女性管理職を登用する効果は?女性の活躍を増やす環境づくりと施策のポイント

更新:2023/09/26

作成:2020/03/31

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

女性管理職を登用する効果は?女性の活躍を増やす環境づくりと施策のポイント

金融大手のゴールドマン・サックスが、「欧米の新規株式公開(IPO)の引受業務では、上場希望企業に最低1名は女性取締役の選任を求める」と発表したことが記憶にある方もいらっしゃるでしょう。今後、女性管理職の登用、女性活躍が進まない企業は、“中長期での人財確保・企業成長にハードルがある”と言って差し支えないでしょう。

 

女性管理職の登用は企業にとって、とても重要な課題となっているのです。ただ、時代の流れは何となく理解していても、いまいちピンとこない、どうやれば増えるのか?と悩んでいる方も多いでしょう。

 

そこで本記事では、女性管理職を登用する意味や登用における課題を紹介するとともに、女性活躍についての講演や執筆もしてきた経験を踏まえて、女性活躍への具体的施策を紹介します。

 

なお、女性活躍のノウハウや実践に興味があれば、ぜひ以下の資料もご覧ください。

<目次>

女性管理職の登用の現状

女性管理職の現状はどのようなものなのでしょうか。まずは女性管理職がどれだけいるのか、データから解説します。
 

日本の女性管理職、登用の現状

まずは日本の女性管理職の現状を見てみます。厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、管理職等に占める女性の割合は、部長相当職では8.0%、課長相当職では11.6% 、係長相当職では18.7%となっています。
 
正社員・正職員に占める女性の割合は26.9%なので、女性のほうが社員数としては少ないですが、その割合以上に日本では女性の管理職が少ないということがわかります。
 
また、役職が上がるほど、女性の割合が下がっていることもわかります。もちろん、結婚出産による離職や退職の影響もあると考えられますが、日本では全体の割合以上に女性が上位の管理職についていないことがわかります。

世界の女性管理職、登用の現状

では、世界ではどうなのでしょうか。世界でも日本と同じように女性の管理職は少ないのでしょうか?
 
労働政策研究・研修機構の「就業者及び管理職に占める女性の割合」の2016年のデータでは、アメリカは46.8%、イギリスは36.0%、ドイツは29.3%、フランスは32.9%とどの先進国も日本よりも高い割合となっています。
 
アジア諸国においても、フィリピン(48.9%)やシンガポール(35.2%)などと高いので、地域的な特性ではないことがわかります。

女性管理職を登用するメリット

女性管理職の登用が出遅れている企業は、将来的な成長性や収益性に課題が発生する可能性があります。女性が活躍する職場は、さまざまな社員が働きやすい職場であり、人財確保も行いやすくなります。組織や経営の意思決定に、多様な視点が入ることの効果もあるでしょう。

 

女性管理職の登用には様々なメリットがあるのです。ここでは、女性管理職登用のメリットを改めて確認しておきます。

 

収益の向上

女性管理職の登用は、企業の収益向上にもつながってきます。

 

「女性管理職の登用が進み、女性の活躍を推進する仕組みがある企業のほうが、業績が好調傾向にある」というデータがあります。全米の売上上位500社である“フォーチュン500”の中でも、「女性役員が多い企業と少ない企業を比較すると、女性役員が多い企業のほうがROI(株主資本利益率)で13.9%と9.1%で4.8pt高い、売上高粗利率も13.7%と9.7%で4pt高い、さらにROICS(投下資本利益率)でも7.7%と4.7%で3pt高い」とされています。

 

国内でも、女性の活躍推進に積極的な企業の株式パフォーマンスは、東証一部上場の株価指数であるTOPIX平均を上回る水準で安定して上昇しています。

女性活躍推進の経営効果について(男女共同参画局)

 

意思決定の多様化

女性が管理職として活躍することは、意思決定に多様な価値観が反映される効果があります。男性だけの組織では意見や価値観が偏ることもありますが、女性が入ることで女性ならではの価値観を取り入れることができるのです。

