プレイヤーと管理職の仕事は、「自分の力で成果を出す」と「他人を動かして組織の成果を出す」という違いがあり、役割も求められるスキルも変わってきます。したがって、プレイヤーから管理職に昇格する時には、新任管理職研修を通じて、新たな役割への意識やスキルを習得してもらうことが大切です。
記事では、新任管理職研修の目的や身に付けるべきスキル、研修プログラムを導入・選定するときの注意点を紹介します。
<目次>
新任管理職研修の目的
新任管理職研修は、新たに管理職に昇格したメンバーを対象とした教育プログラムで、約8割の企業で実施されています。
管理職はプレイヤーとは違う役割と責任があり、新たな心構えとスキルを身に付けてもらう必要があります。従って、新任管理職研修の目的は、スムーズに新たな役割意識とスキルを身に付けて、管理職として成果をあげてもらうことです。
管理職の役割は、「他人に動いてもらい組織の成果(業績)に責任を持つ」こと、そして「人材を育成する」ことの2つです。実際には、多くの中小企業で管理職が“プレイングマネージャー”であるケースも多いと思いますが、上記2つの役割はプレイヤー時代とは異なるものです。
上記の責任を背負って働く中で、管理職は4つの壁にぶつかると言われています。
管理職になると、自分のチームや組織に対して、ビジョン、方針、目標、計画などを示す必要があります。ビジョンや目標等をうまく示せないと、組織の一体感やメンバーのモチベーションに悪影響を及ぼします。
管理職になると、今まで以上に広く他部署や上流下流組織のリーダー陣と信頼関係を築き、物事を調整する必要があります。組織外の連携がうまくいかないと、メンバーの仕事に支障が出ることもあるでしょう。
前述の通り、管理職は「他人に動いてもらい成果をあげる」「メンバーを育てる」という2つの責任を負います。管理職自身が最も身近で悩むテーマがメンバーとの信頼関係やマネジメント、育成です。
多くの企業における管理職はプレイングマネージャーでもあります。また、マネジメントにおいても様々な業務がある中で、プレイヤー時代よりも高いセルフマネジメントが求められます。
新任管理職が直面する壁は、業種やチームの状況によっても変わってくるでしょう。そして、新任管理職が壁を乗り越えるためには、準備やスキルが必要です。新任管理職研修では、ぶつかる壁の理解や課題解消に活用できる知識やテクニックを学ばせることが大切です。
新任管理職が身に付けるべきスキル
管理職に必要な能力の種類は、カッツ理論を参照すると分かりやすいです。
カッツ理論(カッツモデル)は、ビジネスに不可欠なスキルを3つに分類し、ビジネスの階層ごとに必要な力の割合を示す理論です。提唱者であるカッツ氏の名前をとってカッツ理論と呼ばれます。
※本来のカッツ理論は、管理職内でも上級・中級・下級というレベルに応じて求められる能力ウェイトが変わることを示していますが、経営幹部・管理職・プレーヤーというくくりでもイメージしやすいため、上記の表現に加工しています。
カッツ理論で示させる各スキルは以下の通りです。
・コンセプチュアルスキルは、ミッション・ビジョンなどの抽象度が高い概念を扱って組織を鼓舞したり、ビジネスモデルや市場・データ分析等からビジネスの要点を掴んだりするようなスキルです。経営陣が成果を上げる上で特に求められるスキルになります。
・ヒューマンスキルは、人格や人間力、コミュニケーション、思いやり、リーダーシップなどによって、人を動かすスキルです。人を動かして成果をあげる管理職に特に必要な能力となっており、対人関係力といわれます。
3つの能力のなかで新任管理職に特に求められるのは、ヒューマンスキルの向上と管理職としての新たなテクニカルスキルです。
新任管理職に求められるテクニカルスキル
管理職の大きな役割は、チームやメンバーの目標を設定し、達成するための方針・計画を作成して、実行をマネジメントすることです。
業務目標の多くは定量的な数値に落とし込まれます。そのため、実績や数字の裏にあるプロセスや構造を理解して目標を設定し、達成できる計画を作成する必要があります。
