PM理論は、リーダーシップを発揮するうえでなぜ大切なのかを分かりやすく解説しています。理想的なリーダの行動特性や具体例、部下の状況に応じたマネジメント方法まで理解することが出来ます。今回は、PM理論だけでなく、PM理論と共に理解しておきたいSL理論も丁寧にわかりやすく解説していますので、是非、参考にしてみてください。
<目次>
- 「PM理論」とは?
- PM理論がリーダーシップに役立つ理由
- PM理論(4つの視点)から見るリーダシップと具体例
- PM理論で管理職のリーダシップを高める方法と具体例
- PM理論と似ている「SL理論」ってなに?
- SL理論のメリットとデメリット(注意点)
- SL理論で管理職のマネジメントスキルを進化させる
- SL理論における4つの基本的リーダーシップの型
- SL理論を活用する際の注意点
- PM理論とSL理論を併用でリーダーシップを向上させる
- まとめ
「PM理論」とは?
「PM理論って、聞いたことはあるけどなんなのだろう?」「心理学の一種?」などと思うひとは、たくさんいます。知識を活用して、組織や自分の成長へとつなげるためには、正しく言葉を理解することから始まります。最初に、「PM理論」についてインプットしていきましょう。
「PM理論」とは
PM理論とは、リーダーシップ機能を類似化するための理論です。“理論”というと、書物的で、実務では使いづらい印象があるかもしれませんが、PM理論は汎用性が高く、かなりわかりやすい理論です。PM理論は、目には見えず、評価しにくい“リーダーに求められる能力”を非常に明確に示してくれるので、組織運営やリーダーシップ開発に役立ちます。PM理論の考え方に近いものとして、1962にテキサス大学で考案されたマネジリアル・グリッドがあります。
PM理論の提唱者
PM理論は、日本の社会心理学者である三隅二不二らによって提唱されました。三隈教授は、大阪大学や九州大学で教鞭を執っており、日本の集団力学の先駆者でした。三隈教授の著書『リーダシップの科学』(三隈二不二 講談社)には、PM理論についてわかりやすく解説されていますので、ご興味がある方は、是非そちらを読んでみてください。
PM理論がリーダーシップに役立つ理由
PM理論の大枠については、前章で説明しました。つぎは、PM理論がなぜリーダシップに役立つのかを解説します。
PM理論がリーダシップや管理職に必要な理由
PM理論は2つの軸を分解して捉えると非常にわかりやすいです。PM理論は、「P行動(Performance function)目標達成行動」と「M行動(Maintenance function)集団維持行動」の2機能(2軸)で構成されます。
つまり、P行動は「成果をあげるためのリーダシップ」M行動は、「成果をあげるためのチームビルディング」というリーダーの役割・機能を指しています。
リーダーに必要な「P行動」と「M行動」
P行動とは、“目標達成行動”という字のごとく、目標を達成するために組織に働きかけるリーダーの機能・行動を指します。例えば、プロセス目標の設定、目標達成に向けた計画立案、成果を上げたり生産性を高めるための指示、納期厳守のための進捗管理等の機能・行動が該当します。
これに対してM行動は、“集団維持言行動”という通り、いいチームを作るための組織に働きかけるリーダーの機能・行動です。例えば、組織内の人間関係を良好に保つ、チームワークの維持や強化を働きかける、悩みを抱えたチームメンバーに親身に相談に乗る、部下に対する積極的な声がけ等の行動が該当します。
PM理論(4つの視点)から見るリーダシップと具体例
組織を良好な状態に保ち、成果を上げ続けるためには、P行動とM行動、両方を備えたリーダーシップを発揮することが必要です。しかし、実際には、リーダーの力量や強みによって、「課題軸となるP行動は得意であるのに、人間軸のM行動は不得意」のようにアンバランスな状況が生じます。
PM理論では、リーダーシップを構成するP行動とM行動、頭文字を取って、リーダーシップの発揮状態を4つに分類します。
P(P機能を十分に発揮している)
p(P機能をあまり発揮していない)
M(M機能を十分に発揮している)
m(M機能をあまり発揮していない)
を組み合わせた4つです。
PM型 | Pm型 | pM型 | pm型
※大文字小文字でそれぞれ意味が異なります。
