社員研修はこれまで講師と受講者が1か所に集まって実施する“集合型(対面型)”が一般的でしたが、2020年のコロナ禍を契機に、リアルの接触を避けて実施できるオンライン研修が急速に普及しました。オンライン研修は、移動時間等が発生しないため、時間や費用面で非常に実施しやすいといったメリットがあります。
一方でオンライン研修には一種の“限界”もあり、緊急事態宣言が解除された2022年以降、多くの企業がオンライン研修と集合型(対面型)研修をどう組み合わせることが最適かを探っています。
記事では、研修企業としての知見を踏まえて、オンライン研修の種類とメリット・デメリット、また、オンライン研修を成功させるためのポイントをお伝えします。
<目次>
オンライン研修の概要と種類
記事では最初に、オンライン研修の概要と大まかな種類を確認します。
オンライン研修とは?
オンライン研修とは、インターネットを介してオンライン上で実施する研修の総称です。パソコンやタブレットなどの端末と通信環境さえあれば、場所を問わずに受講することができます。オンライン研修は、おもにZoomなどWeb会議ツールを使って実施します。
オンライン研修には大きく、“リアルタイム型(ライブ実施)”と“録画型(オンデマンド)”の2種類があります。それぞれの特徴を以下で解説します。
“リアルタイム型(ライブ実施)”
“リアルタイム型(ライブ実施)”は、研修をリアルアイムで実施・配信するオンライン研修です。YouTubeのライブ配信や講演などの感覚で、一方的に講義・レクチャーしてコメント等をもらうような形もありますが、Zoom等を使えば、その場で質疑応答やグループワーク等を実施でき、対面型の集合研修に近い形で実施することができます。
最近では、オンライン研修というと、リアルタイム型、かつ双方向型のコミュニケーションやグループワーク等があるものを指すことが多いでしょう。記事で紹介するメリット・デメリットや実施のポイント等も「リアルタイム型かつ双方向のオンライン研修」を想定して解説します。
なお、リアルタイム型の場合、講師と参加者の日時を合わせて実施する必要がありますので、実際に際してはある程度の制約が生じてきます。
“録画型(オンデマンド配信)”
一方で、オンライン研修という場合に、あらかじめ録画された動画を視聴するタイプの録画型(オンデマンド)のものを指すこともあります。但し、このタイプはオンライン研修ではなく、e-ラーニングと呼ばれることが多いでしょう。
録画型の場合、受講者は好きなタイミングで何度でも繰り返し学習できることが特徴です。また、研修コンテンツをLMS(学習管理システム)等にアップすることで、組織全体で知識やノウハウを共有できる、また、時間軸を超えて“1年後の入社人材にも同じ研修を提供できる”ことが、録画型のオンライン研修(e-ラーニング)のメリットです。
一方で、動画ですので双方向型のやり取りはできず、質問や議論を通じて理解を深める部分には難があります。
録画型のオンライン研(e-ラーニング)が効果を発揮するのは、情報共有や知識のインプットを目的とした研修です。例えば、コンプライアンスやハラスメント研修、各職種等で必要な体系的・基礎的な知識のインプット、新商品の情報共有、顧客事例の共有などです。また、研修ではありませんが、全社員に把握しておいてほしい全体会議や社長メッセージ等の共有にも効果を発揮します。
最近では、リアルタイム型で実施したオンライン研修や会議を録画しておいて、e-ラーニングのコンテンツ化することで欠席者への情報共有、また自社の教育体系を構築する企業も増えています。他にも入社人材へのオンボーディングなどを、上記のような録画動画+動画視聴後のオンラインミーティングで不明点の解消や補足を実施するような形で品質と効率を両立させるケースも増多くなっています。
オンライン研修を導入・活用導入してメリットが大きな企業
オンライン研修のメリットやデメリット(注意点)は後述しますが、本章ではオンライン研修を導入・活用するとメリットが大きな企業の特徴を以下に挙げます。
<オンライン研修を導入・活用するとメリットが大きい企業>・拠点が分散しており、全員を集めて集合研修することが難しい
・直行直帰型の営業スタイルなど、受講者を集めることが難しい
・シフト勤務等の関係で、対象者を同時に集めることが非常に困難
・中途入社等が多く、人材育成をコンテンツ化したい
・テレワークなど、リモートワークの働き方を導入している。
上記に該当する部分があれば、従来型の対面研修に加えて、オンライン研修を導入して活用することで、コストや工数の削減、そして、教育機会の提供、人材育成の促進といった点でメリットが大きいでしょう。
オンライン研修のメリット
本章では、オンライン研修のメリットを解説します。