また、どれだけ緻密な計画を作成したとしても、現実では常に想定外のことが起こります。起こった事態に対応して、問題解決と目標達成へのキャッチアップ施策を作成していくことが求められます。
プロセスを遂行するために、ロジカルシンキング、計数管理、問題解決力などが求められます。また、組織によっては管理職になると、マーケティングや基礎的な会計知識が求められる場合もあるかもしれません。
上記のように管理職としての業務を遂行するために必要なのが、管理職としてのテクニカルスキルです。
新任管理職として求められるヒューマンスキル
管理職になると、セルフマネジメントが中心だったプレイヤー時代とは異なり、メンバーと信頼関係を築く必要があります。
どのような仕事においても、メンバーを動かすのは理性と感情のかけ合わせです。管理職がどれだけ「正しいこと」をいっても、それだけでは人を動かすことはできません。
管理職にはメンバーとの信頼関係を築き、意見や意欲を引き出し、チームとしての計画や施策を実行させる「人を動かす」力が必要となります。具体的には、以下のようなスキルが求められます。
- 人間性
- 傾聴力
- 褒める/叱る力
- ファシリテーション
- コーチング
新任管理職の研修を選ぶポイント
新任管理職研修の外注や設計をする際には、以下のような視点を持って考えることがポイントです。
一般社員の研修よりも高い指導力【ポイント①】
新任管理職研修では「プレイヤーから管理職への意識変化」を起こさせることが重要です。そのためには、マインドセットとスキル習得の両方が大切になります。
一方で、新任管理職になった人は、プレイヤーとしては十分な経験と実績を持つからこそ管理職になっているともいえます。研修の参加者には自負やプライドもあり、講師には高い指導力や参加者への敬意が求められます。
職場での実践や振り返りが行なわれるプログラム【ポイント②】
マネジメントのスキルは、研修だけで身に付くものではありません。「研修での学び→現場での実践→体験からのリフレクション」という3つが紐づくことでスムーズな成長が実現できるようになります。
したがって、管理職研修を選んだり、設計したりする際には、「研修内容」だけではなく、「研修での学びを職場で実践する」「職場での実践を学びに変える」という点が盛り込まれたカリキュラムやサポートが重要となります。
継続学習できる研修設計【ポイント③】
管理職の成長は、単発の研修で実現するものではありません。前述のとおり、学びと実践の繰り返しを通じて成長するものです。したがって、管理職研修の整備をするときには、1年~3年の時間軸で育成計画を考える必要があります。
研修プログラムも、単発ではなく、最低でも数ヵ月のスパンを見ておきましょう。また、レベルに応じた学び直しやステージに応じて学べるプログラムが用意されていることが理想です。
全体向けの講義だけではなく、受講者一人ひとりの課題に対するフォローや実践サポートの仕組みも、管理職研修の効果性を高めるポイントです。
新任管理職研修の種類や内容
新任管理職研修では、前述のようなテクニカルスキルとヒューマンスキル、前提となる役割認識を総合的に学ぶプログラムが求められます。業界や職種によっては、下記のテーマを重点的に実施するケースもあるでしょう。
ロジカルシンキング
ロジカルシンキングは、計画立案や問題解決などのマネジメントで必須のスキルです。新任管理職向けのロジカルシンキング研修では、「概念やフレームワークを覚える」ことよりも「管理職として必要な課題解決に向けてロジカルシンキングを実務で使えるようになる」ことが大切です。
KPI
KPIマネジメントは、管理職が目標達成するうえで最も基本的なマネジメント技術の一つです。業績達成するためのプロセス(KPI・KAI)の量や質をマネジメントして、PDCAを行なうための手法です。
- KPI(Key Performance Indicator)
最終的な業績目標を達成するためにカギとなるプロセス指標 - KAI(Key Action Indicator)
プロセス指標を達成するための活動指標
営業活動でいえば、最終ゴールとなるKGIは「受注金額」や「売上」が一般的です。そして、売上目標を達成するためのKPIに「見積もり件数」や「商談件数」、KAIに「顧客へのアプローチ件数」などが入ることが多いでしょう。