1. PM型[PM理論-分類1/4]
目標達成行動と集団維持行動の両面で優れている、最も理想的なリーダーシップを発揮できているタイプです。PM型のリーダーは、目標達成に向けて具体的な計画立案や指示を出せるとともに、業務に取り組むメンバーとの関係、組織の状態を良好に保って集団をまとめ上げる力も持っています。
PM型のリーダーの下で働くメンバーは、自分の携わった業務で高い成果を出せるやりがいや、働きやすさといった高い満足度を実感しやすい傾向があります。
2. Pm型[PM理論-分類2/4]
Pだけが大文字となるPm型は、目標達成行動に長けているものの、部下との人間関係や集団維持があまり得意ではないタイプです。Pm型リーダーは、ゴールに向かってストイックに成果を出すものの、一緒に働く部下からの人望が低かったり、部下の満足度が低くなったりする傾向があります。
Pm型リーダーのチームメンバーが、リーダーの仕事の進め方等に違和感を生じた場合、M行動の部分となるフォローや心遣いがないため、人によっては不満を増大させ組織の崩壊に繋がるリスクがあります。
また、“1人の人間”として部下を考えず、トップダウン型の組織を作りやすいため、部下の自発性が弱まったり、部下が疲弊したりする傾向があります。従って、短期的には成果を上げられますが、成果を上げ続ける組織を作ったり、後継者を育て、組織を大きくしていくことが苦手です。
3. pM型[PM理論-分類3/4]
Mだけが大文字となるpM型は、集団維持行動に優れている反面、目標達成行動が劣っているタイプです。pM型のリーダーには、部下と友人のような関係を築くことによって、和気あいあいとした職場環境を作れます。
しかし、目標達成行動が弱いため、部下との関係や職場の雰囲気を重視しすぎることによって、厳しい進捗管理や指導がおこなえず、業務の成果を上げることが苦手です。pM型のリーダーの課題は、成熟した組織で平時は目立ちませんが、歯車が狂ったり、環境が変わったりする状況では、大きな欠点として露呈してきます。
4. pm型[PM理論-分類4/4]
2つの要素がどちらも小文字のpm型は、目標達成行動と集団維持行動の両方が劣っているタイプです。事業運営や目標達成へのリーダーシップも弱く、部下や組織からの人望も薄い状態です。当然、pm型の状態にいる人が、組織のリーダーになってはいけません。
PM理論は、リーダーシップの状態を、P行動とM行動という2つの軸、十分に発揮している/あまり発揮していないというレベルの掛け合わせにより、分かりやすく4つに分類することが最大の特徴です。
目標設定、計画立案、タスクブレイクダウン、進捗管理、リスク想定、人心掌握、思いやり、ビジョン発信、モチベーション管理、人材育成等、リーダーには多彩な能力が必要とされます。PM理論は、それを2つに大別してしまうことで、現状と課題を把握して、理想のリーダー像により近づくための指標となるのです。
X軸をP行動の発揮度(右がP、左がp)、Y軸をM行動の発揮度(上がM、下がm)とすると、右上が理想のリーダー像であるPMタイプです。そこに対して、自分がいまどこにいるか、リーダー自身がプロットしてみる、また、上司からのフィードバックを受けることで、現状と課題が明確になります。
P行動の例
P行動を代表する例を見ていきましょう。
<例>
- 部下やチームメンバーに指示、命令をする
- 目標達成のためのプランを設計する
- 実行の判断基準を明確に持っている
- 営業スキルなどの知識を部下にフィードバックする
M行動の例
M行動を代表する例を見ていきましょう。
<例>
- チームメンバーや部下と適切なコミュニケーションがとれる
- 部下に仕事を任せられる
- 部下がフィードバックを求めやすい環境を整ている
- 部下に意見を求めている
PM理論で管理職のリーダシップを高める方法と具体例
PM理論は、P機能(行動)とM機能(行動)、それぞれの「目的」が明確であるため、自分のP機能(行動)、M(行動)の発揮度を伸ばすための「行動」が分かりやすい点が特徴です。
また、だからこそ、管理職のリーダーシップやマネジメントスキルの向上に使いやすい理論といえます。ここでは、P機能とM機能、それぞれの発揮レベルを高めるための具体的な行動例を紹介します。
P機能(目標達成行動)の伸ばし方
