「営業活動」は企業の業績に直結するものであり、それを担う「営業パーソンの育成」は人材育成の重要テーマです。時代が変わる中で営業の難易度は以前より上昇している部分もあり、新人を1人前にする育成ノウハウを整え、営業組織の底上げをすることは、ますます重要になってきています。
営業パーソンを育成していくためには、何が必要でしょうか。本記事では、できる営業パーソンに共通する特徴なども踏まえながら、営業パーソンの育成方法を紹介します。
<目次>
営業の強化ポイントを特定する
どんなに優れた商品開発や先端的なマーケティングを行ったとしても、最終的に顧客と信頼関係をつくり、“顧客が解決したい悩みに対するソリューション”として商品提案を行い、「売上」をつくるのは現場の営業パーソン一人ひとりです。一方で、時代と共に営業難易度が上がっている側面もあります。
時代背景も踏まえて、企業の営業部門に共通する課題をみていきましょう。
営業の育成強化が迫られる背景
商品の多様化、また顧客ニーズが多様化し、かつ、インターネットの発達により情報格差が解消されています。いまは顧客自身がインターネット上で豊富に情報が得ることができ、様々な競合サービスや競合商品と比較をしながら購入を検討できるようになりました。結果的に最近では「顧客の方が商品に詳しい」といったことも起こるようになっています。
また、転職が一般的になった結果、短スパンで人材移動が起きるようになっており、営業パーソンを長期的な目線で育成していくことを難しくしています。これらの要因が合わさることにより、営業パーソンの育成ノウハウが企業にとってこれまで以上に必要となっています。
最近では、セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)として、人材育成に加えて、仕組みやツールの整備まで含めて、営業パーソンをどう効率的に育成するかというノウハウに注目が集まっています。
営業部門でよくある3つの悩み
営業の育成強化が迫られている反面、営業部門においては次のような3つの課題を抱えている場合がよくみられます。
企業の営業部門では、一部の営業担当によって営業部門全体の業績の大部分がカバーされている場合があります。いわゆる“20%のリソースで80%の成果が生み出されている”パレートの法則です。営業の場合、「大口顧客や新規案件はステップ率の高い優秀な営業に優先してパスする」ことも多くなりがちで、結果的に優秀な営業担当に業績が偏ることが起こりやすいとも言えます。
短期的には問題ありませんが、中長期的には営業が属人化する、人が育ちにくくなる、退職リスクが大きいなどの問題を秘めています。
企業によっては営業の仕事は、「探客 ~ 新規アプローチ ~ 商談 ~ 受注後処理 ~ アフターフォロー」まで、広範囲にわたります。また、売上や商談数などの結果指標は、明確に数字に表れますが「商談」の中身はブラックボックスになりがちな傾向もあります。
また、コミュニケーションを重視する仕事だからこそ、仕事のスタイルが属人化していたり、マニュアル化・言語化されていないものが多かったりすることもあります。これらは「新人を育成する」という視点で見ると妨げになっています。
営業部門では、営業のプレイヤーとして高い成績を残してきた人材が、実績を買われてリーダーやマネージャーなどの管理職に昇進することが一般的です。
しかし、その中で管理職としては伸び悩んでしまうこともよくあります。商談のコミュニケーションや顧客構造づくりが天性の感覚や能力によって行われており、本人も言語化できない。また、自分と違うタイプのメンバーを育成できないといったことがよくあるケースです。
こういった課題が放置されている限り、新人を売れる営業パーソンへと育てることは難しいでしょう。経営陣や部門長が本腰をいれて、変革していくことが必要です。
優秀な営業担当や天性のコミュニケーションは尊重したうえで、標準的な営業プロセス、共通するノウハウ、身に付けるべきスキルセットを標準化し、育成の仕組みを整えていきましょう。
できる営業パーソンに共通する5つの行動と特徴
高い業績をあげられている営業パーソンには、以下のようにいくつか共通する特徴がみられます。
1.ゴールから逆算して行動する、判断する
できる営業ほど、目標や結果に向けて自分がとるべき行動を逆算しています。
例えば「売上目標を達成するためには、今の商談進捗も踏まえると、新規商談があと何件必要か」「来月の目標を達成するために、今月何をする必要があるか」「月末までに受注するためには、顧客に何を確認しておく必要があるか」などです。
また「目標や結果につながらない無駄なことはしない」ことも優秀な営業の特徴です。「ゴールから逆算する姿勢」を身に付けさせることは、営業育成に欠かせません。
2.できる営業のノウハウを真似る
高い業績を上げ続けている営業パーソンほど、結果を出している人のやり方を真似し、取り入れていくことに柔軟性を持っています。自分の経験や型だけにとらわれず、結果のでるやり方を受け入れ、自分のものにしていく姿勢も結果を出し続ける人に多く見られる特徴です。
3.コミュニケーション能力を鍛える
