若手社員の離職防止に効果的な対策10選

更新:2025/08/05

作成:2021/01/20

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック

若手社員が離職する3つの理由と離職防止のポイント&対策を解説

若手社員の離職は、企業にとって大きな痛手です。とくに中小企業にとっては、苦労して採用した若手の離職は、採用や育成費用がムダになる、既存社員への影響も大きい、欠員補充の採用で更に費用や工数が発生する、と三重苦です。

 

「しょうがない」「やむを得ない」「いまの若者はこらえ性がない」と半ばあきらめてしまっている経営者や人事の方もいらっしゃいます。確かに、厚生労働省が発表する「新規学卒者の離職状況」を見ると、大卒新卒の入社3年以内離職率は30~35%ぐらいのラインでずっと安定しており、何年も大きな動きはありません。

 

若手の離職は、原因を把握して、しっかりと手を打つことで防ぐことができます。記事では、若手社員が離職する主な理由と、離職防止のポイント・対策を解説します。

 

<目次>

若手社員の離職に関する現状

最初に若手社員の離職率を確認しましょう。

 

大卒で入社3年以内に3割が離職

2023年10月に厚生労働省から公表された「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)」によると、

 

就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が37.0%(前年度と比較して1.1ポイント上昇)、新規大学卒就職者が32.3%(同0.8ポイント上昇)となりました。

 

と記載されており、高卒就職者、大学卒就職者のいずれも就職後3年以内に約3割が離職する状況となっています。

 

令和2年3月卒業者以前の離職率についても、厚生労働省が公表している「新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況」で知ることができますが、この資料を見ても例年、大卒者の離職率は入社3年以内に約3割が離職するという状況となっています。

 

大卒者の入社3年以内離職率の「3割」という数字は過去数十年を見ても、大きな変動はありません。

 

大卒者の入社3年以内離職率が、唯一20%台となっているのが2009年3月で、離職率28.8%となっています。2009年の離職率が低いのは、前年の2008年9月に起きたリーマンショックによる影響といえるでしょう。

 

入社3年以内離職率は約3割を基準に、景気が悪くなると就職先・転職先が容易に見つからなくなるため数ポイントの低下、逆に好景気だと数ポイントの上昇する傾向にありますが、基本的には「3年で3割」で数十年ほぼ変わりません。

 

離職率の高い業種と業界

業種・業界によって離職率には差があることをご存じの方も多いと思います。入社3年以内離職率が高い業種・業界は具体的には下記の通りです。

 

高卒

離職率

大卒

離職率

宿泊業,飲食サービス業62.6% 宿泊業,飲食サービス業51.4%
生活関連サービス業,娯楽業57.0% 生活関連サービス業,娯楽業48.0%
小売業48.3% 教育,学習支援業46.0%
教育,学習支援業48.1%医療,福祉38.8%
医療,福祉46.4%  小売業38.5%

*出典:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)

 

高卒の新入社員で見た場合には、最も離職率が高い「宿泊業,飲食サービス業」では、実に入社3年以内に約6割が離職するというデータとなっています。また、大卒新入社員でも「宿泊業,飲食サービス業」では入社3年以内に約5割が離職するという状況となっています。

 

企業規模による離職率差と平均

企業規模によっても離職率には差があります。同資料「新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率」によると、企業規模別に見た新規高卒者、新規大卒採用者の就職後3年以内の離職率は、以下のようになっています。

 

事業所規模高卒大卒
5人未満60.7%54.1% 
5~29人51.3% 49.6%
30~99人43.6%40.6%
100~499人36.7%32.9%
500~999人31.8%30.7%
1,000人以上26.6%26.1%

*出典:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)

 

企業規模が大きくなるほど離職率は低くなる傾向にあります。ただし、規模が1,000人以上の大企業においても新規大卒採用者の26.1%が3年以内に退職しており、企業規模を問わず若手社員の離職を防ぐことはとても重要なことだといえます。

 

若手社員の離職を防ぐために、まずは離職する理由を理解することが必要です。そして適切な対策を取ることで、若手社員の離職率を下げていくことができるでしょう。

 

若手社員が離職する6つの理由

若手社員の離職を防ぐためには、どうして離職するのかという理由を知ることが欠かせません。若手社員が早期で離職する主な原因は、「リアリティショック」です。リアリティショックとは、入社前や配属前に「想像」していた環境と、入社して、または配属されて実際に味わう「現実」のギャップを指します。

 