P機能は、「組織の目標達成を達成するための機能(行動)」ですから、以下のような取り組みを意識的におこなうことで伸ばせます。
- 目標を明確にして、メンバーと共有する
- 目標と現状を常に把握する
- 目標達成に向けた意識や行動をメンバーに徹底させる
- 自分と各メンバー、それぞれの役割やゴールを何度も共有する
- 目標達成するためにやるべきことを噛み砕いて伝える
- 決定した施策をやり切る
- 目標達成のために決めたタスクをしっかりと管理する
- 定期的かつ適切なスパンで施策の達成状況や成果を検証する
- リーダー自身が目標に対してコミットする
組織が目標達成をするためには、達成の原動力となるチームメンバーに「ゴール地点と現在地」「ゴールまでの道のり」「自分がゴールに向けて果たすべき行動」の3つを明確に意識してもらう必要があります。
なお、目標達成行動が不得意なpM型のリーダーがP行動を伸ばす場合、部下に対して一方的にゴール確認や施策を決めて管理するだけでは、PM型に近づくことは期待できません。
なぜなら、pM型のリーダーは得てして自分自身の目標達成意欲が低い(そこにモチベーションの源泉がない)ことが多い傾向にあります。この場合に、メンバーの意識を変えて本気にさせるためには、目標をコミットしているリーダー自身の姿勢や行動を見せることが必要です。
こうした話をすると、pM型からPM型のリーダーになるためには、非常に多くの取り組みが必要だと感じられるでしょう。ですが、pM型はメンバーとの関係構築が得意ですので、いままで築いてきた信頼関係を上手に活用することで、P行動の強化;目標達成への行動強化を比較的スムーズに進めることができます。
M行動(集団維持行動)の伸ばし方
リーダーのM行動を伸ばすには、日々の仕事の中で以下のような取り組みを意識的におこなうのが理想です。
- メンバー1人ひとりに、人として関心を持つ
- メンバーのことを知る努力をする(家庭状況、趣味、モチベーション、将来の夢、いま興味関心があること)
- メンバーの表情や気持ちを観察する
- チームメンバーと定期的に面談をおこなう
- 各メンバーが考えていることを共有できる場を設ける
- メンバーを承認する、褒める
- リーダー自身が弱みや苦手なこと自己開示をする
- 時にはメンバーの気持ちに配慮する
- メンバーに頼る、期待を伝える
M行動を伸ばす要素で大事なことは、「リーダー 対 メンバー」という縦の人間関係と、「メンバー 対 メンバー」横の人間関係の両方を意識することです。
まず、リーダーとメンバーの縦関係を良好に保つには、仕事の実行だけという関係を離れて、1人の人間としての部下に興味・関心を持つことが重要です。また、意図的に、メンバーに1日1回は自分から声をかけたり、定期的に面談したりして、コミュニケーション頻度をコントロールしましょう。
また、メンバー同士の横関係に対しては、定期的にチームミーティングを開催して、全員が自身の考えを発表する機会を作るようにするのがおすすめです。すべてのメンバーが集まれない場合は、社内SNS等を活用することも良いでしょう。
なお、Pm型のリーダーは、目標達成に興味がありますので、ミーティングも事務的、またアイディアも目標達成に役立つ/役立たないで判断しがちなところがあります。時には、目標達成には関係ない仕事への想いや自分のことを喋るようなミーティングをしたり、ミーティングでもメンバーが喋りやすい雰囲気を作ることを心がけましょう。
リーダーのM行動を伸ばすうえで、大切なことは、こうした行動を通してメンバーからの信頼を得ることです。そのためにはリーダーが、メンバーに以下の2つを実感してもらえる行動を意識すると有効です。
- リーダーから仕事面で期待されている
- 毎日の仕事で自分の強みを活かせるチャンスがある
まず「仕事面での期待」は、面談時のポジティブなフィードバックや仕事をしてくれた時へのフィードバック等を伝えることができるでしょう。また、「自分の強みを活かせるチャンス」は、普段からメンバー1人ひとりの強みを意識して、仕事を振り分ける際に強みを活かせるように振り分けたり、ミーティングでも年齢や社歴に関係なく発言してもらったりすることが有効です。
PM理論の詳細、また、PM理論を踏まえたリーダーシップ向上について以下の記事でも詳しく解説していますので、ご興味あればご覧ください。
PM理論と似ている「SL理論」ってなに?