 

人口の約半分は女性であり、BtoCサービスにおいては女性が男性以上に購買の意思決定権を持っていることは少なくありません。従って、商品開発、マーケティングなどの意思決定に、女性の視点が加わることはプラスの効果をもたらすでしょう。

 

また、社内を考えても、女性が働きやすい職場を作るうえでは、女性が意思決定に入っていたほうが良いことは言うまでもありません。

 

対外的な見られ方の変化

女性管理職の登用によって対外的な見られ方を変化させられる可能性があります。

 

前述したように金融大手のゴールドマン・サックスは「欧米の新規株式公開(IPO)の引受業務では、上場希望企業に最低1名は女性取締役の選任を求める」ことを発表しています。今後も「2021年からは最低2名の就任を求める予定」など、流れは加速していく見込みです。

 

女性管理職の登用を求める動きは、2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsに含まれる“ジェンダー平等”などに則ったものであるとも言え、より良い印象を与えることができるでしょう。

 

また、社外から見たときに、“女性管理職が多いということは女性が働きやすい環境が整備されている”ことが連想されます。

コミュニケーションの改善

女性管理職の登用によって、組織のコミュニケーションの改善が期待できます。
 
女性は共感能力や協調性、観察眼が高く、周囲との調和を意識しながらコミュニケーションを行う傾向があります。組織内のコミュニケーションが円滑になるとともに、部下のモチベーション管理や育成にもよい影響を与えられるでしょう。
 
これも、中長期的な業績の向上や離職率の低下などにつながってきます。

採用への好影響

女性管理職の登用によって、採用への好影響も期待できます。会社を選ぶときに、結婚や出産、育児における変化に対してどのようなサポートをしてくれるのかを気にする女性は多いでしょう。

 

女性が管理職に登用されれば、求職者は自身も将来的に魅力ある役職につけると考えられますし、女性が管理職の会社であれば制度が整っていると考えるでしょう。それにより、優秀な女性を採用できる可能性が高まります。

 

このように、ライフステージの変化を経ながら活躍する女性のロールモデルが多ければ多いほど、採用における競争力が上がるでしょう

 

女性管理職の登用に必要なこと

女性管理職の登用

 

プレイヤーとして1人前に成長して、管理職へのステップを登り始める20代後半~30代前半で、多くの女性が出産・育児というライフステージの大きな変化を迎えます。出産・育児によるキャリアの中断が、女性管理職の登用における大きな阻害要因であることは明確です。

 

女性管理職の登用を進めるうえでは、属人化した仕事の排除やワークライフバランスを考慮した働き方の多様化が必須です。キャリアの中断を超えて女性の活躍を進めるためのポイントを確認しておきます。

 

 

女性管理職が活躍する前提となる職場環境

例えば、「管理職の正社員は絶対にフルタイム勤務である」という職場環境では、出産を経た女性が活躍することは難しいでしょう。また、“管理職=長時間労働”になっているようであれば是正も必要です。

 

また、時短勤務者に対する評価制度の運用も、前提条件を整えるうえで重要なテーマになります。時短勤務者が働きやすい環境づくりと同時に、既存社員から不平が出ないように、パフォーマンスを公平に評価する人事評価制度が必要です。

 

 

企業から離れる期間のコミュニケーション

産休・育休では、かなりの長期間にわたって職場から離れることになります。その間に企業へのエンゲージメントを維持するためのコミュニケーション設計も重要です。接点がないと気持ちは離れがちになりますし、不安も募ります。

 

休職期間中でも企業から情報発信や定期面談を行ったり、全社イベントに参加できるようにしたりするなど、コミュニケーションを図るようにしましょう。

 

また、仕事面の接点を持つことも大切です。本人が希望するようであれば、育児休暇中に短時間の在宅ワークを通じて、少しずつ業務復帰してもらうことで、仕事や職場に復帰しやすくなります。育児中の女性が疎外感や孤独感をあまり感じず、復帰しやすい仕組みを整備していくことが重要です。

