エルダー制度とは?メンターとの違いや導入メリット・運用のポイントを解説

エルダー制度とは?メンターとの違いや導入メリット・運用のポイントを解説

新入社員の離職を防ぎ、組織に馴染みやすくするには、新入社員の受け入れにエルダー制度を導入することも有効です。エルダー制度には、多くのメリットがあるとともに、導入時にいくつかの注意点もあります。

記事では、エルダー制度の特徴を確認したうえで、うまく導入・運用するポイントを解説します。

<目次>

エルダー制度とは?メンター制度との違いは?

パソコンを操作する男性

エルダーという言葉には、2つの意味があります。英語のエルダーという単語は「先輩や年長者」 という意味です。

 

一方で、そこから転じて、マーケティング用語では「消費活動を積極的に行なう50歳以上の中高年」という意味でエルダーを使います。もちろんエルダー制度のエルダーは「先輩」という意味です。

 

エルダー制度は、新人に実務指導を行なうOJT制度の一つです。直属の上司ではなく先輩社員が2人1組で直接指導を行なう仕組み 、また、エルダー制度に指名された先輩社員(教育係)をエルダーと呼びます。

 

 

エルダー制度とメンター制度の違いとは?

エルダー制度の特徴は、同じく新人教育で使われるメンター制度やブラザー・シスター制度と比較するとわかりやすいでしょう。

 

メンター制度は、エルダー制度と同じ意味合いで使っている企業もありますが、本来的には中堅社員や管理職、幹部層を対象として、その悩みを解決できるレベルの力量を持つ上級者がメンターとして携わるものです。

 

もともとは、経営者や政治家などが、自分の尊敬する経営者や思想家などをメンターとして精神的な相談相手にしていたことに由来する名称です。

 

一方でブラザー・シスター制度は、エルダー制度と同じく少し年上の先輩を設定することが多い傾向があります。ブラザー・シスター制度も、エルダー制度のように実務面の指導にも入る場合もありますが、一般的にブラザー・シスターはOJT担当とは別で、

 

  • 組織の暗黙知等のケア
  • プライベートのケア
  • 環境変化にともなう精神的なケア

 

といった「組織で働く」ことへのケアが中心の役割です。

 

メンター制度やブラザー・シスター制度と比べると、先輩社員による実務面の支援が中心となるエルダー制度が「OJT制度の一種」であることが理解できます。

 

エルダー制度等の導入メリットと注意点

エルダー制度には、以下のメリットと注意したいポイントがあります。

 

 

エルダー制度のメリット

エルダー制度を導入すると、以下の効果が生まれやすくなります。

 

世代間ギャップが生じにくくなる

例えば、20代前半の新入社員と30代中盤や後半、40代以上の先輩や上司のように年齢層が幅広い職場では、それぞれが生まれ育った時代や環境が異なるため、価値観のギャップが生じがちです。また、新入社員からしても10歳以上の年上社員には気軽に相談しにくい側面もあります。

 

新人の価値観を理解しやすく、新人からも話しかけやすい先輩社員がエルダーとしてサポートすることで、世代間ギャップによる齟齬を防ぐことが可能になります。

 

相談しやすい環境が生まれる

部署に配属されたばかりの新人は、自分一人で判断がつかない状況が生じたときに「誰に相談をすれば良いのか?」がわからなくなりがちです。まわりに気軽に「声をかけて」と言われていても遠慮するものですし、周囲が忙しい繁忙期の職場などでは、特に相談しにくくなります。

 

相談できない状況を防ぐには、最初に相談する相手を「エルダー」として指定しておくのがおススメです。迷うポイントを1つ減らすことで、新人が声をかけやすくなりますし、逆に指名されたエルダー側でも気を配り、新人の判断ミスや問題などが早期発見されやすくなります。

 

また、各新人にエルダーをつけることで、声のかけやすい先輩一人に質問が集中する等の問題も解消できます。

 

新人の離職を防ぎやすくなる

労働政策研究・研究機構(JILPT)の調査結果によると、新入社員における早期離職理由の22.7%が「人間関係が良くなかった」、21.8%が「仕事が自分に合わない」 となっています。

