研修効果を測定するアンケート作成のポイントと効果を高めるコツ

研修効果を見える化する!測定方法のポイントと効果を高めるコツ

研修を実施したら、研修の評価や今後の内容改善を検討するために、効果測定は欠かせません。企業研修は、行動変容やスキルアップ、モチベーションの向上等を通じて、最終的には業績向上等を意図するものが大半です。しかし、最終的に目指すゴールである業績の変化は、研修効果以外の外部要因の影響が多く、研修効果として測定することは困難です。そこで研修効果を測定する方法のひとつが、研修アンケートです。研修アンケートを適切に設計することで、受講者の満足度や理解度、腹落ち感など、さまざまな観点から研修効果を評価できるようになるでしょう。
 
本記事では、研修効果測定の基本の考え方や研修アンケート設計のコツ、そして、研修効果を高めるポイントを解説します。

<目次>

研修効果を見える化する方法

研修効果を検証するためには、研修の効果を可視化する必要があります。可視化にはおもに3つの方法がありますが、それぞれ判断できる内容が異なります。

 

 

研修受講後のアンケート調査

研修終了後、研修内容についてのアンケートを実施します。これにより、研修受講者の満足度や研修の品質を計測することが可能です。アンケート回答から、研修内容の課題や今後の改善点等も見つけることができるでしょう。

 

<アンケートの項目例>

  • 研修内容を理解できたか?
  • 講師の説明は分かりやすかったか?
  • 研修内容に満足できたか?
  • 研修内容を実務に活かそうと思うか?
  • この研修を周囲に勧めたいと思うか? 等

 

受講者の満足度が低い場合、その後の行動変容は見込みづらいでしょう。従って、研修効果を測るうえでは、最も基礎的な見える化がアンケートの実施です。

 

なお、アンケートは、他の研修とも比較していけるように、理解度や満足度等の情報を10段階評価等でスコアリングすることがおすすめです。

 

そのうえで、スコアリングするための質問と併せて「今後何を実践するか?」「何が参考になったか?」等のテキスト項目を設けて、定性的な感想を収集します。

研修受講後の理解度テスト

研修終了後、研修内容をどの程度理解しているかのテストを実施することも有効です。理解度テストは研修直後に実施するケースもありますが、本当の理解度を測るには少し期間を空けてから実施するのが効果的です。

 

業務知識やコンプライアンス、個人情報保護等の知識インプット型の研修ではとりわけ有効ですし、営業研修等の実践型の研修においても、覚えていないことは実践されませんので一定の効果が見込めます。

 

テストには重要ポイントキーワードを盛り込み、受講者が研修内容を振り返りながら回答できる内容にすると良いでしょう。また、簡単な選択問題ばかりではなく、「自分の仕事に置き換えた場合…」「自社の場合…」といった研修内容を理解していないと回答できないような問題を組込むことも有効です。

 

なお、テストの存在を伝えておくと、研修への集中度が上がるという副次的な効果もあります。

 

 

研修内容の浸透度調査

どんなに質の高い研修であっても、職場に戻り日常業務に追われていると、研修で培った内容は薄れていくものです。そのため、研修内容が実際の業務で活かされているかをチェックするとともに、研修内容を忘れないよう工夫します。

 

方法として、研修後しばらくの間を空けてアンケート調査を実施したり、面談を設けて直接質疑応答したりするやり方です。その中で「何ができて何ができなかったのか」を振り返り、できなかったことは再度学ぶことができる機会を設けるのがおすすめです。

 

アンケート調査であれば、ある程度データとして、定量的に見える化することが可能になります。面談は手間がかかりますが、各参加者の上長等に実施してもらえば、実務に直結して実施が促進される効果が期待できます。

研修効果を測定する基本「カークパトリックの4段階評価法」

企業研修の効果測定を行なう際は、「カークパトリックの4段階評価法」が基本となるやり方です。多くの会社で感覚的に実施されている内容ですが、改めて理論を押さえておくと、自社の効果検証やアンケートでどこを強化したほうがいいか等を思考しやすくなるでしょう。

 

 

カークパトリックの4段階評価法とは?

