企業教育とは?企業教育の目的と代表的な手法を解説

企業教育とは?企業教育の目的と代表的な手法を解説

企業は、各組織に固有の目的・目標を達成するために活動します。活動を担うのは、企業内の社員一人ひとりです。だからこそ、企業教育(社員教育)は、業績や企業価値の向上といった企業の成長に直結する重要な要素となります。

 

本記事では、企業教育の概要と目的、および代表的な企業教育の手法を解説します。

<目次>

企業教育の概要

最初に、企業教育の概要と位置づけを解説します。

 

企業教育とは?

「企業教育」とは、企業が社員に対して提供する様々な教育全般をいいます。企業教育で行なわれる内容は、業務遂行に必要な知識やスキルの習得、ミッション・ビジョンの浸透など、会社の経営戦略や人材育成方針に応じて様々です。

 

企業教育の位置づけ

現代の日本において、労働人口の減少と少子高齢化は既に起きている、また、今後も確実にくる未来です。さらに転職が一般化し、フリーランスなどの多様な雇用形態が生まれる中で、優秀人材の採用と定着に関する悩みが各社で深まっています。

 

その対策のひとつが、採用した人材をしっかりと育成し、また、成長機会を提供することで定着を促進することです。だからこそ企業教育は、企業全体が取り組むべき課題として、ますます重要度を増しています。

 

学校教育と企業教育の違い

企業教育と学校教育は、「教育」という点では共通していますが、その位置づけや目的は異なる点が多々あります。

 

例えば、「教育期間」は学校と企業では考え方からして違います。学校教育は一律の期間がありますが、企業教育にはレベルや階層の概念はあっても全員に一律の内容、一定期間の教育が施されることは新入社員研修を除ければ殆どありません。

 

また、学校教育は教育の理解度や効果等を測るうえで試験の点数という一律で明確な評価基準があります。企業教育でも理解度確認のテスト等はありますが、最終的なゴールは実務で活用して業績等に繋げることであり、一概に効果を測定することは困難になっています。

 

さらに、非常に大きな違いとして、学校教育の内容は「正解」を教えることが大半ですが、ビジネスには明確な答えがありません。従って、企業教育では、方法論に対する型や考え方のフレームワークを教えても、すべてに共通して使える「正解」や「公式」を教えるものではないというのも特徴的な違いです。

企業教育の目的

本章では、企業教育の目的を5つに絞って解説します。

 

1.目標達成と生産性の向上

企業教育の目的は、企業のミッション・ビジョンの実現であり、そのゴールは事業計画や目標の達成、また生産性の向上にあります。社員がスキルを身に付けることで、任せられた役割や責任を果たして目標を達成する、また、社員一人ひとりが生産性を向上させることで組織全体の生産性を向上させることを狙います。

 

生産性が向上し業務が効率化すれば、戦略や企画立案、新商品・新サービスの開発といった、事業のコアバリューを磨くための活動により注力できるようになります。既存商品やサービスにとらわれない新しい価値を生み出すことは、どの企業にも共通する課題であり、産業のサービス化やコモディティ化が進む中でますます重要になっています。

 

2.経営理念、方針の浸透

企業教育の目的の2つ目は、企業理念や会社方針を浸透させることです。
学校教育と違って、ビジネスの世界では明確な正解が存在しないことが殆どです。今どう行動すべきなのか?目の前の顧客にどのように接するべきか?等々、状況や局面に応じて自ら考え判断することが求められます。

 

会社の一員として適切な判断をするために判断軸となるのが、企業理念や会社方針です。会社の経営理念やビジョンの浸透を図ることで、社員が適切な判断を出来るようになる、また、権限移譲を進めて、企業として一段成長することにつながります。

 

3.優秀人材の流出防止、定着率の向上

企業教育の目的の3つ目は、優秀な人材の流出防止および定着率の向上です。
各社が人材不足に直面する現在では、スキル・経験を持つ人材の獲得は困難を極めています。また、雇用の流動化が進んだ結果、苦労して優秀人材を採用しても、成長機会が十分でなければ「この企業に属する必要があるのか」と疑問を感じて離職してしまうことも増えています。

 

社員の退職は、積み上げてきたノウハウの流出、新たな人材採用におけるコスト・人的リソースの増加など、企業経営にとって大きな痛手になります。成長機会の提供やモチベーション向上も踏まえて企業教育を行なうことは、離職防止の観点でも重要な意義があります。

 

4.将来のリーダー、幹部候補の育成

企業教育の目的の4つ目は、将来を担うリーダー、幹部候補を育成することです。
VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)の時代といわれる現代、経営者ひとりですべての意思決定や判断を行うことは困難となっています。

 

経営者とタッグを組んで企業を運営する幹部や各組織のリーダー層への期待はますます高まっています。候補となる人材を選抜し、研修や意図的な配置転換を行なうなど、企業教育として将来のリーダー・幹部候補の育成に早期に取り組むことは企業の将来のために不可欠といえます。

 

5.コンプライアンス(=法令順守)

企業が法令や社会的な規範やルールを順守して活動するコンプライアンスの概念は非常に重要です。
日本では1990年代以降、粉飾決算やメーカーの偽造事件、違法な労働形態などの様々な企業の不祥事が明るみになったことで、コンプライアンスの重要性が叫ばれるようになりました。

 