以下に離職理由を6つ紹介しますが、いずれもリアリティショックに集約されるといえるでしょう。入社前の想像と現実のギャップが大きければ、当然ストレスも増しやすくなります。離職理由として「仕事上のストレスが大きい」からという回答も多いですが、背景には入社前に「思い描いていた理想」と「入社後の現実」のギャップの大きさがあることは間違いないでしょう。

 

仕事上のストレス

若手社員が離職する理由として多く挙げられるのが「仕事上のストレスが大きい」というものです。新入社員は、それまでの「学生」という環境とは大きく異なる「社会人」として働き、給与を得ることになります。

 

仕事上のストレスには、「仕事内容が自分に合っていない」「人間関係」「給料が低い」「労働時間が長い」といったことなども含まれています。若手社員は仕事をしていく中で様々なことをストレスに感じます。

 

たとえば、仕事には納期・期限があります。新入社員、若手社員は業務に対する知識がない、経験が浅い中で、納期に間に合わせるためのプレッシャーを感じたりすることもあるでしょう。そうしたことも、仕事のストレスの原因となるといえます。

 

ストレスを感じずに働くということは難しいことです。適度なストレスは成長につながる一方で、ストレス過多は心身に影響をおよぼし、離職につながる原因となります。

 

労働時間が長い

現代は、プライベートを大切にしたいと考える若手社員が増えています。そのため、労働時間が長かったり休日出勤が多い場合には、会社に対して不満を抱きやすくなります。

 

また、労働時間が長くなってしまうと休息を取ったり、リフレッシュをすることも難しくなってしまい、心身共に疲労が蓄積し健康を損ねるリスクも高まってしまいます。加えて有給休暇も取りにくいとなると、プライベートやワークライフバランスを大切にしたい若手社員にとっては、非常に労働環境が悪い会社と感じられてしまいます。労働時間や休日に対しての不満は、離職へ気持ちが傾いてしまう大きな原因となります。

 

なお、このあたりの「サービス残業」や「休日出勤」「残業」「有給休暇の利用」に関する感覚は昭和世代と令和の新入社員であるZ世代で大きく異なります。昭和の感覚で「これぐらいは当たり前だよ」と思っていると要注意です。

 

会社の将来性・安定性に期待が持てない

就職活動時には自分なりにしっかりと応募企業の情報収集をした、と思っていても実際に入社して働き始めてみると、会社の将来性や安定性に不安を感じる場面があり、離職を考え始めるといったケースもあります。

 

  • 入社した直後に上司が退職した
  • リストラがあった
  • 人間関係が悪い
  • 賞与がカットされている
  • 実は経営状況が芳しくない
  • 新規事業の失敗が続いている

など、外部にいては分かりにくい状況もあるでしょう。

 

また、若手社員にとってはIT活用は当たり前の感覚といえます。業界・業種、企業によってはIT化やICT化が進んでおらず、経営層にもIT導入による業務効率化の意思が感じられない、といった場合には会社の将来性に不安を感じる要因となります。

 

とくに、いまの若手層は転職が当たり前の感覚であり、会社が自分の人生を保証してくれるとは思っていません。その分、自分の市場価値といったものに敏感であり、早期のキャリア形成志向があります。その結果、会社としての将来性や安定性にリスクを感じれば、さっさと転職を決めるという価値観が強いでしょう。

 

仕事にやりがいを感じない

離職理由で大きな部分を占めているのが、「仕事にやりがいを感じない」というものです。若手社員にとって、プライベートを大切にするために適切な労働時間であること、休日がしっかり取れることも重要ですが、それと同じくらいに大切なのが「仕事のやりがい」です。つまり、仕事を通じて得られる達成感や成長実感のことです。

 

もちろん入社後、経験が浅いうちは、自ら考えて行動して大きな成果を上げることは難しいでしょう。しかし、そうした若手世代にも、仕事のやりがいを感じてもらうことは必要です。

 

今は正解のない仕事が多く、自分の仕事の成果が見えにくく、やりがいを感じにくいことに悩む若手社員も多いと言われています。そのため重要になってくるのが、顧客から感謝の言葉を貰う、上司から認められる、といった他者からの承認です。こうした他者からの承認は若手社員にとって仕事のやりがいにつながるでしょう。

 

また、いまの若手社員にとって給料や休日と同じぐらい大切なのが、達成感や成長実感です。これらに加え、仕事のやりがいを感じられないことで、モチベーションダウンや離職要因に繋がります。

 

