近年、採用分野において「採用CX」の考え方を取り入れる企業が増えてきました。
新卒学生の少子化などが進むなかで、優秀人材の獲得競争が激しくなっています。
また、新卒でも中途でも採用活動における求職者は将来の顧客や取引先、パートナーなどになることもあり得ます。
こうしたなかで、求職者に対してどのような「体験」を提供するかという採用CXの考え方が注目されているのです。
記事では、まず、採用CXの基礎知識と導入の価値を確認します。
そのうえで、記事の後半では、採用CXの設計方法と、採用CXを導入しているメルカリの好事例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
<目次>
採用CXの基礎知識
最初に、採用CXの概要と、採用CXが日本で求められる背景を確認しましょう。
採用CXとは?
まず、そもそも“CX”とは、商品やサービスを購入・利用するお客様の「Customer Experience(顧客体験)」を指す言葉です。
近年、物が飽和するなかで、商品の機能やサービスの利便性と同時に、「体験価値」が重視されるようになっています。
そこで自社の商品・サービスの利用を検討してから購入し、実際に利用する過程で、「どのような体験をしてもらうか?」というプロセスを設計するCXという考え方は、マーケティングやサービス改善の分野で広く取り入れられるようになっています。
この“CX”の考え方を採用分野にあてはめたものが採用CXです。
採用CXでは、顧客が求職者(応募者・候補者)に変わり、Customer Experience(顧客体験)はCandidate Experience(候補者体験)になります。
つまり、「自社に応募するなかで、求職者にどのような良い体験をしてもらうか?」という視点が採用CXです。
なお、企業の採用活動は、以下のようなステップを経るのが一般的です。
- 1.認知
- 2.応募
- 3.選考
- 4.内定
- 5.内定承諾
- 6.入社
- 7.活躍
就職・転職活動中の求職者が、「1.認知」→「2.応募」→「3.選考」……と進んでいくには、ポジティブな体験(CX)が必要となります。
求人自体の魅力に加えて、対応のすばらしさや気配りなどが加われば、好印象や志望度の上昇につながるでしょう。
採用CXとは、採用活動における各ステップにおいて、上記のように求職者により良い経験が得られる“コンテンツ”“タッチポイント”を設置することで、内定承諾・入社・活躍・定着へとつなげていくことになります。
また、採用CXの視点をきちんと取り入れて、自社の採用プロセスを見直すことで、不合格だった人に対しても、応募した体験を好印象とともに記憶してもらうこともできるでしょう。
採用CXが求められる背景
近年の日本社会や採用市場には、以下のような背景や状況があります。
- 新卒採用の早期化、長期化、複雑化
- 2022卒からはじまる新卒学生の少子化
- 労働人口の減少や雇用形態の多様化による優秀人材の獲得競争
- ITエンジニアやマーケターなどの専門職人材の不足
こうしたなかで、企業が優秀人材を獲得するためには、採用CXを通じて、自社に応募した求職者の満足度を高める必要があります。
採用CXに取り組むメリット
採用CXに取り組む効果・メリットは、ひと言でいえば採用力の強化です。この章では、採用CXのメリットを詳しく確認していきましょう。
内定承諾率の向上
企業が採用CXをきちんと実施することで、応募した求職者は、インターンシップ・説明会・面接などのイベントのなかで、多くのポジティブな体験をすることになります。
また、求職者視点で採用CXを考えることで、求職者の不安や疑問の解消にもつながるでしょう。当然のことながら、採用CXは、志望度のアップや内定承諾率の向上に効果があります。
入社時のエンゲージメント向上
内定~入社までのポジティブな体験は、入社後の仕事や組織への愛着、「この企業の一員である」という当事者意識につながってきます。
入社した人材の帰属意識や定着率を高めるうえでも、採用CXは不可欠なものとなるでしょう。
良い口コミの創出
採用CXの考え方を取り入れるうえでは、合否の結果に関係なく、選考を受けること自体が求職者にとって価値ある、満足度の高い体験になることが大切です。
たとえば、面接でのポジティブフィードバックで求職者が勇気付けられると、「この企業への入社はできなかったけど、面接担当者に背中を押してもらえてよかった!」などの想いがSNS投稿→拡散されることで、自社のイメージアップにつながることもあります。
採用CXの設計方法
採用CXの設計では、カスタマージャーニーのフレームワークを使うことがおすすめです。
カスタマージャーニーでは、まずカスタマー(採用CXの場合には求職者)が自社を知ってから入社するまでのプロセスをいくつかの“ステージ”に区分けします。
採用CXにおけるステージ区分の例
- 「自社の存在を知る(認知)」⇒「エントリー」⇒「説明会参加」⇒「面接」⇒「内定」⇒「内定承諾」⇒「入社」
そして、各ステージで、求職者がどんな心理を抱いているか、どんな体験をするか、どんな不安があるかといった求職者視点を想像して、対応するコンテンツやコミュニケーション提供を考えていきます。
この章では、採用CXにおいて、各ステージで引き出したい求職者の感情や行動、そのために用意すべきコンテンツや提供すべき体験を解説します。
認知
【引き出したい求職者の感情・行動】
- こんな企業があるんだ!
