盗人にも五分の理を認める|デール・カーネギー『人を動かす』

盗人にも五分の理を認める|デール・カーネギー『人を動かす』

記事をご覧の方の中には、ロジカルシンキングやディベートを学んだり、得意だとしたりする方もいるかもしれません。商談や交渉の場では、筋道に沿って理路整然と説明できる人は一目置かれます。

 

一方で、人間関係をつくる、人を動かす上では、論理立てて意見を主張したり、相手の間違いを諭したりすることが必ずしも良い結果につながるとは限りません。むしろ、自分の誤りを論理的に指摘された人が、相手に反発心やマイナスの感情を持つ、というケースも多いかもしれません。

 

コミュニケーションに関する名著『人を動かす』のなかで、デール・カーネギーは「盗人にも五分の理を認める」ことが大切であり、いかなる場合でも相手を批判・非難することは人を動かすことにはつながらないと話しています。なぜなら、人は自分のしていることは正しいと信じており、批判・非難されたところで行動を変えようとはしないからです。

 

本記事では、デール・カーネギーのベストセラー『人を動かす』に書かれている「盗人にも五分の理を認める」について詳しく紹介します。

 

なお、本原則は書籍では「盗人にも五分の理を認める」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「批判、非難もしない。不平も言わない」と、行動のポイントがより明確になった表記になっています。記事内では書籍の表現に合わせて解説をしていきますのでご了承ください。

<目次>

デール・カーネギーと、著書『人を動かす』の概要

記事では最初に、「盗人にも五分の理を認める」が紹介されている書籍『人を動かす』と著者デール・カーネギーを簡単に紹介します。

 

デール・カーネギーの生い立ち

『人を動かす』の著者、デール・カーネギーは1888年にアメリカの農家に生まれました。カーネギーは大学を卒業後、教師、セールスマン、行商人など、雑多な職業を経験した後に、YMCAの弁論術講座を担当します。

 

講座で大人気を博したカーネギーは、その後独立し、デール・カーネギー研究所を設立しました。その後カーネギーは、人間関係の構築や喋り方、プレゼンテーションなどの分野における人材育成や自己啓発の第一人者となりました。

 

 

『人を動かす』とは?

『人を動かす』(原題 : How to Win Friends and Influence People)は、デール・カーネギーが1937年に記した書籍で、日本国内で430万部、世界で1500万部以上を売り上げた世界的なベストセラーとしても知られています。

 

カーネギーは、本書の中で、様々な事例を通して『人を動かす』ことのエッセンスに触れながら、どのように人と関われば良好な人間関係を築けるのか、そして、人を動かすことができるのかを紹介しています。『人を動かす』は、生きていく上で身につけるべき人間関係の原則が書かれた、時代を超えて読み継がれる不朽の名著です。

 
『人を動かす』について知りたい人は、以下の記事で内容を要約しているので参考にしてください。

「人を動かす3原則」とは

カーネギーの著書『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4つのパートで構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

 

本記事のテーマである「盗人にも五分の理を認める」は、最も重要となる冒頭の「人を動かす三原則」のひとつです。「盗人にも五分の理を認める」の詳細に入る前に、本章では「人を動かす三原則」をおおまかに解説します。

 

1)盗人にも五分の理を認める

どんな相手に対しても、批判からではなくまずは理解を示す、という原則です。私たちは誰でも、自分の言動や考え方が正しいと往々にして考えています。たとえ言動が間違っていると自覚している際にも「こういう事情があってやむを得ない」と思っているものです。

 

したがって、「自分は正しい!」「間違っていない!」と考えている相手に対して、ミスを指摘したり、過ちを諭したりすることは、人を動かす上ではあまり役に立ちません。カーネギーは次のように、批判することの無意味さを語っています。

 “批判が呼び起こす怒りは、従業員や家族・友人の意欲を削ぐだけで、批判の対象とした状態は少しも改善されない。”
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

この原則に関しては、次章で詳細をお伝えします。

 

2)重要感を持たせる

カーネギーが強調する「人を動かす」唯一の方法とは、相手の自己重要感を満たすということです。私たちは皆、自分が重要な存在だと感じたがっており、誰かから尊重されたり大切に扱われたりすることで、自己重要感は高まります。「重要感を満たす」という考え方は、『人を動かす』の他の原則とも深く関連する重要な考え方になります。

 

3)人の立場に身を置く

人は自分の行動を自ら決めたいという本能があり、他人からの命令や強制に対しては心理的に反発を感じます。たとえ指示や命令に従って行動する場合でも、そこに熱意は生じません。

 

われわれはどんな時に主体的に行動を起こすのかというと、自分の中に何らかの欲求が生じている時です。したがって、人に気持ちよく動いてもらうためには、相手に強い欲求を起こさせることが不可欠なのです。

 

ポイントは、「何が強い欲求なのか?」は、一人ひとり違うということです。したがって、相手の要望や求めている物が何なのかを、まず把握するということが重要です。自分の好みや価値観を一旦脇に置き、相手の立場・視点で考えることの大切さをカーネギーは強調しています。

 
「人を動かす3原則」については以下の記事で詳しく解説しています。

「盗人にも五分の理を認める」の詳細と実践のポイント

記事のメインテーマであり、書籍『人を動かす』のひとつめの原則である「盗人にも五分の理を認める」を4つのポイントから解説します。

 

ポイント① 人は自分のことを正しいと思っている

前章でも触れたように、人は決して自分が悪いとは思いたがらないものです。たとえ、客観的に見ると、相手が間違っていて、こちらが正しいとしても同じことです。

 