PM理論はリーダーシップの発揮状態を確認して、理想のリーダーへと近づくために役立つものでした。では、PM理論と紐づけられやすい「SL理論」とは、いったいどんな理論なのでしょうか。解説していきます。
SL理論とは
SL理論とは、相手の状態に応じて、有効なマネジメントをおこなうための考え方です。SL理論とは、「リーダーシップの発揮方法には絶対の正解がない」と考える点が大きな特徴です。先ほど、“相手の状況に応じて”と書いた通り、SL理論は、Situational Leadershipの略であり、部下の成長や状況、スキルの習熟度合いによって、リーダーシップの発揮方法を変えることが有効であるという考え方です。
これはPM理論と矛盾するものではなく、「PM理論はリーダーとして目指すべきゴール」、「SL理論は1人ひとりのメンバーに対するマネジメントやコミュニケーション方法」と捉えるとイメージしやすいでしょう。
SL理論の提唱者
SL理論は、1997年にアメリカのケン・ブランチャード氏らが提唱したリーダシップ論です。部下の成長や状態に合わせて、リーダーは4つのリーダーシップスタイルを柔軟に活用していく必要があると提唱しています。
PM理論との違いは?
PM理論とSL理論の違いは、以下のようにそれぞれの特徴を並べてみると非常に分かりやすくなります。
・PM理論
リーダーに必要な目標達成と良好な組織状態の維持、2つのリーダーシップを同時に発揮していける理想的なリーダーへの道筋を示した理論
・SL理論
仕事への習熟度に応じたメンバー1人ひとりへの最適なリーダーシップの発揮(コミュニケーションスタイル)を示した理論
PM理論は、P行動(目標達成行動)とM行動(集団維持行動)における得意・不得意でリーダーを4つに分類します。そして、理想的とされるPM型になるために、PもしくはMの中で自分に足りないところを伸ばしていくという考え方です。
これに対して、SL理論は、仕事への習熟度に応じて、リーダーがどのようにコミュニケーションを発揮していくかを検討するための考え方です。自分のチーム内に新入社員と、1人である程度の仕事をこなせる中堅のメンバーがいる場合は、それぞれの特徴を分析したうえで、指示と援助をどのように組み合わせるのが良いかを判断するわけです。
SL理論のメリットとデメリット(注意点)
SL理論を上手く取り入れて活用できれば、それぞれの部下やチームメンバーに合ったマネジメントや指導を行うことができます。一方で、SL理論には多くのメリットがある一方で、デメリット、活用する上での難易度もあります。本章では、SL理論のメリットとデメリット(注意点)を紹介します。
SL理論のメリット
組織にいる各メンバーの習熟度は異なることが一般的です。その中で、各メンバーに適したマネジメントの原則を教えてくれるSL理論は非常に有効です。
SL理論はメンバーの仕事の成長度・習熟度に応じて、リーダーシップスタイルを変えていくという考え方です。そのため、様々な状況のメンバーをマネジメントするうえで、非常に現実的、実践的な考え方になっています。
SL理論に当てはめて考えることで、各メンバーの仕事の習熟度に応じて、適切なリーダーシップスタイルを選び、メンバーの成長段階にあった指導や支援をすることができます。
それぞれの習熟度にあった指導・支援を受けることで、メンバーも業務で行き詰まることなく成長していくことができるでしょう。
また、能力が高まり成長していく中で、徐々にティーチングからコーチング的なアプローチが増えることで、メンバーが主体性を発揮して業務を進めていけるようになります。結果として、業務へのモチベーションも向上しますし、さらに積極的に業務に取り組み成長が加速されるでしょう。
このように、SL理論を活用することで、各メンバーに習熟度に応じたマネジメントを実施して、各メンバーの成長促進とモチベーション強化を実現し、組織としてのパフォーマンスを向上させることができます。
SL理論のデメリット(注意点)
デメリットというと、少し語弊がありますが、SL理論を使いこなすうえでは一定の難しさや注意点があります。
まずSL理論を活用するためには、部下・メンバーの仕事の習熟度に応じて管理職がリーダーシップスタイルを変える必要があります。つまり、SL理論を実践するためには、指導・支援を行う相手に応じて、マネジメントスタイル、コミュニケーションを調整する能力が求められるということです。
