成長する企業の人材育成事例|課題解決と成功へ導くためのポイント

更新:2022/05/24

作成:2022/04/13

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

成長する企業の人材育成事例 課題解決と成功へ導くためのポイント

 業種・業態に関係なくあらゆる企業で人材難が慢性化している昨今。社内の人的資源を優秀な人材に育て上げることの重要性はますます高まっています。ただ、時間や予算、割ける人員などに制約がある中で、人材育成を成功させるにはどうすればいいのか、確かな方策がわからないという企業も少なくありません。

 そこでこの記事では、企業にとって人材育成が必要な理由や、多くの企業が抱えている課題を踏まえたうえで、人材育成を成功へ導くためのポイントと具体的な人材育成施策の事例を紹介します。

<目次>

なぜ企業で人材育成が必要なのか?

 人材育成は企業の成長にとって不可欠ですが、どのような目的を持って人材育成を行なうべきかを深く考えないまま、型通りに育成プログラムを進めている企業が少なくありません。まずは、企業にとって人材育成がなぜ必要なのかを整理しておきます。

 

事業に貢献する人材を育成するため

 まず挙げられるのは、事業に貢献し企業の成長を担う人材を育て上げるためです。企業が持続的に成長していくためには10年先、20年先を見据えた経営が必要であり、大きなカギとなるのが人材の質と量です。

 企業のミッション・ビジョン、経営目標の実現に寄与する質の高い人材を、いかに多く育成し要所要所に配置できるかが、企業の将来性を大きく左右します。

 

事業環境の変化に対応するため

 少子高齢化、グローバル化、IT化などが急速に進み、企業を取り巻く環境は日々変化を続けています。こうした環境の変化をすばやくキャッチし順応していくためには、現場で働く人材の能力向上が不可欠ですが、個人の才能やセンスに委ねるだけでは達成はリスキーです。

 企業全体としてしっかりと人材育成のカリキュラムを作成し、長期的な視点で社員一人ひとりのスキルアップを図る仕組み作りが必要となります。

 

業務の生産性を向上させるため

 労働人口が減少傾向にある中で企業が成長を続けるには、一人ひとりの生産性を高め、少ない人員で従来以上の成果を生み出していかねばなりません。

 近年はAIの導入が随所で進んできましたが、AIでは置き換えられない仕事もまだまだ数多く存在します。そのためこの先、社員一人ひとりの生産性を高めるには、組織的な人材育成の取り組みが不可欠です。

 

優秀な人材の流出を防ぐため

 日本の労働市場では長きにわたり終身雇用が当たり前でしたが、昨今では転職が珍しくなく、フリーランス等の働き方も増えています。この流れは今後も加速していくと考えられ、ノウハウの流出や人材採用コストの増加など、優秀な人材の流出は企業経営にとって大きな痛手です。

 企業が社員に寄り添ってキャリアデザインを共に描き、適切な育成プログラムを整えてスキルと知識を高めるサポートができれば、社員のモチベーションの向上にもつながり人材流出を防ぐ一助となるでしょう。

 

企業理念・方針を浸透させるため

 創業の精神や自社が大切に育んできた価値観を守り、良き伝統や企業風土を次世代へ受け継いでいくことも、人材育成の大きな役割です。

企業理念や方針をしっかりと社員に浸透させ、理解が深まるような人材育成プランの構築も強く意識していく必要があります。

 

VUCA時代に企業が生き残るため

 社会や経済情勢が複雑さを増している今日は、将来予測が極めて困難なVUCA(ブーカ)の時代です。VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字から、こう呼ばれています。

 こうした環境下で企業が生き残っていくには、予測困難な事業環境にあっても柔軟に対応し、迅速に物事を判断する能力が求められます。つまり自ら考え、自発的に事業を推進していけるような人材の育成が、これからの企業には欠かせなくなるということです。

企業における人材育成、よくある課題とは?

 人材育成の重要性は十分認識してはいるものの、「取り組む余裕がない」「思うように育成が進まない」と悩む企業は少なくありません。特に中小企業の多くは、人材育成の面で下記のような課題を抱えています。

 

育成に携わる人材・コスト・ノウハウが不足している

 人材育成に向けた計画の立案、プログラムの準備と実行、関係者のスケジュール調整、効果の検証など、人材育成には多くの手間と時間がかかります。しかし中小企業の多くは人員・コストに余裕がなく、人材育成に必要な知識・スキル・ノウハウを社内に蓄積していくのも難しいのが実情です。

 

業務が多忙で人材育成の時間の確保が難しい

 少人数で回している中小企業では個人が受け持つ業務の範囲が広く多忙なため、教育・研修が後回しになってしまうことも多々あります。こうした状況下ではたとえ優れたカリキュラムがあったとしても、それを活かしきることが難しいため、会社全体の業務のあり方を見直す必要があるでしょう。

 

