新卒採用する際、ゆくゆくは組織を背負って立つ「エース」のような存在になって欲しいと期待するものです。
しかし、実際には、将来を見込んで採用したあと、期待通りに組織を背負って立つエース級の活躍をする若手社員と、活躍できずに伸び悩む若手にわかれてしまいます。なぜ、こうした差が生まれるのでしょうか。
記事では、若手の「エース」と呼ばれる優秀人材の特徴を整理したうえで、採用した新人を若手のエースへと育てるために必要な環境づくりのポイントを紹介します。
<目次>
エースと呼ばれる若手社員5つの特徴
エース級の活躍をする若手社員は、仕事で抜群の成果を出していることはもちろん、成果以外でも他の若手社員とは違う特徴をもっています。
育成のゴール像を確認する意味で、エース級の若手社員が持つ5つの特徴を紹介します。
特徴① 自ら行動を起こす
エース級の若手社員は、人からの指示を待つことなく、何が必要かを常に考え、何をどうすべきか自ら判断し、実行します。若手のうちはできることは限られていますが、数少ないできることを見つけ、率先して取り組みます。つまり、主体性が高いのです。
積極的に働く姿勢を見て、周囲の信頼も厚くなりますし、人にやらされているのではなく自ら考え動いて仕事に取り組むことで、本人も充実感や達成感を得られます。
特徴② 客観的な目線を持っている
物事を客観的かつ多角的に見ることができるのもエースとなる若手の特徴です。自分の目線だけにとらわれず、相手の目線、他者の目線で物事を見て考えることができ、自分の価値観や判断基準だけにとらわれることがありません。
客観的な目線を持っていると、相手が自分に何を求めているかを察することができますし、自分自身を他者の目線から冷静に分析することもできます。自分の仕事ぶりを謙虚に反省したり、長所や短所も客観的にとらえたりすることで、結果的に成長スピードが早くなりますし、成果もあげやすいのです。
特徴③ 情報を的確に伝えられる
他者の目線で物事を見ることができるからこそ、相手が求めている情報を的確に伝えることができます。伝えるときは、まず相手が求める結論から伝え、その後、わかりやすく根拠や背景を説明します。ロジカルコミュニケーションができるのは論理的思考力に長けている証拠であり、仕事を進める際にも要領よく計画を立てて実行して結果を出していきます。
特徴④ 学習意欲が旺盛である
エース級の若手は自分の知識やスキルを高めるために自ら時間や機会をつくって学びます。いまの業務で高い成果をあげるために必要ということだけでなく、中長期的な視点で自分の成長に向けた学習意欲が旺盛です。
成長意欲が高いからこそ、日々の仕事でも成長につながるものを貪欲に見出そうとしており、あらゆることに注意が向き視野も広く持っています。
特徴⑤ 明るく元気でいられる習慣を持っている
エース級の若手は常に明るく元気です。明るく元気なコミュニケーションで周囲からも好かれ、良好な人間関係を築いています。人間関係が良好だからこそ、周囲の協力を得てチームワークを発揮しやすい環境となり、成果も出しやすくなります。
もちろんエース級の若手も多少のモチベーション上下はあります。しかし、自分のモチベーションを保つ習慣、モチベーションやエネルギーの源泉となる心身の健康を維持する習慣などがあり、周囲との人間関係に配慮するからこそ、「常に明るく元気に振舞える」のです。
若手をエースに育てる5つのポイント
若手社員が、前述のような5つの特徴を最初から持ち合わせていれば成長を見守るだけでいいのですが、そういう若手ばかりではありません。本章ではエース級の若手を育てる環境づくり5つのポイントを紹介します。
ポイント① 組織のミッション・ビジョンを明確にする
HRドクターを運営する研修会社ジェイックには、さまざまな企業から人材育成や組織開発の相談が寄せられます。そのなかでも多い悩み相談の一つが「若手社員が主体性に欠ける」「受け身で指示待ちの姿勢が目立つ」といったものです。
こうした問題を抱える企業は、往々にして組織のミッションやビジョンが明確になっていないか、浸透していないケースが多いです。
「組織として何を大切にしているのか」「どこに向かおうとしているのか」などがわからなければ、社員は主体性を発揮しようがありません。軸がないままに一人ひとりが自分勝手に考えて行動したら、組織としての体裁をなさなくなってしまいます。したがって、ミッションがない組織では、じつは社員に主体性を発揮されると困るのです。
しかし、人は元来、他人に指図をされて行動することを好まない生き物です。自分で考えて意思決定したい本能があります。そして、考える軸となる組織のミッション・ビジョンなどがしっかりと浸透していれば、組織のメンバーに自分で考えて行動することを促しやすくなります。
そのためには、普段からミッション・ビジョンを組織に浸透させる取り組みが必要です。特に若手社員に対しては、上司が何度も繰り返し伝えるとよいでしょう。
ポイント② 顧客の話をする習慣をつくる