カークパトリックの4段階評価法は、1959年にアメリカの経営学者ドナルド・カークパトリック博士が提案した、教育訓練の評価法モデルです。研修効果を測定する方法として世界的に定着しており、教育プログラムや教育品質の改善、効果向上のために活用されています。

 

カークパトリックの4段階評価法では、評価レベルが4段階に分かれており、レベル1・2は研修を実施した際に、レベル3・4はプログラム継続の判断をする際に用いられます。評価レベルが上がるにつれて効果測定も難しくなっていき、レベル3以上では中長期的な評価が必要です。

 

4段階評価の概要

以下が、カークパトリックの4段階評価法における4つの評価レベルです。

 

 

  • レベル1:Reaction(反応)

研修直後に行なうアンケート調査や面談を通じた“満足度”の評価

 

  • レベル2:Learning(学習)

筆記試験やレポート等による“学習到達度”の評価

 

  • レベル3:Behavior(行動)

受講者との面談や他者評価、定量的な把握等による“行動変容”の評価

 

  • レベル4:Results(業績)

受講者の“業績や貢献度合い”に対する評価

 

 

基本的には、研修の効果検証で悩むのは、「レベル1と2をやっても、実際の費用対効果があったのかを測りづらい…」「レベル4は研修以外の影響要因が多すぎて、研修効果の測定としては不適切…」「とはいえ、レベル3も研修実施だけで影響を与えられるか…」というところです。

 

ただ、このレベル1~4を知っておくことで、「今回の研修では、いつ何を測ることで研修効果を測定するのか」、「そもそも研修のゴールとして何を実現できたら成功なのか」、「研修を成功させるために研修の前後でどんな働きかけが必要なのか」を考えることができます。

 

記事の後半で研修を成功させるためのポイントについても解説します。

研修アンケート設計のコツと設問例

アンケート用紙と筆記用具

カークパトリックの4段階評価法には4つの評価レベルがありますが、最も実施しやすいのがレベル1(満足度)のアンケート調査です。基本となる部分ですが、アンケート調査は、内容を工夫すればレベル3(行動変容)の調査等にも活用できます。

 

冒頭で紹介した内容に加えて、アンケート調査についてもう少し詳しく解説します。

 

 

研修アンケートを作成するうえでの前提

アンケート結果を今後に活かすためには、質の高い回答を得る必要があります。アンケートの設問数が増えたり、テキスト項目が増えたりすると、回答者の負担は増え、回答への本気度も下がります。アンケートの目的を明確にし、設問内容を絞り込むことがポイントです。

 

また、設問の文章が分かりにくい、作りこまないと、受講者に設問の意図が伝わらず、「聞きたかった内容が回答として返ってこない」というケースもあります。

 

 

例えば、受講者にとって「最も有益だった研修内容」を知りたい場合に、設問の文章が以下だとどうでしょう。

 

「Q:研修でいちばん印象に残ったことは何ですか?」

 

当たり前ですが、この設問では、「最も有益だった内容」ではなく、「印象に残ったトピック」が回答として返ってくるでしょう。それでは、研修効果を正しく評価することはできません。

 

そうならないためにも、アンケートの目的を明確にして、意図に沿って誤解が生じない分かりやすい設問を作成することが前提です。

研修アンケートは満足度を測定するだけではなく、研修効果を高めるうえでも有効

研修直後のアンケートは満足度を測定するための評価方法となりますが、設問内容によっては研修効果を高める効果も期待できます。以下は、受講者アンケートに使用される一般的な設問です。

 

  • 研修内容はどのように実務に役立ちそうですか?
  • 研修を受けて、実務において何を実践しますか?
  • 学んだこと、やろうとしていることに障害はありますか?それは何ですか?

