ビジネスにおける知識労働の比重が増える中で、率直に意見交換して、より良い意思決定を実現したり、新しいアイデアを生み出したりするコミュニケーションの重要性はますます高まっています。
その中で、基本的なコミュニケーション手法として改めて注目されているのがアサーティブコミュニケーションです。記事では、アサーティブコミュニケーションとは何か、また、実践するための4要素、DESC法などの基本を解説します。
<目次>
- アサーティブコミュニケーションとは?
- コミュニケーションにおける自己主張の3分類
- アサーティブコミュニケーション実践に欠かせない4要素
- アサーティブコミュニケーションを実現するDESC法
- 職場にアサーティブコミュニケーションを導入する3ステップ
- 学習機会や実践のための仕組みづくりによって、職場にアサーティブコミュニケーションを浸透させましょう
アサーティブコミュニケーションとは?
アサーティブ(assertive)とは、自己主張するという意味です。アサーティブコミュニケーションは、相手を尊重しつつも、適切に自己主張を行なうコミュニケーションのことを指します。
アサーティブコミュニケーションは、良好な人間関係を構築する、またメンタルヘルスやストレスをケアするコミュニケーション手法として有効です。
また、良好な人間関係や率直な意見交換は、より良い意思決定や新たなアイデアの創出にもつながるものですので、知識社会におけるコミュニケーションの基本として非常に重要なものです。
コミュニケーションにおける自己主張の3分類
アグレッシブ(攻撃型) | 自己主張が激しすぎるコニュニケーション |
ノンアサーティブ(受動型) | 自己主張が控えめすぎるコミュニケーション |
アサーティブ | アグレッシブとノンアサーティブをバランスよく兼ね備えた理想のコミュニケーション |
心理学者ジョセフ・ウォルピは、コミュニケーションを自己主張という観点で捉えて、アグレッシブ、ノンアサーティブ、アサーティブという3つのタイプに分類しました。
アグレッシブタイプ(攻撃型)
アグレッシブタイプは、自己主張が激しすぎるコミュニケーションタイプです。自分の意見をはっきりと相手に主張できる反面、相手の感情や立場を無視して攻撃的になったり、押し付けたりしがちなります。
いき過ぎると相手に威圧感を与えたり、周囲との軋轢を生んだりすることにつながるため注意が必要です。良好な関係を構築することは困難で、ビジネス場面においては権限などと結びつくとハラスメントにつながる危険性もあります。
ノンアサーティブタイプ(受動型)
ノンアサーティブタイプは、自己主張が控えめすぎるコミュニケーションタイプです。アグレッシブとは真逆で周りの目を気にするあまり、自分の意見が言えなかったり、無理な頼まれごとでも断れなかったりします。
ビジネス場面では、会議で発言しなかったり、自分のキャパを超えた仕事を引き受けてしまったりすることもあるでしょう。また、上記のような態度で「頼りない」「当てにならない」といったマイナス評価を受けることも有り得ます。
また、本人も「自分の意見を言わずにいること」で不満やストレスをため込み、メンタルヘルスのバランスを崩すことになりかねません。
アサーティブタイプ
アグレッシブタイプとノンアサーティブタイプの特徴をバランスよく兼ね備えたコミュニケーションタイプです。適切に自己主張しつつも、相手を尊重したコミュニケーションがとれます。
相手を傷つけることなく建設的な議論を可能にしたり、自分の意見を押し殺すことなくきちんと伝えたりすることが出来ます。ビジネス場面において、目指すべきコミュニケーションタイプといえるでしょう。
アサーティブコミュニケーション実践に欠かせない4要素
誠実 | 自分に対しても相手に対しても嘘をつかない(誠実である) |
率直 | 自分を主語にして、率直に伝える |
対等 | 態度も心のなかも対等に相手と向き合う |
自己責任 | 言った責任も言わなかった責任も自分が引き受ける |
アサーティブコミュニケーションの実践に欠かせないのは、誠実、率直、対等、自己責任という4要素です。アサーティブコミュニケーション実践のために、大切な各要素を簡単に説明します。
