部下を適切に叱ることは、人材育成するうえで重要なことです。ただし、叱り方を間違えると、上司と部下の信頼関係が壊れたり、部下のモチベーションが低下したりして逆効果になることがあります。
では、部下のミスや課題を改善し成長を促すには、どのように叱れば良いのでしょうか。
記事では、やってはいけない部下の叱り方を確認したうえで、正しい部下の叱り方、上司が怒りの感情をコントロールするコツを解説します。
<目次>
やってはいけない部下の叱り方
人材育成に正しい叱り方を取り入れていくには、以下のような部下のやる気を削ぐような間違った叱り方をしないことが大切になってきます。まずは不適切な叱り方の例を紹介しておきましょう。
人格を否定する
以下のような表現は、人格の否定です。
・「そんな注意力でよくやってきたね!」
・「お前みたいなやつはいらないんだよ!」
など
上司が部下を叱る本来の目的は、言動を改善してもらうこと、成長を促し成果を促進することです。「お前はダメだ」などの人格否定は、本人を傷つけるだけで、何も言動の改善になりません。
人格否定で相手が傷つけば、上司と部下の信頼関係が壊れ、今後の指導やフィードバックに耳を傾けてもらえなくなります。人格を否定するような叱り方は、効果はなく、上司のストレスを部下にぶつけているだけともいえるでしょう。
なお、人格を否定する叱り方はパワハラになるとも厚労省が指摘しています。コンプライアンス上も絶対に避ける必要があります。
怒鳴る・罵声を浴びせる
怒鳴ったり罵声を浴びせたりすることも、本来の「叱る」ではなく、上司の苛立ちなどの感情をぶつけているだけの「怒る」です。強い言葉で罵声を浴びせかけた場合、部下に強い恐怖心が生じてしまいます。
先ほどの人格否定と同様、上司に対する苦手意識が生まれると、率直な指摘や指導ができるだけの信頼関係も壊れてしまうでしょう。また、怒鳴ったり罵声を浴びせることもパワハラとなったり、繰り返し怒鳴ることでうつ病などを誘発する可能性もあります。
他の部下と比較する
「Aくんを見習ったら?」や「どうしてBさんみたいに早くできないの?」のように、ほかの部下と比較する叱り方もNGです。比較する叱り方は、相対的価値で部下を見ることで、人格や性格、個性を否定している側面があります。
他人と比較され続けた部下は、常に「ほかのメンバーと比べて自分はどうか?」を考えるようになり、自由な発想による意見や主体的な行動ができなくなるでしょう。
抽象的に叱る
「しっかり」「早めに」「きちんと」のように抽象的なフレーズも、基本的に叱る際には使わない方がよいでしょう。例えば、「どうして早めに連絡しないの?」と部下を叱った場合、部下の早めが「前日」であるのに対して、上司の早めが「3日前」のように認識が大きく異なる可能性があります。
抽象的な言葉はつい感覚で使ってしまいがちですが、相手の行動を是正するという意味では効果が低くなります。
大勢の前で叱る
オフィス内やミーティング中など大勢の前で叱ると、人によっては「人前で吊るし上げられた」などの恥ずかしい気持ちになることがあります。
恥ずかしさはモチベーションを落としますし、逆に、上司への怒りや反発心に変わる場合もあります。反発心が生じれば、大勢の前で叱った内容が改善されることもなく、逆に本人のやる気を削いでしまう可能性もでてきます。いずれにしても、本来の目的である「行動を是正する」ということが実現しなくなるでしょう。
長い時間拘束して叱る
何度も同じ失敗をしていたり、多くのお客様に迷惑をかけたりした場合は、上司の方にも苛立ちが溜まってしまい、長時間の叱責になりがちです。長い時間拘束して叱り続ければ、上司の気持ちはスッキリするかもしれません。
一方で拘束された側である部下は、ずっと上司の話を聞き続けることで疲弊し、自分が改善すべきポイントがわからなくなる可能性があります。
長時間の拘束で、なかなか帰宅させてもらえなかったり、精神的苦痛を受けたと部下が感じたりした場合は、パワハラになることもあるでしょう。