- 〇〇って面白そうな企業だな!
【用意すべきコンテンツ】
- プレスリリース
- SNS(公式・社員)
- 自社サイト(公式・採用)
- 業界メディアへの社員インタビュー記事などの投稿
- 求人サイトへの出稿
- SNS、ダイレクトリクルーティングなどによるスカウトメッセージ
- 就職フェア
- 自社セミナーの開催
認知のフェーズでは、伝えたい内容をデザイン・文字・写真・映像などのコンテンツ形式と織り交ぜて準備していくことが大切になります。
これらのコンテンツを“どんな印象を与えたいのか”、“そのために何がキーワードになるか”等をしっかりと決めて、一貫性を持って提供することが大切です。
エントリー
【引き出したい求職者の感情・行動】
- この企業のもっといろんなことが知りたい
- 面白そうだし、説明会に行ってみようか
【用意すべきコンテンツ】
- エントリーフォーム(自社サイトや求人サイト内)
この段階では、エントリーを気軽なものにする(提出物の簡略化など)、あるいは、エントリー時点で以下のような求職者の不安や疑問を解消するための情報を提供することが大切です。
- エントリー後、どのような流れになるんだろう?
- いつ連絡が来るのだろう?
- まだ企業の理解も浅いし、志望度も「すごく高い」というわけではないのでいきなり面接といわれたら困るな
もちろん提供体験として、エントリー後は求職者を待たせず、すぐに対応することも大切になります。
説明会参加
求職者は、説明会の参加で生じた以下の感情から、面接に進んでいきます。
【引き出したい求職者の感情・行動】
- この企業なら、自分の力を発揮できそうだ
- この先輩方と一緒に働いてみたいかも
- 自分が働くイメージが具体化できてよかった
- 不安や疑問がすべて解消したぞ
【用意すべきコンテンツ】
- 職場見学
- 自社の紹介ムービー
- 人事部門や現場リーダーの説明
- 説明会の配布資料 など
説明会の参加に際して、手間を感じたり不快に感じたりするポイントが生じないように注意しましょう。
また、オンラインでもリアルでも、説明会に参加した際に、困惑や気まずい思いをすることなく、明るく迎え入れてもらえる体験が大切になります。
求職者がたどるプロセス(申し込む ⇒ 案内が届く…)といったことを細かく想像しながら、引っ掛かるプロセスが生じないように、また、喜びや嬉しさの感情を作り出せないか考えていきましょう。
面接
【引き出したい求職者の感情・行動】
- 自分の話を聞いてくれる良い面接官だった
- 「自社で活躍できるスキルがある」と太鼓判を押されたぞ
- 採用条件に合わなかったけど、良いフィードバックをもらえたから次も頑張れそうだ
- この企業は、自分のことを採用してくれそうだ(就職活動もこれで終われるかな?)