アメリカの近代史に残るマフィアのボス、アル・カポネはこのように嘆いていたそうです。

 

「おれは働き盛りの大半を、世のため人のために尽くしてきた。ところが、どうだ。おれが得たものは、冷たい世間の非難と、お尋ね者の烙印だけだ」

 

世間で“極悪人”と評されたアル・カポネですら、自分では自分の行いを正しいと思っているわけです。このように、殆どの人は自分の行いは正しい、百歩譲って間違っているかもしれないが、やむを得ない事情があったのだから非難されるいわれはない、と思っているものです。

 

そんな相手に対して、批判・非難をしても、相手は警戒心を抱くだけで、相手の心を動かす、相手と人間関係を築く上では良い結果にはなりません。

 

ポイント② 失敗しても叱責しない

上述のように、人間は他人からの批判を恐れています。自分が批判されると、多くの人は以下のような防御体制をとります。

批判されたときに人がとる防御態勢
  • 自分を正当化しようとする
  • 批判した相手に反抗心を起こす
  • 意欲をなくす

こうなってしまっては、もはや相手はあなたに心を開くことはなく、信頼関係は失われてしまいます。人を動かす上では、たとえ、明らかに相手にミスがあったのだとしても、一方的に批判や叱責するのではなく、相手を信頼している事を伝えた上で、挽回させるチャンスを与えたほうが有効です。

 

ポイント③ 相手を理解することに努める

自分が正しいと疑わない相手に対して、批判や指摘をしても何も解決しません。批判では人を動かすことができないのであれば、どうすればよいでしょうか?

 

身近でありそうなビジネスシーンの例を基に、考えてみましょう。

 

職場に、毎朝遅刻して何度注意しても直らない新人がいたとします。あらためて言うまでもなく、定刻までに出社して席に着いていることは、当たり前のビジネスマナーです。「業務時間前に席に着くのはビジネスパーソンの常識だろ?」とか「何度注意したら、遅刻が直るんだ!」など、上司や先輩社員が不満に思うのも無理はありません。

 

ビジネスパーソンとして会社で仕事をする以上、ビジネスマナーに従って行動することは当然重要です。部下を持つ上司の立場からすれば、間違った行動をその場できちんと本人に指摘することが、職場の規律を守る上でも、新人の成長を支援する上でも大切です。

 

しかし、自分の常識やルールに従って、相手にストレートに怒りをぶつけても、相手が心から反省したり間違いを認めたりすることは期待できないかもしれません。

 

記事でお伝えしたように、どんなに間違った言動をしている人であっても、本人は「自分の行いは正しい!」「しょうがない事情があるのだ」と思って行動していることも多いものです。そして、批判されればされるほど、人は益々言い訳をして、「なぜこの人は理解してくれないのだろう」と相手のせいにしがちです。

 「人を非難する代わりに、相手を理解するように努めようではないか。どういうわけで、相手がそんなことをしでかすに至ったか、よく考えてみようではないか。そのほうがよほど得策でもあり、また、面白くもある。そうすれば、同情、寛容、好意も、自ずと生まれ出てくる。」
(デール・カーネギー『人を動かす 新装版(創元社)』より引用)

カーネギーが言うように、相手を批判・非難する代わりに

  • なぜその行動に至ったのか?
  • やむを得ない事情はなかったのか?
  • 相手は、既に行動を悔いているのかもしれない

と、一歩立ち止まって相手を理解することに大切です。

 

相手を理解しようとすることで、共感や寛容の姿勢が生まれます。それにより、一方的に相手を批判・非難するよりも、はるかに建設的な結果が生まれ、相手との人間関係を損なうこともなく、相手に自発的に行動を正してもらうことも可能になるかもしれません。

 

「盗人にも五分の理を認める」が言いたいのは、「間違った行動や誤りがあっても指摘してはいけない、許容したほうがいい」ということではありません。ただ、私たちが欲しいのは、「正しい行動を取るようになった」という結果です。だからこそ、望む結果を得る、相手を動かすために、どんなアプローチが良いかを考える必要があります。

まとめ

記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、人を動かす三原則の1つである「盗人にも五分の理を認める」を紹介しました。

 

私たちは、相手の誤った言動が目につくと、間違いを正そうと正面から批判・指摘をしてしまうことが往々にしてあります。しかし、殆どの人間は自分が正しいと思って行動しています。

 

従って、正面から批判・非難しても、相手は心から反省したり、行動を改めたりはしないことも多々あります。むしろ、“自尊心を傷つけられた”と感じて、反発心を抱くことになり、お互いの人間関係が台無しになってしまうことにもなりかねません。

 

私たちが望むのは、相手に過ちを理路整然と指摘して誤りを認めさせることではなく、相手が行動を変えよう!と思って実際に行動するという結果です。相手を自発的に動かすためには、相手を理解して、相手がそうした理由や背景を丁寧に紐解いて理解しようという姿勢が、何よりも大切です。

 

相手を批判して満足するのではなく、相手が行動を変えたという「結果」を得るために、“相手を理解しよう”とする姿勢を基本に据えることを習慣化したいものです。

 

なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、米国デールカーネギー・アソシエイツ社と提携して、日本でデール・カーネギー研修を提供しています。
 

「管理職のマネジメント力を高めたい」「営業職の営業力をあげたい」とお考えの人は、以下のデールカーネギー研修、セミナーの情報を参照してください。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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