中途採用者は、前職までの業務である程度のスキルを身に付け、それなりに経験を積んでいることが多いものです。そのため、経営者や人事担当者としては「中途採用者には研修は必要ないだろう」と考えることもあるかもしれません。
しかし実は、中途採用者がいくらスキルや経験を持っていたとしても、入社後の研修は必須といえます。研修をしない場合、即戦力化が遅れたり、早期退職のリスクが高まったりするからです。
本記事では、中途採用者に研修が必要な理由を詳しく解説するとともに、研修カリキュラムの考え方や押さえるべきポイントを解説します。
<目次>
なぜ中途採用者にも研修を実施すべきなのか
中途採用者がどれだけスキルや経験を持っているとしても、入社時には研修を実施すべきです。中途採用者を対象に研修を行なうべき理由を、研修を行なわない場合のデメリットやリスクと併せてお伝えします。
企業の経営理念やビジョン、クレドなどを理解してもらう
企業が目標を達成するには、社員全員が同じ認識を持って仕事に取り組む必要があります。経営者がいくら立派なビジョンを持っていたとしても、それが一人ひとりの社員に浸透していなければ、ビジョンの実現は叶いません。
中途採用者の場合、これまでの経験や実績、前職でのやり方がある程度身に付いています。一方で、自社の経営理念、ビジョン、また価値観やバリューなどの理解は浅い状態です。研修を通して自社のミッション・ビジョン・バリューなどをしっかり理解してもらうことが重要です。
組織における最も重要な判断軸・方針・価値観をしっかりと伝え、自社の一員として目指すべき方向を共有しましょう。
業務の進め方などを理解してもらう
新卒採用者でなく中途採用者にも、具体的な業務の進め方を伝えることが必須です。たとえ前職が同業だったとしても、仕事の進め方やルールは企業によって違います。スムーズに業務を始めてもらうためには、研修を通して自社のやり方を理解してもらうことが大切です。
企業が変わると求められるスキルも変わってきます。中途採用者には、自社がどのような人材を求めているかを知ってもらい、そのうえで自分の役割を明確に認識してもらいましょう。
組織に馴染んで役割を遂行するためには、配属される部署の立ち位置や業務内容、重要度など、組織の全体像を認識してもらうことも重要です。これらを理解することによって、中途採用者は円滑に仕事を進めることが可能になります。
社員同士の交流を深め、職場に馴染んでもらうため
研修は、社員同士の交流を深める良いきっかけになります。どんなに優秀な人材でも職場に馴染めなければ孤立してしまい、実力を発揮できず、最終的には早期退職となる可能性もあります。なるべく早く自社に愛着を持ってもらうためにも、入社後すぐに交流の機会を設けることが大切です。
新卒採用の場合、同期入社した者どうしですぐにコミュニティが形成されることが多いのですが、中途採用では新卒採用に比べて採用人数が少なく、職場に馴染みにくい傾向にあります。
研修といっても知識をインプットするだけとは限りません。中途採用者同士、また中途採用の社員同士の交流機会として使って、組織に馴染むプロセスを手助けしましょう。
中途採用者研修の必要性を示す「組織社会化」の概念
「組織社会化」とは、外部から組織に入ってきた新参者が組織に適応していくプロセスのことです。新卒採用者や中途採用の新人以外にも、違う部署から異動してきた社員もこの概念の対象になります。
組織社会化をもう少しわかりやすく表現すると、「組織に馴染み、自らの能力をうまく発揮できるようにする」プロセスです。つまり企業側から見ると、組織社会化は新人の即戦力化を早めるうえでとても重要な概念なのです。
社員の組織社会化を促すために企業側が行なう一連の取り組みを「オンボーディング」といいます。
オンボーディングに含まれる具体的な施策は、研修やOJTの仕組み、メンターやブラザー・シスター制度などです。中途採用者向けの研修は、組織社会化を促す色合いを強くすることを意識しておきましょう。
中途採用者向けの研修カリキュラムの考え方と内容、実施期間
中途採用者の研修カリキュラムをどのように考えていけば良いのか、その内容と一般的な研修期間について解説します。
カリキュラムの考え方と内容
一般的に中途採用者向けに行なうべき研修は、集合研修(講義形式の研修)ではありません。新卒と異なり、社会人経験者であれば集合研修でマナーなどを学ばせる必要はないからです。
中途採用者に向けた研修は、オンボーディングの考え方を軸として、Off-JTとOJTを組み合わせるのが適切です。先述のとおり、オンボーディングとは組織社会化を促す一連の取り組みで、言い換えれば、新人の受け入れから定着、戦力化までを早期化する施策のことです。
採用した人材の定着と早期戦力化がうまくいかないことに悩む企業は多いですが、こうした問題の原因の一つは、研修やフォローの不足など、受け入れプロセスの不備にあります。人手不足で定着や早期戦略化の必要性がさらに高まっているという背景もあり、オンボーディングは近年ますます注目されている概念です。
オンボーディングの内容として設計したいのは、組織に馴染んで能力発揮できるようになるまでの過程です。職場内でのコミュニケーションやOJTを中心に据えつつ、理念・用語・組織構成といった知識面でのインプットをOff-JTでカバーするような形で、カリキュラムを組むことがおススメです。
研修の実施期間について
入社してすぐに数日から1週間ほどのOff-JT研修を行ない、その後配属先でOJT研修をスタートさせるのが一般的です。
もちろん同じ「中途採用」でも、職種や対象によって研修の実施期間は異なります。例えば未経験層のエンジニア採用であれば数ヵ月かけて研修を実施する場合もあるでしょう。
先述のとおり、研修は組織社会化を促す施策の一つですが、組織社会化そのものが完了するまでには、ある程度時間がかかります。組織に馴染むために最低で3ヵ月程度、持っているノウハウや経験などの能力をフルに発揮するに至るには6ヵ月から1年ほどかかると考えたほうがよいでしょう。
研修について具体的に決める際には、まずは自社が中途採用者に対し何を求めているのかをあらためて確認し、そのために最適な研修方法や期間を考えるようにしましょう。
中途採用者に研修はなしでもいいのか?