優れた営業パーソンは自らのコミュニケーションを常に鍛えています。関係性を作るスキル、質問のスキル、聴くスキル、喋りの間、クロージングのタイミングなど、成果をあげるためのコミュニケーションを鍛えることに貪欲です。喋りのプロである落語家や漫才、お笑い、司会者などを研究している人もよく見かけます。
4.相手に合わせてコミュニケーションを変える
出来る営業パーソンほど、相手を尊重するコミュニケーションをとる力が高いものです。商品説明を行う際にも、専門用語や業界用語をむやみに使うのではなく、相手にとってわかりやすい言葉を選択します。
また、相手の話を聞く場面でも、相槌の打ち方、目線など、相手が話しやすいように心配りを行っています。また相手に合わせてコミュニケーションの取り方を変えていく力も人一倍優れています。
商品を買おうかどうしようか迷っているお客様に背中を押すこともあれば、自分で決めたいタイプであれば相手に判断を委ねるといった風に、相手に合わせてコミュニケーションスタイルを変えられます。コミュニケーションの引き出しを多く持っており、相手のタイプに合わせて、柔軟に対応することができるのです。
5.自分の顧客構造をつくる
優れた営業パーソンほど、顧客構造を作ることに熱心です。特に購買額が大きい、購買頻度が高い、購買ポテンシャルがある顧客を中心にして、しっかりとアフターフォローや深耕を行っています。
一般に「新規の顧客開拓は、既存深耕の10倍のコストがかかる」と言われています。優れた営業パーソンは顧客構造をしっかりと作ることで、安定した成果をあげているのです。
活躍できる営業パーソンを育成するポイント
優れた営業パーソンもつ特徴を踏まえたうえで、新人を売れる営業パーソンへ育成するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。以下にみていきましょう。
1.営業プロセスを体系化する
まずは営業ステップをしっかりと体系化しましょう。体系化することで、何を学べばいいか、成果を上げるうえでどこがネックになっているかが一目瞭然となり、育成スピードが格段にあがります。
営業プロセスの体系を作り、各プロセスで実現すべきゴールと必要なスキルをまとめます。研修を設計するうえでも「自社の営業ステップがどうなっているか」「各ステップで成果をあげるためのポイントがどこか」を明確にすることが大事です。例えば、やみくもに営業研修をしても成果はあがりません。
「売上をつくれる営業を育てる」ゴールから逆算して、研修プランを作ることが重要です。
2.ロールプレイングを通じて、コミュニケーション力を鍛える
営業の実力は座学や知識の習得のみで向上するものではありません。ロールプレイングなどを積極的に取り入れるようにしましょう。コミュニケーション力は、適切なトレーニングを積むことで鍛えることが可能です。
営業育成が強い企業では、必ずロールプレイングを行う文化が根付いています。“100本ノック”(独り立ちまでに社内で100回の営業ロープレを行う)や、“営業道場”(入社後1年間は週1回ロールプレイングを行う)など、商談力の強化にはロールプレイングを繰り返すことが不可欠です。
3.売上計画の作り方を体系化する
営業プロセスと同時に、売上計画の作り方も体系化しましょう。
多くの場合、売上計画は、
といった形で分解することが可能です。標準値を踏まえて、「訪問数」などのプロセス指標まで落とし込んで、売上計画を作成、振り返りを行う文化を作りましょう。
また、営業活動の中では、売上実績や見込管理、顧客リストなど、エクセルやスプレッドシートが乱立しがちです。情報がバラバラで管理されていると、プロセスの標準化が難しくなります。プロセス/実績管理の一元化を徹底することも、じつは営業育成するうえで重要です。
4. 新人とのコミュニケーションの機会を増やす
新人や若手営業とのコミュニケーションを増やすことも育成では重要です。営業で成果をあげるためには、顧客事例や課題に応じた提案などが重要です。新人や若手は経験値がありませんので、ベテランや先輩社員の経験値を移植していくためのコミュニケーションが必要です。
新人や若手が持っている案件を共有して、先輩から使える事例をフィードバックする時間を作ったり、新人や若手が萎縮せずに話せる環境をつくったりすることが、組織的な営業力の底上げにつながることも少なくありません。最近では、ビジネスチャットなどを使うことも効果的です。
まとめ
「自社の営業ノウハウを教えるなら、自社のトップセールスが一番得意!」と思われがちですが、実際にはそうでもありません。というのは、トップセールスほど、営業プロセスやコミュニケーション、顧客構造づくりを天性の感覚でおこなっていたり、ずば抜けた才能で成果を生み出していたりすることがよくあります。
そうすると、営業戦力としては非常に信頼できても、新人に教えたり、営業レベルの底上げをしたりするには向いていないこともよくあります。新人に初期の営業教育を行う上では、営業をロジックで説明でき、事例を豊富に持ち合わせる外部講師が効果的です。外部と連携しながら、自社の営業プロセスを整理したり、顧客事例の共有やロールプレイングなどのOJTをしっかり併用することで、営業育成を加速させることができるでしょう。