ティーチングは、「外から答えを教える」ことで相手の知識・スキル向上、成長を支援する方法です。業務知識がない人に対して基本的な知識等を教えることに効果があり、昔からある「教える」やり方です。
最近では、ティーチングと対になる方法である「コーチング」が注目されがちですが、2つの方法は優劣があるものではありません。記事では、ティーチングとコーチングの違いを確認したうえで、使い分けのポイントや、効果的なティーチングを実践するポイントを解説します。
<目次>
- ティーチングとコーチングの違いと役割
- ティーチングとコーチング、それぞれのメリット
- ティーチングとコーチングのデメリットや注意点
- ティーチングとコーチングを使い分けるポイント
- ティーチングの効果を高める3つのポイント
- コーチングの効果を高める3つのポイント
- ティーチングとコーチングを使い分けよう
ティーチングとコーチングの違いと役割
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ティーチングとコーチングはよく比較して紹介されます。最近では、“コーチングが優れたもの”として取り上げられることも多いですが、決して優劣があるわけではなく、状況によって適切に使い分けることが重要です。
ティーチングは「外から答えを教える」
ティーチングとは「具体的なアドバイスや答えを相手に提示する」指導方法です。ティーチングは「Teacher(ティーチャー)」という単語を思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。“教師が生徒に教える”という光景です。
ビジネスシーンでいえば、新入社員に業務の進め方を教えたり、中途社員に自社サービスの魅力やメリット・デメリット、販売方法などを教えたりするのがティーチングです。
研修などでまとまって教えることもあるでしょうし、OJTやマネジメントなどでも「上司やOJT指導者が“答えを教える”」のがティーチングです。
- 「今回の目標達成に向けては、新規商談の件数を確保することがポイントになるね。」
- 「新規商談をきっちり達成できれば、目標達成できる確率がグッと上がるよ。」
- 「新規商談の件数を確保するためには、○○と□□、△△のやり方がある。」
- 「自分の過去半年の実績を振り返って、どのような形で新規商談の件数を確保するか、来週の火曜日までに一度計画を作って提出してもらえるかな。」
コーチングは「相手から答えを引き出す」
コーチングは「適切な質問によって相手から答えを引き出す」ことを重視する指導方法です。具体的にアドバイスしたり、答えを教えたりすることはせず、相手が自分で考えて答えを導き出せるように促します。
「自分で答えを出す」ことで答えへの納得感が増したり、実行に動機付けされたりして、意思決定したあとの行動力が高まることがコーチングのポイントです。
研修だからティーチングということはなく、コーチングの技法を取り入れた研修進行もありますし、OJTやマネジメントにおいてもコーチングの技法を取り入れて実施できます。
- 「今回の目標達成に対する意気込みは100点満点に対して何点かな?」
- 「100点に届かない〇点分はどんな気持ちがあるだろう?」
- 「いまの時点で目標達成できる自信は100点満点で何点かな?」
- 「点数を高めるための一番大事なポイントは何だと思う?」
- 「時間や費用の制限がないとしたら、絶対達成するために何をする?」
- 「××を達成するために、支援してもらえる、使えそうなリソースは何があるかな?」
- 「出てきたアイデアのうち、実際に実施するのはどれになるかな?」
- 「いつまでに何を実施する?」
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ティーチングとコーチング、それぞれのメリット
ティーチングとコーチング、それぞれのメリットを紹介します。双方に適した場面がありますので、メリットとデメリットを理解し、どちらの方法を用いると効果的な状況かを考えて使い分けることが重要です。
ティーチングのメリット
ティーチングのメリットとしては次のようなことが挙げられます。
・短時間で意思決定や解決へ導く
・一度に大勢を対象に指導することができる
ティーチングは答えを教えて指導します。そのため、上司や指導を担当する先輩社員は業務に必要な知識・スキルを短期間で伝えることができます。とくに相手が知らない知識やノウハウを伝えることはコーチングにはできないことです。
また、ティーチングの場合には1対1の方法に限らず、1対多数での指導も可能です。研修などの講義形式をとることによってチームメンバー全員に指導する、といったこともできます。
コーチングのメリット
コーチングのメリットとしては次のようなことが挙げられます。
・実行へのコミットが高くなる
・自ら考えて行動するようになる
コーチングは相手から答えを引き出し、相手が自ら決断するように導きます。そのためコーチングを受けた相手は課題に対して高いモチベーションをもって、自主的に取り組むようになるでしょう。また、自ら決めるからこそ実行へのコミットも高まります。
さらにコーチングを通じて、自己効力感が高まる、また、答えを導き出すための「問い」を身に付ければ、自ら考えて行動することが習慣となることも期待できます。
ティーチングとコーチングのデメリットや注意点