繰り返しになりますが、中途採用者の経験やスキルが十分だと思えるときほど、研修は省略しても良いのではないかと考えたくなります。しかし、組織に馴染むプロセスをきちんと提供しなければ、どれだけ優秀な経験者であろうと能力の発揮は遅れてしまいます。
以下のような問題が生じると、せっかく採用した人材が企業に定着できず、能力を発揮できないどころか最悪の場合は早期退職してしまうおそれもあります。
- 社員との交流が深められずに業務に関する相談などができない
- 組織分野や仕事の進め方を吸収できず周りとトラブルが生じる
- 実績を出すまでの期間が遅れることで周囲からのプレッシャーが高まる
時間と労力をかけて採用した貴重な人材を失わないためにも、オンボーディングの考え方に基づき、受け入れ研修は必ず実施すべきです。
中途採用者向けに研修・教育をするうえで押さえておきたい3つの実践ポイント
最後に、中途採用者を教育するうえで押さえておくべきポイントを解説します。
業務に関するフィードバックや進捗管理を徹底する
まず大切にしたいのは、社員のフォローアップです。特に研修中は、定期的に面談を行なったり業務の進捗を確認したりして、こまめにフィードバックを行ないましょう。初期のうちはフィードバックや進捗確認を毎日実施するなど、高い頻度でコミュニケーションを取るのがおススメです。
面談を定期的に行なって目標やそれに対する進捗を確認すれば、中途採用者自身のモチベーションを把握できるのはもちろん、モチベーションの維持・向上を図ることもできます。業務上の悩みも面談でヒアリングできれば、早期退職防止にもつながるでしょう。
社内での人間関係を構築できるよう支援する
社員研修だけでなく、食事会やバーベキューなどのイベントを開催して交流を深めてもらう方法もあります。現在ではリモートワークが普及してきたため、リモート飲み会やリモートランチといった形で交流を行なうことも一つの方法です。
いつでも相談できる相手が身近にいれば、安心して業務に取り組めます。したがってOJTの教育担当者とは別に、バディやブラザー・シスターを付けることもおススメです。
組織のルールや仕組みを教えたり、悩みを聞いてアドバイスをしたりと、より密なコミュニケーションを取れます。
中途採用者が活躍できる環境作りを意識する
業務に早く慣れ、職場に馴染んでもらうためにも、意欲的な人材には積極的に活躍できる機会を与えましょう。仕事を任せられることで「企業の一員として認められた」と実感でき、帰属意識も高まります。
また、実際に仕事をこなしていくことで小さな成功体験が積み重なり、モチベーションアップにもつながります。新人にはごく簡単な仕事から与えることが多いと思いますが、本人のスキルとやる気を見極めたうえで、高いモチベーションで取り組める仕事を提供していきましょう。
まとめ
経験者を採用する中途採用においても、入社後の研修は重要です。どんなに優秀な人でも、組織に馴染むことができないと、持っている能力やスキルを発揮することは困難だからです。戦力化が遅れたり、最悪、早期離職につながったりするケースもあります。
中途採用の受け入れ研修は、新卒のようにビジネスマナーなどを一から教えるものではありません。OJTや職場でのコミュニケーションを中心として、知識面のインプットに限ってOff-JTを取り入れるのが一般的です。
これらの受け入れプロセスを総称してオンボーディングと呼びます。社員が組織に馴染み、能力を発揮するまでのプロセスを設計し、そのなかで不足する能力やスキル部分をカバーできるようにカリキュラムを組むとよいでしょう。
研修期間は定期的なフィードバックと進捗管理を心がけるとともに、人間関係の構築を積極的に支援し、活躍の場を提供することが重要です。研修と職場環境の両面から、中途採用者の能力発揮をサポートしていきましょう。