1.場所を問わずに研修に参加できる
オンライン研修のメリットの1つ目は、必要な機材とインターネットに接続できる環境がそろっていれば、場所を問わずに実施できる点です。コロナ禍ではリアルで人が集まることによる感染リスクを避けるためにオンライン研修が使われました。
ただ、場所を問わない、というメリットは、
- リモートワークの人が自宅から参加
- 全国の拠点に散らばっているメンバーが参加
- 店長など店舗から参加
- 直行直帰型の施工管理やMRの方などが車から参加
といったことも可能です。
2.コストを削減できる
メリットの2つ目は、会場に集まって行なう集合型研修と比べた際のコスト削減です。全国に拠点が散らばっているような場合にはじつはコスト削減効果はかなり大きなものとなります。
例えば、50人の受講者を各支店から本社に移動させ、2日間の集合型研修を行なうケースを考えてみましょう。外部講師に依頼する研修費用を100万円だとします。これに対して、大雑把に計算して50人収容の会場費30万円×2日間=60万円、宿泊費1泊1万円×50人=50万円、往復の新幹線代などの交通費3万円×50人=150万円、合計260万円といった形で、研修実施に際して講師への依頼費用を大きく上回る付随費用が発生することになります。
オンライン研修であれば、対面では総額360万円の研修費用が、外部講師へ依頼する100万円のみとなり、圧倒的にコストダウンした形で同じ品質の研修を実施可能になります。
3.教育の機会や質を均一にできる
オンライン研修は場所を問わずどこからでも利用できるため、参加者の拘束時間も最小限で済みます。このことで、勤務時間が不規則な人や本社から離れた支店に勤務する人など、勤務形態・勤務地の制約で受講が難しかった社員にも、教育機会を均等に提供することができるようになります。
また、オンライン研修であれば講師側も移動の必要がありませんので、1人の講師が全社員に研修を実施できるため、講師による差も生じにくくなります。これも研修の質を高める、内容のばらつきをなくすといった効果につながります。
4.研修効果を高める工夫ができる
対面型で実施する研修は、“50人の受講者を各支店から本社に移動する”事例のように研修以外のコストが多く発生します。先ほどは外部費用のみを紹介しましたが、加えて移動時間×50人分も発生することになります(終日研修であれば、業務時間にならない場合が多くはなります)。
費用と時間を消費する形になると、研修はまとめて最小限の形で実施せざるを得なくなります。しかし、研修の内容にはよりますが、“2日間の集合研修”ではなく、“1日の集合研修をしたうえで、1ヵ月毎に2時間のフォロー研修&実践発表を3回行なう”方が学習効果を高めやすい側面があります。
オンライン研修であれば、フォロー研修&実践発表部分は追加の費用や移動時間はなく、日程調整さえすれば、ほぼノーコストで実施可能です。このようにオンライン研修を導入することで、対面研修と組み合わせながら、研修効果を高めるための工夫ができるようになります。
オンライン研修のデメリット(注意点)
上記のようなメリットがある一方で、オンライン研修にはデメリット、注意点や限界もあります。本章では、オンライン研修の注意点や限界、また、デメリットを踏まえたうえでの対応策等を確認します。オンライン研修の活用を考えるうえでは、押さえておくべきポイントです。
1.受講者の通信環境によっては快適な受講が難しい
オンライン研修はネットワークを介して実施するため、受講者の通信環境によっては快適な受講が難しい場合があります。例えば、ネットワークの接続状況が悪いと、音声や映像が乱れたり、進行に悪影響を与えたりします。
研修中に通信の不具合が生じると、受講者の集中力や満足度にも大きく影響します。通信環境に問題がないかどうか、事前準備の段階で受講者各自に確認しておくことが非常に大切です。特に普段からオンライン会議や商談をしていない参加者がいる場合は注意が必要です。
2.受講者の様子の把握が難しい
対面型の研修では、講師が登壇台から受講者の様子を見ながら、状況に応じて伝え方や進行ペースを調整できます。慣れた講師であれば、参加者が30人いたとしても、ある程度1人1人の表情を見ながら、クラス全体の集中力、講義への共感、理解度などをおおむね把握して進行を調整することができます。
しかし前述のように、オンライン研修では、どうしてもカメラ越しになるため、把握できる情報に限界があります。複数画面や大きなモニター等を準備しても、受講者の状況把握は対面での実施と比べると劣ります。
したがって、オンライン研修は参加者側の積極的な参加姿勢がないと、講師ができるフォローや対応には限界があります。
オンライン研修で受講者の状況や理解度を把握するには、双方向型のコミュニケーションを増やす、講義を止めて簡単な確認テストをするなどの工夫が必要です。