KPIマネジメントの考え方自体は、シンプルです。新任管理職研修では、座学で基本的な概念を学んだあと、実務で使いこなせるようにどう現場で実践するか?が肝になります。
コミュニケーション研修
管理職には、コミュニケーションを通して他人を動かし、成果をあげることが求められます。新任管理職には、褒める/叱る、フィードバック、コーチングやファシリテーションなどのコミュニケーション技術が必要になります。
人を動かすには、相手との信頼関係を築くことも大切です。テクニックは非常に有効であるものの、テクニックだけで人を動かすことはできません。そのため、新任管理職向けのコミュニケーション研修では、コミュニケーションのテクニックだけでなく、信頼関係を築くための前提となる人間性や人格の磨き方を教えることも大切です。
チームビルディング
チームは、単なる人の集まりではなく、“共通目標を達成するために協同する”存在です。組織として結果をあげることを求められる管理職にとって、「チームを作れるかどうか」は成果を大きく左右します。
チームビルディングについて、以下のことを習得すると管理職にとって有用です。
- 自分とメンバー、メンバー間の相互理解を生むプロセス
- 共通目標を設定するためのプロセス
- ファシリテーションやコーチングの技術
マーケティング
組織や職種によって管理職の役割は大きく異なりますが、ビジネスサイドの組織で管理職を務めるためにはマーケティングのスキルが求められることもあります。マーケティング部門でなくても、営業チームや拠点、人事などの仕事で成果をあげていくためにもマーケティングの考え方は有効です。
具体的には、セグメントとターゲティング、ベネフィットの考え方、AIDMAやAISAS、4Pを理解すると、管理職として思考できる幅が広がるでしょう。
アカウンティング
アカウンティングとは、経理財務など会計の基礎知識を指しています。管理職になると、組織によっては拠点や店舗のP/L責任を担うことになります。
財務の知識を必要とされることは殆どないでしょうが、P/L責任を担う用であれば、P/Lに関する基礎知識、自社の売上や費用構造への理解が求められます。
ハラスメント、コンプライアンス
権限を持ち、意思決定を行なう管理職には、ハラスメントや自社の事業領域に関するコンプライアンスなどの知識も必要になります。
昨今はSNSが浸透したことで、トラブルが発生すると一気に拡散して、組織に大きなダメージを与えることも増えています。また、過去とは許容範囲が変わり、法令の施行もされた中でハラスメントに関する基本は押さえておく必要があります。
新任管理職以外の管理職研修
「管理職」向けの研修では、新任管理職研修以外に、中堅管理職・上級管理職という3つの階層に分けて、必要なスキル、テーマを設定するのが効果的です。3つの研修は、以下のテーマで実施されることが多い傾向があります。
<階層別>
- 新任管理職研修
プレイヤーから管理職への変化を支援する研修。管理職としての役割意識や必要なスキルを身に付けます。 - 中堅管理職研修
不足するマインドセットやスキル向上を目的にすることもありますが、マンネリ感の打破、殻を破る目的でリフレクション研修が行なわれることも多いです。
- 上級管理職研修
幹部候補に向けたステップとして、事業戦略やコンセプチュアルスキル、マーケティングなどを本格的に身に付けます。
新任管理職向け研修「JAICリーダーカレッジ」
HRドクターを運営するJAICでは、上記のポイントを満たした新任管理職研修「JAICリーダーカレッジ」を提供しています。
研修の特徴
1名から派遣でき、他社の管理職との他流試合ができる
中小企業において、新任管理職はそこまで数多く発生するわけではありません。したがって、外部講師を招いての個別研修を行なうことは難しい特徴があります。
一方で、管理職に必要なスキルは、管理職に昇格したタイミングから間をあけずに学ぶことが大切です。「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、昇格して意欲が高いタイミングで体系的な学びをすることで、成長が早まり、管理職として成功体験を積みやすくなります。
