有効求人倍率は「求職者ひとりに何件の求人があるか?」を示したもので。労働市場の需給状況、経済状況を示す指標としてニュースなどで良く取り上げられます。
「求職者ひとりに何件の求人があるか?」ですので、簡単にいえば、有効求人倍率が上がる(高い)とは、景気が良くて求人が多い、いわゆる“売り手市場”を指し、有効求人倍率が下がる(低い)とは、求人が少ない、つまり景気が悪く求職者が多い、“買い手市場”を指します。
有効求人倍率の定義と意味の概略は上記の通りですが、「求職者」と「求人」をどんなデータにするか、また、どう計算するかによって、有効求人倍率にもいくつかの種類があります。
記事では、「有効求人倍率」の概要や「新規求人倍率」との違い、有効求人倍率の計算方法、最新の有効求人倍率の調べ方などを紹介します。後半では、近年の中小企業における人手不足と有効求人倍率の関係や、有効求人倍率を見る際の注意点を解説します。戦略的に採用活動を行うヒントとして、本記事で有効求人倍率の効果的な見方を確認しましょう。
<目次>
有効求人倍率の基礎知識
まずは、有効求人倍率がどういうものかを確認します。
有効求人倍率とは?
有効求人倍率とは、労働市場の需給状況を示す経済指標です。有効求人倍率は「求職者一人に対して、どのくらいの仕事があるか?」をあらわすものになります。
したがって、有効求人倍率が高いというのは求人が多く求職者が仕事を選びやすい状況、逆にいえば、採用企業にとっては採用が難しい、売り手市場の状況です。
反対に有効求人倍率が低いというのは、求人が少なく採用企業が相対的に優位な状況であり、採用企業側からすると採用しやすい状態です。
有効求人倍率の最新データはどこで確認できる?
もっとも代表的でニュース等でも取り上げられる有効求人倍率は、厚生労働省が毎月発表する「一般職業紹介状況」で発表されるデータです。
最新の有効求人倍率は、以下のページより確認できます。
厚生労働省(報道発表資料 職業安定局)
「一般職業紹介状況(令和●年●月分)について」というタイトルのものが、最新の有効求人倍率で、毎月月末に発表されます。
また、有効求人倍率の変化については、独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表している資料が分かりやすくなっていますので、変化状況を見たい方にはおすすめです。
有効求人倍率は、後述する新規求人倍率とともに、労働市場の先行きを示すものとして、新聞やネットニュース等にもよく取り上げられています。
有効求人倍率の求め方と計算方法
厚生労働省が発表している有効求人倍率は、以下の計算式で算出されています。
有効求人倍率 = (ハローワークの)有効求人数÷有効求職者数
計算式で使われる「有効求人数」は全国のハローワークにおける有効求人の件数、また、「有効求職者数」は2ヵ月以内にハローワークで求職者登録を行なった求職者数です。
仮に、ハローワークの有効求職者数が100人に対して100件の有効求人数があった場合、100件÷100人で、有効求人倍率は1.0倍となります。
この状態は、求職者1人に対して、1件の求人がある状態を示します。
有効求人倍率が高い・低いの意味
有効求人倍率は、以下のように「1.0倍」より高いか?低いか?を目安として、前月や前年同月との比較、また、エリア別、職種別などの比較で見ていきます。
前述のように、1.0倍より高い・低いというのは以下のような意味を持ちます。
- 「1.0倍」より高い:登録者よりも求人数が多く、働き手が足りない状況
- 「1.0倍」より低い:求人数よりも登録する求職者が多く、仕事探しが難しい状況
過去には、2008年9月のリーマン・ショック後は、有効求人倍率が0.4倍まで下がったこともあります。
有効求人倍率と新規求人倍率の違い
有効求人倍率と並んで登場することがある新規求人倍率は、「求職者1人にどれだけの求人があるか?」という考え方は同じですが、計算する母数が異なる指標です。