既卒や第二新卒採用も当たり前になってきた現在、入社1〜3年であれば転職することは非常に容易です。そのため「仕事にやりがいを感じられない」ことは大きな離職要因になり、仕事のやりがいを求めて転職してしまいます。

 

転職に対してのイメージがポジティブに変化していることも、背景にあります。パーソル総合研究所の調査「~働く10,000人成長実態調査2022~20代社員の就業意識変化に着目した分析-」によると、転職を「積極的にしていくほうがよいことだ」と考えている20代前半社員は、78%にのぼります。

 

成長実感も同様です。前述の通り、今の若手社員は「会社が自分を守ってくれる」「会社は一生安泰だ」とはまったく思っていません。だからこそ、“市場価値”という言葉にも非常に敏感です。「この仕事をやって、自分の市場価値は高まるか?」「自分はこの職場で成長できているか?」ということに過敏と言ってもいいぐらいです。

 

一昔前は、 “市場価値”や“成長”というのは意欲が高い若手だけの意識でしたが、今は、逆に自分の身を守りたい“安定志向”の結果として、誰もが“市場価値”や“成長”を意識しています。

 

 

給与への不満

給与に対する不満も離職を決意する大きな理由となります。先ほど離職理由として「労働時間の長さ」を紹介しましたが、「労働時間が長いわりに給与が低い」「仕事内容が大変な割には給与が低い」といったように不満を感じると、仕事に対してのモチベーションを維持するのが難しくなってしまいます。

 

特に給与は学生時代の友達など同世代では話題に上がりやすく、周りと給与を比較して自分だけが低いことが分かると、ショックを受けるケースもあります。実力主義の企業も増えており、同世代でも高給与を得ている人もいます。

 

給与に関しては既存社員の給与、またそもそもの労働生産性の問題がありますので、若手社員の離職を防ぐために簡単に変える訳にはいかないでしょう。ただし、同業他社と比較して、自社の給与は適性なのか検討することは大切です。

 

いまはインターネットを通じて、他社の給与相場なども簡単に知ることができます。また、転職媒体などの出す「あなたの適性給与」などはある程度高めのレンジになっていることも多いでしょう。中長期的に労働生産性を向上させ、市場相場並みに揃えることは必須です。

 

また労働に見合った給与がいま得られていないといった「給与への不満」も離職要因ですが、「昇給の可能性が低い場合」、もしくは「昇給しても金額が低い」といったことも離職の理由となることがあります。先ほどの会社の将来性・安定性への不安と通じるものがありますが、「将来への展望が見えない」のであれば、さっさと他社に転職した方がいいという感覚です。

 

自分のやりたい仕事ができない

若手社員が早期で離職する主な原因は、「リアリティショック」です。そこには入社前に想像していた仕事内容と違った、という場合も含まれます。

 

入社前、新入社員は様々な想像をするものですが、総じて自分にとってポジティブな想像が多いといえるでしょう。やりたい仕事に携わり、達成感や成長の手ごたえを得ながら日々働いている、といったイメージを持っているかもしれません。

 

しかし、入社して待っていたのは、想像していた「やりたい仕事」とは違う現実だった場合には大きなリアリティショックが生まれます。理想と現実の差は、若手社員にとっては大きなギャップとして感じてしまいます。

 

とくに新卒採用の選考で、過剰に理想的なキャリアを見せたり、入社後にやりたい仕事を語らせたりしている場合には要注意です。たとえば、メーカーや商社などでは、商品開発や事業開発などに携わりたいという志望者は多いですが、最初は製品を知り顧客を知るために、営業や物流の現場に数年は配属されるといったことも一般的でしょう。

 

それが悪いわけではなく、ただ、今の時代にはきちんと事前に期待値調整しておかないと離職要因になり得ます。

 

「やりたい仕事」には自己成長に関わる仕事、ということも含まれます。20代前半の若手社員の仕事選びの重視点として、「今後のキャリア形成を考えて、自身を成長させてくれる会社を選びたい」という意向が強まっています。

 

「自分のやりたい仕事ができない=自己成長の機会が得られない」といった考え方につながることもあり、離職につながる要因と言えるでしょう。

 

もし自分の望んでいた仕事ではなくても、与えられた仕事にやりがいを見出すことができれば、仕事に対してモチベーションを維持することができます。しかし、やりがいを見出すことが出来ない場合には仕事が面白いと感じられず、むしろ不満を抱えてしまい、離職する若手社員も少なくありません。

 

