心理的安全性とは?Googleが実践する生産性の高め方と測定方法を解説

更新:2023/07/28

作成:2020/12/25

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

心理的安全性とは?Googleが実践する生産性の高め方と測定方法を解説

チームのパフォーマンスを高めるうえで注目されている「心理的安全性」の概念。Googleが取り上げたことでHRや組織開発の分野で一躍有名になりました。

 

記事では、心理的安全性の定義や効果、そして混同されやすい「仲がいい」や「優しい」との違いなどを解説します。心理的安全性の高め方や測り方も解説していきますので、組織の心理的安全性を高めて、パフォーマンスをあげたいという経営者や人事、リーダーの方はぜひご覧ください。

<目次>

チームの生産性を高める心理的安全性とは?

机に座ってこちらを見つめているビジネスパーソンたち

心理的安全性は、サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)を日本語訳した心理学用語の一つであり、具体的には、「自然体の自分をオープンにでき、穏やかな気持ちでいられる環境」を意味します。

 

もう少し詳細に説明すると、心理的安全性は、「対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する認知の仕方」を示すものであり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。

 

心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対して「こんなことをいったらバカだと思われるんじゃないか」「こんなフィードバックをしたら嫌われるんじゃないか」「余計なお世話だと迷惑に感じるのではないか」といった心配をすることがありません。

 

自分の過ちを認めたり、初歩的な質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、他のメンバーがバカにしたり嫌ったりしないと信じられる安全な関係性があります。

 

心理的安全性は、ハーバード大学で組織行動学を専門とするエイミー・エドモンドソン教授によって1999年に提唱された概念であり、決して新しいものではありません。しかし、2016年にGoogleが心理的安全性の有効性を示した研究成果を発表したことから非常に注目が集まるようになりました。

 

上記の論文は、Google社内で行われた「効果的なチームを生み出す条件は何か」を命題とする大規模プロジェクト「Project Aristotle」(プロジェクト アリストテレス)の結論であり、チームの効果性を高める因子のうち、圧倒的に重要なのが心理的安全性だと説明しています。

 

心理的安全性が保たれた組織では、生産性の向上や社員のモチベーション向上といった後述する多くのメリットが生まれます。Googleでのリサーチ結果によれば、心理的安全性の高いチームのメンバーは、離職率が低く、チーム内での相乗効果を発揮させており、収益性も高いという結果が出ています。

 

 

心理的安全性と「仲がいい」「優しい」の違い

心理的安全性は、「仲がいい」や「優しい」と勘違いされることがあります。心理的安全性が高い組織において、メンバー間の関係性は良好であることが予測できますが、逆に「仲のいいチーム」や「お互いが優しい組織」の心理的安全性が高いわけではありません。

 

心理的安全性の高さとは、「リスクある行動を取ったとしても人間関係は変わらないということに対する信頼」です。リスクを取っても大丈夫だと信頼しているからこそ、自分のミスや失敗を正直に共有したり、疑問に思ったことを遠慮せずにフィードバックしたり、思いついたアイデアを率直に発言できます。

 

一方で、「仲がいいチーム」や「優しい組織」では、仲の良さや優しくあることが目的化してしまい、円満な関係を壊すことを恐れるあまり、失敗やミスを隠したり、相手へのフィードバックを遠慮したりしてしまうことが良くあります。

 

上記の状態は決して、心理的安全性が高い状態ではありません。心理的安全性が高いとは、「相手を信頼してリスクを取れる」状態を指します。

心理的安全性が高まることで得られる効果

心理的安全性の高い組織では、成功循環モデルにおける「グッドサイクル」と同じ状態だと考えられえます。成功循環モデルは、組織の状況を動的に捉えることで、理想的な組織を生み出そうとするフレームであり、MIT組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キムによって提唱されたものです。

 

端的にいえば、組織のアウトプット・パフォーマンスを高めるためには、「関係の質」を高める必要があるという考え方です。

 

 

心理的安全性の高い組織に生まれる効果

成功循環モデルのグッドサイクルでは、以下の図で示されます。

 

成功循環モデルのグッドサイクルを表した図

 

文字で解説すると以下の流れです。

 

<成功循環モデル:グッドサイクル>

 

    1. 「関係の質」
      心理的安全性が高い状態は、すなわち関係の質が高まった状態です。関係の質が高まった状態は、メンバー間の人間関係が良好で、「相手を信頼してリスクある行動を取れる」状態です。コミュニケーションも多く、「相談」や「フィードバック」が遠慮なく行われるようになります。

