アンガーマネジメントは、怒りの感情をコントロールする手法として有名です。ただ、インターネット上などでは、「効果がない」「意味がない」という意見も見受けられます。
こうした意見の多くは、アンガーマネジメントの無理解や誤解から生まれています。
しかし、なかには、実際にアンガーマネジメントやってみたうえで、「自分はうまくいかなかった」という人もいるでしょう。
記事では、まず、アンガーマネジメントの概要と「アンガーマネジメントは効果がない」といわれる理由や誤解の解説をします。
そのうえで、記事の後半では、実践的なアンガーマネジメントスキルを紹介します。
<目次>
- アンガーマネジメントとは
- アンガーマネジメントが効かない、意味がないといわれる理由
- アンガーマネジメントに期待できる効果と身につくスキル
- アンガーマネージメントアンガーマネジメントにおける2つの視点
- 失敗しないアンガーマネジメントの身に付け方
- まとめ
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、怒りという感情をうまく扱う技術を指します。怒りを「コントロールする・抑える」というよりも、「うまく付き合う・管理する」というイメージの概念です。
ビジネスシーンでは、パワハラ防止や組織風土の改革、人材育成などのポイントで、アンガーマネジメントが注目されるようになっています。
アンガーマネジメントが効かない、意味がないといわれる理由
「アンガーマネジメントが効かない」または「アンガーマネジメントは意味がない」といわれる理由として多いのは、アンガーマネジメントに対する誤解がある、合わない手法を取り入れている、実践方法が誤っていることなどです。
この章では、それぞれの理由を詳しく解説しましょう。
怒りの感情をなくすと誤解している
「アンガーマネジメントが効かない」といわれる理由の多くは、アンガーマネジメントの理解や期待する効果の誤解から生まれています。
まず、アンガーマネジメントを実践しても、怒りの感情をなくすことはできません。できない理由は、怒りの感情というものが、一種の生理反応だからです。
生理反応である感情をなくす、感じないようにすることは、アンガーマネジメントでは実現できません。
一方で、アンガーマネジメントで実現できるのは、怒りという感情の「マネジメント」です。
怒りをなくすのではなく、適切に付き合えるようになることが、アンガーマネジメントで得られる効果になります。
怒りを感じたり、怒りを表したりすること自体は、ネガティブなわけではありません。また、生理反応として怒りをなくせるものもありません。
したがって、アンガーマネジメントは、怒りを抑圧するものではないのです。
また、英語で「rage」と書かれる「強すぎる怒り(激怒)」は、アンガーマネジメントではマネジメントできないものになります。
アンガーマネジメントで対処できるのは「angry(立腹)」レベルの怒りです。
自分に合わないアンガーマネジメントの手法を取り入れている
アンガーマネジメントは、先述のとおり怒りの感情をコントロールするものです。ただ、アンガーマネジメントにも、必ずしも万能なわけではありません。
また、アンガーマネジメントには、さまざまな手法があります。そのため、自分が試した手法が合わない場合、「アンガーマネジメントは効かない」と感じることもあるでしょう。
人によっては、アンガーマネジメントで感情をコントロールするよりも、「思い切り怒ることで怒りを発散したほうが、自分には向いている……」ということもあるかもしれません。
ただし、このように怒りのコントロールが苦手な「瞬間湯沸かし器タイプ」の人であっても、怒りが瞬間的かつ本当に頂点に達することは基本的にありません。
怒りのエネルギーとは、徐々に蓄積されていくものです。そして、エネルギーがピークに達して初めて、怒りが爆発する形になるでしょう。
そのため、アンガーマネジメントを身につけられると、怒りのエネルギーがたまりはじめた段階で気付くことが可能になったりします。
また、怒りのエネルギーがたまりはじめた段階で、方向転換することも可能になるでしょう。
アンガーマネジメントによって怒りのエネルギーが小さい段階で解決できれば、心身へのダメージも少なくなります。
アンガーマネジメントを実践してうまくいかなかった
アンガーマネジメント研修で手法は理解しているものの、職場で実践してもうまくいかないため、「アンガーマネジメントは意味がない」と思う人もいるかもしれません。
アンガーマネジメントを実践できるようになるには、反復トレーニングが必要となります。
最初はうまくいかなくても、自分に合った手法を理解し、くり返しトレーニングを行ないながら少しずつ身に付けていくことが大切です。
たとえば、アンガーマネジメントの代表的な手法に“6秒ルール”があります。この6秒ルールにも、合わない人は存在します。
また、人によっては、理解不足などから実践方法を間違えている可能性もあるでしょう。
6秒ルールは、6秒間待つことで理性を取り戻すために行なうものです。