 

復職後への不安解除

育休・産休などで長期休暇を取得した場合、休暇に入る前のポジションは既に違う人に任せられているでしょう。業務を継続するうえで当然の判断です。一方で、育休や産休に入った女性社員は、復職後の居場所に不安を感じたり、今後のキャリアプランを考えにくくなったりすることも事実です。

 

女性の活躍や管理職のロールモデルが少ない企業の場合、営業系のライン部門だと「時短勤務の中で同じように働けるか」、マーケティングや事務などのスタッフ部門だと「既に席は埋まっており復帰先があるか」で不安を感じることが多くなります。

 

人事部門や経営層が面談などの機会を持ち、復帰後への期待やサポートに関する意思を伝え、本人の不安を減らしましょう。

 

 

人事評価への信頼性、実力評価の徹底

「女性は結婚や出産を機に辞める」「時短勤務の社員はパフォーマンスが出せない」という経営陣の意識は、女性管理職の登用、女性活躍を進めるうえで大きなハードルです。

 

ただ、意識はいきなり変えられるものではありませんので、半信半疑でもまずは取り組んでいくことが重要です。その中で、実際に成果をあげる女性社員が出てくると、経営陣の意識はガラッと変わります。

 

また、女性管理職の登用が「逆差別」と解釈されてしまう可能性もゼロではありません。実力評価を徹底し、人事評価への信頼を高めていくことが必要です。「頑張っている≒長時間働いている」ことを美徳とするような上層部の意識や発言は、女性活躍を進めるうえで大きなハードルですので、是正していきましょう。

 

これらの取り組みは女性の活躍だけに効果があるのではなく、例えば、介護などの様々な事情で時短勤務の社員、転勤できない社員、また、多様な働き方を望む若手層のニーズにも合致するものです。男女に関わらず優秀な社員を惹きつけ、定着させるうえで効果が期待できます。

 

なお、女性活躍のノウハウや実践に興味があれば、ぜひ以下の資料もご覧ください。

女性管理職を登用するデメリットや注意点

女性を管理職に登用するメリットはたくさんありますが、デメリット・注意点もあります。

 

まず、女性には産前産後の休業があります。管理職の人材が一定期間休業することで、その期間は別の人が業務を担うなど、フォローが必要になります。出産後に子育てによって時短勤務となる人もいるでしょう。

 

従って、管理職の人材がいなくても他の人がカバーできる体制や、管理職が時短勤務で仕事をできるような仕組みづくりは必要になるでしょう。

 

一度好循環が出来てしまうといいのですが、整備していく時は “産みの苦しみ”で、産休・育休をカバーする組織や仕事の仕組み、制度整備に取り組んでいく必要があります。

 

また、男性が多い会社や社風が古いような会社では、衝突が起こる可能性があります。男性優位な会社では、女性ならではの価値観や意見に違和感を感じるかもしれません。相互理解のための取り組みも必要になるでしょう。

女性管理職の登用を成功させるポイント

女性管理職の登用を成功させる

 

女性管理職を登用するうえでの課題も踏まえ、登用を成功させるポイントを改めて解説します。

 

「自社の管理職ポジションは魅力的か」を再確認する

自社の管理職が“社員がなりたいと思うポジション”になっているか確認することが重要です。最近の若手は、社内で昇進したいという上昇意欲は低下しています。さらに、結婚・出産などのライフステージに入った女性の場合、とりわけ“社内で偉くなる”ことへの優先順位は低くなります。

 

極端に書くと、社内における管理職のイメージが「上層部からは責任を求められる一方、あまり権限もなく、部下との板挟みになる。給与もそんなに上がらないのに、労働時間は延びる。本人も大変そう」という状態になっていれば、育児もある中で管理職に昇進したいと思う女性は少ないでしょう。

