レコグニションとは?|導入のメリットや効果的な導入・運用のポイント

更新:2023/07/28

作成:2023/01/26

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

レコグニションとは?|導入のメリットや効果的な導入・運用のポイント

近年、転職に対する価値観の変化、リモートワークの普及、そして、欧米における“大転職時”のトレンドなども踏まえて、従業員のモチベーションや会社への帰属意識を高め、優秀な人材の定着を促すうえで、組織のエンゲージメント向上への関心が高まっています。

 

組織へのエンゲージメントを高める取り組みのひとつがレコグニションという考え方です。本記事では、組織開発におけるレコグニションの意味や導入のメリット、効果的なやり方を解説します。

<目次>

レコグニションの意味とは?

レコグニションは、本来は「認識・承認・認知」などの意味をもつ英単語であり、HRやマネジメント分野では、従業員の会社に対する貢献度や活躍を認め、称賛する制度をいいます。

 

金銭的な報酬を付随させることも多いですが、業績賞与やインセンティブのような業務成果に対する直接的な報酬ではなく、組織や他メンバーへの貢献、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の体現などに対する非金銭的報酬、精神的な報酬を主眼として設計されることが特徴です。

 

近年は、サンクスカードやピアボーナスなどを活用し、従業員同士で称賛し合うソーシャル・レコグニションを導入している会社も増えつつあります。

 

レコグニションとリワードの違い

レコグニションと対比されるのがリワードという概念です。リワードとレコグニションの大きな違いは報酬に対する考え方であり、レコグニションは上述の通り、非金銭的・精神的な報酬を主眼に設計するのに対して、リワードは業績や貢献に対して給与や賞与など金銭的な報酬を与えるものです。

 

どちらが優れているといったことではなく、それぞれのメリットやデメリットを踏まえて、組み合わせることが大切です。最近では、この流れを踏まえて、金銭的報酬と非金銭的報酬を組み合わせた「トータルリワード」を設計するという考え方にも注目が集まっています。

レコグニションがなぜ注目されている?

なぜ精神的な報酬であるレコグニションが注目されるようになったのでしょうか。3つの背景を紹介します。

 

モチベーションの多様化と精神的報酬の重視

少子化による労働人口の減少やワークスタイルの変化、キャリアの選択肢の広がりなどによって、働く人の仕事への意識はこの数十年で変わりました。仕事のやりがいに関しても、給料や福利厚生だけでなく、社会貢献への実感や職場のカルチャー・雰囲気など多様化しています。

 

特にモノやサービスに不自由のない社会で育ってきたZ世代は精神的な充足感を大切にする傾向が強いといわれています。若手の優秀層を確保して定着率を高めるには、金銭的な報酬だけでなく、レコグニションによる精神的な動機付けが求められるようになってきます。

 

 

知識労働者の増加

ナレッジワーカーと呼ばれる知識労働者が増加していることも、レコグニションが重視されている要因のひとつといえます。

 

知識労働者の仕事は、ITエンジニアやマーケターのように、自分ひとりで何かを創り出すのではなく、さまざまな部署のメンバーと協力・連携して価値創出につなげるのが特徴です。従って、チーム内の信頼関係構築や、円滑な業務遂行のための社内コミュニケーションの重要性がより一層高まっています。

 

また、知識労働者の仕事には、定量的に成果を評価できないものも少なくありません。そういった従業員への評価が必要とされていることも、背景にあります。

 

リモートワーク浸透によるコミュニケーション不足

2020年からのコロナ禍をきっかけに、リモートワークが浸透した結果、社内のコミュニケーションは以前と比べて不足する傾向が強まっています。コミュニケーションの不足は、相互理解の欠如、信頼関係の希薄化などにもつながります。

 

レコグニション制度を導入することは、リモートワークで希薄になりがちな社内コミュニケーションの活性化や企業文化の醸成などにもつながります。このようなリモートワークが増える中で組織のコミュニケーションを活性化させたいというのもレコグニションを増加する企業が増えている背景のひとつです。

レコグニションの効果・メリット

組織にレコグニションを導入すると、従業員のメンタルや作業効率などに効果やメリットをもたらされます。

 

