“言葉に頼らない”マネジメント──チームの空気を整えるノンバーバルの技術

更新:2025/10/06

作成:2025/10/03

「言葉で明確に伝えたつもりなのに、伝えたかったことが上手く伝わっていない」「チームの雰囲気がぎくしゃくしている」といった課題で悩まれたことはあるでしょうか?

 

こうした問題は、言語以外の要素、すなわちノンバーバル(非言語コミュニケーション)を上手く使えてないことに起因している場合もあります。マネージャーやリーダーに必要なのは、「話し方」以上に「伝わり方」の設計です。

 

本記事では、ノンバーバルを活用して”言葉に頼らない”マネジメント手法を解説します。

 

<目次>

現代の職場における、伝わり方の質の課題

多くのマネージャーが職場で直面しているのは、「言葉では伝えているのに伝えたかったことが届かない」「指示は明確なのに言葉の伝えたかったことが伝わらず、結果としてチームの雰囲気がぎこちなくなる」といった、言語以外の伝わり方の質に関する課題です。

 

その大きな要因が、普段あまり意識されない「ノンバーバルコミュニケーション」です。表情や声のトーン、姿勢、視線、沈黙の取り方──これらは言葉以上に強力なメッセージを発します。その積み重ねが部下との信頼関係を作り、伝えたいことがきちんと伝わるかというチームの「空気」を左右します[1]。

 

部下との心理的な繋がりは、業務上の的確な指示や命令だけで築けるものではなく、むしろ日々のコミュニケーションで醸成される「空気」が大きく影響します。マネージャーの笑顔の頻度や声のトーン、話すスピード、沈黙の活用といった非言語の要素を活用することで、チームの安心感ある雰囲気作りや、エンゲージメント向上に働きかけることができます。

 

マネジメントの鍵は「話す」より「感じる」力

ノンバーバルが職場の人間関係を左右する

組織のリーダーが最も重視すべきは「部下との信頼関係」です[2]。そして、信頼関係の構築において、多くのマネージャーが見落としているのが、ノンバーバルコミュニケーションの力です。

 

1971年、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが発表した研究によれば、人は言葉と非言語のメッセージが矛盾したとき、受け手は言語(7%)よりも声のトーンや話し方といった聴覚情報(38%)、表情や態度といった視覚情報(55%)を優先する傾向があると示されました[3]。

 

この「7-38-55ルール(メラビアンの法則)」は、マネージャーが部下に何を「言うか」よりも、「どのように言うか」「どのような態度で接するか」のほうが、はるかに大きな影響を与えることを示しています。

 

例えば、部下が新しいアイデアを提案した場面を考えてみましょう。

 

「いいアイデアですね」と言葉では肯定しても、無表情で視線を外し、声のトーンが平板であれば、部下は「本当は関心を持たれていない」と感じます。反対に、相手の目を見て微笑み、前傾姿勢で温かみのある声をかければ、部下は「本当に評価されている」と受け取ることができます。

 

組織心理学には「部下は上司を三日で見極めるが、上司が部下を見極めるには三年かかる」という格言があります[2]。部下はリーダーの人柄や能力を、言葉だけではなく、日常の振る舞いや態度によって判断しているのです。

 

マネージャーが整えるべき「3つの非言語領域」

効果的なノンバーバルコミュニケーションを実践するために、マネージャーが意識すべき領域は次の3つです。

 

 

1.聴覚領域:声が伝える感情と意図

声のトーン、スピード、音量、間の取り方によって、同じ言葉でも全く異なるメッセージになります。

声のトーンの調整

成果を認める際はやや高めで温かみのある声を、指導時は低めで安定した声を、相談を受ける際は柔らかく受容的な声を使い分けると効果的です。

沈黙の活用

質問の後に3〜5秒の沈黙を置くことで「あなたの意見を本当に聞きたい」という意思を示せます。また重要な指示の前後に意図的な沈黙を挟むことで、メッセージの重要性を際立たせることも可能です。

 

2.視覚領域:目に見える全てがメッセージ

表情や視線、姿勢、ジェスチャーなどの視覚的な要素は、言葉よりも強く相手に印象を与えることが多く、コミュニケーションの中で重要な役割を果たします。

表情の管理

朝の挨拶では自然な笑顔で「今日も一緒に頑張りましょう」と伝えましょう。成果を認める場面では表情で驚きや喜びを、問題が生じた場面では穏やかで安定した表情を心がけましょう。

アイコンタクトの技術

1対1では相手の目を見て話し、時折視線を外して自然なリズムをつくります。グループでは全員に均等に視線を配ることで、参加意識を高められます。

 

3.環境領域:空間が作り出す心理的効果

物理的な環境も重要なノンバーバルの要素です。大きなデスクを挟んで向かい合うよりも、同じ高さの椅子で横並びに座る方が、対等で親しみやすい雰囲気をつくれます。

 