また、講師とは別にサポート担当者を1人つけることも効果的です。サポート担当者が受講者の状況を確認したり、グループセッションなどの際に受講者をフォローしたりして、受講者の様子を随時講師に共有して講義にフィードバックするなどの連携を取って進めるとよいでしょう。
2.対面よりも時間あたりで進行できる量が少ない
オンライン研修では、インターネットを介して実施するためコミュニケーションに多少のタイムラグが生じる、グループワーク等をする際に多少の待ち時間が生じる、参加者の集中力が短時間で切れやすいといった特徴があり、同じ時間で実施できる研修プログラム量は対面研修よりも劣ります。
もちろん一方的にレクチャーするような形であれば別ですが、双方向型で進める場合には、対面研修の7~8割ぐらいのボリュームで実施するような感覚が適切です。
ただし、順番に意見発表してもらう代わりにオンラインドキュメントに一斉に書き込んでもらう、チャットで一斉にコメントしてもらうなど、オンラインだからこそできる工夫もありますので、うまく活用していきましょう。
4.実習や実践に限界がある
オンライン研修は画面越しでの実施になります。当然、何かの機材を実際に触っての実習、会場内で何かのサンプル等を回して触ってもらうなどはできません。
また、パソコンカメラを使いますので、見えるのは基本的にお互いにバストアップもしくは顔だけの状態です。したがって、全身を使うような演習、だとえば、対面向けのビジネスマナー研修、接遇研修、販売研修などはオンラインで実施するには限界があります。
営業研修などのロールプレイング、プレゼンテーション研修なども、オンライン商談やオンライン実施が前提であれば一切問題ありませんが、対面での商談やプレゼンテーションが前提であれば、補いきれない部分は若干出てきます。
したがって、オンライン研修で難しい内容に関しては集合型研修で行なうなど、うまく組み合わせながら実施することも大切です。例えば、新⼈研修で必須となるビジネスマナーの多くはオンライン研修でも実施できます。集合型研修でないとできない部分も、オンライン研修と組み合わせれれば必ずしも全員が同じ場所に集まる必要はなく、例えば、「エリア単位で集まる」といった形にすることも可能です。
また、オンライン研修であらかじめ基礎知識や操作方法を頭に入れたうえで、集合型研修は実践にフォーカスという方法もありますので、オンライン研修の限界を把握したうえで、うまく集合研修と組み合わせましょう。
オンライン研修を成功させるためのポイント7つ
本章では、オンライン研修を成功させるうえで有効な7つのポイントを紹介します。
1.事前アナウンスの徹底と研修前のフォロー
まず大前提として講師・運営側は研修時に機器や通信トラブルが生じないよう、事前に確認することが大切です。講義で使うパソコンや、Web会議ツールの設定、カメラやマイクの動作チェックなどを、入念にチェックしましょう。
対面研修であれば、プロジェクターの故障、テキストの準備などに不備やトラブルが生じても、慣れた講師であればその場で臨機応変に対応可能です。ただ、オンライン研修では、通信やパソコンにトラブルが生じるとどうしようもありませんので、対面研修以上に慎重な準備が必要です。
また受講者のなかには、オンライン研修が初めての人や、ツールに不慣れな人もいます。不慣れな参加者がいると、接続等のトラブルが生じやすくなりますので、接続状況の確認やツールへの事前アクセス(カメラとマイクの準備)等の事前アナウンスは特に丁寧さが必要です。
また、いざ接続できても利用するオンライン研修ツールに不慣れだと、受講者が研修に集中できなかったり、積極的な参加姿勢を作れなかったりします。
利用ツールに不慣れな参加者がいる場合には、研修スタート後の冒頭でアイスブレイクも兼ねて、ツールの基本的な使い方やリアクション、グループワークの機能などを一通り解説して体験してもらうと安心です。
以下では、HRドクターを運営する研修企業ジェイックが、実際にオンライン研修で利用していた研修冒頭の操作案内の資料を公開しています。ご興味あればご覧ください。
2.サポート担当者を置く
入念に準備をしても、研修本番でトラブルが発生する可能性があります。前章では、講師以外にサポート担当者をつけるという話をしました。
受講者の様子を見るということ以外に、接続等のトラブル対応をするという意味でもサポート担当をおくことは大切です。対面研修では、講師が研修を進行しながら多少のトラブル対応が可能だったりしますが、オンライン研修では講師が何かのトラブルシューティングをしていると研修が止まってしまいます。
サポート担当をおくことで、講師も安心して研修を実施できます。
