日本企業に限らず、組織においては、プレイヤーとして仕事をこなす能力やスキルが高く、実績を出してきた人が、管理職に昇進することが多いでしょう。
一方で、プレイヤーとして「自分で動いて成果を出すこと」と管理職・マネージャーとして「人を動かして成果を出す」、さらには「人を育てる」ことは別の能力が必要となります。
日本では「功ある者には禄を与えよ。徳ある者には地位を与えよ」といった言葉も知られていますが、管理職への登用は、人間力も含めた管理職適性を見極めなくてはなりません。管理職に向いていない人を抜擢した場合、メンバーはもちろん、本人にとってもストレスや不満が蓄積してしまうこともあるでしょう。
近年では、仕事に対する価値観の多様化にともない、管理職だけではないキャリアステップを用意する企業も増えています。記事では、管理職に向かない人の特徴と見極め方、対処方法を解説します。
<目次>
管理職への登用を実務スキルだけで判断してはいけない理由
自分の業務を推進する能力の高い人、つまりプレイヤーとして優秀な人が、優れたリーダーになれるかというと、必ずしもそうではありません。プレイヤーと管理職では、必要なスキル・役割が異なります。スポーツ界における昔からの格言、「名選手、名監督ならず」という通りです。
実務ができても、マネジメントの資質やスキルが不足している場合、少なくとも現時点では、管理職には向いていないといえるでしょう。
そもそもの本人の適性や志向が管理職向きではない場合もあります。誰を管理職に登用すべきは、今までの仕事上の評価だけでなく、マネジメント適性の有無や志向性も見極めていくことが大切です。
管理職適性の見極めに役立つPM理論
管理職適性を見極めるには、PM理論の考え方が役立ちます。本章ではPM理論の概要を解説します。
PM理論とは
PM理論とは、リーダーに求められる行動特性を2つの軸で分類して、リーダーシップの発揮を4つの状態に分類したものです。汎用性が高く、リーダーに求められる能力をわかりやすく示してくれる手法であり、リーダーの育成や組織運営を考えるうえで役立ちます。
PM理論では、リーダーとしての行動を、「P行動」と「M行動」の2軸で区分し、2つの行動の強弱からリーダーシップの状態を4つに分類します。
・P行動(Performance function)目標達成行動
⇒ 目標を設定し、達成のための計画を立て、進捗を管理するための行動。
・M行動(Maintenance function)集団維持行動
⇒ チームメンバーとの人間関係を構築し、チームワークが機能するようメンバーに働きかける行動。
上記を踏まえて、リーダーシップの発揮状態は以下の4つに分類されます。
- PM型:目標達成行動と集団維持行動の両面で優れている
- Pm型:目標達成行動に長けているものの、メンバーとの人間関係や集団維持があまり得意ではない
- pM型:集団維持行動に優れている一方で、目標達成行動が劣っている
- pm型:目標達成行動と集団維持行動、どちらも劣っている
pm型[PM理論-分類4/4]は管理職に向いていない
管理職として理想的なのは、目標達成行動と集団維持行動の両面で優れているPM型です。PM型のリーダーは、しっかりと成果を上げながら、集団としての能力やチームの結束力も高められます。
Pm型のリーダーは、成果を追求する能力には長けていますが、マネジメント力が弱く、チームが疲弊していく可能性が高いでしょう。反対にpM型のリーダーの下では、メンバー同士の関係は良好ですが、成果へのこだわりが弱く、チームシナジーも生まれにくいと考えられます。
PM型の人材を増やしていきたいところですが、現実的には貴重であり、育成や獲得は難しいでしょう。成長課題はありますが、管理職として一定の機能はできるPm型やpM型の人材をいかにしてPM型に近づけていくか、あるいは弱い部分を補完し合える配置を行なえるかが管理職登用と育成のポイントになります。
問題は、目標達成行動と集団維持行動、どちらも劣っているpm型です。業務を遂行する能力も低く、チームをまとめることも苦手です。マトリクス上のpm型に分類される人材は、客観的に見て、管理職に向いていないと判断できるでしょう。
PM理論診断テストやその他の適性検査の活用がおすすめ
目標達成行動と集団維持行動の有無やレベルを判断するには、PM理論診断テストや社員のコンピテンシー(思考特性や行動特性など)を可視化できる適性検査の活用もおすすめです。
PM理論診断テストには、無料で使えるものもあります。「メンバーに対して仕事のやり方を細かく指示するか」「メンバーが気軽に話しかけてくるか」といった質問に対し、5段階評価で答えていくことで、簡単に診断できます。
PM理論診断テストは、管理職に向いていない人の見極めだけでなく、組織内の人材の偏りや重点的に底上げが必要な能力の可視化にも役立つでしょう。
また、PM理論診断テストに限らず、多くの適性検査で、目標達成行動と集団維持行動の強弱をいくつかの要素で判断することもできるでしょう。入社時に採用検査として、全員に受けさせておき、管理職に登用する際の参考にするとよいでしょう。
近年では、適性検査を採用目的だけでなく、チームビルディング強化やメンバーのエンゲージメント向上、管理職適性の見極めなど、幅広い用途に活用するケースが増えています。さまざまな種類がありますので、検査内容などを比較して、自社に合うものを選ぶことが大切です。