ティーチングとコーチングには、それぞれのデメリットもあります。メリットと共にデメリットも理解してそれぞれの方法を用いることで、デメリット部分のケアや2つの手段の組み合わせもしやすくなるでしょう。
ティーチングのデメリット
ティーチングのデメリットとしては次のようなことが挙げられます。
・指導者のスキル、経験以上のことを教えられない
・相手の納得感が生まれづらく、行動コミットが高まらない
ティーチングは上司や先輩社員などが指導を行い、自分のスキルや経験を教えるやり方です。そのため、指導を受ける側はどうしても受動的になってしまいます。従って、相手の学ぶ意欲を引き出す、アクティブラーニングと組み合わせる、ティーチングに偏らないといった工夫をしないと、相手の自主性を損ねてしまうリスクもあります。
ティーチングは指導者が持つスキルや経験以上のことは教えることができません。ここにもティーチングの限界があるといえるでしょう。さらに問題解決や計画立案などに関してティーチングのみで実行すると、施策が「指示されたもの」、時には「押し付けられたもの」になってしまい、行動へのコミットが高まりにくいという側面もあります。
コーチングのデメリット
コーチングのデメリットには次のようなことが挙げられます。
・コーチ側にコーチングスキルが必要
・コーチングを受ける側にも一定のレベルが必要
コーチングにはグループコーチングといった手法もありますが、基本的には1対1で実施します。そのため、短期間で大勢のスキル向上などが必要な場合には向かないでしょう。
コーチングを行う場合、コーチ側にコーチングスキルも必要です。コーチングスキルが無い人物が指導を担当した場合、かえって指導される側のモチベーションを下げてしまったり、効果的な結論に至らなかったりする場合もあります。
さらにコーチングは問いを通じて、相手の中にあるものを引き出すやり方です。引き出すものが想いや意思、目標等であれば、相手のレベルは問いません。しかし、具体的な問題解決や計画立案などの場合には、相手に一定の知識がないとコーチングで効果的なプランを作ることは難しいでしょう。
ティーチングとコーチングを使い分けるポイント
ティーチングとコーチングは、それぞれにメリット・デメリットがあり、有効な対象者や活用シーンが変わってきます。ティーチングとコーチングを適切に使い分けるために、それぞれの特性をしっかりと理解しておきましょう。
| ティーチング | コーチング | |
| 指導方法 | 具体的なアドバイスや答えを教える | 受講者が自ら答えを出せるよう導く(引き出す) |
| 対象者 | 必要な知識・スキルがない人 | 答えを出す知識・スキルがある人 |
| 活用シーン | ・相手が知らない知識やスキル、やり方を教える ・指導内容に明確な答えがある ・緊急性が高い | ・内発的動機や主体性を高める ・相手に気付きを与える ・相手の価値観を広げる |
| メリット | ・知識やスキルを比較的早く習得できる ・一度に複数の人数を指導できる ・考えや価値観を統一できる | ・目標達成力、問題解決力が養われる ・モチベーションが上がりやすい ・決めた行動が実践されやすい |
ティーチングが適しているケース
ティーチングが適しているのは、新入や若手社員、中途社員といった、必要な知識やスキルが乏しい相手に指導を行なう場合です。知識やスキルが乏しい相手にコーチングを行なっても、相手に必要な知識やスキルがないとなかなか答えは出てきません。
したがって、まずティーチングを通じて、知識やスキル、体系的な考え方、共通言語、フレームワークなどをインプットして実践してもらうことが効果的です。もちろん経験があるベテランメンバーや管理職だとしても、異動等によって知らない職種や分野等に移った場合は、必要な知識やスキルはティーチングを通じて指導したほうが有効です。
また、ティーチングはトップダウンで物事を決めて指示していきますので、緊急性が高い場合の対応にも効果的です。例えば、トラブル対応などは正確かつ迅速な行動が重要になりますので、ティーチングでアドバイスや指示を与えて即対応していくことが必要です。
コーチングが適しているケース
コーチングが適しているのは、内発的動機や主体性を高めたいケースです。コーチングは相手から答えを引き出し、相手が自ら決断するように導きます。自ら考えて自ら意思決定させることで内発的動機を高めることができます。
相手の気付きを生んだり、価値観を広げたりする場合にもコーチングは有効です。適切な質問は、相手に気付きや新たな発見を生みます。自分で考えて気付く・発見することでより深い納得感が生まれ、行動変容等にもつながりやすくなります。
ティーチングとコーチングの使い分け
くり返しになりますが、ティーチングとコーチングは優劣がある手法ではありません。例えば、「新入社員に仕事を教える」という同じ状況だとしても、
- 仕事の進め方や段取り ⇒ティーチング
- 仕事を進めるのに必要な知識 ⇒ティーチング
- 仕事の意味付けや目的意識 ⇒コーチング
- 仕事の納期と実行への責任 ⇒コーチング
といった形で、目的や内容に応じて適した技法は変わってくるでしょう。「外から答えを教えることが向いているもの」「相手から答えを引き出すことが有効なもの」という形で、どちらかの技法に囚われることなく、柔軟に使い分けていきましょう。
ティーチングの効果を高める3つのポイント