【用意すべきコンテンツ】
- 優秀な人材の選考状況にスケジュールなどを合わせる姿勢
- 志望度を引き出す質問
- 面接フィードバック
面接でも、対面であればwelcomeボードなどを使い、不安や緊張を抱いてくる求職者にどのような体験を提供するかを考えることが大切です。
また、面接の日程調整から実際に参加して終わるまでに“不快”や“不満”が生じる状況にどんなものがあるか?しっかりと考えて排除することも大切です。
なお、面接~内定のプロセスでは、“不合格通知”という分岐も生じます。企業によっては、不合格になる人が90%以上ということも珍しくないでしょう。
不合格になった求職者にどういう体験をしてもらうか、不快や不満が生じないように、自社に良い印象を持ってもらえるようにすることも大切です。
内定
【引き出したい求職者の感情・行動】
- やった!うれしい!
- これまで努力してきてよかった
【用意すべきコンテンツ】
- 内定通知メール(面接内容やポジティブフィードバックを盛り込んだもの)
- 社長による内定出しの演出
内定は選考プロセスにおいて、求職者の感情をもっともポジティブに高めたい瞬間です。どのような“体験”にすることが有効かをしっかりと考えましょう。
たとえば、内定通知と一緒に、評価ポイントなどを記載した人事や面接官からの手紙を渡すなども有効でしょう。
内定承諾
求職者は、以下の想いから内定を承諾します。
【引き出したい求職者の感情・行動】
- ほかと比べても、この企業がいちばん良さそうだ
- 人事の◯◯さんにもお世話になったから、この企業の内定を承諾しよう
- この企業で働くことを決めたぞ
【用意すべきコンテンツ】
- 1日体験入社
- 条件交渉
- 社内イベント
- 内定者フォロー(不安や問題の解除)
内定~内定承諾までの間に、どんなコミュニケーションをすれば良いかをしっかりと考えましょう。
不安を解消するためにどんなタッチポイントが有効か、また、不快に感じるコミュニケーションにどんなものがあるか、さらに内定辞退する際に不要なストレスを与えないことも大切です。
入社
【引き出したい求職者の感情・行動】
- この企業で頑張るぞ
- インターンシップでお世話になった◯◯さんみたいな営業になりたい
- この部署なら、自分でも馴染めそうだ
- 研修で何を覚えられるのか、今からワクワクする
【用意すべきコンテンツ】
- ウェルカムランチ
- 既存社員への告知
- 配属先のメンバーに紹介する機会
- 自社のミッション・ビジョンや共通言語を学ぶ機会
- ブラザーシスター制度
- 悩みなどへのフォロー体制 など
入社時に「歓迎されている」ことを感じ、意欲を高めてもらえるようにすることが大切です。出社初日のコミュニケーションを求職者視点で考えてみましょう。
入社後の受け入れに関しては、下記のオンボーディングの考え方が参考になります。
採用CXの好事例「メルカリ」
採用CXは、さまざまな企業で行なわれています。そのなかで特に注目したいのが、「Candidate Experience(候補者体験)」の最大化を目的に、採用の仕組み化を推進するメルカリです。
従来のメルカリでは、面接官が100名を超えるなかで、採用の仕組みが整わず、いわゆる口頭継承のやり方に限界を感じていました。
そのなかで、メルカリではまず、採用CXというよりも選考基準の言語化から取り組み、バリューの体現度をジャッジする判断軸「3段階の行動レベル」を定義します。
そして、面接におけるガイドラインの策定や、選考プロセスの体系化などを進める過程で、100人を超える面接官の共通言語を生み出すことに成功しています。
そこから、メルカリでは、面接を「採用CXにおける重要な一つの体験」と位置づけることで、面接官の質を高めるトレーニングなども実施するようになりました。
メルカリでは、このように採用基準の統一などに加えて、採用CXを実現する仕組みを整えて、採用活動のブラッシュアップを継続しています。
参考:面接官100名超の共通言語をつくる!「CX」の最大化を目指す、メルカリの取り組みとは
まとめ
企業が優秀な人材を確保するには、採用活動の各プロセスで求職者にどのような体験をしてもらうかという「採用CX」の視点を考えることが必要な時代になっています。
採用CXに取り組むことには、以下のようなメリットがあります。
- 内定承諾率の向上
- 入社時のエンゲージメント向上
- 良い口コミの創出
採用CXの設計をするときには、記事で紹介したコンテンツや接点の考え方、またメルカリの事例などもぜひ参考にしてください。