<アサーティブコミュニケーションの実践で大切な4要素>
①誠実
相手だけでなく、自分に対しても誠実な(嘘をつかない)姿勢が基本となります。意見や異論があるのに言わないことは誠実な姿勢とは言えません。
②率直
自分を主語にして、相手に伝わる言葉でストレートに意見を伝えましょう。「社内で皆こういう意見が多い」「常識的に…」「普通に考えれば…」といった表現は自分を主語にしたものとは言えません。「私は…こう思う」という自分を主語にした表現でコミュニケーションしましょう。
③対等
上から目線で横柄になったり、卑屈になったりすることなく、対等に相手と向き合ってコミュニケーションしましょう。関係性やTPOに合わせた言葉遣いは大切ですが、態度も心のなかも対等に意見交換、コミュニケーションしましょう。
④自己責任
自分の言動を自らの選択として、責任を負う姿勢が重要です。誠実にも通じることですが、“言った責任”と同時に“言わなかった責任”も自分のものであることを忘れないようにしましょう。
- 社内コミュニケーションの活性化
- 生産性の向上
- メンバーの離職防止
職場にアサーティブコミュニケーションを浸透させることで、次のようなメリットが得られます。
社内コミュニケーションの活性化
メンバーがアサーティブコミュニケーションを実践できるようになることで、お互いを尊重した建設的な話し合いができるようになり、双方向の社内コミュニケーションが活性化します。
社内コミュニケーションが活性化することで、新しいアイデアが生まれやすくなったり、職場の雰囲気が明るくなったりするでしょう。また、互いの意思疎通の不足による仕事のミスや損失、トラブルも減少し、業務パフォーマンスの向上が期待できます。
生産性の向上
組織内にアサーティブコミュニケーションが浸透すれば、納得感のある意思決定、建設的な議論、意見を戦わせることによる優れた意思決定などが実現し、組織の生産性は向上します。
また、「思っているのに言っていない」「自分の意見を言わずに意に反する意思決定になる」といったこともなくなり、仕事が進めやすくなるでしょう。
仕事に関する情報共有がスムーズになれば仕事の分担や調整がうまく行なえるようになり業務効率が上がります。最終的には職場全体の生産性向上につながるでしょう。
メンバーの離職防止
高圧的な態度を取るメンバーがいたり、周囲に遠慮して自分の主張を押し殺す状態が続いたりすると、ストレスが溜まって精神的に追い詰められてしまいメンタルの不調や離職原因にもつながります。
職場でアサーティブコミュニケーションが浸透すれば、人間関係のストレスは軽減され、多くのメンバーにとって働きやすい環境になります。離職の主要な要因となる人間関係のストレスが改善すると離職防止にもつながるでしょう。
アサーティブコミュニケーションを実現するDESC法
Describe(描写する) | 客観的な事実を描写する(相手と事実をすり合わせる) |
Explain(説明する) | 自分の意見や感じていることを説明する |
Specify(提案する) | 具体的な解決策や相手への依頼を提案する |
Choose(選択する) | 相手の反応に対して自身の行動を選択する |
アサーティブコミュニケーションを実現するためのノウハウとして、DESC法があります。上記4つの頭文字をとったもので、4つのステップを順番に実施することがアサーティブコミュニケーションの実践になります。
Describe(描写する)
Describe、相手の行動や解決しようとしている課題に対して、客観的な事実を描写するということです。ここでは自分の感情で話さずに、客観的な事実を伝えることが重要です。
たとえば、仕事を頼まれたとき、いきなり「忙しい」と無下に断るのではなく、今の自分の状況と「明日納期であれば引き受けることが可能」などと客観的事実や自分の状況を伝える形です。
なお、人は完ぺきに客観的であることはできません。従って、自分の見解を客観的な事実として押し付けると、アサーティブなコミュニケーションにはなりません。
丁寧なすり合わせが必要、衝突が起こっているような場合は、「自分はこう理解しているけど、あなたの理解はどうですか?」と事実をすり合わせることが有効です。
Explain(説明する)