新規求人倍率は、「当月」に受け付けられた新規求人の件数と、「当月」に新しく求職者登録を行なった人の数から算出される求人倍率です。
前述のとおり、有効求人倍率は、有効求人の件数とハローワークで2ヵ月以内に求職者登録を行なった求職者数から算出されるものとなり、新規求人倍率よりも広い対象で計算しているものです。
両者で使われる項目を整理すると、以下のようになります。
新規求人倍率は、当月の数字を使って算出するため、有効求人倍率よりも雇用や景気の最新動向が表れやすい指標となっています。
有効求人倍率の推移
続いて、近年における有効求人倍率の推移を見ていきましょう。
年度推移
全体としてみると平成21年(2009年)のリーマン・ショック後に落ち込んでいた求人倍率は、平成30年(2018年)まで右肩上がりに上昇してきました。
しかし、令和2年(2020年)には、コロナ禍によって急激に低下、その後、令和3年、令和4年と緩やかに回復してきている状況です。
なお、このように有効求人倍率で見てみると、コロナ禍の影響は非常に大きいですが、影響を受けた業種等が偏ったこともあり、リーマン・ショックによる影響と比べれば小さいことがよく分かります。
月次推移
- 令和4年7月の有効求人倍率は1.29倍で、前月に比べて0.02ポイント上昇
- 令和4年7月の新規求人倍率は2.40倍で、前月に比べて0.16ポイント上昇
令和4年7月の数値をみると、有効求人倍率(季節調整値)は1.29倍となり、前月を0.02ポイント上回っています。
新規求人倍率(季節調整値)は2.40倍となり、前月を0.16ポイント上回る形となりました。
そして、正社員有効求人倍率(季節調整値)は1.01倍となり、前月を0.02ポイント上回っています。
7月の有効求人(季節調整値)は、前月に比べ0.8%増となり、有効求職者(同)は1.2%減です。
7月の新規求人(原数値)は前年同月と比較すると12.8%増になります。
なお、上記で季節調整値という単語が使われています。
労働力調査では、たとえば、農林業では、季節的な要因で労働従事者が春~夏にかけて増え、秋以降に減る傾向にあります。こうしたものが季節変動です。
月次統計の分析で、たとえば、1年前の同じ月との比較をする場合、同じタイミングですので季節要因は基本的に無視することができます。
しかし、前月や前々月などと比較する場合、変化している要因が季節要因なのか、経済や社会状況の変化によるものなのか、判断が難しくなります。
したがって、有効求人倍率などから季節変動の影響を除いたものが、季節調整値と呼ばれるものです。
季節調整値で前月推移や半年前との比較をすることで、季節要因による変化を除いた変動を確認できます。
産業別やエリア別の有効求人倍率
厚生労働省が発表する有効求人倍率は、業種別やエリア別にも発表されています。たとえば、令和4年7月データを見ると、以下のような情報が分かります。
産業別では、以下が増加傾向にあります。
- 宿泊業、飲食サービス業:47.7%増
- サービス業(他に分類されないもの):16.7%増
- 運輸業、郵便業:14.7%増
- 製造業:14.5%増
宿泊業や飲食サービス業におけるコロナ禍による影響がひと段落して採用を再開していることがよく分かります。
また、都道府県別の有効求人倍率(季節調整値)を見ると、就業地別では、最高は福井県の2.10倍、最低が沖縄県の1.01倍です。
受理地別では、最高は福井県の1.93倍、最低が神奈川県と沖縄県の0.91倍になります。
このように業種別やエリア別などのデータを見て比較していくと、さまざまな情報が分かります。
出典:一般職業紹介状況(令和4年7月分)について
出典:原数値と季節調整値(総務省統計局)
中小企業は人手不足に注意!(大卒求人倍率調査より)
前述のとおり、有効求人倍率が上昇傾向にあるということは、求人数が増えており、売り手市場に向かっている状態です。
有効求人倍率といった場合は厚生労働省が発表しているデータを示しますが、その他にもさまざまな機関が定期的に求人倍率の発表を行なっています。
