行動変容とは、研修や学習を通じて人の行動が変わることであり、同時に、人の行動が変わり定着するまでのプロセスのことを指す言葉でもあります。行動変容のプロセスを理解することで、自分の習慣や行動パターンを変えたり、研修効果を高めたりすることが出来るでしょう。
本記事では、行動変容の実現に強みを持つ研修会社としての知見を踏まえて、行動変容の概要と行動変容を実現するためのポイントを解説します。
<目次>
行動変容とは?
行動変容とは「継続的に行動が変わる」ことを指します。人の行動は以下のプロセスを経ることで変わると言われています。
- 無関心期
- 関心期
- 準備期
- 実行期
- 維持期
行動変容のプロセスは1980年代に禁煙方法の研究から始まり、ダイエットや健康の分野でも取り入れられるようになりました。
そして、現在では人材開発や組織開発など、HR分野でも取り入れられています。行動変容のプロセスをうまく活用することで、研修効果を高めたり、組織全体を良い方向で導くことが出来るでしょう。
行動変容を実現させる5プロセスとアプローチのポイント
ここからは、行動変容の各プロセス、各ステージで取るべきアプローチ方法を紹介します。
1. 無関心期
特定の行動を起こすことにまったく興味・関心がない状態が無関心期です。
無関心期のうちは、行動に対して関心を持ってもらえるようにアプローチすることが大切です。
関心を持ってもらうために有効な方法は、今の状態が続いた場合の未来を想像することです。想像した未来に対する危機感や、逆に明るいビジョンを実現させたいという欲求で、次のフェーズである関心期に移行しやすくなります。
2. 関心期
特定の行動に対して興味・関心を持ち始めたものの、実際に行動する必要性までは感じていないフェーズが関心期です。
関心期の人にアプローチする際は、行動に移さないことで起こりうるマイナス面と、逆に移したことで得られるプラス面をそれぞれ整理することが有効です。片方だけでも問題ありませんが、両方の側面から伝えると、より効果的です。
無関心期のアプローチ方法と比較して、より目先の事柄や具体的な内容に注目させる、また、それを生み出す行動を確認するとよいでしょう。
3. 準備期
関心が強くなって「行動を実行したい」と思い始めた時期が準備期です。
行動するまであと一歩という段階なので、実行に向けた具体的な方法を提示しましょう。行動に向けて自己決定を促す状況を作ることが大切です。
次のフェーズに移りやすくするためには、「行動すれば上手くいく」という自信を持たせ、逆に「失敗してもリスクは少ない」と示すことです。仮に失敗したときのリスクがある場合でも、リスクを明確にしたうえで対処法を提示することで、安心して行動に移せるようになるでしょう。
4. 実行期
実際に行動に移し始める時期が実行期です。実行期の初期は「試しにやってみるか」と位置付けであり、当人は持続する自信やイメージはない状態です。
そのため、実行期の初期には行動を継続できるような働きかけが求められます。習慣化に向けた有効な方法は、以下の通りです。
- 行動に対して声かけなどのケアをする
- 継続できていたときは褒める
- 実行する行動の難易度を下げる
- 早い段階で成功体験をしてもらう
5. 維持期
行動を変えて一定期間が経ち、定着してきた段階が維持期になります。維持期に差し掛かったらフィードバックや効果測定を行い、スキルの定着と向上を促しましょう。
行動する前よりも成果が上がっていた場合は、たとえ些細なことであっても成果を示すことが大切です。変化が見られないとモチベーションが下がり、せっかく変えられた行動が元に戻ってしまいます。
行動を継続できたとしてもマンネリ化してしまい、成果が頭打ちになってしまうこともあります。マンネリ化を避けるためには、スキル向上や効率化する方法を考えさせたり、あるいは提示したりすることが有効です。
行動変容に有効なナッジ理論とは?