Explainでは、自分の意見や感じていること説明します。Explainでは自分を主語にして、主観的な気持ちをストレートに伝えることが重要です。前述の通り、主語をずらして、「世の中では」「普通は」「うちの企業は」といった形にするとトラブルの原因になりますし、責任を取る姿勢とも言えません。
ただし攻撃的にならないように、相手を尊重しつつ、理性的に伝えることが大切です。英語の「I think that……」(私はこう思う)という表現をイメージすると良いでしょう。
Specify(提案する)
Specifyでは、課題の解決策や相手にお願いしたい内容を、具体的に提案します。
自分の主張を押し付けたり、非現実的な提案になったりしないように、現実的かつ、相手に検討の余地がある提案をしましょう。相手を責めたり高圧的な提案をしたりすることなく、win-winとなる提案を目指す姿勢がポイントです。
Choose(選択する)
Chooseでは相手の反応に対する自身の行動を選択します。提案が受け入れられた場合と提案が受け入れられなかった場合、両方の選択肢を事前に想定しておくとよいでしょう。
相手の反応に対して柔軟に対応する、そして、前述の通り、win-winを混ざすことを忘れないようにしましょう。
職場にアサーティブコミュニケーションを導入する3ステップ
ステップ1 | メンバーに自分のコミュニケーションタイプを認識してもらう |
ステップ2 | アサーティブコミュニケーションの研修を実施する |
ステップ3 | 実践のための仕組みづくりを行なう |
ステップ1:メンバーに自分のコミュニケーションタイプを認識してもらう
職場でアサーティブコミュニケーションを導入するには、まずメンバー一人ひとりに自身のコミュニケーションタイプを認識してもらうと良いでしょう。
自身の自己主張、コミュニケーションタイプを認識することだけでも、コミュニケーションを修正しやすくなりますし、アサーティブコミュニケーション習得へのモチベーションを上げることができます。たとえば、アンケートの実施なども、メンバーの気付きを促すうえで有効です。
なお、コミュニケーションにおける自己主張は相手に応じても変わります。たとえば、「上司や関係性が薄い相手に対してはノンアサーティブだが、年下や部下に対してアグレッシブ」という場合もあるでしょう。360度評価等を使うこともひとつの選択肢です。
ステップ2:アサーティブコミュニケーションの研修を実施する
メンバーが自身の自己主張タイプを認識し、アサーティブコミュニケーションの必要性を理解したら、次のステップとして研修の実施などによって学習機会を設けるのが効果的です。
アサーティブコミュニケーションを実践するにはコミュニケーションの技術以外に、“人によって見えているものは違う”というパラダイムの概念や異なる意見をかけ合わせて相乗効果を発揮する方法などを知ることも有効です。
ステップ3:実践のための仕組みづくりを行なう
学習して知識を得るだけでなく、実践して組織風土として根付かせることが重要です。そのためには、メンバーが日々アサーティブコミュニケーションを実践できるための仕組みづくりを行なう必要があります。
たとえば、メンバー同士でアサーティブという言葉を積極的に使ったり、アサーティブコミュニケーションが実践できているか定期的に見直したりする機会を設けたりなどが大切です。
学習機会や実践のための仕組みづくりによって、職場にアサーティブコミュニケーションを浸透させましょう
相手を尊重しつつ、自身の意見も適切に主張するアサーティブコミュニケーションは、良好な人間関係を築くのに役立ちます。
また、職場にアサーティブコミュニケーションが浸透することで、社内コミュニケーションの活性化、生産性の向上、メンバーの離職防止といったメリットがもたらされます。
アサーティブコミュニケーションを実践するためには、アサーティブの4つの要素:誠実、率直、対等、自己責任を理解し、DESC法などのノウハウを身につけることが有効です。
職場でアサーティブコミュニケーションを浸透させるためには、メンバーが自己のアサーティブタイプを認知できたり、理論やノウハウを学習できたりする機会づくりが大切です。そのうえで、実践しやすい仕組みづくりに取り組みましょう。