つまり、管理職の柔軟性や引き出しの豊富さが求められることになります。
また、管理職には、それぞれの価値観や特性を反映した得意・不得意なリーダーシップのスタイルがあるものです。
たとえば、ティーチング型や指揮命令型のマネジメントが得意な管理職もいれば、サーバントリーダーシップが強いマネージャーもいます。
SL理論を活用することで、管理職は理性を働かせて、相手の状況に合わせたマネジメントスタイルを実践できるようになるでしょう。一方で、「相手に合わせる」ことを意識しすぎてしまうと、管理職の持つ強みや得意なマネジメントスタイルを活かせない場合もあります。また、管理職自身が「自分の強みを磨く」ことが出来ず、成長が停滞してしまう場合もあるでしょう。
部下の習熟度に合わせてマネジメントスタイルを変化させるSL理論は、非常に有効なものですが、上述のように管理職自身の能力向上が求められる、自分の得意なスタイルや強みとのバランス感が求められるといった注意点があります。
また、リーダー経験が浅い管理職がSL理論を学ぶと、習熟度が高い部下に適切な指示や命令が出来なかったり、強いリーダーシップが求められるトラブル対応や課題解決などを先頭で引っ張ることができなかったりすることもあります。
このようにSL理論は考え方としては非常に秀逸ですが、実践にはそれなりの難易度や能力向上が必要となります。
SL理論で管理職のマネジメントスキルを進化させる
管理職がリーダーシップを発揮して、組織で高い成果を上げたり、部下のモチベーションを高めたり、人材育成するうえでは「SL理論」も有効なリーダーシップ理論の1つです。
SL理論における2つの行動と4つの基本的リーダーシップ
SL理論は、任せる仕事に対する相手の習熟度に応じて、S1からS4まで4つのリーダーシップスタイルを提唱しています。なお、下記にある指示的行動は「指示・命令」、援助的行動とは「コーチング・委任」と考えるとイメージしやすいでしょう。
- S1(指示型リーダーシップ):指示的行動が多く、援助的行動が少ない
- S2(コーチ型リーダーシップ):指示的行動と援助的行動の両方が多い
- S3(援助型リーダーシップ):指示的行動が少なく、援助的行動が多く、
- S4(委任型リーダーシップ):指示的行動と援助的行動の両方が少ない
SL理論では、メンバーの習熟度が上がるにつれて、リーダーシップの発揮(コミュニケーションの取り方)をS1からS2、S3、そして、S4に移していく。そして、相手に応じてS1~S4までのリーダーシップを使い分けることを推奨しています。
SL理論における4つの基本的リーダーシップの型
SL理論の4つの基本的リーダーシップの型を詳しく解説します。
S1(指示型リーダーシップ)
S1の指示型リーダーシップは主に新入社員、仕事に対する習熟度が低いメンバーに対して適したリーダーシップスタイルです。パフォーマンスが低い社員に対して、このリーダーシップスタイルで対応することが有効なこともあります。
S1の指示型リーダーシップでは業務のゴールを明確にし、ゴールに至るまでの道筋、やるべきタスクを具体的に指示します。つまりティーチング中心の指導であり、指揮命令型のマネジメントです。
例えば、まだ必要な知識や経験がない新人を対象として、コーチングしても答えが出てこないことが多いですし、大きな単位で仕事を任せることはできません。従って、成熟度が低い状態の部下に対しては、具体的に指示を与えて仕事を完了してもらうことが大切です。その過程で仕事のスキルも向上していき、成熟度が上がっていきます。
部下の状況を細やかに把握し、その都度適切な指示を与えていくことが重要となるリーダーシップスタイルです。
S2(コーチ型リーダーシップ)
部下が徐々に仕事を覚えてきた段階では、ある程度、仕事の進め方を説明したうえで、細かなところは任せたり、相手にどう進めるかを決定してもらったりするS2のコーチ型リーダーシップが適切です。
仕事への成熟度が少しずつ増してきたS2の段階では、リーダーは部下からリーダーに対して業務の指示と援助、双方が求められます。
コーチ型リーダーシップでは、部下としっかりと向き合い、コミュニケーションを取ることはとても重要です。