若手社員の仕事に対する価値観の特徴

早期の成長・キャリア形成を志向

パーソル総合研究所の調査「~働く10,000人成長実態調査2022~20代社員の就業意識変化に着目した分析-」によると、若手社員(20代正社員)が仕事を通じての早期の成長、キャリア形成(キャリアの明確化)をイメージする割合が上昇しています。

 

繰り返しになりますが、早期のキャリア形成志向が強まっているからこそ、「仕事を通じて早期に成長できている」という実感が得られない場合、いまの職場で働き続けるモチベーションを失うことが考えられます。若手世代は転職に対してポジティブに考えていることもあり、「もっと自分が成長できる職場」を求めて転職してしまう可能性が高い、ということです。

 

また、若手社員が仕事選びをする際に重視することとして、「知識・スキルが得られること」といったように、自己成長に関する項目の割合が上昇しています。キャリア形成をしていくために、成長していける職場で働くことを望んでいるということが分かります。

 

仕事を通じて成長するということは、内発的動機を重視する傾向が強い、ということでもあります。上司が適切なタイミングでフィードバックを行い、成長を実感してもらうこと、また合わせて適切な問いを行うことによって若手社員が自らキャリアを明確にしていく手助けをしていくことも、離職防止には重要だと言えるでしょう。

 

 

社会貢献を重視

若手社員が仕事選びの際に重視することとして、「社会に貢献できること」の割合が増えていることも見落としてはいけない点でしょう。20代はSDGs世代として社会貢献意識が高まっていると言われます。

 

「社会に貢献できる仕事がしたい」という意識の強まりは会社にも求めらています。「SDGsに取り組む企業に好感を持ち、自分が働く職場としても好ましい」と考える傾向があります。

 

2020年に株式会社ディスコが実施した調査では、若手社員が就活生だった頃に企業選びで重視することとして、企業の選社基準として「社会貢献度が高い」ことが1位となっていることからも、就職後も働き続ける上で企業が社会貢献度が高いことは重要な基準であると言えるでしょう。

 

独立を志向

独立・起業意向が強まっていることも、若手社員の特徴と言えるでしょう。会社を辞めて独立したい人の割合は、男性20代前半で最も高いという調査結果となっています。
参考:~働く10,000人成長実態調査2022~20代社員の就業意識変化に着目した分析-パーソル総合研究所

 

独立・起業するためには知識・スキルが必要です。そうしたことからも、仕事を通じて早期に成長できることを重視する若手社員の割合が増えている、ということも言えるでしょう。

 

転職にポジティブ

20代の若手社員は転職に対してポジティブなイメージを持っています。

 

転職へのイメージ2019年2022年
短期的に見て、収入が上がる46%60%(+14%)
新しい人脈が広がる46%67%(+21%)
人材としての市場価値が高まる65%78%(+13%)
積極的にしていくほうがよいことだ64%78%(+14%)

参考:~働く10,000人成長実態調査2022~20代社員の就業意識変化に着目した分析-パーソル総合研究所

 

となっており、転職に対して約8割が「積極的にしてくのがよい」と考えています。こうした転職に対してのポジティブなイメージがあることから、勤務先に対しての不満などが大きくなってくると、昔よりも容易に離職につながります。

 

自由な働き方を志向

若手社員の仕事への価値観として理解しておきたいことの重要なものとして、「自由な働き方を志向している」ことも見逃してはならないでしょう。特に20代前半は自由な働き方を希望する割合が高いです。

 

2022年には20代前半の約52%が「好きな時間に働きたい」と回答。また、約44%が「好きな場所で働く」ことを希望しています。

 

参考:~働く10,000人成長実態調査2022~20代社員の就業意識変化に着目した分析-パーソル総合研究所

 

背景として、コロナを契機として増えた在宅勤務、リモートワークがあります。出社せずとも働くことができる業種・職種は多く、実際に生産性を落とさずに企業活動が出来たケースも多いでしょう。

 

現時点での企業の動きとしては、出社回帰の傾向も見られますが、企業によっては引き続き「完全在宅勤務」や「在宅+出社を組み合わせたハイブリッド勤務」で働くことが可能です。

 

調査結果によると、週の勤務日数を選びたい割合も20代前半は17%、20代後半は16%。在宅勤務を希望している割合も20代前半では45%、20代後半では43%となっており、いずれも他の年代よりも高い割合となっています。

 

こうした若手社員の働き方の希望も考慮しながら、柔軟に働ける労働環境作りが求められているといえます。

 