したがって、新任管理職の外注プログラムは、一人から派遣できることが中小企業にとっては絶対条件です。JAICリーダーカレッジは年4回スタートタイミングがあり、昇格のタイミングを逃さずに派遣することができます。
「360度評価」で現状を認識して、変化を決意させる
JAICリーダーカレッジでは、1年間の研修プログラムの最初と最後で、上司・メンバー・同僚からの360度評価や上司面談を実施します。
360度評価を行なうことで、自分の強みや弱み、周囲からの見え方を自覚し、面談で企業からの期待を聴いて「変化する」ことを決意することができます。このようにJAICリーダーカレッジには、学習効果を高めるための「学ぶ姿勢」を作る仕掛けが多く組み込まれています。
単発ではない1年間の継続カリキュラムで変化をサポートする
JAICリーダーカレッジには、「学び、職場で実践して、振り返る」を繰り返す継続学習の仕組みがあります。1ヵ月に1回の研修で学んだあとは、「職場での実践行動」を必ず計画し、次回の研修で「実践した結果」をクラス内で発表します。
講義はクラス制になっており、同じ担当講師が1年間を伴走して、変化の兆しを拾い、親身に職場の悩みをサポートします。更にオンライン研修コースでは、2ヵ月に1回、担任講師とのフォローアップセッションも実施することで、個人の変化を徹底してあと押ししていきます。
高品質の研修プログラム
JAICリーダーカレッジは、リーダーとしてのあり方、リーダーとして目標達成するためのスキル、リーダーとしてコミュニケーションスキルを順に学んでいく研修プログラムです。
「フォーチュン100」にランクインする世界のトップ企業の90%が社内研修に導入しているという「7つの習慣」や、野村證券やキリンビール、ユニクロなどでも導入される目標達成メソッド「原田メソッド」など、高品質の研修プログラムで構成されています。
- 選べる対面&オンラインコース
JAICリーダーカレッジには、対面で学ぶ通学コースとオンラインコースの両方があります。そのため、自社の状況に応じて参加しやすいコースを選択することが可能です。
多拠点展開、全国展開している企業などでも、場所による格差などを作らず、全管理職に高品質な教育プログラムを実施できます。
研修を受講した企業の体験談
実際に、リーダーカレッジを利用された企業の体験談を紹介します。
アサヒグローバルホーム株式会社
元々トップ営業マンで店長になったBさんは、研修前は「自分が成果を出していけばよい」という意識が強かったのですが、研修後は、自分の成績を出すだけでなく、 周囲を引っ張り、部下を成長させて、店も良くする、という風に考え方がだいぶ変わりましたね。
株式会社ライフ設計事務所
参加した社員が皆、実際の行動に移していることがよく分かりますね。研修を受けてから、私に「これから毎朝、部下全員へおはようメールを送ります」と報告して、自主的にやり始めたんです。 もともと技術屋でそんなことするタイプではないのに、マメに続けていて感心していますよ。
新任管理職研修のまとめ
管理職になると、自分の力で成果をあげるプレイヤーとは異なる役割を担うことになります。そのため、研修では、役割意識の転換や新たな必要スキルを学ぶ必要があります。
昇進して意欲の高いタイミングで新たな役割意識と必要スキルを学ばせることで、管理職としての早期戦力化・成果の創出を後押しするものが新任管理職研修であり、約8割の企業で実施されています。
新任管理職研修は、以下の3つを学ぶことが基本です。
- 新たな役割認識
- 管理職に必要なメンバーとの信頼関係を構築するヒューマンスキル
- 管理職として目標設定・計画作成・問題解決するために必要なテクニカルスキル
新任管理職研修を選んだり設計したりする際には、研修単体ではなく、「現場での実践」「現場実践からの学び」を一緒に組み込みことが効果性を高めるポイントになります。当ページで紹介したポイントも参考に、ぜひ自社にとって有効な新任管理職研修を実施してください。