 

こういった設問に回答するには、研修内容を一度頭の中で整理する必要があります。そのため、アンケートが研修内容の復習となり、研修効果の向上に繋がります。

 

また、研修で学んだことを実施するうえでの障害や実務に落とし込んだ状態をイメージすることで、今後の課題や実施方法をより明確にすることもできるでしょう。さらに研修の冒頭でアンケート内容を予告することで、研修内容と実務のブリッジングが促進される効果もあります。

 

 

満足度の調査だけではなく、実践とのブリッジングへ繋げることを意識した設計

アンケートの主目的は「研修の満足度の測定」ですが、前述の通り、アンケートを通じて「研修効果を高める」ことも可能です。

 

基本的に研修の目的は、「学んだ知識を実務で実践して、成果に繋げること」です。従って、アンケートも満足度の調査だけではなく、実務での実践に繋げるための問いかけを意識するといいでしょう。

 

例えば、「研修内容を踏まえて、明日から実務の中で何を実践しますか? ○○を意識する、等ではなく、具体的な行動を3つ答えてください」といった設問が効果的です。

 

研修アンケートの効果的な設問の例

アンケート設計のコツを踏まえた効果的な研修アンケートの設問例を紹介します。
 

  • 「研修を通じてどんな課題を解決したいですか?」

アンケートというと、研修後に実施するものと考えてしまいがちですが、じつは研修の前にアンケートを記入してもらうこともひとつのやり方です。上記の設問を研修前に回答してもらうと、参加者の前向きな参加姿勢を作ることが出来ます。「何のために研修に参加するのか?」を明確にすることで、研修効果も高まります。
さらにオンラインでのアンケート実施や連続して研修を実施する場合には、この問いを講師に共有することで、講師も研修進行をしやすくなります。
 

  • 「研修でどんな気づきや学びがありましたか?」

この設問は、受講者が研修で得た気づきや学びを振り返るための基本となる設問です。この設問を通じて、研修全体を振り返り、また、自分の仕事に役立つ気づきや学びは何かというブリッジングを促します。本設問は、次の研修後に学びをどう活用するかを具体化させるヒントにもなります。
なお、この設問には「どんな気づきや学びがありましたか?」という質問の仕方もポイントで、この設問には「気付きがあった」という前提が埋め込まれています。こうした質問の仕方をすることで、参加者は「どんな気づきがあったか?」と思考し、気づきが引き出されるようになります。

 

  • 「研修で学んだことを、業務にどう活かしますか?」

研修を通じて得た学びを実際の業務にどのように活かすかを明らかにする設問です。書かれた内容が、それぞれの仕事における具体的なタスクとして明確になっているか、研修設計時に想定したゴールと一致しているかが非常に大切です。
なお、この質問も「活かしますか?」という書き方がポイントで、たとえば「活かしたいと思いますか?」ではなく、「活かしますか?」という質問に回答してもらうことで、無意識に実践へのコミットを高める仕掛けになります。

 

  • 「研修全体の満足度を10段階で教えてください」(大変満足:10・・・大変不満:1)

ここまでの3問は文章で“定性的”に回答してもらう設問でした。研修アンケートには、点数などで“定量的”に回答してもらう設問も入れておくと良いでしょう。定量的な設問を入れることで、回答結果を数値化して前回や他の研修と比較することが可能になります。

なお、「満足度」という設問はかなり抽象的ですので、全体評価としてはよいですが、加えて「研修での学びを実務で実践する具体的なイメージが湧いていますか?」といった研修効果に関する設問、また、「講師の伝え方は分かりやすかったですか?」などの詳細テーマに関する設問も入れると良いでしょう。

 

研修効果を高めるポイント

講義中の研修講師と手前の列にいる受講者

繰り返しになりますが、研修の目的は「学んだ知識を実務で実践して、成果に繋げること」です。成果に繋げるためには、レベル3(行動変容)が重要です。従って、研修の効果測定や研修効果を高めるうえでも、“行動変容”を実現するための仕掛け、“行動変容”を計測するための取り組みが大切です。

 

“行動変容”を実現するための仕掛け

研修の効果として行動変容を起こすためには、研修前後の取り組みが重要です。社員教育の業界でよく知られる原則として、「4:2:4の法則(ブリンカーホフの法則)」というものがあります。

