中間管理職の教育は多くの企業における重要テーマです。意思決定を行う幹部層と現場を繋げる役割を持つ中間管理職。組織においては、リーダーやマネージャー、係長や課長といった職位で呼ばれ、3~10人ほど束ねる階層です。中間管理職が弱い組織は、決定した施策や方針を「やりきる」力が弱くなり、成果を生み出せず、変化に対応することができません。
一方で、プレイヤーと管理職で求められる役割は大きく異なり、優秀なプレイヤーを昇格させれば、いい中間管理職になるというわけではありません。「名選手、名監督ならず」という言葉の通りです。従って、組織を成長させるためには中間管理職を社内で教育していく仕組みが必要です。本記事では中間管理職にフォーカスして、育成のポイントや注意点を解説します。
<目次>
中間管理職の役割とストレスを理解する
中間管理職は、多くの企業ではマネージャーやリーダー、係長や課長といった階層を指します。多くの場合3~10人ほどのチームをマネジメントして、「(チーム)組織で成果をあげる」ことが求められるポジションです。
「役員・部長が意思決定した方針を実行していくこと」が求められる一方、「人のマネジメントや施策の工夫・徹底といった部分では、一定の裁量があり、結果にコミットする姿勢」が求められます。
だからこそ、「上からの指示」と「現場の状況」の間で板挟みになり、ストレスがかかる状況に置かれやすいのが中間管理職の特徴です。特に「プレイヤーとして実績をあげて承認されていた頃には感じられていた、自分が成果を生み出すやりがいや顧客からの感謝、自由さ」がなくなっていく反面、「上級管理職としてのステータスや待遇」は得られないという“中途半端”な立場に置かれがちな傾向もあります。
「中間」という立場に本人もストレスに感じやすいことは、中間管理職の教育を行う上では押さえておくべきポイントです。
「中間管理職の教育」が強い組織と生産性向上を生み出す
中間管理職が持つ「上からの指示」と「現場の実情」の間で板挟みになるというジレンマに課題を抱える組織は多く、中間管理職の教育に関して相談いただくことは多々あります。まずは中間管理職の重要性と育成のポイントを概略で確認しておきます。
「強い中間管理職」が経営の実行力を支える
中間管理職というポジションは、とりわけ労働集約型の事業を行う企業にとっては、事業運営、組織の成長戦略を実行する「要」というべき位置を占めます。業界やチームの規模によりますが、営業や販売系の中間管理職であれば、年間で1億円~10億円規模の売上責任を持つことが多いでしょう。
企業の事業計画、利益計画を達成していくうえで中間管理職のパフォーマンスがもたらす影響は大きなものがあります。
また、店舗や拠点型のビジネスであれば、中間管理職の計画的な教育・定着ができないと新店舗を出せない、既存店長を次のステージにあげられない、既存店舗(拠点)売上が崩れるなど、事業計画そのものが破綻をきたすことも頻繁にあります。
「次のリーダー」に対するOJTを主導する役割
「現場での育成を通じて、次の中間管理職を育てる」のも中間管理職の役割です。従って、中間管理職のレベルが上がっていけば、次の中間管理職がどんどん育つ好循環が生まれます。「強い組織=強い中間管理職」といえるでしょう。
逆に中間管理職の育成がうまくいっていない企業では、中間管理職のレベルが低いことで、次世代が育たない、それどころか後進を潰してしまうということも起こりえます。中間管理職のレベルが低いと、若手や新人に企業方針が伝わらない、キャリアプランを示せないこともありがちです。結果的に離職率の上昇に繋がり、ますます次のリーダー育成が困難になっていくという悪循環にはまっていくこともありえます。
プレイヤーとは異なるスキルが求められる
中間管理職の教育における難しさは冒頭で触れた通り、「名選手、名監督ならず」という点に尽きます。つまり、「自分で成果をあげること」と「他人を動かして(組織の)成果をあげる」ことは異なるスキルなのです。
プレイヤーと管理職で必要なスキルの違いは「カッツ理論」で説明することがイメージしやすいです。カッツ理論は「下位の管理職からミドルマネジメント、経営者層へと上がっていく中で求めるスキルが変わっていく」ことを示した理論ですが、プレイヤーと管理職で必要なスキルの違いを理解するうえでも役に立ちます。
カッツ理論では、「能力(スキル)」を以下の3つに分類し、「上位(経営者層)に上がっていくほど、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルを求められる割合が大きくなる」と説明しています。
- コンセプチュアルスキル :ビジョンを描いたり、ツボを押さえたりする力
- ヒューマンスキル :人間関係、信頼関係をつくるスキル
- テクニカルスキル :実務をこなす能力
新入社員から管理職、経営層まで、それぞれの階層で必要なテクニカルスキルはあります。ただ、階層が上がっていくにつれて、成果をあげるためには、テクニカルスキルよりもヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルの重要度が上がっていくという理論です。