とくにインターネットやSNS等が発展してきた中で、内部告発、消費者や仕入れ先等からの発信、対応ミスによる炎上といった形で、コンプライアンス違反によって企業やサービスブランドが棄損されるリスクは非常に隆右になっています。

 

コンプライアンス違反を未然に防ぐためにも、全社員にコンプライアンス意識を持ってもらう、意思決定する管理職等の立場に必要な知識を持ってもらうためのコンプライアンス研修などは、企業教育の重要な役割のひとつとなっています。

企業教育の主な手法

Off-JTは、集合研修やセミナーのように、業務の時間と切り離して実施する手法です。
Off-JTのメリットは大きく2つあります。1つ目は、業務の土台となる知識や理論を体系的に学べる点、2つ目は一度に多人数を教育できる点です。

 

一方、デメリットとしては、業務とは別の時間で行なうため、通常業務が一時的にストップする点、また、研修の目的とゴールを適切に設定しておかないと、知識をインプットするだけの場になってしまうことです。

 

従って、Off-JTを効果的にするためには、研修内容をしっかりと実務に紐づける、ロールプレイングやディスカッション等を使って理解度を深める、各自が実践行動へと落とし込む、実践をフォローアップするといった工夫が大切です。

 

OJT(On the Job Training)

OJTは、現場での実践を通じて、実用的な知識やノウハウを身に着けることを目的とした企業教育の手法です。
OJTのメリットは、「実際の現場の実務を通じて学ぶため、実践的な技能が身に付く」ことです。

 

実際の業務では、想定外の事態やマニュアルに無い状況も当たり前のように発生します。こういった、実際の現場に即したノウハウを体得できることが、OJTの大きな利点です。

 

逆にデメリットとしては、OJTは一人の指導者が1~2人の受講生について行なうことが多く、Off-JTと比べ一度に多人数を教育できない点が挙げられます。
また、OJT指導者の指導力や熱意によって教育効果にバラツキが出やすい、知識が断片的になりがちで応用が利きづらいということも大きなデメリットです。

 

OJTとOff-JTのより詳細なメリットとデメリット、および職場での実践ポイントに関しては、以下の関連記事をご覧ください。

 

eラーニング

eラーニングは、インターネット上の動画を活用して行なう学習方法です。パソコンやスマートフォンなどの電子端末に教材コンテンツを配信して行なう方法が一般的です。

 

eラーニングのメリットには、受講者がそれぞれ自分の都合よい時間や場所で学習できることです。また、集合研修のような会場手配やスケジュール調整にかかる手間がなくなることで、コストや運用面においても優れています。

 

一方で、動画による一方的な配信となるため、受講者は学習中に不明点や疑問があってもその場で質疑応答やディスカッションが出来ません。
また、学習する時間も場所も個人の自由に任せる分、「忘れてしまった」「やる気が出ない」「忙しい」などの理由でなおざりにされてしまうなどの問題もあり、受講を促す働きかけを運営側で行なう必要があります。

 

全般的に、「知識のインプットや定着」という点では優れていますが、「実践への落とし込み」という点では、双方向でコミュニケーションを取りながら進める対面やオンラインの研修には劣る部分があります。従って、eラーニング単独で企業教育を設定するのではなく、他の研修と組み合わせることが大切です。

 

OJD(On the Job Development)

OJDはOn the Job Developmentの略で、最近注目されている人材育成の概念です。OJDは現場での実践をとおして業務知識や能力を身に着けるという点では、OJTと共通しています。

 

しかし、OJTが新人や若手社員等を主な対象として当面の職務遂行に必要な技術の習得に主眼を置いているのに対し、OJDは社員が将来求められる能力、特にマネジメント能力の開発を目的としている点が、大きな違いです。つまり、OJDはOJTよりも長いスパン、キャリア形成やリーダー・幹部育成を視野に入れたOJTともいえます。

 

日本では大手企業を中心に従前から、異なる職種や部門を異動させることでジェネラリストを育成する、というキャリア形成の概念がありました。OJDはジェネラリストの育成を目指すわけではありませんが、概念としては上記に近い部分があります。

 

企業教育を考えるうえで、大きなポイントとして、「仕事を通じて学ぶ・成長する」という点があります。知識や体系をインプットすることは不可欠ですが、一方で、インプットした知識を実際の業務における活用・体験すること(アウトプット)しなければ、本当の意味で自分のものとはなりません。

 

だからこそ、企業の中長期的な幹部やリーダー候補の育成を考える際には、「次のキャリアステップに向けて、どんな部門やポジションを経験させると良いか?」という現場体験からキャリア形成を考えるOJDの概念が大切になってきます。

まとめ

記事では、企業教育をテーマに、企業教育の概要と目的、および企業教育の代表的な手法を解説しました。企業教育は実施してすぐに効果が表れるというものではありません。

 

しかし、長期的な視点で改善と試行錯誤と重ねながら実施していくことで、投資を大きく上回る多くの恩恵が生まれます。
自社の状況や目的・目標にあった実施方法を企画・実施し、効果の高い企業教育を実現してみてください。

著者情報

知見寺 直樹

株式会社ジェイック 取締役|上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 副董事長

知見寺 直樹

東北大学を卒業後、大手コンサルティング会社へ入社。その後、株式会社エフアンドエム副本部長、チャレンジャー・グレイ・クリスマス常務取締役等を経て、2009年ジェイック常務取締役に就任。総経理として上海法人(上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 )の立ち上げ等を経て、現在はHumanResourceおよび事業開発を担当する。

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