「まだ経験も能力も足りない新人には高いモチベーションで、どんどん周りから吸収して欲しい!」と期待する経営者や上司の方は多いと思います。しかし、すべての新人が仕事に高いモチベーションを持っているわけではありません。
じつは、モチベーションダウンは既に入社前から始まっています。例えば、新人の全員が「第一志望の会社」に入社したわけではありませんし、「この会社でやりたいこと」が明確になっていない人も多くいます。彼らの中には「この会社にこのまま入っていいのか」という“内定ブルー”のまま入社してくる人もおり、“入社時点でモチベーションが低い”新人だったりします。また、入社した後に、「入社前とイメージが違った」「仕事がこんなに大変だとは思わなかった」といった入社前のイメージと現実とのギャップにモチベーションを下げる新人もいます。
このように新人のモチベーションが下がる理由や背景はいろいろとあります。新人のモチベーションを高める為には、下がる理由を知り、対策を事前に考えることが有効です。記事では、入社後に新人のモチベーションがどういうポイントで下がってしまうのか、10個のつまずきポイントで整理し、基本となる3つの対策を解説します。
<目次>
新人のモチベーションが下がる10個のつまずきポイント
新人は社会人経験が豊富な上司や先輩からすると、「そんな小さなことでモチベーションが下がるのか」と思うようなところでモチベーションを下げていることがあります。初めての社会人生活の中で心のどこかで緊張している、かつ、最近の新人は自己肯定感が低い傾向もあり、思わぬところで「つまずく」ケースが多いのです。新人のモチベーションが下がる10個のつまずきポイントをまとめて解説します。
ポイント1:希望しない配属先
新人の配属先は希望通りになるケースもあれば、ならないケースもあります。長年働いている社会人からすれば、異動の機会があることも、当初は希望していなかった仕事に面白さややりがいを見つけることがあることも分かります。しかし、新人の場合、“最初の配属先”で予想以上にモチベーションを下げてしまう人もいます。特に、思い込みが激しいタイプの場合、「自分がこの会社に決めた動機が満たされなくなってしまった」と悲観してしまい、場合によっては退職に繋がることもあります。
ポイント2:ルーティン業務への飽きや成長への焦り
仕事を覚える為に、新人にはもっとも簡単な基本業務から任せていくケースは多いと思います。育成方法として正しいやり方ですが、一方で、基本業務はルーティン業務であることも多いでしょう。慣れてくると、日々同じことの繰り返しに感じてくると、モチベーションは下がります。一つは飽き、また、前向きな新人の場合、「同じことの繰り返しで成長できるのか」と勘違いして、「このままここにいていいのか」と不安を感じる人もいます。
ポイント3:成果への焦り
新人は基本業務を進めながら、いろいろと仕事を覚えてながら、徐々に売上などの成果に直結する仕事に踏み込んでいきます。このフェーズで生じやすい“成果への焦り”からくるモチベーションダウンです。「成果への欲求」自体は健全なものですが、“焦り”になってくると、例えば、成果を出し始めた同期と自分を比べて勝手に自信を失ったり、周囲から低い評価をされているわけでもないのに「自分はダメだ」と勝手に思い込んでしまったりするケースもあります。こうなると、周りの目がどんどん気になるようになって、さらにモチベーションが下がっていきます。
ポイント4:報連相の失敗、実行への躊躇
どんな新人研修でも教えられる新人にとっての必須スキルは報連相です。まだ右も左も分からない新人にとって、仕事をするうえでは、報連相が必須です。しかし、慣れないうちは「まわりくどい報連相をして叱られた」「タイミングが悪くて嫌な顔をされた」ということも生じます。そうなると、報連相すること自体を躊躇してしまい、今度は「報連相が足りない」ことを叱責されて、ますます苦手になっていく…という悪循環に陥ります。悪循環に陥ると、簡単なことができない自分での自己嫌悪も生じてきて、どうすればよいか分からずにモチベーションが下がってしまいます。
ポイント5:キャパオーバーによるパニック
徐々に仕事を覚えてくると、周囲から頼まれることは増えていきます。初めは頼られる、任せられることが嬉しく、どんどん仕事を引き受けますが、経験が少ない新人の多くは自分ができる仕事量が分かっていません。結果的にキャパオーバーとなり、やることが多過ぎて一種のパニックになったり、他責になったりしてモチベーションを下がります。キャパオーバーを周囲も気づけない、また誰かに相談することもできない状態だと、モチベーションが下がるサイクルに入りやすいでしょう。
ポイント6:納期設定への不満
キャパオーバーに陥ると、当然仕事の納期が守れなくなりがちです。真面目なタイプほど、「納期を守る」という成果を出せなかったことがモチベーションダウンの原因になりますし、中には、納期設定に対して「そもそもこの納期ではできない」と責任転嫁するような不満を持ち、さらにモチベーションを下げる新人もいます。
ポイント7:ミスによる自信喪失
仕事への不慣れさや業務過多の影響などでミスをして、周囲からも注意されることも、モチベーションダウンに繋がります。注意している側としては、“今後の為に”、“成長の為に”という気持ちで伝えていても、特に完璧主義で真面目な新人ほど、“注意=ダメだ”と受け止めて、過度に自信を失ってしまう傾向があります。
ポイント8:目標未達への焦りと自信喪失
新人も仕事に慣れてくるにつれて、アポイントや商談数等のプロセス目標や売上等の成果目標を持つようになります。入社して初めて目標をもった時に、達成できないと新人のモチベーションは大きく下がりがちです。ポイント3で紹介したような「達成している同期」がいると、目標未達への焦りは増加しがちです。
ポイント9:思考停止