若手社員の離職防止を怠るリスク

優秀な人材を確保することが難しいからこそ、企業は「いかに優秀な人材を確保するか?」に意識が向きがちです。しかし、離職が容易に生じやすいからこそ、「採用」と「定着」はセットで考える必要があります。人材を定着させることができなければ、多くのトラブルを引き起こしかねません。離職防止を怠ってしまうとどのようなリスクが発生していくのかを見ていきましょう。

 

優秀な人材が流出してしまう

離職防止を怠ることの最大のリスクが、優秀な人材の流出です。

 

最近は「優秀な人ほどすぐに辞めてしまう」と頭を抱える企業も少なくありません。激しい人材獲得競争の中では、優秀人材が、今よりも良い待遇や仕事のやりがいのある環境を求めて抜けていってしまったり、ヘッドハンティングされて引き抜かれたりといったことも起こります。

 

とくに前述の通り、20代中盤~30代前半ぐらいの優秀な若手層は、どの企業でも引っ張りだこです。

 

優秀人材がいなくなってしまえば、組織の生産性はそれだけ低下してしまい、企業としての競争力の低下も招いてしまうことにもなりかねません。20代~30代の次世代リーダー層の離職は、企業の将来にも影響を及ぼします。そうしたことが起こらないようにするために、離職防止の対策が必要になってきます。

 

既存社員の負担が増し、モチベーションが下がる

従業員の離職に伴って起こりがちなのが、既存社員の負担増加です。とくに中堅層や優秀層の代役が務まる人というと、簡単に見つかるというものでもありません。

 

代わりの人員を充てることができず、後任者はいまの仕事にプラスアルファで、離職した従業員の仕事を担当するようなケースも出てきます。そうなると、負担の大きさに耐えられなくなって潰れてしまい、後任者までいなくなってしまうということになりかねません。

 

それだけでなく、やはり従業員の離職は、「会社の将来性が危ないのではないか」「自分も転職を考えたほうがいいかもしれない」といった懸念を残った従業員にもたらし、モチベーションやパフォーマンス低下につながります。

 

企業イメージが低下する

従業員の離職は、企業イメージにも影響してきます。

 

職場で従業員の離職が続けば、前述の通り、従業員が組織に対して悪い印象を持ちやすくなります。また、対外的に見ても、従業員の離職が多い会社というのは、顧客や取引先に不安を与える要因ともなりかねません。「安心して取引できない」と感じられてしまうと顧客離れにもつながりかねないので、注意が必要です。

 

さらに、最近は採用時にも離職率の開示などが義務化されています。従って、離職率が過度に高くなると、採用にも悪影響を及ぼすでしょう。

 

採用・教育コストがかかってしまう

離職が発生すれば、欠員補充の必要性が出てきてしまい、その分採用コストも多くかかってしまいます。前述の通り、離職が増えれば人材も集まりづらくなり、採用活動で苦戦を強いられ、採用コストも高騰してくるでしょう。

 

当然採用後の教育コストも発生してきますので、離職発生はコスト的にも悪影響を及ぼすことになります。

 

若手社員の離職を防ぐ10の方法

若手社員の離職要因や価値観の特徴を踏まえて、若手社員の離職を防ぐ10の方法をお伝えします。

 

若手の離職を防ぐ方法① アンケートやサーベイの実施

離職防止の第一歩は、若手社員の本音や組織の課題を把握することです。定期的なアンケートやサーベイを実施することで、従業員の本音や職場に対する不満を早期に発見しやすくなるしょう。アンケートを実施する際には、会社の改善点や要望を把握し、組織として取り組むべき課題を明確にすることが大切です。

 

また、アンケートを実施する際に重要なのは、従業員が安心して回答できる環境を整えることです。回答内容が人事評価に影響しないことを事前に明確に伝える必要があります。匿名回答にすることを検討しても良いでしょう。

 

ただし、アンケートやサーベイはどうしても回答が表面的になってしまう部分もあります。場合によっては、社外1on1や社外キャリアコンサルタント等を使って定性の聞き取り調査、面談をすることも有効です。

 

効果的な離職防止策を講じるためには、まずは現状を把握することです。その上で、改善策を実施して、効果や次に解決すべき課題を把握するという組織開発サイクルを動かすことです。一度きりの調査ではなく、定期的な実施体制を整えることが大切です。アンケートやサーベイ、社外1on1を定期的に実施し、改善施策の効果を測定、継続的な改善につなげましょう。

 