その中でも有名なのがリクルートワークス研究所が毎年発表している大卒求人倍率調査です。
大卒求人倍率調査は、その字の通り、大卒者を対象とした求人数、また、該当の卒業年度における民間企業就職希望者数を使って計算されている求人倍率です。
全数調査ではありませんが、継続的に比較できる新卒採用における求人倍率データとしてHR分野でよく使われています。
大卒有効求人倍率を、企業規模別に見ると、中小企業(従業員300人未満)と大手企業(従業員5,000人以上)では求人倍率が大きく異なることが知られています。
執筆時点で最新となっている2023年卒で見ると、5,000人以上の大手企業における求人倍率は0.37倍、それに対して、300人未満の中小企業における求人倍率は5.31倍となっています。
中小企業の求人倍率は、コロナ禍前の2019年卒では9.91倍となったこともあります。
9.9倍とは、中小企業を志望する求職者1名に対して、求人が9.9人、約10人分あるということになります。
極端にいえば、企業目線で考えると採用できるのは10社のうち1社だけになります。
新卒採用の場合、中小企業は、ネームバリューや採用ノウハウがないにも関わらず、大企業と同じフィールドで戦うことになり、もともと採用難に陥りやすい傾向があります。
また、今後はついに少子化の影響が大卒人数にも影響してくるため、中小企業の人材獲得は、新卒・中途の両方でさらに厳しくなっていくでしょう。
こうした時代に、中小企業が優秀な人材を獲得するには、以下のような施策を実践する必要があります。
- 自社の魅力を洗い出す
- 採用のブルーオーシャンを狙う
- オウンドメディアマーケティングで定性的な魅力を打ち出す。
- ダイレクトリクルーティングで能動的なアプローチをする など
有効求人倍率を見る際の注意点
厚生労働省が発表する有効求人倍率を見るときには、以下の点には注意する必要があります。
ハローワーク以外の求人は含まれない
有効求人倍率に含まれるのは、ハローワークのデータ(求人数・求職者数)だけです。
一方で、マイナビやリクナビなどの求人サイトの数字は有効求人倍率に含まれません。
したがって、民間チャネルを通じて採用している企業が採用市場の状況を確認したい場合には、新卒であれば前述したリクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査、また、求人サイトや転職サービスなど民間の調査結果に目を向けたほうがよいでしょう。
なお、求人サイトの求人件数推移はHROGのサイトで公開されています。
正社員求人だけのデータではない
有効求人倍率は、パートタイマーを含めた倍率であり、正社員に限定したものではありません。
なお、厚生労働省が発表する一般職業紹介状況では、以下の区分も設けられています。
- 「常用」:4ヵ月以上~無期限の雇用契約(正社員やパートも含む)
- 「臨時」:雇用契約期間1ヵ月以上~4ヵ月未満の雇用契約
上記の数字も、有効求人倍率と併せて参考にするとよいでしょう。
まとめ
有効求人倍率とは、ハローワークの求職者一人に対して、どのくらいのハローワーク求人があるかをあらわす経済指標です。
有効求人倍率は、以下の方法で算出します。
有効求人倍率=有効求人数(全国のハローワークにおける有効求人の件数)÷ 有効求職者数(2ヵ月以内にハローワークで求職者登録を行なった求職者数)
有効求人倍率などから見ても、近年は中小企業にとって厳しい状況です。
中小企業が採用難を解消するには、以下のような施策を通じて自社の採用活動を見直しておく必要があるでしょう。
- 自社の魅力を洗い出す
- 採用のブルーオーシャンを狙う
- オウンドメディアマーケティングで定性的な魅力を打ち出す
- ダイレクトリクルーティングで能動的なアプローチをする など
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