なぜこの業務が重要なのか、どのような成果が求められているのか、などは部下に説明しつつ、具体的な業務の進め方については部下に考えてもらい決めてもらう、といった形です。そうすることで、部下はより業務への意欲が増し、成長度合いも高まるでしょう。また、密なコミュニケーションを通して信頼関係を構築することで、今後のマネジメントがしやすくなります。
「意欲は高く、経験も積んできたが、まだ自分で計画を立てたり業務分解したりして自走できる段階ではない」といった成熟度の社員に対して有効なのが、S2のコーチ型リーダーシップです。
S3(援助型リーダーシップ)
さらに仕事の習熟度が増してきた部下に対しては、仕事の目的や概略を示したら、細かな進め方は相手に委ねていく、またコーチングの技法で課題解決していくようなS3、援助型のスタイルとなります。
仕事に習熟してきていても、まだまだ自分だけでは全てを意思決定はできず、意思決定での失敗を恐れる気持ち・不安もある段階です。リーダーが積極的にコミュニケーションを取り、相手の考え方を取り入れながら、業務が遂行できるように導く必要があります。
S3の成熟度になっている部下に対しては、自分の考えで動けるように自立できるように促す段階です。任せ過ぎず、同時に、細かな指示も出し過ぎないバランス感が重要となります。部下のキャパを超える範囲を任せてし合うことも、マイクロマネジメントすることも、いずれも部下のモチベーションを下げてしまう可能性があり、避ける必要があります。
S3の援助型リーダーシップでは、部下が自信を持ち、主体性をもって業務を進めていけるように関わることが大切です。
S4(委任型リーダーシップ)
相手が完全に自立して仕事を進められる状態になったら、仕事の目的や概略だけを共有して、あとは相手に任せるS4、委任型のコミュニケーションとなります。
この段階におけるリーダーの役割は、仕事の過程を適切に見守ることです。相手は業務に習熟し、自立的に業務を進め、課題も自ら解決していく能力がある状態ですが、問題やトラブルが生じた時には、リーダーとしてアドバイスやフォローすることが必要となるでしょう。
S4の委任型リーダーシップで注意すべき点としては、部下に「放置されている」と誤解されないように気を付けることです。任せた結果として、コミュニケーション量が急激に減少していくと「放置されている」と誤解を受ける可能性があります。
基本的には部下の判断に任せつつ、困った時、問題が生じた時にはいつでもフォローする、といったコミュニケーションが必要です。また、部下が能力を発揮できるように環境を整えてあげる、といったアプローチも大切となるでしょう。
なお、習熟度は「仕事それぞれ」に対するものであり、絶対的な能力等ではありません。
たとえば、相手が「商談は1人でできるけど、営業目標を達成するためのプランニングがまだ未熟」ということもあるでしょう。その場合、1人の相手でも、商談とプランニング、それぞれに発揮するリーダーシップ(コミュニケーションスタイル)は変わることになります。
また、例えば、いままでプレイヤーだった部下を管理職にした場合、その部下はプレイヤーとしては習熟度は高いですが、管理職としては未経験であり、新たな仕事に取り組むことになります。
その場合、メンバーへの敬意を持ったうえで、発揮するリーダーシップ(コミュニケーションスタイル)をS4(プレイヤーとしては完全に委任)から、S1やS2に変える(チームリーダーとしての仕事は支援が必要な段階)ということもあり得ます。
SL理論を活用する際の注意点
SL理論を活用する際には、いくつか注意すべき点があります。以下に説明します。
管理職のキャパシティがオーバーするリスク
SL理論のデメリット・注意点でも解説しましたが、SL理論は部下の状況に応じてリーダーシップスタイルを使い分けるため、リーダーの負担が増えることには注意が必要です。部下の成熟度、状況によっては手厚い支援やフォローが必要になることもあるでしょう。
成熟度が高まっているS3のステータスにある部下であっても、トラブルなどが発生すれば、対処のためにリーダーも多くの時間を割く必要があるかもしれません。SL理論を活用する上では、リーダー自身のキャパシティがオーバーしないように気を付ける必要があるでしょう。リーダーのセルフマネジメントレベルを高めておく必要があります。