若手の離職を防ぐ方法② コミュニケーション頻度を増やす

若手の離職を防ぐには、やはり普段のコミュニケーションが大事です。若手をマネジメントする上では、とくにコミュニケーション頻度のコントロールを意識すると良いでしょう。1時間の面談を1カ月に1回するよりも、3分~5分の雑談を毎日する方が、若手の感情やモチベーションの変化を感じ取ることが出来ます。

 

雑談する時は、上司が一方的にしゃべるのではなく、彼らの話を聴くことが大切です。仕事の話に限らず、趣味でも週末の過ごし方でも何でも良いのです。その中で、普段と違うものを少しでも感じたら、率直にフィードバックして若手の話を引き出しましょう。普段からコミュニケーション頻度を高く保ち、話を聴いてあげることで、「この人は何かあった時に相談できる」という信頼関係が生まれます。

 

若手の離職を防ぐ方法③ 1on1ミーティングを導入する

マネジメントの世界で「1on1ミーティング」という概念がかなり浸透してきました。『日本の人事部 人事白書2020』によれば、1on1ミーティングを導入している企業は約4割になるそうです。

 

1on1ミーティングは、名前の通り、上司と部下が1対1で定期的に面談することを指します。1on1ミーティングは、上司が業務報告を受ける場ではありません。上司が話題を指定するのではなく、部下にテーマを設定してもらい、部下の話を聴く場です。

 

仕事だけではなく、「困っている事」や「相談したいこと」等、プライベート面を含め、しっかりと話を聴きましょう。上司は「せっかくの面談機会だから…」と伝えたいことや確認したいことが色々出てくるものですが、7:3ぐらいの割合で部下に話させて、自分は聴くことを心がけましょう。1on1ミーティングで出てきた話は、部下の許可を取ったうえでメモに残し、必要であれば、次回の1on1ミーティングの時に確認すると良いでしょう。

 

1on1ミーティングは最低でも1ヶ月に1回以上の頻度で、30分~1時間ぐらいは実施しましょう。優先順位を高め、どうしても外せないスケジュールの時以外は、1on1ミーティングを優先するようにします。1度でもキャンセルしてしまうと、「忙しいから…」とキャンセルすることが習慣化してしまいがちです。気を付けましょう。

 

 

若手の離職を防ぐ方法④ やりがいを演出する

離職原因や価値観で解説した通り、いまの若手は「精神的な充足感」や「承認」、「仕事のやりがい」を大切にしています。従って、仕事の意味付けをちゃんと行ったり、やりがいを感じさせたりすることは、若手のモチベーションを高め、離職を防ぐうえで非常に重要です。

 

人によって、やりがいを感じるポイントは違います。従って、自分がマネジメントしている若手が満足感や達成感、やりがいを感じるポイントが知ることが大切です。上司が、自分の価値観ややりがいを押し付けてしまうことがないように注意しましょう。

 

たとえば、ゲームが好きで攻略することが楽しいと思う若手社員なら、小さな目標を一つ一つクリアさせるように仕事させれば、仕事にやりがいを感じやすくなるでしょう。仕事での体験だけではなく、プライベートでの体験からでも、やりがいを演出するヒントを得ることが出来ます。

 

その他にも、「誰かに感謝される」、「上司に認められる」、「頼りにされる」等も若手社員がやりがいを感じやすいポイントです。日々のコミュニケーションや仕事を進める中で、やりがいを感じられるように演出することも離職防止に効果的です。

 

 

若手の離職を防ぐ方法⑤ 長時間労働を削減する

現在、残業や休日出勤が常態化している職場は、若手社員の離職リスクが大幅に高まります。ワークライフバランスを重視する若手社員が増え、長時間労働は離職防止を図るうえで大きな障害となってしまいます。そのため、長時間労働が常態化している場合、早急な対応が必要です。

 

残業時間の実態が把握できていない、「残業しないように」と声掛けをしているが効果が無い、といった場合にはまずは実態の見える化が必要です。職場の状況に応じて、以下のような施策を検討すると良いでしょう。

  • 勤怠管理システムの導入、従業員の労働時間管理
  • 業務プロセスの見直し・業務の棚卸し
  • ITツールや自動化システムなどを導入し、生産性向上を図る
  • 部署やチームの業務量を把握し、適切な人員配置を行う

また、会社全体で残業時間を削減する方針を明確にすることも重要です。具体的には、管理職が率先して定時退社を心がける、有給休暇を取得するなど、上司から行動する必要があります。上司が遅くまで残業していると、部下も帰りにくい雰囲気が生まれてしまいます。会社全体で長時間労働を是正する文化を作り上げることが、若手社員の定着につながります。