従業員のエンゲージメント向上

レコグニションを通して、同僚や上司、部下から自身の貢献を評価・賞賛されることで、組織へのエンゲージメントが向上します。

 

従業員の帰属意識を高める施策としては、給与や賞与といった金銭的な報酬、顧客の声やミッション・ビジョンなどを通じた仕事自体への意味づけや価値づけ、趣味の部活などを通じた交流や人間関係の構築などがありますが、レコグニションもそのひとつです。

 

 

離職率の改善

少子高齢化や労働人口の減少が問題となっている昨今、離職率の改善は企業にとって喫緊の課題です。レコグニションを導入することで、「会社やメンバーに貢献できている」「コミュニティーの一員である」「居場所がある」という感覚を持たせることができ、離職率の改善にもつながります。

 

数値で成果が見えない働きを評価できる

業績表彰やインセンティブなど金銭的な報酬は、営業やカスタマーサクセスなど成果を可視化しやすいポジションに対しては効果的です。一方で、レコグニションは、カルチャー浸透といった社内の取り組み、ホスピタリティなども評価対象に含むことができるため、会社の売上や利益に直接寄与しない、人事や経理、総務といったバックオフィス部門のメンバーの貢献を評価しやすいことも特徴です。

 

売上貢献などの直接的な成果はもちろん重要ですが、同時に組織の中長期的な発展を実現するためには、バリューの浸透や目先の数字には見えにくい業務改善や“種まき”などの動きも重要です。レコグニションはこうした動きにスポットライトを当てる効果もあります。

レコグニションの具体的な施策

レコグニションにはいくつかのやり方がありますが、本章では代表的な3つの施策を紹介します。

 

社内表彰

社内表彰は、組織が従業員にスポットライトを当てる手段としては最も一般的なやり方です。大勢の従業員の前で努力や功績が認められれば、当人の承認欲求も満たされて、仕事へのやる気も生まれるでしょう。表彰や名誉といった精神的な報酬と金銭的な報酬を上手く絡めやすいのも表彰制度の特徴です。

 

表彰制度の中身を工夫することでさまざまなメッセージを送ることも出来ます。よくある業績や階層別の表彰などだけでなく、ミッションやビジョンの体現、バリューの実践、会社が推し進めたい方針への貢献など、会社がスポットライトを当てたいことに応じて制度を検討するとよいでしょう。

 

なお、表彰制度を運用するうえでは、“金銭的な報酬”の色が強くなりすぎないように、精神的な報酬部分をきちんと設計することが大切です。過去の受賞者を見えるようにする、盛大に祝う、表彰に付随する報酬を金銭的なもの以外にするといった工夫があるでしょう。

 

 

サンクスカード

サンクスカードは、従業員同士が誰かへの“感謝”を、紙やデジタルのカードに書いて送り合う制度です。社内コミュニケーションの活性化や、モチベーションの向上、従業員の離職率低下などが期待できます。

 

“感謝”という前向きなものに焦点をあてることで社内の文化や従業員の姿勢などにも良い影響がありますし、業績に直結しないけど重要な仕事、また間接部門の動きなどにも焦点が当たりやすくなります。

 

なお、サンクスカードは全社的にきちんと運用されるように工夫すること、上層部を巻き込んで継続し続けることなどが大切なポイントです。

 

ピアボーナス

ピアボーナスとは、「PEER(仲間)」と「BONUS(報酬)」を組み合わせた造語で、従業員同士の間で報酬を送り合って称賛する制度のことをいいます。ピアボーナス運用専用のクラウドサービスなどもあり、従業員同士でポイントを送ります。貯まったピアボーナスは、商品に交換したり現金に換算して賞与などに上乗せしたりといった形で、設定したルールに基づいて還元されます。

 

サンクスカードに少し金銭的・物理的な報酬を混ぜたような形にすることで、より運用しやすくしたものとも表現できるかもしれません。ポイントで評価や貢献が可視化されるため、従業員のモチベーションにも良い効果が期待できるでしょう。