自分の力で成果をつくる「プレイヤー」と、他人を動かして組織の成果をつくる「管理職」の違いもここにあります。職位があがると、自分が業務を進めるテクニカルスキル以上に、周囲の人と信頼関係を築き動かしていくヒューマンスキルや、ビジョンを示してメンバーを鼓舞するコンセプチュアルスキルが必要になってきます。その転換ポイントが「中間管理職」です。
従って、中間管理職の教育において「ステージ変化の自覚」と「新たなスキルの習得」が非常に重要です。
中間管理職の教育をおこなう上で注意すべきポイント
中間管理職に教育を行う上で、注意すべきポイントは何でしょうか。教育を自社内で完結させる場合も、外部の研修会社を使う場合もあると思いますが、扱うべきテーマは変わりません。中間管理職の教育で重要な3つの要素は、
- プレイヤーとは違うステージに入って違うスキルが必要になること、「トランスフォーメーション(変化)」の必要性を本人が自覚する
- 経営と現場の間で板挟みになりがちな中間管理職のストレスを理解して、上司がパフォーマンスと育成をサポートする
- 「学び」⇒「職場での実践」⇒「振り返り」というサイクルを回し、職場での成功と失敗を通じて成長するサイクルを作る
「職場での実践」は自社内でしか行えないことですが、逆に「プレイヤーから管理職へのトランスフォーメーション」といったテーマを体系的に教育することは、新任管理職の人数が少ない中堅中小企業の場合には難しいかも知れません。
外部研修を活用しながら、学びを踏まえての実践、上司のフォローという部分を社内でしっかりと動かすことが現実的と言えるでしょう。
中間管理職の教育を外部で依頼する際に注意すべきポイント
以下では中間管理職の教育で外部の研修会社を使う際の3つの選定ポイントをご紹介します。
ポイント1.職場での実践と研修カリキュラムが連動しているか?
管理職の成長に影響を与える要素は「7:2:1の法則」とも言われ、現場での経験が7割、助言やアドバイスからの学びが2割、教育による効果が1割と言われます。つまり、教育は「新たな知識やスキルの習得」「現場での体験を振り返る」という部分で不可欠である一方で、管理職の成長は「現場での実践」によってもたらされる割合が大きいのです。
従って、管理職の教育を外部の研修会社を使って行う際には、「学びを職場でどう実践し、実践からどう学ぶか」が設計されているかが重要です。
上記を判断するうえでは、「継続的なプログラムかどうか?」ということも1つの視点です。「継続的」とは、単に「研修を複数回実施する」ということではなく、「研修の合間に職場で実践に取り組み、次の研修で取り組んだ結果(成功と失敗)を材料として学ぶ」というプログラムになっているかです。これはタイムスペースラーニングと呼ばれる効果的な研修のやり方です。
ポイント2.自社の状況を把握して、柔軟に研修をアレンジしてくれるか?
参加者の置かれている状況や課題をヒアリングしてくれたり、事例や単語等に反映してくれたりするかも重要なポイントです。プログラムのカスタマイズには限界もありますが、社内研修の場合には事例や単語をアレンジするだけでも研修効果が変わってきます。
例えば、「顧客」のことを「クライアント」「お客さま」「カスタマー」など、どう呼んでいるのか、自社の呼び方を反映するだけで、受講者の理解、受け入れやすさは変わってきます。
ポイント3.上司を巻き込んで成立する研修になっているか?
中間管理職は板挟みになりがちな立場であったり、管理職とは呼ばれても未だ権限は少なかったりと、中間管理職特有のストレスがかかっています。従って、中間管理職の育成においては、成果をあげるための支援を行うことであったり、キャリアステップの展望を示すことだったり、期待事項やフィードバックを伝えることだったり、上司からの支援が不可欠です。
従って、中間管理職の教育を外部に委託する際、「うちに全部任せてくれれば大丈夫です!」といった研修会社はあまり信頼できません。本当に効果のある中間管理職の教育を実施しようと思えば、取り組みは研修の中だけでは完結せず、職場での実践、上司のサポートが不可欠です。
外部に委託するときには「貴社のこういう協力が必要です」と言ってくる企業を信頼した方がよいでしょう。社内と社外で役割分担を行うことで、中間管理職が本当に成長できる環境を整備できます。
まとめ
中間管理職の能力レベルは、組織の業績に直結します。従って、中間管理職、リーダー、マネージャーの教育は、組織にとって重要なテーマです。
一方で、個人で成果をあげるプレイヤーから人を動かして組織で成果をあげる管理職への昇格は、トランスフォーメーションと言えるほどの大きな変化が求められます。従って、自社内に対象となる新任管理職の人数が少なく、教育のノウハウ蓄積、体系化が難しい中堅中小企業の場合、自社ですべて行うのではなく、研修を外部のプロに委託することも有効な選択肢です。
ただし、管理職の成長は、「職場での実践」が大きなウェイトを占めると同時に、上司のサポートが不可欠です。従って、単に「研修を外注する」のではなく、「学び」や「実践のセッティング」「振り返り」は外部の研修会社に、そして「実践のサポート」「本人のケア」は自社で、というように役割分担を意識しましょう。二人三脚で中間管理職の教育に伴走してくれる研修会社とパートナーシップを組むことが重要です。