 

エルダー制度は、先輩が行なう直接的な指導で、苦手分野のフォローも早く行なえる利点があります。こうしたサポートで新人の苦手分野が解消されると、離職理由の「仕事が自分に合わない」も解消できる可能性が高いです。

 

また、同時に年齢の近いエルダーが人間関係の相談に乗ることで、離職防止に向けたアプローチで最も重要な「兆候」を早期につかむことも可能になります。

 

先輩社員の指導経験を増やせる

エルダー制度を通して新人に指導する先輩社員も、仕事を教えたり、説明したりするスキルを向上させられます。また、新人の悩みに耳を傾けてアドバイスすることで、問題解決力を高める効果もあります。

 

企業内では本来、人材の管理はリーダーにならない限り行ないません。しかし、エルダー制度を導入すると、次世代リーダー候補である若手社員に疑似的なマネジメント経験を積ませることが可能になります。

 

 

エルダー制度の注意点

エルダー制度には新人側・先輩社員の双方に、受け入れや人材育成上のメリットがありますが、導入には注意点もあります。エルダー制度の導入や運用に際しては、以下の点で注意が必要です。

 

先輩社員に負担がかかる

エルダーになると、自分本来の仕事に新人の指導が加わることになります。したがって、先輩社員の担当作業がもともと多かった場合、エルダーになることで業務過多に陥る可能性もあります。

 

人材育成は精神的な負荷やストレスもかかりますし、丁寧に指導しようと思えば思うほど実際の時間も使うことになります。そのため、エルダーの心身に不調が生じたり、最悪の場合は大事な次世代リーダー候補から離職者が出たりするリスクもあります。

 

エルダー制度の導入時に先輩社員だけに負担を押し付けず、上司や同僚がフォローを行なう仕組みや体制づくりがポイントです。

 

先輩社員に依存してしまう可能性がある

エルダー制度は、依存性の高い新人にとって、いつでも先輩に頼れる仕組みです。しかし、いつでも相談できて適切な指示がもらえる状況が続くと、新人の自立が遅れる可能性もあります。

 

目標達成に貢献する自立型人材を育てるには、構いすぎたり過剰なサポートをしたりしないように、エルダーに教育スタンス等を教えることも必要です。

 

相性次第で逆効果になる場合がある

メリットで紹介した効果は、先輩社員と新人の相性が良かったときに起こるものです。価値観やコミュニケーションスタイルが合わない先輩社員と新人の組合せになり、先輩社員側でも「違いを意識したコミュニケーションの調整」ができないと、人間関係が悪くなる場合もあります。

 

実務を教えるエルダーとの人間関係がうまくいかないと、新人にはかなり大きなストレスがかかります。新人のモチベーションダウンや早期離職につながったり、逆にエルダーのストレス要因にもなったりします。

 

したがって、エルダーを決める際には、適性検査の結果等も使って先輩社員と新人の相性を見たり、後述する相互理解のワークをスタート時に取り入れたりすることが大切です。

 

エルダー制度をうまく導入、運用する3つのポイント

指を掲げる男性

エルダー制度の導入時には以下のポイントを押さえると、うまく運用しやすくなります。

 

 

エルダーを任せる社員に「エルダーをすることのメリット」を明確に伝える

エルダー制度の効果をアップさせるには、先輩社員が制度の意味や効果を理解し、高いモチベーションで新人に関わることが重要です。そのためには、先輩社員に一方的にエルダーを任せるのではなく、エルダーになることで自分の問題解決力や管理スキルなどが高まるメリットを伝える必要があります。

 

エルダーを任せられることが、マネジメントや人材育成の体験となり、次世代リーダーになるうえでも欠かせないことが伝わると、制度への関心やモチベーションも高まりやすくなるでしょう。

 

先輩社員には「新人と年配社員の架け橋になる」といった具体的なメリットも伝えると、組織内で自分に求められていることを理解しやすくなります。

 

