する
- 説明会の“前わら/後わら”の実施
まず、基本的なことですが、人事担当者にはエース級の社員を必ず配置します。各部門のトップセールスやマネージャークラスの人間を候補者として、人事部門への配属は経営会議で決定します。部門のエースやマネージャーを引き抜かれることは、各部門にとっては影響も大きいですが、採用活動の成功は、全社的なトッププライオリティと位置付けて配置をおこなっています。
同様に、面接に関しても役員層~マネージャー、若手社員まで、社員の10~20%ほどを採用プロジェクトのメンバーに指名して、面接や面談に対応してもらいます。これにより、応募者のロールモデルとなるような人物、相性が良い人物を、面接官や社員面談の相手として柔軟にアテンドできます。新卒採用が忙しい期間、採用プロジェクトのメンバーは週に数件の面接をおこなうことになりますが、配置と同じように、優先的に社員の工数を投資しています。
最後に、インターンや説明会等においても、説明会の開始時刻や終了時刻を社内にアナウンスして、3分5分でいいので、会場に顔を出して参加者に声をかける(イベントの開始前や終了後にわらわらと社員が顔を出して声をかける=“前わら/後わら”と呼んでいます)ことが呼びかけられています。なるべく多くの社員が顔を出すことで、職場の雰囲気を伝えたり、良い印象作りをしたりしています。
採用コンセプトの見直し
採用ターゲットや採用コンセプトに関しては、定期的に見直しをおこなっています。採用活動の支援をしているジェイックですが、客観的な視点を得るために、コンセプトの見直し等は外部のコンサルタント等にも依頼して、一緒にディスカッションをおこないます。
今後の事業計画や成長計画を踏まえて、3年後5年後に必要となる人材像を検討、それを踏まえて、複数の採用ターゲットを設定。今後、採用を強化していきたい採用ターゲットの視点で3C分析を実施します。
「いま採れている層」ではなく、「採用を強化したい層」の視点を中心に、自社の魅力や採用競合の分類、採用競合が出している採用メッセージ等を分析して、改めて採用コンセプトや訴求メッセージを作成しています。
複数の採用ターゲットに応じた採用チャネルの選定
前述の通り、複数の採用ターゲットを設定していますので、採用の目標人数に対して、各タイプを何名ずつ採用するのか、どのタイプをどの採用チャネルを中心に採るのかを決定していきます。
採用フローの見直し
採用フローについては、毎年柔軟に見直しをおこなっています。継続して採用活動を行ってきた中で、基本となる形は大きく変わりませんが、注力する採用時期等にも応じて変更します。この5年ほどでは、例えば、以下のような変更をおこなっています。
まとめ
採用活動は、企業の将来を担う人材を確保するための重要な活動です。採用失敗の痛手は、その時点では少ないですが、5年後10年後に大きな影響が出てきます。ジェイックでは、リーマンショック時に採用を控えた影響は、5年後にリーダー候補が不足して、事業計画を思うように推進していけないという結果で現れました。
採用活動が失敗するパターンはある程度決まっており、しっかりと事前に対策、PDCAをおこなっていくことで、必ず採用活動の状況は好転できます。また、対策・PDCAの積み重ねが自社の採用力として、より良い人材を確保することに繋がっていきます。