そのため、極端な話、6秒の間に「この怒りをどうしてやろうか……」などと考えていた場合、逆に怒りが増幅してしまう結果になることもあります。
そのため、6秒ルールなどのアンガーマネジメントを行なうときには、正しい方法を理解・実践することが大切でしょう。
アンガーマネジメントに期待できる効果と身につくスキル
アンガーマネジメントを実践すると、以下の効果やメリットが期待できます。
「怒り」のメカニズム理解
アンガーマネジメントは、「怒り」という感情のメカニズムを知るところから始まります。怒りのメカニズムを理解するうえで重要となるのが、一次感情と二次感情の区別です。
一次感情とは、ネガティブな気持ちになったときに生じる以下のような感情を指します。
- 不安
- 心配
- 恐怖
- 悲しみ
- 寂しさ
- 苦しさ
- 虚しさ
- 辛さ
- 後悔 など
たとえば、職場で上司から怒られたり、取り返しのつかないミスをしたり、また、部下の行動が許せないときなど、上記の一次感情が生じるのは自然なことです。
そして、たび重なる叱責やミスでストレスが蓄積すると、「コップから水が溢れる」ように心の許容範囲を超えてしまいます。許容範囲を超えたときに生じるのが、二次感情である“怒り”なのです。
つまり、“怒り”は、一次感情から生じた混沌とした想いやストレス、欲求に対する防衛反応であるということです。
正体や仕組みがわからないものは、基本的にマネジメントができません。
ですが、そこで一次感情と二次感情という怒りのメカニズムを理解することで、正しい付き合い方もわかってくるようになります。
つまり、怒りという感情の裏側には、前述したような一次感情があり、どのような出来事と一次感情から怒りが生じているかを探ることで、怒りを解決できる可能性が出てきます。
このように怒りのメカニズムを理解すれば、それだけで、問題行動やそれにともなうトラブルを減らせる可能性が出てきます。
「怒り」を引き起こす内面的価値観の自覚と見直し
怒りを引き起こす要因はさまざまですが、大きな要因の一つに、それぞれが持つ「内面的価値観」があります。
内面的価値観とは、自分自身が大切にしている「~すべき」「~であるべき」という価値観です。そして、自分の内面的価値観を他人が破ったときに怒りの感情が生じがちになります。
内面的価値観による怒りをマネジメントするには、自分がどのような価値観を大切にしているのかを自覚することから始める必要があります。
そして、内面的価値観を自覚できると、自分が怒りやすい状況や相手の行動が理解できるようになるでしょう。
また、自分の感情を客観的にとらえられるようになることで、アンガーマネジメントにつながっていきます。
自分の価値観を見ていくなかで「~すべき」という思考が多すぎると、怒りの頻度が増えるとともに、自分自身も生きづらさを感じやすくなるでしょう。
自分自身に以下のような問いを投げかけて見直すと、そもそも怒る必要がないと気付けたりもするでしょう。
- 「今考えていることは“すべき”ではなく、
- 自分の“したい”“ありたい”という価値観ではないのか?」
- 「他人にも自分と同じ価値観や基準を守ることを期待すべきなのだろうか?」
「怒り」の発散方法・表出方法の習得
アンガーマネジメントでは、怒りの感情をそのまま相手にぶつけるのではなく、怒りのもとになる一次感情(悲しさや不安など)をうまく表現することで、人間関係を壊さずに自分の気持ちや本心を伝えられるようになります。
悲しさや不安などのネガティブな感情を表に出すことに対して、自制心がない、カッコ悪いといった感覚があると、悲しさや不安を表に出さずにこらえようとするものです。
そして、こらえることでストレスが蓄積され、怒りの感情を抑えきれないものにしてしまう場合もあります。
一次感情を表現することを自分に許可し、うまく表現する方法を学ぶことがアンガーマネジメントにつながります。
「怒り」を感じた際の適切な行動の習得
アンガーマネジメントには、生じた「怒り」をクールダウンするいくつかの行動テクニックもあります。
怒りの原因をとらえて客観視することに加えて、怒りをクールダウンする方法を組み合わせて実践できると、怒りによって人間関係を悪化させてしまうこと、怒りからくる集中力低下でミスすることなども防げるようになるでしょう。
ここでは、アンガーマネジメントよく使われる3つの行動テクニックを紹介します。
◆6秒ルールを実践する◆
アンガーマネジメントで最もよく使われる考え方です。怒りの感情は生理的に見て、衝動的なものであり、6秒で最高潮に達して、長続きしないことがわかっています。
したがって、怒りの感情が湧き上がってきたら、頭のなかで6秒カウントしてみましょう。6秒ルールを習慣化することで、怒りのピークをやり過ごせるようになるでしょう。
◆今の場からいったん離れる◆
その場からいったん離れることも、6秒ルールに近い行動テクニックです。
たとえば、同僚から反対意見をいわれて怒りの感情が生じたとき、即座に反論すると、怒りの感情がピークに達しているため、以下のような行動をしてしまう可能性が高まります。