 

エルダーを任せる社員に「教え方」をトレーニングする

エルダー制度では、エルダーとなる先輩社員が実務の指導も行なうことになります。エルダーとなる先輩社員の「教えるスキル」がないと、新人の成長スピードにも悪影響をおよぼします。したがって、エルダーとなる社員には、OJTの基本となる教え方の5ステップ等を指導することがおススメです。

 

 

<OJTの基本となる教え方の5ステップ>

1. 仕事の意味や全体像を伝える
まず仕事の全体像やキャリアステップを共有して、作業への不安を解消することが大切です。特に、これから教える内容の価値創出や、全体像のなかでどこを担っているかを教えると、作業を通したやりがいも生まれやすくなります。

 

2. やってみせる
初めて仕事に携わる新人は、口頭や文章で説明されても、作業イメージをつかみにくいものです。そのため、実際に作業をしているところを見せて概要を把握してもらうとともに、「自分もできそうだ」というイメージを高めてもらうことが大切になります。

 

3. 作業内容を説明する
全体像を伝え、できるイメージを膨らませてもらったあとに、マニュアル等を使って具体的なポイントや手順の解説に入ります。指導をするエルダー側も事前にマニュアル内容を整理しておくと、伝え漏れも生じにくくなります。

 

4. 新人に経験させる
新人のなかに「できそうなイメージ」があるうちに、なるべく早めに経験をしてもらいます。そうすることで、エルダーが説明した作業手順や守るべきルール、注意点等の定着率が高まりやすくなります。

 

5. 評価・フィードバックを伝える
新人に業務を経験させたら、なるべく間を置かずにフィードバックを行ないます。理想はポジティブなフィードバックとネガティブなものを「3:1」の割合にすることです。未来志向のフィードバックを行なうと、モチベーションも高まりやすくなります。

 

 

教え方の5ステップについては、以下のページで解説しています。エルダーやOJTのトレーナー研修に役立つ内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。

 

 

エルダーと新入社員の相互理解を促進する

エルダー制度のスタート時は、エルダーと新入社員の相互理解の場を設けましょう。診断やプログラムを使って、お互いのコミュニケーションスタイルや強み・価値観の違いを理解すると、「相性」の問題が生じにくくなります。

 

ポイントはお互いの「共通項」と「違い」を見えるようにすることです。共通項を見える化することで親近感が生じます。逆に違いを見える化することで、「嫌われている」「そりが合わない」といった感情的反発や不安が生じにくくなります。

 

エルダー側も新入社員の強みや価値観を理解することで、相手を受け入れやすくなると同時に、相手の適性や性格に応じた教え方を理性的に選びやすくなります。

 

まとめ

エルダー制度は、年齢の近い先輩社員が直接指導を行なうOJT制度の一種です。メンター制度やブラザー・シスター制度が精神的なサポートに重きを置くのに対して、エルダー制度は実務面での指導やサポートが中心になります。

 

年齢の近い社員をエルダーとして設定することで、新人が相談しやすくなったり、新人のモチベーション低下や課題等の兆しを早期につかんだりすることができます。一方で、エルダー制度には、先輩社員に負担がかかったり、エルダーと新人の相性次第で逆効果になったりする等の注意点もあります。

 

エルダー制度をうまく運用するためには、当ページで紹介したようなエルダーに対する意味付け、エルダーへの「教え方」研修、エルダーと新入社員の相互理解を進める場の設定等がポイントになります。

 

実践ポイントを参考にして、エルダーとなる先輩社員の研修や負担のかからない仕組みづくりを進めてみてください。

著者情報

知見寺 直樹

株式会社ジェイック 取締役|上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 副董事長

知見寺 直樹

東北大学を卒業後、大手コンサルティング会社へ入社。その後、株式会社エフアンドエム副本部長、チャレンジャー・グレイ・クリスマス常務取締役等を経て、2009年ジェイック常務取締役に就任。総経理として上海法人(上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 )の立ち上げ等を経て、現在はHumanResourceおよび事業開発を担当する。

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