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ティーチングを効果的に実践するためには、対象者と活用シーンを見極めることに加えて、以下のポイントを意識することが有効です。本章では効果的なティーチングを実践するためのポイント3つを解説します。
相手の現状とゴール、育成ステップの設定
ティーチングを実施する際には、相手の知識やスキルのレベル、いまの課題といった現状を把握し、相手にどうなって欲しいかという短期・中期のゴールを設定しましょう。そのうえで、ゴールにたどり着くまでの大枠のステップを描くことが大切です。
教えるうえでは、上記ができていないと教えることが場当たり的になったり、整合性が取れなかったり、一気に詰め込み過ぎたりしてしまいがちです。
What、Why、Howの3点セットでのティーチング
ティーチングをする際には、What(何をやるのか?)、Why(なぜやるのか?)、How(どうやるのか?)という3点をセットで伝えることがポイントです。
ティーチングの効果を高めるためには、何をやるのか?という全体像やテーマを伝えましょう。細かな方法論を教える前に、全体像やテーマをしっかりと伝えることで、相手は情報を受け取りやすくなったり、意味づけしやすくなったりします。
ティーチングで相手の意欲を引き出したり、納得感を生み出したりするために大事なのが「Why(なぜやるのか?)」です。「この作業、このステップにはどんな意味があるのか?」「この仕事をやることでどんな付加価値や貢献が生まれるのか?」をしっかり伝えることで、相手の姿勢が変わってきますし、モチベーションも維持しやすくなります。
WhatとWhyがあったうえで、大事なものは「How(どうやるのか?)」です。具体的な考え方、方法、ノウハウ、知識、スキル等を伝えて、行動できるようにすることがティーチングのポイントです。
4段階職業指導法
4段階職業指導法とは、第一次世界大戦中にアメリカで誕生した指導方法で、OJTを実施する際の基本となるティーチング手法です。
<4段階職業指導法>
- Step1.Show:やってみせる
- Step2.Tell:説明する
- Step3.Do:やらせてみる
- Step4.Check:フィードバック
4段階職業指導法と言うと堅苦しいですが、日本では日本海軍の名将・山本五十六が残した「やってみせ言って聞かせてさせてみせ、ほめてやらねば人は動かじ」というステップがまさに4段階職業指導法です。
まずは、指導者が実際に仕事をやってみせて、受講者に全体像を把握させます。それから仕事内容やポイントを具体的に説明したうえで、受講者に実際にやってもらいます。そして、できた部分は褒め、できなかった部分はどうすればできるかを一緒に考えたり、アドバイスしたりします。
4段階職業指導法の実践については、下記の記事で詳しく解説しています。
習熟スピードを高めるうえでは、step2の「説明」も大事ですが、最後の「フィードバック」も非常に大切です。
フィードバックは受講者に気付きを与えるとともに、モチベーションやパフォーマンスを向上させる効果があります。そのため、できるだけ具体的なフィードバックを行なうようにしましょう。
一方で、大勢の前でネガティブな内容をフィードバックしたり、大量の修正点を細かくフィードバックしたりすると、相手のモチベーションを下げてしまいます。
フィードバックのポイントは下記で詳しく解説していますので、興味あればぜひご覧ください。
コーチングの効果を高める3つのポイント
続いてコーチングを成功させるための基本となるポイントを解説します。
ラポール形成をする
ラポールとはコーチとクライアント間の信頼関係を意味する言葉です。効果的なコーチングを実践するためには、相手が本音を伝えられる“安心できる場”を設定することが必要不可欠です。
そもそも信頼関係が構築されている相手であれば、安心できる場の設定(ルールの設定等)だけで済みますが、そうではない場合にはまず相手とラポールを形成(コーチングにおける信頼関係を構築)することが大切になります。
適切な質問の引き出しを増やす
コーチングは「問いを通じて、相手の思考や感情を刺激する」技術です。相手に「適切な質問」を投げかけられるかが、コーチングの効果性を左右します。したがって、コーチングは「適切な問い」の引き出しを持つことが非常に重要です。
「GROWモデル」を活用する
GROWモデルはコーチングにおいて最もよく使われるフレームワークのひとつです。目標やゴールを達成するためのフレームワークで、相手が達成したいゴールと現状のギャップを明らかにしてもらうために活用できます。
<GROWモデル>
- Goal(目標)
- Reality(現状)
- Resource(資源)
- Option(選択肢)
- Will(意思
「GROWモデル」に関しては、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
ティーチングとコーチングを使い分けよう
ティーチングは「外から答えを教える」ことで相手の知識やスキル向上を支援する指導方法です。そして、ティーチングに対比される指導方法が、適切な質問を通じて「相手から答えを引き出す」コーチングです。
ティーチングとコーチングはどちらが優れているというものではなく、対象や内容に応じて適切に使い分けることで、効果的な人材育成やマネジメントが可能になります。
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