 

なお、「仕事のやり方は変えない。求める成果も変わらない。その中で働く時間を減らせと指示だけ来る」状態は、逆に社員のエンゲージメントを下げることになります。不要な業務を洗い出して止める、業務を自動化する、そのためのプロジェクトやツールを会社主導で動かすなど、会社として実行するための処置・支援をすることが重要です。

 

若手の離職を防ぐ方法⑥ 公平・透明な評価制度を確立する

評価制度に対する不満は、若手社員の離職要因となります。公平で透明な評価制度を確立することで、従業員の納得感を高め、離職防止につなげることができます。エンゲージメントサーベイなどを用いて「従業員が人事評価制度に不満を抱いていないか」を定期的に把握することが重要です。現状の課題を明確にし、改善点を特定することで、より効果的な制度改善を図る必要があります。

 

評価制度の透明性を高めるためには、業績や評価につながるポイントを明確に示し、評価基準を全社員に公開することが必要です。評価基準が不明確だと、不満や不信感が生じやすくなります。

 

ただし、評価制度というのは本質的には「利益の分配」です。従って、原資がないのに全員の評価を上げることは不可能です。何より大切なのは「透明」な評価制度と、納得感を生むための運用です。評価面談では、評価の根拠を具体的に説明し、若手社員の成長を支援する姿勢を示すことが大切です。

 

若手の離職を防ぐ方法⑦ 上司のマネジメントスキルを向上させる

現代の若手社員は、ただ命令を受けて働くよりも、「自分の意見を聞いてもらえる」「成長をサポートしてもらえる」と感じる職場を重視する傾向があります。そのため、従来の指揮統制型マネジメントから、対話やサポートを重視した「対話型マネジメント」への転換が必要です。

 

今の時代に求められるマネジメントスキルには、傾聴力、コーチング、フィードバック、チームビルディングなどがあります。若手社員の価値観や働き方への希望を理解し、個々の特性に応じたアプローチを取ることが重要です。

 

上司による不適切な言動・ハラスメントも離職の要因です。特に昭和型のマネジメントは、現在はパワハラなどに該当するリスクも高くなっています。管理職向けの研修やトレーニングを実施し、今の時代に合わせたマネジメントスキルにアップデートすることが必要です。

 

若手の離職を防ぐ方法⑧ 福利厚生を充実させる

従業員のニーズに合った福利厚生を提供することで、従業員満足度の向上と離職防止の効果が期待できます。福利厚生の主な例としては、以下などがあります。

  • 住宅手当や家賃補助
  • 昼食代補助
  • 資格取得支援やセミナー参加補助
  • 人間ドックなど健康診断
  • レジャー施設優待
  • 特別休暇

現代の若手社員に人気の福利厚生には、リモートワークやフレックスタイムなどもあります。若手社員が求める福利厚生の内容を把握し、優先順位をつけて段階的に導入することを検討するとよいでしょう。

 

ただし、福利厚生の検討で重要なのは「希望する人が多いからやる」ということではなく、「誰に向けて福利厚生をするのか?」、そして、「どんなメッセージを込めるか?」です。

 

当然ですが、福利厚生には費用がかかります。「定着してほしい社員」に向けて福利厚生を実施する、また「どんな組織、働き方、文化を目指すのか?」という軸を明確にしながら優先順位を決めて取り組みましょう。

 

若手の離職を防ぐ方法⑨ 成長やキャリア形成を支援する

今後のキャリアに対する不安は、若手社員が離職を考える大きなきっかけとなります。現在の若手社員は、キャリア形成の中で転職を当たり前の選択肢として考えており、キャリアや成長に対する不安が離職の引き金となりやすいといえます。

 

「今の職場では成長機会が限られている」「今後のキャリアパスが不明瞭である」と感じられると、優秀な若手人材はすぐに流出していきます。キャリア形成への不安を解消することが必要です。

 

具体的には、

  • 定期的なキャリア面談の実施
  • キャリアパスの提示
  • スキルアップのための研修
  • キャリアデザイン研修の実施

などがあります。社内公募制度やジョブローテーション制度、リスキリングの提供なども効果的です。

 

若手社員が「この会社で働くことは自分の成長につながる」と考え、キャリアビジョンを持つことができ、市場価値を高めながら企業内で成長できる環境を整備することが、長期的な定着に繋がります。

 

 