レコグニション導入を成功させるためのポイント

さまざまなメリットや効果があるレコグニションですが、適切なやり方をしないと期待した効果が得られないことも多いでしょう。最後にレコグニションを導入するうえで押さえておきたいポイントを紹介します。

 

目的を明確にする

レコグニションは定量的な効果検証を実施しにくい側面があります。一方で、きちんと継続しないとなかなか成果はあがりませんし、定着するまでには時間もかかります。だからこそ、導入する前に、あらかじめ経営陣や人事などで導入目的を明確にすることが大切です。

 

対象範囲を明確にする

派遣社員やアルバイト、契約社員、正社員をすべて対象にするのか、それとも正社員限定で実施するのか、導入時に対象範囲を明確にしましょう。対象範囲は、レコグニションを導入する目的から逆算して検討すると良いでしょう。例えば、社内全体のコミュニケーションを活性化させたいのであれば、全社員を対象とするのが適切です。パートやアルバイトなど非正規の従業員も会社の一員としての自覚が生まれ、社内の一体感にもつながるでしょう。

 

 

心理的安全性を確保する

レコグニションは、心理的安全性という土台があってはじめて機能します。心理的安全性とは、拒絶や批判に対する恐怖を感じることなく、自分の意見を表明できる状態です。心理的安全性が確保できていない状態でレコグニションを実施すると、機能せずに形骸化しやすくなります。レコグニションを導入する前に、お互いの存在を尊重する、話しやすい雰囲気をつくるなど、心理的安全性を高めておく必要があります。

 

 

 

運用ルールを制定する

レコグニションの運用ルールを制定しましょう。例えば、社内表彰制度を取り入れるなら、表彰する対象、表彰のタイミング、推薦や表彰の基準などをきちんと言語化しましょう。サンクスカードが一定数貯まった人を従業員の前で表彰するなど、制度を形骸化させないための運用ルールも策定しておくとよいでしょう。

 

運用の仕組みをつくる

レコグニションがうまく活用される運用の仕組みを構築しましょう。例えば、社内表彰制度なら、永年勤続や業績貢献という観点だけでなく、業務改善に努めた人に与える「カイゼン賞」、多くトライアンドエラーを重ねた人に与える「失敗賞」、教えるのがうまい人に与える「ベストティーチャー賞」など、より多くの人が対象になるように設計すると、現場も推薦しやすくなります。

 

サンクスカードやピアボーナスにおいては、まず利用してもらい、現場の人に効果を実感してもらうことが肝心です。周知が甘いと、一部の人だけが利用するサービスという認識になり、うまく普及しないでしょう。ただし、定着させるためにサンクスカードやピアボーナスをルール化する、評価の対象にするといった運用方法では従業員の負担となってしまいます。自発的に取り組みたくなる仕掛けを作ることが重要です。

 

効果測定を行う

一定期間、レコグニションを運用したら、効果測定を行いましょう。効果を確認せずに運用を続けていると、当初の目的から逸れた運用になったり、制度そのものが形骸化してしまったりすることも少なくありません。社内アンケートを実施して、利用状況や課題点などを把握し、次年度の改善、継続の判断に活かしましょう。

まとめ

レコグニションは、定量化できない従業員の貢献度を評価するのに効果的な取り組みです。一般的な報酬(リワード)が賞与やインセンティブなど金銭的な報酬にウェイトを置くのに対して、レコグニションは非金銭的な報酬、精神的な報酬に主眼を置いて設計されることがポイントです。

 

最近は、サンクスカードやピアボーナスなど、社内SNSやツールを使ったソーシャル・レコグニションを導入して、コミュニケーションの活性化や企業イメージの向上などに成功した企業も増えています。

 

レコグニションは、従業員の帰属意識や組織のエンゲージメント向上、離職防止にもつながります。一方で、レコグニションは定量的な効果検証を実施しにくいからこそ、きちんと目的を考えて、息の長い取り組みとして継続することが大切です。

 

なお、レコグニションではありませんが、従業員の相互理解を深めたり、エンゲージメントを向上させたりするには、強みを生かしたマネジメント、組織づくりも有効です。HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、強みを生かしたマネジメントを実現するストレングス・ファインダー®研修を提供しています。

 

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著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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