- いつもより強い口調になってしまう
- 相手を否定したり傷つけたりする言動をしてしまう
- 相手に勝つために誇張や嘘をいってしまう など
上記のような行動で人間関係を壊さないためには、怒りが生じたときに、その場を離れてクールダウンをすることもおすすめです。
会議中に離席をすれば、無責任やマナーが悪いと思われるかもしれません。しかし、怒りから生じた行動や言動で関係を破壊するよりは、その場からいったん離れたほうがよいでしょう。
◆筋肉の緊張と弛緩を繰り返す◆
怒りを感じると、身体が緊張します。そのメカニズムを利用したのが、漸進的筋弛緩法というものです。
漸進的筋弛緩法では、筋肉の緊張と弛緩を交互に行なうことで身体をリラックスさせ、結果として怒りを抑えていきます。
基本的なやり方は、身体に10秒ほど力を入れたあと、15秒ほど脱力する動作の繰り返しです。ただし、高血圧症など病気や心身に不調がある人には、推奨されていませんので注意してください。
アンガーマネージメントアンガーマネジメントにおける2つの視点
アンガーマネジメントの理解を深めるうえでは、「コップ」と「水」をイメージすることがおすすめです。
コップは自分の心、感情を受け入れる要領であり、水は怒りの元となる一次感情や怒りの感情です。
そして、コップに水が大量に注がれ、コップから溢れてしまった状態が、怒りをコントロールできず、怒りに飲み込まれてしまった状態です。
コップの容量を広げる
まず、価値観(~すべき)の見直しをすることで自分の「べき」を緩めて、他人の価値観を受け入れることは、心のコップの容量が広がるイメージです。
自分のコップの形である「べき=価値観」を自覚し、あくまで自分だけの価値観であることを自覚すると、他人の価値観、自分とは異なる価値観を受け入れやすくなります。
コップの水を外に出す
以下のようなネガティブな一次感情がコップに溜まりすぎると、ネガティブな想いがコップの容量を超えてしまい、二次感情の怒りが生じます。
- 不安
- 心配
- 恐怖
- 悲しみ
- 寂しさ
- 苦しさ
- 虚しさ
- 辛さ
- 後悔 など
したがって、コップに溜まっている一次感情を自覚して、その原因を解消する行為が怒りを未然に防ぐ行為になります。
たとえば、メンバーの仕事内容への不安や心配が募りすぎて怒りにつながってしまう人は、一次感情である不安や心配を解消するために、以下のような対処をすることがおすすめとなります。
- 定期的に進捗報告してもらう
- 自分から報連相を取りにいく
- メンバーとの1on1面談の頻度を増やす
- メンバーが気兼ねなく相談できる信頼関係を構築する
- メンバーに自分の心配性を伝えて小まめに報連相してもらう など
失敗しないアンガーマネジメントの身に付け方
アンガーマネジメントを成功させるうえでは、アサーティブ・コミュニケーションを取り入れることも大切です。
アサーティブ・コミュニケーションは、相手を尊重しつつ、適切に自己主張も行なうコミュニケーションのことです。
職場にアサーティブ・コミュニケーションを浸透すると、建設的な話し合いによる社内コミュニケーションの活性化や生産性の向上などが期待できるようになります。
アサーティブ・コミュニケーションの実践では、以下の4要素を意識することが大切です。
- 誠実:自分に対しても相手に対しても嘘をつかない(誠実である)
- 率直:自分を主語にして、率直に伝える
- 対等:態度も心のなかも対等に相手と向き合う
- 自己責任:いった責任もいわなかった責任も自分が引き受ける
アサーティブ・コミュニケーションの導入ステップなどは、以下の記事を参考にしてください。
まとめ
アンガーマネジメントは、怒りをなくすのではなく、怒りと適切に付き合うことが目的です。
生理的な反応である「怒り」自体を感じなくしたり、抑圧したりすることは、アンガーマネジメントを実践しても困難になります。
アンガーマネジメントの目的や効果を「怒りをなくす」のように解釈していると、「効果がない、効かない」と感じてしまいがちになるでしょう。
一方で、アンガーマネジメントを「怒りとうまく付き合う」というように正しくとらえて、怒りをマネジメントするスキルを身に付けると、怒りに飲み込まれることによる好ましくない結果を、回避できるようになります。
また、アンガーマネジメントは、自分に合わない手法を取り入れていたり、誤った実践方法を行なっていたりした理由から、「アンガーマネジメントは意味」がないといわれることもあります。
アンガーマネジメントを実践する場合、自分に合った手法や正しいやり方を、トレーニングを通じて身につけることも必要です。
なお、2022年4月から、いわゆる“パワハラ防止法”が中小企業も対象として施行されています。
管理職に対するアンガーマネジメントのトレーニングは、職場におけるパワハラのリスク回避策や、生産性向上に向けた対応としても実施すべきでしょう。
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