 

管理職になると責任が増すことは避けられませんが、責任に見合った権限ややりがい、待遇を与えることが重要です。根本的に、自社の経営層や管理職のポジションが、社内の女性にとって「目指したい」と思える立場でなければ意味がありません。

 

なお、「女性の管理職がまだ少ない」「社内にお手本となるロールモデルが少ない」企業では、キャリアイメージが付かず、まだ制度も整っていないため、将来への不安が募りやすく、結婚や出産を機にした退職が起きやすい傾向にあります。そのような場合、管理職候補となる女性メンバーに対するライフプラン研修の実施もおすすめです。

 

ライフステージの変化を踏まえたキャリアプラン設計、未来の働き方・復帰シナリオを考えてもらう等のプログラムを通じて、復帰後の働き方や活躍をイメージしてもらうことが効果的です。

 

組織風土や業務・制度の見直し

女性社員の活躍を阻害する組織風土の典型的なところで、日本にはまだ“長時間労働を称賛する”雰囲気がある会社もあります。評価されるのは「時間」ではなく「成果」であるという風土を育てない限り、女性管理職の登用は進まないでしょう。

 

また、全国転勤やエリア内異動などで通勤時間が長くなりがちな環境は、育児中の社員にはハードなものになりますし、離職に繋がる大きな要因です。その場合には、エリア限定勤務やITツールを活用した在宅ワーク等を取り入れることも必要でしょう。

 

他にも、飲み会が多い(必要とされる風土がある)組織も女性活躍を妨げます。夜の飲み会を前提としない、業務時間でのコミュニケーションで問題解決する風土に変えていく努力が必要です。また、体力が必要な業務があり女性活躍が難しいといった状況があれば、機械化・業務の切り分けなどができないか検討しましょう。

 

さらに、性差に言及する発言や風土が残っているようであれば、経営陣・上級管理職が先頭に立って意識改革することが急務です。性差別と感じられるような発言・風土を見逃さず注意・改善することが必要です。

 

管理職以外のキャリアコースの用意も有効

女性活躍を進めるという意味では、「管理職」(人をマネジメントする)以外に、「スペシャリスト」としてのキャリアコースを設けることも有効です。

 

スペシャリストとしての道があることで、マネジメントが苦手であったり管理職にはなりたくないという女性でも活躍をすることができます。

 

キャリアプランを限定せず多様な働き方が用意されていることは、女性の離職率低下にも繋がります。

 

 

まとめ

女性管理職の登用、女性活躍は、事実として業績向上に繋がっていることが確認されています。事業や商品開発・マーケティング等の意思決定に女性の視点が入ることの効果、また業務に習熟した女性社員がライフステージの変化を経て復帰してくれることは、組織にとって大きなプラスになります。

 

さらに“育児等を行っている女性が活躍できて正当に評価される環境”を作るプロセスは、多くの社員にとって働きやすい環境の整備に繋がりますし、採用の競争力に繋がります。逆に言えば、女性が活躍できない組織、女性管理職がおらず女性のキャリアモデルを提示できない企業は、人材確保の時点で、採用の母集団が限られる、優秀な女性を採用できないというハンデを負うことになります。

 

女性管理職の登用、女性の活躍を進めるうえでは、職場環境や人事制度、また組織風土などの環境面を整備していくことが重要です。多くの場合、女性が活躍できていないことは能力や意識の問題ではなく、活躍を妨げる環境に原因があります。

 

長時間労働を称賛する組織風土、時短勤務に対する評価制度、自社における“管理職”というポジションの魅力、勤務地に関する人事制度、スペシャリストコースの整備など、一つひとつ見直していきましょう。

 

産休・育休という長期の休職期間をどう乗り越えるかも重要なポイントです。環境の整備に加えて、コミュニケーション設計が大切です。女性活躍、女性管理職の登用を進めて、組織の生産性・採用力を高めて、組織を成長させていきましょう。

 

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
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