育成に対する管理者層の知識やスキルが低い

 管理者層が人材育成に対する知識とスキルを十分に持つことは、効果的な人材育成を行なううえで不可欠ですが、それらが低いこともよくある課題の1つです。育成に関するノウハウがなく、自らの経験値だけをもとに育成することで、効果が限定的になったり、社員のモチベーションが向上できなかったりします。

 

育成の仕組みや制度が整っていない

 そもそも育成の仕組みや制度自体が十分に整っていないというケースも、中小企業の場合は少なくありません。ただし、仕組みや制度だけを整えても、育成につながる個々の目標管理やその後のフォローと振り返りに時間を割かなければ、効果が検証できないため意味をなしません。

 

定着率が低く、知識やスキルを継承できない

 多くの中小企業にとって人材定着率の低さも悩みの種です。例えば3年で3割と呼ばれる新卒の離職率ですが、規模別にみると大手企業は低く、中小企業ほど高くなっている実態があります。

 新人をある程度一人前へと育成したタイミング、また人材育成の途中で離職されると、かけた時間や手間、コストが全てムダになり、担当者のモチベーションも下がってしまいます。

 さらに業界や職種によってはある程度実力をつけたり、資格を取ったりしたタイミングで待遇の良い大手企業へ転職してしまうといった悩みがあることもあります。人材が定着しない限り知識やスキルの継承、計画的な人財育成は困難です。

企業の人材育成を成功へ導くためのポイント

 人材育成を成功へ導くには、「成長したい」という気持ちを社員に持たせることが重要になります。しかし新しいスキルや能力を必要としない業務しか与えられず、将来のキャリアについてビジョンが描けなければ、成長へのモチベーションは低下します。

 人材育成を成功へ導くためには、社員の成長意欲を促し、また意欲に応える環境と仕組みを整えることが不可欠です。実現に向けては下記のポイントを押さえておくことが有効です。

 

人材育成の方針・目標・計画を明確にする

 人材育成は場当たり的に実施するのではなく、自社の現状を把握し、「自社の将来を担うのはどのような人材か?」「各階層や職種でどのような状態をゴールにするのか」を整理することから始めましょう。

 その上で「いつまでにどのような知識・スキルを習得し、どう成長してほしいか」という方針を定め、その方針に沿って育成目標と計画を明確にすることが必要です。育成の方針・目標・計画を明らかにすることで、壁に突き当たった時も常にそこに立ち返ることが出来、ブレずに人材育成に取り組むことができます。

 場当たり的に、目に付いた課題や階層に対する研修を実施しても整合性が取れず、効果性の低いものになってしまいますので注意が必要です。

 

目標達成に向けて制度と仕組みを整える

 育成方針が定まり、社員に不足している知識やスキル、意識などが見えてきたところでスキルマップの作成に着手することもおススメです。スキルマップとは、職種や役職にふさわしいスキル・能力を洗い出して、一覧表にしたものです。

 スキルマップを作成することで、人材育成の計画がもう一段具体化されます。同時に、社員に対して「自分がどのようなスキルを身に付ければいいか」を見えるようにすることで、成長意欲を刺激する効果もあります。

 

人材の主体性・自発性を促す内容にする

 成長意欲のある社員ほど、自ら課題を見つけて解決していくものです。また成長意欲のある社員にとっては、日常の仕事そのものが成長への教材となっていくでしょう。

 従って、人材育成に際しては、社員の主体性や自発性を引き出す、社員の成長意欲を高めることが最初のステップとなります。

 社員の主体性・自発性を促すには、成長や達成に対して前向きになれる環境作りと、学びたい気持ちに応える仕組みとツールの準備が大切です。代表例として評価制度の見直し、書籍購入制度、資格取得支援制度、eラーニングなどの導入があります。環境を整えると同時に、それらが形骸化せず常に利用されるよう社内に周知させる施策も必要です。

 

各人材のキャリアデザインを明確にする

 キャリアデザインとは、「自分がどのようなキャリアを歩みたいか」を明確にすることです。

 スキルマップの整備と掛け合わせることで、「このスキルがあれば、このような役職に就ける」といったことがイメージしやすくなり、何が期待されているかの理解、また、新たなスキルを身に付けたり自らの課題点を克服したりするメリットが理解できるため成長意欲が促されます。

 自発的に学ぶ社員を増やすためには、社員一人ひとりがキャリアデザインを描くことを支援して、また描いたキャリアデザインを実現できるように親身にサポートしていくことが重要になります。

 

人材育成の「見える化」を意識する

 「見える化」とは、育成手法をマニュアルに残すなど目に見える形にして共有することです。人材育成においては、4つの見える化を意識すると、取り組むべき内容が見えてきます。

  1. 人材像の見える化
  2.  育成の方向性を定めるため、自社が理想とする人材像を明らかにします。人材像が明らかになると、各社員が期待されている事、目指すべき道が理解できます。

  3. 現状の見える化<
  4.  各社員の現状を把握するため、現時点で習得している知識・スキルを明らかにし、その情報に基づいて柔軟に育成計画を立案します。ここでも作成したスキルマップが役立ちます。