 

    1. 「思考の質」
      メンバー間で良い意味で「遠慮がないコミュニケーション」が交わされることで、施策がブラッシュアップされ、お互いの意見やフィードバックがヒントになって新しいアイデアやイノベーションが早発されます。

 

    1. 「行動の質」
      生み出された良質な施策やアイデアを実行していくフェーズでも、お互いを信頼して行われる相談やフィードバックが行動の質を高めます。より良いアウトプットを生み出すために周囲のサポートを求めることも出来ますし、信頼するメンバーと共に生み出した施策を実行しているという感覚は、課題や困難に向き合い、乗り越えていく主体性をもたらします。

 

    1. 「結果の質」
      相乗効果を発揮して生み出した良質な施策を、意欲の高いメンバーが、相互協力しながら実行していくわけですので、当然、結果も出やすくなります。

 

  1. 再び「関係の質」
    メンバーとの相互協力により成果を生み出した体験は、互いの信頼関係を深めます。関係の質がさらに良くなることで、新たな意見や提案などがいいやすい風土は確固たるものとなり、次の思考の質、行動の質、結果の質へと繋がっていきます。

 

心理的安全性の測り方

組織内の心理的安全性は、Googleが提唱する7つの質問項目を用いて測定することが出来ます。Q1・Q3・Q5は低い方がいい、逆にQ2・Q4・Q6・Q7は高い方がいい質問です。5段階などの選択肢で匿名形式のアンケート等を実施することがおすすめです。

 

 

Q1:チーム内でミスをすると、たいてい非難される
⇒上記は心理的安全性が低い組織の特徴です。心理的安全性が高い組織では、メンバーや仲間のミスを個人に押し付けるのではなく、組織としてより良い結果にリカバリーするために適切なフォローを行ったり、再発を防止することに焦点を当ててフィードバックがなされたりします。

 

 

Q2:チームメンバーは、難しい問題や課題を指摘しあえる
⇒心理的安全性が高い場合、メンバー同士の信頼関係が構築されているため、円満な関係を壊すことを恐れず、対処すべき課題などについて積極的な話が出来ます。つまり、相手を信頼して、リスクを恐れずにより良い未来に向けたコミュニケーションを取れるのです。

 

 

Q3:チームメンバーは、自分と異なることを理由に他者の拒絶をすることがある
⇒心理的安全性が低い環境にありがちな傾向です。心理的安全性が高い場合、自分と異なる意見や違う価値観を受け入れる余裕があります。「違うから拒絶する」のではなく、違いを受け入れて、成果を生み出すための材料とすることが出来ます。

 

 

Q4:チームに対して、リスクある行動をしても安全である
⇒ストレートに心理的安全性を訊く質問です。ここでいうリスクとは、相手から嫌われる、バカにされる、能力的な信用を失うなどの恐れがある行動です。失敗やミスを共有する、初歩的だったり的外れかもしれなかったりする質問をする、突拍子もないアイデアを提案する、相手にとってネガティブかもしれないフィードバックをするなどが、リスクある行動に当たります。

 

 

Q5:チーム内の他メンバーに助けを求めることは難しい
⇒心理的安全性が低い組織では、相談したり助けを求めたりする行動は、無知や無能と思われたり、邪魔扱いされたりするリスクがあります。そのため、業務内の不明点や一人で解決できない問題、アイデアが思い浮かばない課題に直面しても、周囲に助けを求められず、独りで抱え込んで解決しようとします。

 

 

Q6:チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動を取らない
⇒心理的安全性の高い組織には、競争よりも協力の風土があります。そのため、チーム内において、お互いの足を引っ張りあうような危機感や不安を感じることはありません。

 

 

Q7:チームメンバーと仕事をする場合、自分の才能やスキルが尊重され、活かされていると感じられる
⇒心理的安全性が高い組織では、自分の意見や考えは周囲にフラットに受け止めらます。自分の才能やスキルを周囲が尊重し、良い意味で使ってくれます。自分の強みを活かせている実感は、仕事へのモチベーションや組織へのエンゲージメントに繋がります。

 

心理的安全性を高める方法

思い思いの格好で立ちながら同じ方向を見つめている男女

繰り返しになりますが、心理的安全性が高まった状態とは、対人関係においてリスクを取る(バカにされる、嫌われる、能力的な信頼を失うetc)行動をしても安心だと感じ、お互いに対して弱い部分をさらけ出すことが出来る状態です。

