復職後に新たな挑戦を可能にした配置やキャリア設計
先述した復職キャリアチョイス制度などもありますが、復職や異動の場面を「負担が増えること」とは考えず、新しい経験や挑戦の機会になる前向きな出来事として受け入れるカルチャーを育ててきました。そのため積極的に送り出し、受け入れる土台があります。
もちろん、物理的に難しい状況が発生する可能性はあるので、本人・受け入れ部署・人事がしっかり話し合う場を設け、最適な形を探すことを大切にしています。大事なのは「難しいからできない」と決めつけるのではなく、その時々でベストな対応を柔軟に整えていく姿勢だと考えています。
部下育成や後任育成と制度利用をセットで進めた工夫
育休産休利用者には人としての成長、非利用者には後任を育てる機会と捉えてきました。具体的には、業務の引継ぎを「欠員対応」として終わらせず、タスクを整理・分担しながら若手や次世代メンバーに新しい役割を任せるようにしています。
プロセスは「業務を引き継ぐ=任せる」だけでなく、上司や先輩が伴走しながらOJTを行い、成長のきっかけに変えることを意識しています。結果的に、制度を利用する本人は安心して休暇に入ることができ、残るメンバーにとってはスキルを磨きキャリアを前進させる経験になっています。
実際に制度利用をきっかけにリーダー候補が育ったり、若手が短期間で成長したりするなど、チーム全体の力を底上げする成果が生まれました。つまり「制度利用=一時的な負担」ではなく、「制度利用=人を育て、組織が強くなるチャンス」という循環を意識して仕組み化しているのです。
組織全体での「対話」
「対話」も最も大切にしていることの1つです。本人と上司だけでなく、チーム全体でもコミュニケーションを取りながら「何ができて、何にサポートが必要か」をオープンに共有することで、不満が生まれにくい環境をつくっています。
さらに、対話を一部の人だけに任せるのではなく、ずれなく伝えられる人を増やしていくことも意識しています。人事やマネージャーに限らず、会社の考えを理解し共感できる社員が自然に発信できる状態をつくることで、現場レベルでも納得感のある調整が可能になります。
また、ワークショップや社内イベントを通じて、会社の考えと社員一人ひとりの思いを交換する場を意図的に設けています。そうした場で「なぜこの制度があるのか」「どうすればお互いに働きやすくなるのか」を一緒に考えることで、不安や不満をため込むのではなく、前向きに対話しながら解決する文化が根づいてきました。

産休・育休によるキャリア断絶への対応
キャリアが途絶えやすい状況に対して、私たちは「いつでも戻れるスキルセットを身につけてもらうこと」こそが上司の大切な役割だと考えています。短期的な評価やポジションにとらわれるのではなく、長期的にどのような生活を歩みたいのかに合わせてキャリアを描けるよう、日々のコミュニケーションや指導を意識しています。
また、中小企業にとって重要なのは「社員に戻りたいと思ってもらえる会社であること」です。これまで一緒に働いてきた仲間がいて、仕事の内容も理解している。単純に考えれば、外に出るよりも戻ってきた方が安心して働けるはずです。
だからこそ、制度や事業の成長といった前提を整えたうえで、“この会社のメンバーと一緒にいたい”と感じてもらえるかどうかが鍵になると考えています。
そのために私たちは、理念や価値観、文化を大切にし、ロイヤリティを高められる環境づくりに力を注いでいます。社員一人ひとりが「ここなら自分らしく成長を続けられる」と実感できることこそが、キャリアを途切れさせない最大の支えになると考えています。
育児休暇を通じた成長
産休・育休は「仕事」として見れば休暇ですが、実際にはその間に身に付けられるスキルやマインドもあります。そのひとつが、限られた時間で成果を出す力です。
時間に制約があるからこそ、何を優先すべきかを瞬時に判断し、効率的に進める工夫を重ねる必要があります。育休を経て復帰した社員のこうした思考は個人のスキルにとどまらず、社内の業務効率化にも波及しています。
さらに、育児は日々予測できないことの連続であり、相手に合わせて柔軟に対応する力が自然と鍛えられます。子どもは何もわからないところから始まる存在で、論理や理屈がそのまま通じるわけではありません。
だからこそ、相手の状況を察し、伝え方や接し方を工夫しなければならない。これはまさに、部下やチームメンバーを育成する際のマネジメントと重なる部分だと思います。
そしてもう一つが、長期的な視点です。育児は一朝一夕で成果が出るものではなく、時間をかけて少しずつ成長を見守る営みです。この経験を通じて、「持続的な成長」を見据えた思考力もさらに磨かれていきます。これはキャリア設計や事業戦略にも活かされており、短期的な成果だけでなく長い目での成長を見据える姿勢につながっています。