  5. 育成方法の見える化
  6.  全社で育成ノウハウを共有できるよう、手法や手順などを文字化します。文字化することで、人材育成が人に依存し過ぎず、安定して実施していけるようになります。
     また、文字化した手法を毎年見直しながら質を高めていくことも大切です。育成方法の見える化・標準化は育成ノウハウ消失の防止にもなりますので特に取り組んでおきたい内容です。

  7. 進捗の見える化
  8.  定期的には育成の進捗を明確にすることも大切です。自分の成長が見える化されることで各社員はモチベーションを保ちやすくなりますし、企業側も投資に対する効果、また効果のあった施策となかった施策の把握・見直しをスムーズに実施できます。

 

中小企業ならではの強みを人材育成に活かす

 大企業と比べて育成に費やせる時間や資金が限られている中小企業ですが、規模が小さいからこその強みもあります。

 経営陣と社員の距離の近さは、人材育成の面では大きなプラス要素です。たとえば、中小企業では、大手と比べるとトップと直接コミュニケーションを取れる機会も多く、自社が目指す方向性やビジョン、理念をスムーズに全社へ浸透させることができるでしょう。

人材育成に成功した企業による施策の具体例

 次に、企業で行なわれている実際の人材育成施策をいくつか見ていきましょう。「自社ならどうあるべきか」「どのようにして実現できるか」を意識しながら参考にしてみてください。

 

1 on 1ミーティングで部下との対話を増やす

 上司と部下が週に1度30分間対話する「1 on 1ミーティング」を早期から導入しているのが、ヤフー株式会社やグリー株式会社です。1on1ミーティングは、通常の業務レビューとは異なり、中長期でのキャリア形成などを扱うミーティングのことを指します。

 日常のミーティングでは話しづらい些細なことも、1 on 1ならリラックスした雰囲気の中で伝えられます。その結果、自己開示をしてくれる社員が増え、チームでビジョンが共有できるようになります。また、上司も対話によって個々の社員に対する理解が深まり、それぞれの適性や能力、キャリアデザインにマッチした仕事をアサインできるようになります。

 

社内講師制度で講師・受講者双方がスキルアップ

 社内研修の内製化を、人材育成方針の柱として位置づけ、社内講師の育成に力を入れているのがキヤノン株式会社と株式会社LIFULLです。

 キヤノンでは社員向け研修の8割を内製化。社員が講師を務めることで、社内事例を共有しながら実践的な知識が得られるうえに、低コストかつ高頻度で研修が実施できるというメリットを生み出しています。

 またLIFULLでは社員一人ひとりの能力開発を目的に、企業内大学(LIFULL大学)を設立。講師の大半が社員によって構成され、教え方も一任しているため、講師を経験することが教える側の学び直しの機会にもなっています。

 

研修参加を挙手制にして自発性を促す

 成長意欲のある社員に育成の機会を多く与えるため、研修への参加を挙手制にしているのが東急建設株式会社と株式会社シグマクシスです。挙手制にすることによって学習意欲の高い社員に自主的に学ぶ場を提供し、やる気を引き出すのが狙いです。

 また株式会社星野リゾートでは、働きながら学びたいという社員の声に応え、社内ビジネススクール「麓村塾(ろくそんじゅく)」を開設しています。マーケティング、マネジメント、ワイン、地域文化など100種を超える講座が開かれており、講師は専門分野に強い社員が担当。階層・職能に関係なく誰もが自発的に参加でき、交通費は会社が全額負担しています。

 

キャリアパスを明示し「見える化」する

 人材育成を成功させるには社員のモチベーションが重要ですが、モチベーションを下げる要因の一つに「キャリアパスが見えにくい」という課題があります。

 株式会社フィードフォースでは、全職種のキャリアパスと給与テーブルを社内に公開し「今の自分がどの位置にいて、何を目指すべきか」を見える化。「これができるようになれば、給与はこれくらいになる」という目標が明確にイメージできるようにして、モチベーションアップにつなげています。

 また、大同生命保険株式会社では人材育成用の社内ポータルサイトを開設。その中で各社員が担当業務、過去の経歴、趣味・特技などを掲載し、在籍中の他の社員を検索・閲覧できる「マイプロフィール機能」を提供しています。

 他の社員の過去のキャリアや自己啓発の取り組み、業務内容などが見える化されているため、自身のキャリアアップを検討する際の参考にすることができます。

まとめ

 人材育成の目的は、「自社の経営目標・理念の実現に貢献できる人材を育てること」です。

 そのためには、自社の将来を見据えた長期的な視点で必要な人材像を明確にし、それを踏まえたうえで社員一人ひとりの自発的成長を促す環境を整えることが肝要です。

 テレワークの普及や副業の解禁、働き方改革の推進などを通じて「企業」と「個」の関係性が問われ始めている昨今。自社には今後必要な人材がどういうもので、どう育成していくべきかを改めて見直す参考になれば幸いです。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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