不公平感の発生
リーダーシップスタイルを部下によって変えるということは、それぞれの部下への指導やコミュニケーション量には差が生まれてきます。そのため、部下によっては自分への対応と他のメンバーへの対応(指導やサポートの仕方)が違うことに不満を持つ可能性があります。
明確に役職や等級が違えば不公平感は生まれにくいですが、とくに同じ等級等でも仕事への習熟度が違う場合などには注意が必要です。
そうした不満が発生することを防ぐには、日ごろから部下とコミュニケーションを取り、また、チーム内の信頼関係を高めておくことが大切です。また、チーム全体に対して、SL理論を用いることを説明しておくことも有効です。
PM理論とSL理論を併用でリーダーシップを向上させる
管理職や拠点長のリーダーシップを向上させるには、PM理論とSL理論の両方を指導して、自身の行動を客観視させる教育が有効です。まずPM理論は、自身のタイプや現状を把握することで「理想のリーダー像を目指すうえで何をするべきか?」を考える時に非常に役立ちます。
PM理論という分かりやすい考え方が共通言語になると、経営陣や上司からのフィードバックも、相手に受け入れやすくなるでしょう。なお、PM理論を使って相手を成長させるためのフィードバックをするうえでは、相手の自己認識を確認したうえで、
- 自分から見てどう感じるか
- そう感じるのはどんな具体的な事実があったからか
- 右上のPM型に行くためにどんな行動をして欲しいか
をフィードバックして、相手への期待と相手の成長を自分が支援することを伝える、というのが基本形となります。
また、仕事への習熟度を基準とするSL理論を身に付けると、スキルや社歴の異なる人たちが集まったチームメンバーとのコミュニケーションが円滑になります。習熟した相手にマイクロマネジメントをすることは、相手のモチベーションを下げたり、お互いの生産性を下げたりします。
一方で、新人にコーチングしたり、仕事を丸投げしたりしても成果は出ないでしょう。また、同じ相手でも、仕事の成熟度やステージの変化に応じて、リーダーシップの発揮が変わるという考え方は、PM理論でいう、「M行動が強い」、過度に相手に気を遣ってしまうタイプが指揮・命令しやすくする効果もあります。
SL理論によって、相手や仕事に応じたリーダーシップを発揮できると、部下にとって自分の力を認めてくれた心地よいコミュニケーションになりますので、モチベーションも上がり、PM理論でいうM行動にも、また、P行動にも好影響を及ぼします。
このように相互に影響し合うPM理論とSL理論は、リーダー自身の成長、そして、リーダーシップの発揮に非常に役立つ考え方です。非常に分かりやすい理論ですが、すぐに実践できるわけではありません。
定期的にPM理論、SL理論に照らし合わせて、現状認識や振り返りをする機会を作ると有効です。また、P行動やM行動、SL理論の実践に必要なスキルはマネジメント研修等で身に付けていくことも有効です。
組織におけるリーダーシップに興味があれば、下記の記事も併せてご覧ください。
まとめ
組織が成果を上げ続けるために、リーダーには「目標達成」に向けたリーダーシップと、「組織を良好な状態に保つ」ためのリーダーシップが求められます。この分類に基づき、理想のリーダー像を示して、リーダーの自己認識や振り返り、成長に使えるのがPM理論です。
そして、リーダー自身の全体的な成長を図示するPM理論と並行して活用することで有効なのがSL理論です。SL理論は、実際の職場にいる新人から中堅、ベテランまで仕事の成熟度に応じて、どのようなリーダーシップ(コミュニケーションスタイル)を発揮することが適切かを示してくれます。
PM理論を下地としたうえで、メンバー1人ひとりに対してP機能とM機能のバランスが最適なのかを考えることにも参考となるでしょう。PM理論とSL理論の両方を使って、自己分析と軌道修正を続ければ、自然に高いリーダーシップを発揮できる人材へと成長できるでしょう。また、PM理論とSL理論を組織の共通言語にすることができれば、リーダー育成にも非常に効果的です。
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