なお、管理職の適性を判断する適性検査を選ぶうえで最も重要なことは、既存社員でトライアルを行い、診断結果で管理職としてのパフォーマンスを予測することができるかを確認することです。
関連資料:適性検査 | 組織診断カオスマップ2021
注意! 管理職にしてはいけない人材の特徴
管理職に必要なスキルや能力は、マネジメント教育や研修で伸ばしていくことも十分可能です。ただし、次のような特徴や性質が見られる場合、教育での矯正は容易ではなく、管理職にしてはいけない人材と判断したほうがいいかもしれません。
エンゲージメントが極端に低い
仕事や組織へのエンゲージメントが低い状態では、管理職としてのリーダーシップを発揮できる可能性はかなり低いと考えられます。従業員エンゲージメントとは、企業への愛着や貢献意欲のことです。
エンゲージメントが低い人は、企業のビジョンや目指す方向性を理解していない、仕事にやりがいを感じていない、仲間意識が薄いなどの傾向が見られます。
器用なタイプであれば、形だけはリーダーシップ行動を取れるかもしれません。しかし、管理職自身のエンゲージメントの低さは、チームメンバーのエンゲージメントやモチベーションに悪影響を与えてしまいます。
特に、エンゲージメントが極端に低い場合には、ネガティブ発言ややる気のない態度、会社への批判などが多く見られるようになり、チームメンバーの士気を著しく低下させるでしょう。
パワハラなど問題行動のリスクが高い
パワーハラスメントなど問題行動リスクが高い、あるいは過去にそうした行動を起こした人も管理職に登用してはいけません。
パワハラにはさまざまな種類があり、上司からメンバーへの殴打や足蹴りといった身体的な攻撃だけではなく、人格を否定するような発言など、精神的な攻撃も含みます。気に入らないメンバーに仕事を与えず“干す”ような行為もパワハラに該当します。
2020年6月より大企業に対して、職場におけるパワーハラスメント防止措置が事業主に義務化されました。そして、2022年4月からは中小企業に対しても義務化されました。
パワハラを放置すれば、被害者の心身の健康を不安定にし、職場の雰囲気も悪化します。さらに訴訟などが発生したり、SNSで拡散されたりした場合は、人材流出や企業イメージの低下など、企業自体も大きな損失を被る可能性が高いでしょう。
ハラスメントに関する教育研修も重要ですが、リスクが高い人を管理職に登用しなければ、問題行動自体も起きにくくなります。
部下・後進の教育に興味・関心がない
人材育成は、管理職に期待される役割の一つです。しかし、個人としては優秀でも、部下・後進の教育に関心がない人も、なかにはいます。
上司がメンバーの育成に興味がなく、「苦手」「面倒」と感じている状態では、チームメンバーの成長を引き出すことは難しいでしょう。上司が何も教えてくれないため、今の企業では成長できないと失望した優秀なメンバーに退職されるリスクも出てきます。
エンゲージメントが低い、パワハラを起こすといった人はプレイヤーとしても問題があるケースが多いですが、人材育成への興味・関心がないという人は、プレイヤーとしては問題ない場合もあります。
次の章で詳しく説明しますが、働き方が多様化するなかで仕事への価値観も大きく変わっています。最近では、管理職への昇進を望んでいない人も増えています。管理職ではなく、優れたプレイヤー・プロフェッショナルとして活躍する道を準備することで、より多くの社員のモチベーション向上につなげることもできるでしょう。
全員が管理職を目指す必要はあるのか?
現代では、管理職育成に際して「そもそも、管理職のキャリアを本人が望んでいるのか?」という部分を考慮する必要が出てきました。
ひと昔前は、リーダーに抜擢されて部署をまとめる立場になっていくことが、出世の王道コースとなっており、昇進昇格を目指す人も多かったといえます。しかし、現代ではキャリアの選択肢が多様化し、共働き世帯も急増しています。理想とする働き方やワークライフバランスは一人ひとり異なってきているのです。
多様性が重視される社会において、企業も複数のキャリアパスを用意・提示していくことがよいでしょう。管理職を目指す以外にも、専門的な知識とスキルを持ったスペシャリストとして活躍する道も用意すべきでしょう。
スペシャリストは部下となるメンバーを持たない、もしくは少人数のメンバーしかマネジメントはせず、プロフェッショナルとして、個人もしくは他者と連携して成果をあげることが重視されます。スペシャリストが持つ専門性を事業の成果に結びつけられるようにすることで、個人も組織もwin-winとなります。
スペシャリストとしてのキャリアパスを設けて、例えば、専任部長として新規事業開拓に関する特別任務を遂行する、組織外での専門的な交渉を担うといった選択肢を設けることが有効です。
まとめ
管理職適性の見極めは、PM理論で考えると考えやすいでしょう。管理職候補者をマトリクス上に配置し、目標達成行動と集団維持行動の有無やレベルをチェックするイメージがよいでしょう。目標達成行動と集団維持行動、どちらも劣っているpm型は、現時点では管理職には向いていないと判断できます。
また、管理職適性がチェックできる適性検査もあります。PM理論診断ツールや各種の適性検査を使って、管理職に向いていない人を合理的に見極め、健全かつ生産性の高い組織づくりを目指しましょう。
なお、最近では、そもそも管理職を目指さない若年層も増えており、スペシャリストとして活躍できるキャリアパスや人事制度をつくることもおススメです。