 

ウェスタンミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ教授が提唱したものであり、4:2:4は、研修の行動変容に与える要素の割合を示したものであり、研修前40%、研修中20%、研修後40%であることを意味しています。つまり、研修の内容よりも、研修前後の仕組みが極めて重要だということです。

 

 

<研修前の40%>

  • 研修目的とゴールを明確にし、それに沿った人を選ぶ
  • 参加目的や期待を伝え、学ぶマインドセットをする
  • 研修を効果的にするために事前の振り返りや準備を行なってもらう

 

<研修中の20%>

  • 参加者の集中力と理解を促進するためのプログラム設計を行なう
  • 理解と実践に結びつけるような進行、使う事例や言葉を選択する
  • 研修後の実践行動を決定する

 

<研修後の40%>

  • 研修内容を周囲に共有する等のアウトプットの場を作る
  • 研修内容の実践をフォローする(オンライングループ、フォロー研修、上司への宣言等)
  • 実践率を高めて成果に繋げる(成果発表会の実施や講師からの支援等)

“行動変容”を計測するための取り組み

行動変容を実現することは、研修だけでは困難であり、会社や上司からの働きかけが大切です。その点では、行動変容を計測しても、必ずしも“研修内容の品質”が分かるわけではありません。

 

ただし。“行動変容を測定する”と決めることで、研修の目的やゴールやより真剣に考えられるようになります。

 

  • 何の数値が変化すれば、今回の研修は成功なのか?
  • いまの研修プログラムで本当にその行動変容が起きるか?
  • 現状はどうなっているのか?
  • 行動変容を起こすために会社や上司をどう巻き込んだらいいか?

 

等を考えることで必然的に研修の品質は高まるでしょう。また、“行動変容を測定する”と告知することで、参加者にも実践への意識が高まります。

 

 

行動変容の測定には、

  • ひとつの定量的な指標を追いかけるもの

Ex)「営業研修をやることで、新規商談の実施件数を上げる」

  • アンケート調査を通じて、宣言してもらった行動変容の実践状況を追いかけるもの

 

等のパターンがあります。結果変容への直結を考えると前者のほうが有効なのですが、一方で、さまざまな状況の参加者がいて、研修でもいくつものノウハウを教える中で、ひとつの定量的な指標だけで研修効果を測ろうとすることが適さない場合も多いでしょう。

 

その場合には、研修直後のアンケートで、「何を実施するか、どんな行動変容やプロセス変容を起こすか」を宣言してもらい、例えば、研修1か月後等の期日を決めて、宣言した内容の実践度を測るような取り組みが良いでしょう。

 

はじめにアンケートのフォーマットを工夫しておけば、運営側に大きな負荷なく実施することも可能です。ぜひ“レベル3”;行動変容の測定に取り組んで研修効果を高めてください。

まとめ

社員研修は最終的には業績向上を意図して実施することが大半です。一方で、業績向上には、研修以外で影響を与える外部要素が多く、研修効果として測定することは困難です。

 

研修効果の測定には、カークパトリックの4段階評価法がよく知られています。

 

  • レベル1:“満足度”の評価
  • レベル2:“学習到達度”の評価
  • レベル3:“行動変容”の評価
  • レベル4:“業績や貢献度合い”の評価

 

多くの場合、レベル1の満足度やレベル2の学習到達度の評価で留まっていることが多いでしょう。レベル3の行動変容の評価に挑戦することで、研修効果をもう一段踏み込んで把握するとともに、研修の効果性を高めるための取り組みを実践することが可能です。

著者情報

知見寺 直樹

株式会社ジェイック 取締役|上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 副董事長

知見寺 直樹

東北大学を卒業後、大手コンサルティング会社へ入社。その後、株式会社エフアンドエム副本部長、チャレンジャー・グレイ・クリスマス常務取締役等を経て、2009年ジェイック常務取締役に就任。総経理として上海法人(上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 )の立ち上げ等を経て、現在はHumanResourceおよび事業開発を担当する。

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