 

上記を実現するためには有効な施策や姿勢をいくつか紹介します。

 

 

相手の存在を承認する

人との関係構築において最も重要なことは相手の存在を承認することです。ビジネスにおいて、相手の意見や言動に対して、反対意見を述べたり、ネガティブなフィードバックをしたりすることは問題ありません。しかし、大前提として、相手の存在を承認し、“一人の人間”としての相手に敬意を払い尊敬することが大切です。

 

 

コミュニケーションに集中する

心理的安全性を担保するための第一歩は「真剣に聴いてもらっている」「正面から受け止めてくれている」という安心感です。相手が話すときには目の前の会話に集中し、言葉以外の相手の感情や仕草に注意を払い、相手の意見から学ぼうという意志を持って受け止めましょう。

 

真剣に聴く、受け止めていることを示すためには、相手の言葉に反応を示したり、相槌を打ったりすることも効果的です。また、相手の話を理解していることを示したり、認識をすり合わせたりするために、「バックトラッキング」と呼ばれる相手の発言内容を要約して伝えるテクニックも効果的です。

 

 

意思決定に参加させる、意見を求める

チームメンバーを意思決定に参加させることも心理的安全性を高めるアプローチの一つです。意思決定に対して意見やフィードバックを求めることは、相手への尊重を示す行為です。ただし、自分と異なる意見をいわれたときに否定的な反応をしてしまうと、心理的安全性に対してマイナスの結果をもたらしますので注意してください。

 

 

発言機会が偏らないようにする

意思決定に参画してもらったり、意見やフィードバックを求めたりうえでは、メンバーの発言機会に偏りがないようにすることも大切です。テーマとなる事柄への知見や性格によって多少の偏りは生じがちですが、「自分の意見を言えなかった」と感じるメンバーが生じないように配慮が必要です。

 

余裕があるようであれば、付箋に自分の意見を書いてもらい、類似の意見の近くに貼っていくような「ラウンドロビン方式」のようなやり方を取り入れると、性格やポジションによる発言機会の差異が出にくくなります。

 

オンライン会議の場合には、付箋の代わりにオンラインのドキュメントに一斉に意見を描いてもらうやり方も有効です。

 

 

共通目的やゴールを作り、協力の風土を作る

組織の共通目的やゴールがあると、チーム内に「競争」ではなく「協力」が生まれやすくなります。ミッションやビジョンの存在は、協力を生み出す協力武器となりますし、OKRによるマネジメントなども協力の風土作りに役立つでしょう。

 

 

メンバー間の相互理解を深める

心理的安全性の高い状態を作るうえでは、業務の話だけでなく、お互いの価値観や特性、強み、またプライベートにおける側面について相互理解を深めることが大切です。相手をさまざまな側面を持った「個人」として捉えられるようになると、相手の存在を承認し、「相手の言動」と「相手の存在」を区別しやすくなります。

 

相互理解を深める方法としては、アメリカの教育学者ピーター・クラインによって開発されたGood and Newなどもおすすめです。字の通り、直近で起きた「新たな発見」や「楽しかったこと」を発表したり共有したりするワークで、仕事のみならずプライベートな側面や相手の価値観を知ることが出来ます。

 

 

自己効力感や自己肯定感を高める

お互いが変な遠慮をせず、また、自分と異なる意見や価値観を受け止める適切な自信が必要です。例えば、チームメンバーに意見やフィードバックを求めたり、自分の弱みを見せたりするためには、自分を支える自己肯定感が必要となります。

まとめ

心理的安全性とは、対人関係においてリスクを取る(バカにされる、嫌われる、能力的な信頼を失うetc)行動をしても安心だと感じ、お互いに対して弱い部分をさらけ出すことが出来る状態です。

 

元々は1999年に提唱された概念であり、目新しいものではありません。しかし、2016年にGoogleがチームの効果性を高める因子として心理的安全性こそが重要であるという発表をしたことで一躍注目されるようになりました。

 

Googleの調査では、心理的安全性が保たれたチームのメンバーは、離職率が低く、チーム内での相乗効果を発揮させており、収益性も高いという結果が出ています。

 

心理的安全性は目に見えないものですが、アンケート調査を使って計測したり、マネージャーやメンバーの姿勢によって高めたりすることが出来るものです。記事で紹介した内容から自社への導入などを進めてみてください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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