フォローしない
問題点を一方的に伝えるだけで相談に乗らなかったり、傷ついたり凹んだりした部下を放置するのもNGです。一方的に叱ったあとにフォローが一切ない場合、部下は「自分は嫌われている」や「見捨てられた」と感じる可能性もあります。
フォローしないと、叱った内容が相手にきちんと届き、行動の是正が行なわれているかの判断も難しくなるでしょう。
正しい部下の叱り方
部下にネガティブな指導やフィードバックをするときには、以下のポイントを取り入れることが大切です。
行動を叱る
部下にネガティブなフィードバックをするときには、本人の性格や人格ではなく、仕事における具体的な行動を叱りましょう。
例えば、仕事のやり方を何度も間違ってしまう部下には、「お前はいつもボケっとしていて、仕事のやる気あるのか?」ではなく「AとBの手順を逆にしてしまうミスを3回繰り返しているよね?」というように具体的な行動を指摘しましょう。叱る対象は「人格」ではなく「行動」です。
行動にフォーカスすることで、部下は精神的な動揺少なく叱責を受け止め、原因や具体的な改善策を考えやすくなります。なお、問題行動が複数あるときには、部下を混乱させないために、是正する優先順位が高い行動ひとつに絞って叱ることもポイントです。
理性的に諭す
怒りや苛立ちの感情に動かされず、冷静に言い聞かせるのが叱り方の基本スタンスです。どうしても感情的になってしまいがちな上司は、次の章で解説する方法で怒りをコントロールするのがおススメです。
基本的にネガティブなフィードバックは、「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、相手の記憶が鮮明なうちに指摘するのが理想です。しかし、自分の感情がコントロールできない状態で叱ると、いつしか感情が高ぶって、「怒る」モードに入ってしまいます。
上司や先輩は、少しタイミングが遅れたとしても、自分の感情が冷静なことを確認して叱りましょう。
部下本人を1対1で叱る
部下を叱責するときには、1対1で本人だけを叱るようにしましょう。
連帯責任として、本人だけでなくチーム全員を叱るような上司もいます。しかし、全員を叱ると、きちんと仕事をしているほかのメンバーは、理不尽な印象を受けてしまいがちです。また、ほかのメンバーの「叱責に巻き込まれたくない」という想いから、問題行動を起こした本人への風当たりが強くなることもあります。
チーム内の心理的安全性を維持するうえでも、叱責の対象は本人だけ、そして、1対1で叱ることを基本としましょう。
問題点を具体的に指摘する
部下に行動や考え方の改善を求めるには、具体的な指摘をすることが大切です。「たくさん」や「早めに」「きちんと」などをよく使う上司は、自分が抽象的なフレーズを用いていることに気付いていない可能性もあります。
「行動を叱る」ともリンクしますが、「定性的」ではなく「定量的」「具体的」に話や説明をする習慣をつけましょう。定量化・具体化する習慣がつくと、叱責以外のシーンでもメンバーの理解度などが向上するでしょう。
部下の面子やプライドを守る
繰り返しになりますが、叱る目的は部下に言動を改めてもらうことです。改めてもらうためには、叱責の内容を受け入れて仕事へのモチベーションを低下させない配慮が大切です。
モチベーションを下げないために大切なポイントが、面子やプライドを傷つけないことになります。相手のプライドを守るためには、先述の「人前で叱らない」や「人格否定しない」といったことも必要です。
いたずらに相手を傷つけるような「〇年目にもなるのに」「こんなこともできないのか」といった相手を否定する言葉も使わないようにしましょう。また、「いつもの君なら絶対にこんなミスしないのに何かあるのか?」「私も若いときに同じような失敗をして……」といった形でフォローするのも有効です。
短時間で済ませる
基本的に長時間の叱責をするメリットはありません。内容にもよりますが、叱責の時間は5~10分程度が適当でしょう。