小規模な内輪の研修であれば講師だけでの進行でも大丈夫ですが、ツールに不慣れな参加者がいる場合は冒頭だけでもサポート担当がいたほうが安全です。また、グループワーク等を実施する場合も、グループ分け等の操作をしてもらううえで、サポート担当者がいると進行がスムーズです。
3.原則として、顔出しでの受講にする
オンライン研修は、音声だけで顔を映さずに参加することも可能です。しかし顔が映らない状況では、どうしての参加者の緊張感は落ちてしまいます。グループワーク演習でも、相手の顔が見えないとやりづらくなってしまいます。
したがって、効果的なオンライン研修を実施するためには、“顔出しでの受講”を原則にしましょう。なお、自宅で受講する場合「部屋の様子が映ってしまうので顔出ししたくない」という人もいるかもしれません。現在、主要なオンライン会議のツールは、バーチャル背景の機能がありますので、受講者に事前に共有しておくとよいでしょう。
4.適度に休憩を入れたタイムスケジュールにする
オンライン研修は対面研修と比べると、集中力が持ちません。
対面研修であれば空間すべてを共有しているわけですが、オンライン研修はあくまで限定されたパソコンの画面と音声だけを共有して、その人自身は別の空間にいるわけです。したがって、そもそも集中しにくいものですし、集中して画面を見続けていると対面で同じ時間を過ごすよりも疲れます。
オンライン研修で最もよく使われるツール、Zoomは無料版だと1回のミーティングが40分で切れてしまう形になっていますが、じつはあれは“40分がオンラインで集中力が持つ上限”だからともいわれています。
対面であれば研修の休憩は60~90分に1回という形ですが、オンラインの場合は40~60分に1回は休憩を入れるという形で設計するとよいでしょう。
なお、受講者の集中力を持続させるためには、講義の進行にも工夫が必要です。次に紹介するような双方向性を取り入れる、また、“5分の講義 → 30秒の個人ワーク → 10分の講義 → チャットで意見投稿 → 3分のグループワーク……”といった形で“場面転換”を多めに入れると集中力の維持に有効です。
5.“双方向性”を取り入れたプログラムを検討する
オンライン研修の「受講者の状況をつかみづらい」「集中力が持ちにくい」という注意点に有効な対応の一つが、“双方向性”をしっかりと盛り込むことです。
オンライン研修で最もよく使われるZoomは、“参加者30人のオンライン研修で、一時的に3人×10グループのバーチャルな小部屋を作り、グループディスカッションする”機能、ブレイクアウトセッションが用意されています。
ブレイクアウトセッションの機能を活用することで、対面研修と同じようにグループワークを容易に入れられます。
他にも、双方向性の取り入れ方としては以下のようなものがあります。うまく取り入れて参加者の集中力を高め、また場を活性化していきましょう。
- チャットで意見を投げてもらう
- オンラインドキュメントに書き込んでもらう
- リアクション機能を使ってもらう
- 身体を使ったジェスチャーで反応してもらう
- 挙手や指名で全体発表してもらう
6.動画や画像など、ビジュアルなコンテンツにする
特に新人や若手社員向けのオンライン研修の場合は、動画や画像などビジュアルな要素を取り入れることも大切です。最近の若手世代は、子供の頃から、YouTubeやInstagram、Twitterなどで、動画や写真、短い文章の情報量に慣れています。
このような傾向を踏まえ、投影資料などもなるべく文字量を減らして、動画や画像などビジュアル要素を充実させた内容にすると、理解・吸収するうえでプラスになります。“文字サイズを大きくする”“文字量を減らす”“写真を入れる”等を考慮して、講義資料を作成するとよいでしょう。
7.反転学習を取り入れる
オンライン研修の効果を高めるには、反転学習を導入することも効果的です。反転学習とは、受講者に事前に予習してもらったうえで、研修に参加してもらう方法です。
反転学習を取り入れることで、研修を“知識を学ぶ”場から、“理解を確認したり深めたりする”場に変えましょう。オンライン研修は長時間実施すると疲労しやすいですので、その意味でも反転学習と組み合わせることで、短時間で中身の濃い内容にすることが大切です。
まとめ
記事では、オンライン研修の種類やメリット・デメリット、および研修を成功させるためのポイントを解説しました。働き方改革の進展やコロナ禍で浸透したオンライン研修には、メリットもありますし、一方で限界や注意点もあります。
オンライン研修をうまく活用するためには、オンライン研修の注意点も知ったうえで対応したプログラムや進行を実施する、また、対面の集合研修と組み合わせて実施するといったことが大切です。記事内容が効果の高いオンライン研修を企画するヒントになれば幸いです。