現場で使える!安心感を伝えるノンバーバル実践

理論を学ぶだけでは、実際の現場で自然に使うことは簡単ではありません。

 

例えば、朝のチームミーティングでは、まず自然な笑顔で部屋に入り、一人ひとりと目を合わせます。そして少し高めのトーンで「おはよう、今日もよろしく」と声をかけ、全員の視線が集まったところで数秒間の間を置きます。これにより「今から大事な話をする」という雰囲気が生まれ、場が落ち着きます。

 

成果を認める場面では、驚きや喜びの感情を表情に出し、やや弾んだ声で「よくやったね!」と伝えます。言葉をかけた後はすぐに次の話題に移らず、少し沈黙して相手の表情や言葉を引き出すことで、達成感を共有できます。

 

一方で、フィードバックや指導の場面では、落ち着いた表情と安定した声で事実を伝えます。伝えたあとに3〜5秒ほど沈黙を置くことで、相手が自分の言葉を消化し、考える時間を持てます。この沈黙があるかないかで、受け取る側の心理的な負担や納得感が大きく変わります。

 

このように、表情、声、間を意識して日常のやり取りに取り入れるだけで、部下は「安心して働ける」と感じやすくなり、チームの信頼関係が深まります。

 

空気が変われば、チームの主体性が育つ

マネージャーがノンバーバルコミュニケーションを継続的に実践することで、チームの文化や雰囲気を根本から変えることができます。

 

心理的安全性の構築:部下が失敗を報告したときに、前傾姿勢で耳を傾け、穏やかな表情と落ち着いた声で応じることで「問題を隠さずに報告することが評価される」文化を育むことができます[4]。

 

創造性とイノベーションの促進:新しいアイデアを受け止めるときに興味を示し、身を乗り出して聞く姿勢を見せることで、積極的にアイデアを提案できる環境をつくることができます。

 

自律性と責任感の育成:仕事を任せる際は、安心した表情で「お任せします」と伝え、適度な距離を保つことで「信頼している」というメッセージをあらわすことができます。

 

まとめ

現代のマネジメントでは、言葉以外の要素が与える影響がますます重要になっています。実際、コミュニケーションの大部分は表情や声のトーン、仕草など非言語的な要素で構成されていると言われています。

 

「言葉に頼らない」マネジメントとは、表情や声のトーン、姿勢、視線、沈黙、環境を戦略的に活用することで、言葉の効果を何倍にも高める技術です。ノンバーバルの要素を相手の状況や感情に応じて柔軟に調整し、継続的に実践することで、チーム全体に心理的安全性と相互信頼に基づく文化を育むことができます。

 

明日からの職場で、まずは笑顔での挨拶、相手の目を見た対話、そして、適切な沈黙の活用から始めてみてください。小さな変化が、やがて大きな変革へとつながります。

 

参考資料

[1] モチベーションクラウド「ノンバーバルコミュニケーションの本質を知る!7つの活用法と伝わる技術」
https://www.motivation-cloud.com/hr2048/c274

 

[2] HRプロ「組織のリーダーが『ノンバーバルコミュニケーション』の在り方を大切にするべき理由とは」
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2852

 

[3] Mehrabian,A.(1971).SilentMessages:ImplicitCommunicationofEmotionsandAttitudes.WadsworthPublishingCompany.

 

[4] カオナビ「ノンバーバルコミュニケーションとは?種類と例、非言語の効果」
https://www.kaonavi.jp/dictionary/non_verbal_communication/

 

※「メラビアンの法則(7-38-55ルール)」は、アルバート・メラビアン教授による限定的な実験に基づく研究成果です。「矛盾するメッセージを受け取った際に、人は言語よりも非言語要素を優先する傾向がある」という条件下での結果であり、すべてのコミュニケーションに一般化できるものではありません。

 

著者

塚本 敦未(つかもと あつみ)
ノンバーバルコミュニケーション協会 代表
塚本 敦未(つかもと あつみ)
1992年静岡県生まれ。幼少期から舞台・ミュージカルに親しみ、日本大学芸術学部映画学科演技コースにて演技・音声・身体表現を幅広く学ぶ。卒業後はモデル・MCとして活動する傍ら、ウォーキング講師・スピーチ講師として延べ1,000名以上を指導。その中で、「自己表現が苦手な日本人が、自分の価値に気づけずにいる」現実を痛感し、非言語コミュニケーションの重要性に目覚める。身体や声といった“言葉以外”で伝える力こそが、個性の開花と他者とのつながりに直結すると確信。現在は企業との連携を中心に講座を展開し、今後は教育機関や行政とも協力しながら、「誰もが自分を表現できる社会」の実現を目指している。

一般社団法人ノンバーバルコミュニケーション協会
公式HP:https://nca-japan.or.jp/

 

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