長時間叱っていると、次第に自分の感情が高ぶってしまい、同じことを繰り返したり声が大きくなったりと「怒る」モードに入ってしまいがちです。自分自身が冷静でいるためにも、「要点を端的に伝える」「フォローする」「改善ポイントを伝える」という流れで手短に切り上げましょう。
感情面のフォローを行なう
叱り方に気を付けたとしても、上司から叱責を受けた部下は、多少なりともショックや憂鬱な気持ちになるでしょう。特に上司が強い言葉を使った場合などは、ショックなどの気持ちも大きくなります。
叱責で生じるネガティブな感情は、以下のように期待や前向きなフレーズで軽減することが大切になります。
・「うまくいかないときにはいつでも相談してね」
・「応援しているから頑張ってね」
など。
また叱責したあとはいつも通りに接する、相手の行動が是正されれば承認する・褒めるといった事後のフォローも大切です。
怒りの感情をコントロールしよう
頭では適切な叱り方をわかっているのに、やってはいけない叱り方をしてしまう理由として、正しい叱り方を知らないことに加えて、怒りのコントロールができず、感情的になってしまう場合もあります。
怒りをマネジメントする重要性
上司や先輩が怒ってしまうと、どれだけ正しい指摘でも相手に届かなくなります。怒りの感情に飲み込まれてしまえば、頭では理解している正しい叱り方も実践できなくなるでしょう。
結果として、部下の言動の修正やミスの防止、人材育成という目的が達成されないだけでなく、部下との信頼関係が壊れることもあります。また、最悪パワハラとして問題になることもあるでしょう。だからこそ、叱責をする上司や先輩には、怒りをきちんとマネジメントするスキルが求められます。
以下では、怒りと適切に付き合うアンガーマネジメントの技術から実践しやすく、効果も高いテクニックをいくつかご紹介します。
怒りを鎮める6秒ルールや筋弛緩法
怒りの感情は、瞬間的なものであり、「6秒でピークを越える」とされています。ですから、怒りが生じたときには、頭のなかで6秒数えたり、一時的に相手の前を離れたりする6秒ルールを実践することがおススメです。
また、人間の身体は、怒りと同時に緊張するようになっています。逆にいえば、身体をリラックスさせることで怒りを抑えることも可能です。
例えば、「10秒ほど身体に力を入れる、続いて15秒ほど脱力する」を繰り返すと、次第に筋肉の緊張がほぐれていきます。脱力を繰り返すやり方は、「漸進的筋弛緩法」と呼ばれています。
6秒ルールや漸進的筋弛緩法を実践するときには、ゆっくり深呼吸を行ない、呼吸を整えることで怒りを抑えてみてもよいでしょう。何より大切なのは、怒りが生じたときにはまず一時停止して、「自分が怒っていること」を自覚し、上記のような理性的な対策をとることです。
怒りに関する自己理解
心理的に、怒りは自分のなかの「こうすべき」という基準を相手が破ったときに生じるものです。「こうすべき」には自分の価値観や正義感、経験や知識からきた法則などが隠れています。
ですから、自分がどういう「こうすべき」を持っているかということを知っておくと、自分の感情が揺れやすい状況や怒りはじめた状態を自覚しやすくなります。
また、自分の「こうすべき」を客観的に自覚することで、自分の「こうすべき」を疑い、部下の立場に立って考えることで相手の価値観や考えに共感することもしやすくなるでしょう。
自分の「こうすべき」を絶対的なものではなく、「自分はこうしたい」「自分がこうあるべきだと思っている」と捉えることも、アンガーマネジメントを実践するコツになります。
まとめ
部下に対して以下の叱り方をすると、部下のモチベーションが下がったり、部下と上司の信頼関係が壊れたりする可能性があります。
・怒鳴る
・罵声を浴びせる
・他の部下と比較する
・抽象的に叱る
・大勢の前で叱る
・長時間拘束して叱る
・フォローしない
部下の問題行動や間違った考え方などを改善し、成長を促すには、以下の叱り方をするのがおススメです。
・理性的に諭す
・1対1で叱る