仕事で成果を出すことは非常に大事です。若手をエースに育てるためには成果を出させなければなりません。しかし、成果を出すうえで業績の話ばかりをしていると、若手は業績のことしか考えなくなります。結果が好ましくないときには、なおさら自分のことしか考えず、視野が狭くなり、自分の都合を優先するようになります。
業績も大事ですが、顧客に評価されない限り、業績は上がりません。コンスタントに成果を上げられるようにするには、業績と並んで顧客に目を向けさせることが大事です。組織のなかで顧客や顧客ニーズ、顧客目線の話を増やすことが大切です。
上司は若手社員に対して、
- 自分の仕事が顧客にどのように影響するのか
- どうすれば顧客のニーズにこたえることができるのか
- 顧客は何を考えているのか
- どのような顧客がいるのか
- 顧客視点をどうやって考えるのか
といった話をすべきです。
ポイント③ フィードバックの機会を増やす
仕事で成果をあげるうえでコミュニケーションは不可欠です。ビジネスにおけるコミュニケーションは一方的に「伝える」だけでは不完全であり、正しく「伝わった」かどうかこそが重要です。
口頭やメールに関わらず、わかりやすく伝えたりしっかりと伝わるように伝えたりするためにはトレーニングが必要です。最近の若手社員はプライベートではSNSなどで短いメッセージでやりとりしていることが多く、必要な情報を論理的に秩序立てて伝えることが苦手な若手も目立ちます。
これを克服するには現場での実践しかありません。さまざまな機会を利用して実践量を増やすことで、自分が考えていることをわかりやすく的確に伝えられるように指導しましょう。
また、若手社員が口頭やメールでアウトプットしたら、要点が伝わっているか、わかりやすいかなどについてフィードバックするようにしましょう。その際、まずはアウトプットがどのような内容でも否定せずに受け止めましょう。自分の考えを「自信をもってわかりやすく、伝わるように伝えられる」ようになることがゴールです。
ポイント④ 目指すべき「エース社員のお手本」を特定する
どの組織にも誰もが認めるエース社員がおり、若手社員の格好の「お手本」になります。
なぜ、その社員がエースなのか、仕事ぶりや立ち振る舞いに確固たる理由があり、周囲から評価される要素があります。お手本となるエース社員を特定したら、「その社員のようになりたい」と若手に意欲を持たせることがスタートです。
そのうえで、お手本社員の特徴的な言動を具体的に整理します。学ぶことを「まねぶ」とも言いますが、若手社員には、エース社員の特徴的な言動と自分自身と比較させながら、自分に足りないものや強化すべき箇所を洗い出させ、日々真似する、近づく努力をさせるようにします。
お手本やゴールが明確にイメージできていること、また、指導する側と本人とでお手本やゴールを共有していることは日々の指導を効果的にして、成長をグッと加速させます。
ポイント⑤ 褒める・承認する文化を浸透させる
人は他人を見る際に、無意識のうちに短所や欠点、できていないことに目を向けがちです。特に、経験豊富な上司が若手を見れば、足りない点がいくらでも見つかります。結果的に上司から部下へのコミュニケーションはどうしても指摘や苦言、場合によっては叱責が多くなりがちです。しかし、組織のなかで叱責や苦言が多いと雰囲気は暗くなり、仕事への意欲にも悪影響を与えます。
上司が若手の長所や優れている点を伝えることを意識すると、組織の雰囲気は一変します。
もちろん、苦言や叱責しなければいけない場面もあるでしょう。その際は、指摘や叱責の回数を大きく上回るぐらい、褒めたり承認したりすることが大切です。褒められて嫌な気持ちになる人はいません。褒める回数を増やすほど、明るく前向きに頑張る社員が増えるでしょう。
若手社員を褒めて承認することで、明るく元気に仕事に取り組ませることができます。ポイントは「できることが増えた」「昨日より今日はこの点が良くなった」「このプロセスは合格だ」と小さな進歩やプロセスを見逃さずに褒めることです。承認することで若手社員に自信が芽生え、積極性や主体性を発揮するようになります。
おわりに
記事では、若手の「エース」と呼ばれる人材の特徴を整理しました。エース級の若手社員は、
- 「自ら行動を起こす」
- 「客観的な目線を持っている」
- 「的確に伝えられる」
- 「学習意欲が旺盛である」
- 「常に明るく元気である」
といった特徴を持っています。
採用した新人をエース級の若手へと育てるためには、ぜひ上記を踏まえたうえで、自ら考え行動させるためのミッション・ビジョンの浸透、外に目を向けて客観的な目線を得るために顧客に関する会話を増やす、伝える力を高めるためのフィードバックなど、会社のエースに育てるために必要な環境づくりを実施してください。
人には個性があり、未経験の仕事でもテキパキとこなして成果を出すセンスの良い若手社員がいる一方、伸び悩む若手社員もいます。伸び悩んでいる若手社員を見て能力が低いと断じるのではなく、持っている能力が開花されていないと考えて、どうすれば花を咲かせることができるのかを真剣に考えていきましょう。
若手社員を取り替えの利かない、かけがえのない存在として接すれば、必ず期待に応えてくれるはずです。