若手の離職を防ぐ方法⓾ 離職防止研修を実施する

若手社員の離職を防ぐ方法として、離職防止研修を実施する方法も効果的です。離職率の高さに悩む企業は対策の一つとして導入するとよいでしょう。

 

特に若手社員の離職理由として、仕事に対する期待と現実のギャップ、リアリティショックは大きなものです。放置しておくと離職に気持ちが傾いてしまう可能性がありますので、フォローをする必要があります。

 

またリアリティショックに加えて入社後、職場での人間関係やライフスタイルの変化によるストレス、疲労の蓄積なども重なり、離職を考えやすくなっている可能性があります。こうしたことから、例えば入社1年目の社員に対しては配属して数ヶ月後に離職防止研修を実施するのが良いタイミングだといえます。

 

入社2年目、3年目の社員に対しても離職防止を考える必要があります。若手社員の入社後の状況に合わせ、離職防止研修を実施することで離職率低下に効果が期待できるでしょう。

 

離職防止研修の時期と内容、実施のポイントについて、以下の記事で詳しく紹介しています。興味のある方はご覧ください。

 

 

離職防止をサポートする研修

離職防止のためには、人間関係が円滑で安心して働ける職場環境を整えるとともに、人材の成長を継続的にサポートしていくことが重要です。HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、離職防止に役立つ研修として以下3つをご提供しております。

 

上司のコミュニケーションスキル強化研修

まず職場内の円滑な人間関係の構築に役立つのが、リーダーシップ&コミュニケーション能力を鍛えるデール・カーネギー研修です。

 

研修では、『人で動かす』で有名なデール・カーネギーが確立した人間関係の原則を実践的に身につけることができます。

 

若手社員向けの成長と対人スキル強化のための研修

コミュニケーションや考え方は、管理職側だけの問題ではありません。若手社員側にもビジネスパーソンとしての考え方や異なる価値観・世代との関係構築力を身に着けてもらう必要があります。

 

若手社員向けに、成長を促し対人スキルを強化できるのが「7つの習慣®」研修です。研修では、組織を引っ張って行けるようになるための優れた人間性を身につけることができます。

 

たとえば、若手人材の中には、評価してもらえないことの不満を抱いて辞めていく人も多いものです。研修の中では、「まず理解に徹し、そして理解される」という習慣を学びます。自らが周囲のことを理解する姿勢を持つことで、自分に求められていることが分かるようになります。

 

そうなることで、評価されるためにはどういった行動を取ればいいのかということが分かり、「がんばっているのに評価されない」という不満の解消にもつながります。

 

キャリア自律研修

社員のキャリア形成に役立つのが、キャリア自律支援プログラムです。研修では、才能診断ツールであるストレングスファインダー®を活用し、自分の強みを見出したうえで、自分のキャリアを考えます。

 

強みという軸でキャリアを考えることで、今までキャリアについて考えたことがない層も前向きにキャリアを考えることができます。また、強みという少し抽象度が高い軸で実施することで、今の仕事などにも紐づけやすくなります。

 

さらに、1対多の研修できっかけを作ったうえで、1対1のキャリア面談を組み合わせることで、しっかりと自分自身に落とし込むことができるようになっています。

 

従業員はキャリアを思い描けるようになるとともに、組織としても従業員の本音をつかむことで改善策を打てるようになります。

 

おわりに

若手の離職を防ぐことは、企業にとって非常に重要なことです。とくに中小企業にとっては、苦労して採用した若手の離職は、採用・教育コストのムダ、既存社員へのネガティブな影響、欠員補充の費用という三重苦にもなりかねません。

 

若手社員の主な離職理由は「リアリティショック」です。入社前や配属前のイメージと現実のギャップがモチベーションダウンや離職に繋がるのです。とくに古めかしい労働環境、先輩社員や上司への幻滅、仕事のやりがいや成長実感の喪失という3つのポイントは、リアリティショックが生じやすいポイントですので注意しましょう。

 

若手社員の価値観を知ることも重要です。「キャリアの明確化」「1社に囚われない独立・起業の意向」「転職に対してポジティブなイメージを持つ」「自由な働き方への志向」など、こうした価値観が背景にあることを理解することが、まず上司、管理職にも必要だと言えるでしょう。

 

コミュニケーション頻度の確保や1on1ミーティングの導入、やりがいの演出などの工夫によって、若手の離職防止は可能です。若手の離職にお悩みであれば、ぜひ記事の内容を参考に離職防止の施策に取り組んでみてください。

 

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、執行役員・取締役等を歴任後、現在に至る。

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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