行動変容のフェーズを進めやすくするうえで有効な概念として「ナッジ理論」があります。
ナッジ理論とは、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授によって提唱された理論です。ナッジという英単語は「そっと肘でつつく」といった意味で、そこから点字で、「よりよい行動をとるように、強制することなく自分で意思決定して取り組むように仕掛けをつくる」ことを言います。
人は誰しも「自分の行動を自分で決定したい」と言う本能を持っています。したがって、他人の行動を変えたいときに指示や命令で強制的に動かそうとしても、維持期のフェーズにまでもっていくのはかなり難しいです。
私たちの身近なところでも、ナッジ理論は取り入れられています。たとえば、スーパーやコンビニではレジの並び列を作るために、床に足形のマークが描かれています。
床の足形マークを見ることで、私たちは無意識に「ここに並べばいいのか」と考えて意思決定をすることで、自動的にきれいな並び列が作られます。
行動変容を促すためには、当人が主体的に動くようにすることがポイントです。ナッジ理論を取り入れて、「メンバーが自発的の望ましい行動をとるようにする」と、組織における行動変容を実現しやすくなるでしょう。
行動変容を実現する5つのポイント
組織などで行動変容を促すためのポイントは、以下の5つです。
- 強制や命令しない
- 明確な行動を設定する
- 小さなゴールを設定する
- 時間をかける
- 研修だけで終わらせない
ひとつずつ見ていきましょう。
1. 強制や命令しない
行動変容を生み出したいときは、強制や命令をしないように心がけてください。強制や命令をすれば短期的には人の行動を変えられますが、受けた側は不快に感じるので、長続きはしません。
前述したように行動変容することによるビジョンやメリットを確認する、早めに小さな成功を体験させる、ナッジ理論などを取り入れて自然な形でアプローチするなどがポイントになります。
2.明確な行動を設定する
いつ、何を、どのようにするかが明確になった具体的な行動を設定しましょう。行動変容を生み出すうえで、「○○を意識する」といった抽象的な行動は往々にして上手くいきません。
明確な行動を設定するポイントは、5W3Hと数値を使うことです。100人に説明して全員がまったく同じ行動を取れるくらいの明確さになれば、実施するハードルは下がり、行動変容を起こしやすいでしょう。
例えば、「運動を心がける」ではなく、「雨が降っていない日、19時までに退社出来たら、最寄りの2駅手前でおりて、家まで歩く」といった形です。
3. 小さなゴールを設定する
行動を起こしやすくするには、小さなゴールを設定することも大切です。
最初の一歩を大きくしてしまうと、行動に移すことをためらうものです。簡単にクリアできるゴールを設定することで、小さな成功体験を積み上げられるようになり、達成感を得られます。
達成感を得られればより大きな行動にも挑戦できるようになり、やがて定着し、変化に繋がるでしょう。
4. 時間をかける
人の行動を変えるには時間がかかることを、理解しなければなりません。人には「いつもと同じ状態でいたい」という習性があり、変化するには時間がかかります。
行動変容を生み出すためには小さなことから始め、時間をかけて定着させる必要があります。
一度に複数のことを変えたい、大きく変えたい心理もあるでしょう。しかし、あれもこれもと要求してしまうといずれの行動も定着できず、行動変容が起きずに終わってしまいます。
行動が変わるまでには時間がかかることを理解して、一つひとつ着実に定着させることを意識しましょう。
水車や風車がまわるとき、はじめの一回転をまわすことは非常に大変です。しかし、回り始めれば、加速させることは容易です。行動変容を起こすのは、「はじめの一回転」を作るようなものです。我慢づよく、また多くを求めずにいきましょう。
5. 研修だけで終わらせない
人材育成や組織開発のなかで、行動変容とその先にある結果変容を意図して、研修が組まれることはよくあります。行動変容を促すために研修を組む場合は、実施前後のアプローチはきっちりと行うことが大切です。