報連相やキャパオーバー、目標未達など、自分にとってネガティブな状況が続くと、新人は余裕がなくなって思考停止しがちです。特に“自分はできる”と思っていた新人がこういう状況に陥ると、モチベーションを大きく下げて身動きが取れなくなります。いまの新人は、根本的な自己肯定感が低いことも多く、“自分はできる”と思っている新人なども、根幹で自信があるわけではなく、何かの実績やポジション、周りからの評価などによって自信が作られているケースが多いです。そうすると、成果をあげられない、周りから承認されない状態に対して、比較的容易に思考停止しがちです。
ポイント10:評価の個人差
仕事に慣れて、目標を持ち始めると、当然評価のタイミングで差がつきます。新卒の場合、小さな差であっても、同期と差がつくことはモチベーションが下がる要因になります。経験を持つ上司などからすれば、「入社1,2年目の短期的な目標達成や未達成など、5年後10年後の実力に繋がるかは何の関係もない」と思うかもしれませんが、新人は「この評価の差がずっと続く、拡がっていくのではないか」と受け止めることもあります。そこで奮起してくれればよいのですが、時には「こんなに頑張っているのに評価してもらえない」「周囲は理解してくれない」と他責にしてしまい、モチベーションはより大きく下げる人もいます。
新人のモチベーションを下げない為に取り組むべき3つの対策
では、どうすれば新人のモチベーションダウンを防げるのでしょうか?以下の3つが、新人のモチベーションを下げない為に、組織や上司が取り組むべき対策です。
1.成長を実感させる「承認」
2.仕事や業務などの「振り返り」
3.新人の気分を変えるちょっとした「一言」
それぞれ、解説します。
対策1:成長を実感させる「承認」
新人のできることが増えた、結果が出せたことに対して、しっかりと承認を行ない、成長を実感させることが大切です。初めての社会人生活を過ごしている新人たちには、「成長の目安」がありません。また、多くのことを覚えないといけない、逆にいえばできないことの多さに押しつぶされ、「成長しているかを自分で気づけない」、「今のままでいいのか」迷っている新人は多いです。
“できなかったことができるようになった”、“アポイントが取れた”など、些細なことでも好ましい変化に対してしっかりと承認しましょう。勘違いされる方もいるのですが、承認するということは、甘やかすことではありません。「絶対的な目標・基準」を下げる必要はありません。しかし、「過去から成長した部分」をしっかりと見て認めてあげることが承認です。
承認も何もないまま頑張っている状態は、自分が走った距離も分からず、応援もないままフルマラソンを走っているような状態です。フルマラソンの距離を短くする必要はありません。ただし、100m前に進んだら、100m進んだことをフィードバックして、応援してあげましょう。細かい承認を行なうことが、新人の成長時間と自己肯定感に繋がり、モチベーションの維持・向上に繋がります。
対策2:仕事や業務などの「振り返り」
新人と振り返りを一緒に行なうことで、「いま自分がどんな状態なのか」、「ゴールに対してどの位置にいるのか」、新人たちは客観的に知ることができます。精神的にいっぱいいっぱいになりがち、また、自己評価を正しくすることが難しい新人たちには、ゴールと道のり、現在地を示すことが安心感に繋がります。
また、前述したように、新人はキャパオーバー、相談できない、成果への焦りといった要因でモチベーションを下げがちです。朝礼・昼礼・夕礼などで、小まめに振り返りの機会を持つことで、早めにアラートをキャッチして、相談に乗って、解消することが効果的です。
対策3:新人の気分を変えるちょっとした「一言」
振り返りという形式までいかなくても、全社員が協力してできる対策が「一言」声をかける、ということです。遅くまで働いていたら「今日はいつもより頑張っているね」とか、元気がなさそうであれば「何か困っていることある?大丈夫?」と声をかけるのです。実際の状況がどうかはさておき、声をかけてもらえたこと自体が新人たちのモチベーションになりますし、また、先輩や上司から声をかけることでコミュニケーションが生まれて、振り返りと同じように早期にアラートをキャッチすることができます。
大事なことは、「声をかける」と決めることです。声をかけると決意すれば、新人たちの様子をいつもより注意して見るようになるでしょう。「関心を持つ」ことが新人たちのモチベーション対策の第一歩です。なお、声をかけても初めは大した反応が返ってこない可能性も大いにあります。いまの新人たちは、まだ関係性のない先輩や上司との距離の詰め方に戸惑う傾向もあります。気にせず続けることが大切です。
終わりに
記事では新人がモチベーションを下げてしまいがちな10個のポイントと対策について説明しました。
<新人のモチベーションを下げる10個のポイント>
1. 希望しない配属先
2.ルーティン業務への飽きや成長への焦り
3. 成果への焦り
4. 報連相の失敗、実行への躊躇
5. キャパオーバーによるパニック
6. 納期設定への不満
7. ミスによる自信喪失
8. 目標未達への焦りと自信喪失
9. 思考停止
10. 評価の個人差
新人たちは、社会人経験の長い上司や先輩からすると大きなことではないことを、深く考え過ぎたり、勝手に思い込んだりすることも多いとお伝えしました。新しいコミュニティに参加し、社会人としての知識も経験も極めて乏しい中では精神的な余裕がなくなりがちなのです。
新人たちの“余裕のなさ”を、受け入れる側が共通認識として理解したうえで、新人たちに興味・関心を持って、見る、そして、声をかける。これが、モチベーション対策の基本です。普段から見て、声をかければ、モチベーションが下がり始めた、下がった状態を早めに察知して、効果的なフォローを打つことが出来ます。採用した新人が定着・活躍できるように支援する参考になれば幸いです。