研修の前後にアプローチがないと、その場限りの学びとなってしまい、行動にまで至りません。また、やる気がない状態で研修に入ってくると、最初の行動を起こすハードルが高くなってしまいます。
研修前には参加意欲を高めるための情報提供や動機づけが大切です。また、研修を通じて関心期・準備期を突破して、質の高い実践行動を決めることで実行期にスムーズに入ることが大切です。そのうえで、アフターフォローで実行期の初期から維持期(新たな行動の定着)への移管できるようにしましょう。
行動変容を起こすための研修設計については、ブリンカーホフの法則(4:2:4の法則)が有名です。詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
行動変容を促す環境を作る3つの手法
行動変容の理論を理解したとしても、実際に取り入れて行動を変えるように促すためには、以下3つのポイントを押さえた環境づくりが大切です。
- 主体的な行動を誘因する環境を構築する
- 人間関係を良好にする
- 失敗に寛容な雰囲気を作る
環境次第で行動変容のハードルも大きく変わるので、ひとつずつ押さえておきましょう。
主体的な行動を誘因する環境を構築する
従業員に行動変容を促すためには、体制や環境の構築が重要となります。先ほどナッジ理論の「レジの並び列を作る方法」の例でも説明した通り、うまく仕掛けを施すことで行動変容を起こせます。
ナッジ理論に基づいた仕掛けは、マネジメントやリーダーの単独で取り入れられない場合などもあるでしょう。どんな行動を促したいか、そのためにどんな仕組みを作ることが有効か、人事や幹部層なども巻き込んで検討していきましょう。
人間関係を良好にする
組織内の人間関係を良好に保つようにすれば、いざというときにサポートを受けられます。行動変容の中で実行期まで移せたとしても、何らかの事情で維持期まで進めず、中断してしまうケースは少なくありません。
人間関係が良好であれば周囲のサポートを得やすくなり、行動の継続に繋がります。また、人間関係が良好であれば新しい行動に挑戦する意欲も生まれやすくなるでしょう。
失敗に寛容な雰囲気を作る
失敗に寛容な雰囲気を作っておけば、行動を変えることに対する抵抗感を大きく下げられます。
行動を変える時には、何らかの失敗は必ずするものです。たとえば、実行期を上手く抜けられない、いわゆる「3日坊主」になることも多々あります。その時、周囲が「また継続できなかったね」と声をかけるような組織では、本人はもとより、それを聞いた周囲の人も「もう新しいことに挑戦することはやめよう」「こっそりやろう」と思うでしょう。
一方で、例えば「まずは3日やったんだ。良いじゃん!次は連続5日だね(笑 )」などと明るく承認して励ましてくれる風土あれば、本人も再スタートしやすいですし、周りも新しい行動や挑戦をしてみようという気になるでしょう。
行動に移して失敗したとしても、得られるものは必ずあります。「失敗したからこそ次にうまくいく方法を見つられけた」などの実感を得られるように、失敗に寛容な雰囲気づくりこそが、行動変容に欠かせない要素となるでしょう。
まとめ
行動変容は、文字通り「人の行動が変わること」、同時に人の行動が変わるまでのプロセスを示した言葉です。
行動変容には、無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期という5つのプロセスで実現します。各プロセスの内容、また次のプロセスに入るためのポイントを理解しておくことで、自身や他メンバーの行動変容をより上手に実現できるようになるでしょう。
記事で紹介した各プロセスのポイント、また、行動変容を実現する5つのポイント、行動変容を促す環境づくりなども参考に、ぜひより良い行動習慣を実現してください。
従業員一人ひとりが自発的に動く組織を目指している方は、世界的ベストセラーである書籍「7つの習慣」も参考にしてみるといいでしょう。以下の資料では7つの習慣を組織に取り入れる方法について解説しているので、ぜひご一読ください。
また、研修を通じて行動変容をお考えの方は、ぜひ下記の資料を参考にして下さい。